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雑学・コラム

2020.07.29

無料配布の「バイオマスレジ袋」は本当にエコ? 有料化後の影響とプラスチックごみの未来を探る

Kindai Picks編集部

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オリジナル記事
学生ライター
環境保護
レジ袋
プラスチック

2020年7月1日からスタートしたプラスチック製レジ袋の有料化。全国の小売店に義務づけられたことにより、生産者や消費者に様々な影響を与えています。しかし、新型コロナウイルスの影響でプラスチックの使用が増加している中、レジ袋有料化はプラスチップごみの削減に貢献できているのか?また、有料化対象外となっているバイオマスプラスチック製のレジ袋は果たしてエコな存在なのか?気になる効果と実態を調査しました。

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みなさん、こんにちは。国際学部4年生の寺浦成美です。

私は、近畿大学社会連携推進センターの学生団体「Kindai SDGs Association」で、オーガニックコットン栽培などSDGsに関するプロジェクトを行い、人々の環境に対する意識やSDGsの認知度を向上させることを目標として発信を続けています。

今回私は、7月1日にスタートしたレジ袋有料化の効果と実態を調査しました。

みなさんは、この政策についてどう思われますか? 私は、この機会に環境問題について関心を持つ人が多くなり、今後さらにエコな取り組みが増えていくのではと期待していました。しかし実際施行されると、新型コロナウイルスの影響によりエコバッグの衛生面を不安視する声や、テイクアウト容器などによるプラスチックごみが増加の傾向にある一方で、レジ袋のみの有料化に意味はあるのか……?といった意見も多く見られました。

さらに、吉野家やケンタッキーなどのいくつかの企業は、有料対象外のバイオマスプラスチック製のレジ袋に切り替えて無料配布を続けていることも話題になっています。対象外のレジ袋を利用することはエコに繋がるのか……?そもそもレジ袋有料化は本当に環境問題の解決に貢献できているのか……?などの疑問が浮かんだのです。


レジ袋有料化の狙いとは?


去年、私はアメリカと日本の海洋保護団体を調査し、海洋汚染についての記事を書きました。

海を守ろう!マイアミと須磨海岸の「海洋汚染」に対するボランティア体験で気づいたこと

海洋汚染問題は、私たち日本人とは無関係だと考えている人も多いかもしれません。しかし、直接海に捨てられたゴミだけでなく、街で捨てられたゴミが川や海に流れれば、海洋汚染に繋がるのです。この問題を解決するにはポイ捨てをなくすということだけでなく、必要以上に多いプラスチックの消費量を減らさなければなりません。今回スタートしたレジ袋の有料化には、こうした背景が深く関係しています。


出典:経済産業省 プラスチック製紙袋有料化 2020年7月1日スタート

有料化の対象となったのは、プラスチック製のレジ袋のみ。その中にも、持ち手のない袋や、原料にバイオマスを25%以上使用しているレジ袋など、素材や厚さによって対象外になっているものもあります。


増加する日本のプラスチックごみ。リサイクル率は84%?




日本人一人あたりのプラスチックごみ排出量は、アメリカに次いで世界で二番目に多いといわれていますが、新型コロナウイルスの影響により、
デリバリー・テイクアウト容器をはじめとする使い捨て用品の利用が増え、プラスチックごみはますます増加しています。私たちが出した大量のプラスチックごみは、その後どのように処分されているのでしょうか。

プラスチックごみの世界のリサイクル率は、わずか9%だそう。91%のプラスチックごみのうち12%は焼却されており、残りの79%は埋め立て処分、もしくは自然環境に放出されているといわれています。

そんな中、国連が2018年に発表した報告書によれば、日本のプラスチックごみのリサイクル率は84%にもなるそう。数字だけ見ると、他国に比べ日本のプラスチックリサイクル対策は進んでいるように思えます。



日本では、リサイクルの定義は3つに分けられています。1つ目は、プラスチックごみが新しいペットボトルに生まれ変わるなど、モノからモノにリサイクルされる「マテリアルリサイクル」、2つ目は、プラスチックごみを一度分子に分解してからプラスチック素材に変えて再利用する「ケミカルリサイクル」、そして3つ目は、プラスチックごみを焼却した熱をエネルギーとして回収し、火力発電や温水プールなどに利用する、“ごみ発電”とも呼ばれる「サーマルリサイクル」です。

84%と発表されている日本のプラスチックごみのリサイクル率は、実は4%がケミカルリサイクル、23%がマテリアルリサイクル、そして57%がサーマルリサイクルなのです。

海外にはサーマルリサイクルという言葉はなく、「エネルギー回収」もしくは「熱回収」と呼ばれ、リサイクルとしてはみなされていません。日本のプラスチックごみのリサイクルは世界基準から大きくズレており、決してプラスチック対策が進んでいるわけではないのです。


バイオマスプラスチックを利用するお店が増えているけど、本当にエコなの?




セブンイレブン、ローソン、ファミリーマートなど大手コンビニ3社はレジ袋の有料化を行なっていますが、吉野家、ケンタッキーなどのいくつかの企業は、対象外のバイオマスプラスチック製のレジ袋に切り替えて、無料配布を続けています。

バイオマスプラスチックを25%以上使用したレジ袋はプラスチック製のレジ袋よりもコストはかかるものの、顧客が持参した袋だと、商品を持ち帰る際に中身がこぼれるなどの衛生面におけるトラブルが懸念されることから、顧客の来店を減らさないために無料を継続しているそう。

また、「レジ袋ご利用ですか?」という口頭のやり取りが増えることで、飛沫が発生したり顧客の店内滞在時間が増えてしまうといった、新型コロナウイルス感染拡大による懸念も、レジ袋の無料配布を続ける理由であるといわれています。

有料化の対象外となっているバイオマスプラスチックのレジ袋は、果たして本当にエコな存在なのでしょうか?



近畿大学で微生物を使ったCO2削減や生物由来原料からの分解性プラスチック(グリーンプラスチック)合成などを研究している、産業理工学部生物環境化学科の田中賢二教授にお話を伺いました。

田中 賢二(たなか けんじ)

産業理工学部 生物環境化学科・産業理⼯学研究科 教授/学部長補佐

専門:微生物工学、応用微生物学
新たな微生物を発見してその能力を解き明かし、CO2削減やグリーンプラスチック、プロバイオティクス乳酸菌、資源管理型漁業など産業や医薬、環境保全に利用する方法を研究しています。



ーーそもそもバイオマスプラスチックとは何なのでしょうか?

バイオマスというのは「生物由来の有機性資源」のことで、バイオマスプラスチックは原料にバイオマスが含まれたプラスチックのことを言います。

例えば、じゃがいもやとうもろこしなどの食品、食料廃棄物や排泄物、生物の死骸など、生体物質を使用して製造されていればそれはバイオマスプラスチックとなります。



私が研究しているPHAという生分解性プラスチック(グリーンプラスチック)は、自然界で分解されやすい性質を持つプラスチックであり、水素酸化細菌という微生物によってCO2やバイオマスを原料に合成されます。廃棄しても微生物の働きによって分解され、水や二酸化炭素となって自然界に還るため、環境に影響を与えないプラスチックとして今注目されている存在です。



今回レジ袋有料化の対象外となっているのは、製造の際にバイオマスを25%使用しているバイオマスプラスチック製のものと、廃棄の際に自然に分解されやすい生分解性プラスチック製のものですね。

ーー私たちが普段使用しているプラスチックと、どのような違いがあるのでしょうか?

プラスチック製のレジ袋は、ポリエチレンと呼ばれる石油から作られたものが主流となっています。ですが、石油は化石燃料であり、枯渇が懸念されている限りある資源です。その上、この貴重な化石燃料をプラスチックとして製造し廃棄・焼却処理することで、大気中の二酸化炭素を増加させる原因にもなります。

それに比べ、バイオマスプラスチックや生分解性プラスチックは、製造・廃棄における環境負担が少ないことが特長です。自然界に分解されやすいので海洋汚染なども防げますし、分解性が高く、焼却しても二酸化炭素を新たに増加させることもありません。

ーーバイオマスプラスチックの普及を目指す上で課題はあるのでしょうか?

やはり、従来のプラスチックよりもコストがかかることです。原料の調達や製造過程などから、通常のプラスチックの3倍ほどのコストがかかってしまうんです。バイオマスプラスチックの使用が増え需要が増えていけば、原料の調達もしやすくなり製造する工場なども増えていくため、コストも下がっていくのではと思います。

ーーバイオマスプラスチックのレジ袋を利用する企業が増加していることについて、どう思われますか?

いいことだと思います。分解されやすいプラスチックを使用することで、化石燃料枯渇の防止や二酸化炭素抑制にも繋がりますし、このような地道な積み重ねが大切だと思います。

ただ、バイオマスを25%使用し石油由来プラスチックとブレンドしているものを、グリーンプラスチックと同じように扱って土に埋めるなど自然に分解させようとすると、石油製プラスチックは分解されないものが多いため、自然界にマイクロプラスチック(ミクロサイズの石油製プラスチック)を残してしまいます。なので、廃棄方法には注意が必要ですね。


近大生に聞いてみた! レジ袋有料化に賛成? 反対?


レジ袋有料化が始まってから、消費者と生産者の生活はどのように変化しているのでしょうか? 今回は、近大生62人を対象に、レジ袋有料化に関するアンケートを実施しました。

レジ袋有料化について賛成? 反対?



賛成意見
「できることからしていくべきだと思うから」
「他国ではすでに実施しているところも多く、やっと日本も始まってよかったと思う」
「環境問題を考えるきっかけになるから」
「有料にしないとレジ袋削減はできないから」
「スーパーなどで『レジ袋削減にご協力ください』と言われていても、無料だと必要以上にレジ袋をもらうことがあったから」

反対意見
「どれくらい環境問題の解決に貢献できているのか疑問。レジ袋はプラスチックごみ全体のうち、わずか数%と聞いた」
「新型コロナウイルスが感染拡大している今の時期に始めるのは、感染リスクを考えると反対」
「レジでいちいち『マイバッグお持ちですか?』と聞かれるのがめんどうだ」
「ゴミ焼却の燃料の役割としても必要だったビニール袋の減少に伴い、追加燃料を要するため、エコバッグを使用した方が環境に悪いと思う」

賛成が79%、反対が21%と賛成派が多いですが、反対派の理由や意見を見てみると、たしかに改善すべき点は多いように感じられます。中でも、この取り組みの基準や規制の弱さなどから「実際に効果があるのか疑問である」という意見が多く見られました。

レジ袋有料化になって、困ったことや気づいたことはありますか?



困ったこと
「エコバックを持ち歩くことが習慣になっていないので、結局買っている」
「家庭でゴミ袋として利用していたので、ゴミ袋を購入しなくてはならなくなった」
「レジ袋を買わずに手で持って帰る際、商品一つひとつにシールを貼ってもらうのが申し訳ない」

気づいたこと
「エコバックを買う費用と持ち歩く手間を考えると、3〜5円は安すぎる。結局お金を払ってレジ袋をもらっている人は多く、環境問題の改善について考えている人が少ないように感じる」
「レジ袋をやめても、デザイン性や流行を追ってエコバッグをコロコロ変えたりすると意味がないと思った」
「接客業をしているが、お客さんの中には有料化を知らない人も意外と多く、文句を言われることがある」

アンケート回答者の中にはスーパーなどの小売店で働いている学生もおり、3〜5円というわずかな金額ではためらいなく購入していく人が多いという意見や、そもそも有料化自体把握しておらず、クレームになることもあるという意見が見られました。レジ袋有料化の目的であるプラスチックごみの削減に人々が関心を持たなければ、この施策が環境問題の解決に大きく貢献することはないのかもしれません。


エコバックはエコじゃない?コロナの影響も心配!




レジ袋有料化に伴いエコバックの利用が促進されていますが、果たしてエコバッグは本当に環境問題の解決に貢献しているのでしょうか。学生アンケートの中では、「エコバッグを使用するほうが、レジ袋を使用するよりも環境に負担をかける」という意見も見られました。

2018年、デンマークで、14種類のショッピングバックを比較した調査が行われました。その結果によれば、紙袋は11回、布バックは840回、オーガニックコットンの袋は2375回利用しなければ、プラスチック製のレジ袋を使用するよりも環境に負担をかけてしまうそう。

このデータからいえるのは、デザイン性のよさなどからエコバックをすぐに買い換えたりするのではなく、繰り返し使用し続けることが大切だということです。エコバッグでも、使い捨てのレジ袋のように利用していては意味がありません。

また、先述の学生アンケートでは、ウイルスの付着など、衛生面を懸念する意見もありました。しかし、同アンケートで「エコバッグを洗濯・メンテナンスしていますか?」と質問したところ、「している」と答えた学生は約26%と、少数派だったのです。

エコバックを洗濯・メンテナンスしていますか?



新型コロナウイルスが流行している現在、エコバッグを清潔に保つことはとくに重要です。荷物詰めの台からウイルスが付着し、そのまま家庭に持ち込んでしまう可能性もゼロではありません。しかし、洗濯・消毒を適切に行っていれば、管理方法を自らで把握できている分安心できるという側面もあるのです。


私たちにできること


現代は、プラスチックなしでは生きていけない時代だと思います。プラスチックには環境に負担を与えるようなデメリットだけでなく、パッケージを軽量化し運送にかかるエネルギーを減らしたり、衛生面を守り食品ロスを軽減したりといったメリットもたくさんあるのです。だからこそ、必要以上に消費することなく、大切に使わなければならないものなのだと思います。

今回お話を伺った田中教授も、「レジ袋有料化が始まって以来、コンビニなどのレジ袋が街に捨てられているのを見かけることが少なくなったように思います。人々の消費意識や行動が“必要な分だけ買う”という方向に変化しているので、使い捨て文化はもう終わりつつあるのではないでしょうか」とおっしゃっていました。ささやかなことだとしても、一人ひとりが必要以上に使用しているプラスチックに意識を向け、できることをしていくことで、環境問題の改善に繋がるのではないでしょうか。


(おわり)


この記事を書いた人

寺浦 成美(てらうら なるみ)

近畿大学 国際学部 国際学科 グローバル専攻 4年
1月11日生まれ。高校1年時にニュージーランドへ1カ月、大学1年時にアメリカのフロリダ州マイアミへ8カ月ほど留学していました。趣味は旅行、カフェ巡り、ショッピング、音楽です。



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