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2020.03.12

規格外野菜をこども食堂へ寄付! 日本の食品ロス問題に取り組む学生たちを取材してみた

Kindai Picks編集部

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オリジナル記事
学生ライター
環境保護
規格外野菜

問題なく食べられるにも関わらず、販売基準を満たしていなかったり、消費期限が過ぎているために食品が廃棄されてしまう食品ロス問題。国際食糧農業機関(FAO)による2011年の調査によれば、世界では毎年40億トンの食料が生産され、そのうちの約3分の1にあたる13億トンもの食料が捨てられています。また、世界中の全ての人が十分に食べられるほどの食料が生産されているにも関わらず、世界人口の9人に1人が飢餓に苦しんでいるともいわれています。2018年時点で、世界では1日に4〜5万人、年間で1,500万人以上が飢餓で亡くなっており、そのうちの7割が子どもであるとされています(出典:国際連合世界食糧計画(WFP)「飢餓について」)。貧困による飢餓で苦しむ人が多くいる一方で、まだ食べられるものを捨ててしまう人がいる。そんな不平等な世界を変えるために、食品ロス問題に取り組む学生たちがいました。

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みなさん、こんにちは。
近畿大学国際学部3年の寺浦 成美です。

私はKindai SDGs Associationという団体で、衣類リサイクルやポリエステル媒地の利用促進活動、オーガニックコットンの栽培や商品のプロデュースなど、SDGsに関するプロジェクトに取り組み、少しでも多くの人の環境意識を向上させるため、発信を行なっています。

今回は、食品ロス問題に取り組む学生団体「C.S.S (Create Sustainable Society)」を取材しました!



「C.S.S」は、2019年9月に発足された近畿大学の食品ロス削減プロジェクト団体で、現在17人のメンバーで活動しています。

主に、農業のお手伝いをした際にいただいた、市場に出せない規格外野菜を地域のこども食堂へ寄付したり、「SDGs WEEK」などの学内イベントへの参加、加計呂麻島ジビエ研究会と共同でジビエ食促進活動、奄美大島での特産品作りなどの活動を通して農業を学び、食品ロスの問題を発信しています。


日本のスーパーマーケットに並ばない規格外野菜たち


規格外野菜

突然ですがこちらは、奈良県御所市にある杉浦農園で育てられた人参です。問題なく食べられそうに見えますが、実は「規格外野菜」なんです。このように少し小さかったり、虫食いや小さな亀裂があるというだけで、たくさんの野菜が規格外野菜として廃棄されてしまっています。

全ての野菜を、大きさも形も整っているものに育てることは不可能です。にも関わらず、見た目が不恰好なだけで大量の規格外野菜が廃棄されているなんて、普通に生活しているだけでは気づけませんよね。



市場に出回る野菜には、サイズや色、状態などの基準が定められています。それを満たさない野菜たちは規格外野菜となり、私たちが普段利用するスーパーマーケットには入荷されません。

日本のスーパーマーケットでは形も大きさもきれいな野菜しか販売されていないのに対し、他国では、規格外野菜が活用されています。

スウェーデンのスーパーに並ぶ規格外野菜
スウェーデンのスーパーに並ぶ規格外野菜:「トビタテ!留学JAPAN」10期生の中央大学 橋本紗和さん提供

こちらはスウェーデンのスーパーの写真。規格外野菜が、きれいな野菜よりも安価で販売されています。

こうした取り組みはスウェーデンだけで行われているものではありません。たとえばフランスの「カルフール」という大手スーパーでは、店舗の内装などを一部ブラックマーケット(闇市)のように演出し、規格外野菜を販売しています。法律により97%の生産物が違法扱いになっている厳しすぎる現状を消費者に伝え、署名活動を開始したのです。その結果、約85,000以上の署名を集め、EUの法律を改正するまでに至りました。

またアメリカでは、規格外野菜を格安で購入でき、家まで届けてもらえるサービスもあります。食料配達サービス「Imperfect produce」では、農家から買い取った規格外野菜を、定価の3〜5割引で販売しています。


奈良県で農園を営む近畿大学農学部卒の杉浦さんに、規格外野菜の現状についてのお話を聞くc.s.sのメンバー。

C.S.Sのメンバーがボランティアや規格外野菜の提供でお世話になっている杉浦農園の杉浦さんも、日本の食料廃棄問題には危機感を抱いているといいます。

杉浦農園はお1人で運営されているため人手が足りず、ボランティアとして世界各国(ドイツ、フランス、台湾、中国など)から訪れたさまざまな人が、お手伝いしながら農業を学んでいます。杉浦さんは彼らから「日本ではなぜ規格外野菜は廃棄されてしまうのか?」とよく聞かれるそうです。


世界も驚く日本の食料廃棄の現状


消費者庁によると、2018年に国連WFPが飢餓で苦しむ世界中の人々に対し行った食品支援量は、約390万トンとされています。一方日本では、2016年におよそ643万トンもの食品を廃棄していると推計されています。つまり、日本は国連の食糧支援量の約1.6倍もの食品を廃棄していることになります。

事実、杉浦農園でも出荷のたびに多くの野菜が規格外野菜に分類され、破棄されているといいます。



こちらは、規格外野菜に分類された杉浦農園の人参。季節や天候によって変動はあるものの、1回の出荷のうち、およそ4割程度が規格外野菜になってしまうそうです。


規格外野菜を子どもたちに届ける「こども食堂」




C.S.Sでは2019年9月から、杉浦農園のボランティアでいただいた規格外の里芋・人参・じゃがいもを、大阪府東大阪市若江東町にある本泉寺の「こども食堂」へ寄付しています。


C.S.S代表の国際学部3年生の朝田崚太くんと、こども食堂を開いている本泉寺の住職橋本恒梁さん

こども食堂は、本泉寺が仏教における人助けの心に則り、医療生協と協力して2016年から開いている食堂。毎週木曜日の17:00〜18:00に、40食限定で地域の子どもたちに夕食を無料で提供しています。C.S.S.から提供された規格外野菜は、子どもたちにふるまう夕食として活用されているんです。



夕食の用意をしているのは、地域の方々。子どもたちのために、ボランティアでおいしいご飯を作ってくれています。

この日のメニューは、蓮根ハンバーグ、クリームシチュー、コロッケ。シチューには、規格外野菜として提供されたジャガイモが使われています。



こども食堂では、おいしいご飯が食べられるだけでなく、ボランティアの方とお話ししたり、地域の方々との交流を深めることもできます。

捨てられるはずだった規格外野菜がこども食堂で使用されることは、子どもたちの空腹を満たせるだけでなく、フードロス問題の解決にもつながります。近畿大学生だけでなく、より多くの人々に知ってもらうことで、より大きく解決に向けて進むことができるのではと感じました。


北海道「ニセコ留学」が団体を立ち上げるきっかけに


C.S.Sを立ち上げた国際学部3年生の朝田崚太くんにインタビューしました。

ーー食品ロスに関心を持ったきっかけは何ですか?

私はお土産屋さんでアルバイトしていたんですが、試食などで一部開封されていたり、賞味期限が近いという理由で、大量の海老煎餅が捨てられているのを目の当たりにしたとき、ショックを受けたんです。「もったいないなぁ、どうにかできないかなぁ」と思ったのが、食品ロスに関心を持ったきっかけでした。

ーーそこからどうして団体を立ち上げるまでになったのでしょう?

3年生の夏休みにどこかでインターンをしたいなと探していたとき、環境に配慮した農業やリサイクルなどについて学べる「ニセコ留学」を見つけたんです。北海道のニセコ町が外国人観光客や外国人住民が多い地域特性を活かし、「英語トレーニング(研修・就業体験・国際交流等)」と「地域でのアクティビティ」をかけ合わせたプログラムでした。そこで約1ヶ月間インターンをしました。

インターン中のある日、トウモロコシ畑のお手伝いをしていたとき、規格外野菜が大量に捨てられているのを見たんです。まだ食べられるし、すごくおいしいのに。世の中には貧困で餓死してしまう人もいるのに、なんて不平等なんだろうとショックを受けました。

そこから本格的に何か活動したいなと思い、私が所属しているゼミのテーマが国際ボランティアであることや、インターン先のニセコ環境株式会社様が規格外野菜を配送してくれると言ってくださったことも後押しとなって、団体を立ち上げることができました。


朝田くん(中央)と、こども食堂の前川晢さん(左)、橋本園美さん(右)

今後は、今の活動に加え、さらに農業のノウハウを学んだり、規格外野菜の商品化、C.S.Sの活動や食品ロスの事実を発信していき、不平等な社会をよりよくしていくことを目指して活動していきたいと思っています。


知ることが解決に繋がる。消費者である私たちにできること



杉浦農園でボランティアをするC.S.Sメンバーと、杉浦さん(後列左)、団体監督・田中尚道教授(後列中央)

普段の生活の中で、食料廃棄や子どもの貧困、規格外野菜の存在を耳にすることはあまりないと思います。ですが、食料は私たちの日常に欠かせない存在です。当たり前だと思っていた日常の裏にある課題に目を向け、食糧問題に対し、生産者と消費者が対等の問題意識を持つべきだと考えます。

私たち日本人は、「もったいない精神」という日本特有の考え方を持っているといわれています。しかし、形や大きさが規定とは異なるというだけで、たくさんの食料が処分されるというもったいない行為が、現在一般的に行われているのです。その原因は、多くの人が食料廃棄問題の事実を知らないことにあるのではないでしょうか。

改善に向けて具体的に動くのは企業や生産者ですが、彼らを動かすのは消費者のはず。まずは消費者が食料廃棄問題や貧困問題について知り、関心を持つことで、日本でも規格外野菜が活用されるようになるのではないかと思います。

杉浦農園の杉浦さんは、「農業のイベントなどで、規格外野菜について説明すると、みんな抵抗なく買ってくれます。」と話していました。もしかすると日本でも、形のいい野菜しか買いたくないと考えている消費者は、それほど多くないのかもしれません。


(終わり)


この記事を書いた人



寺浦 成美(てらうら なるみ)

近畿大学 国際学部 国際学科 グローバル専攻 3年
1月11日生まれ。高校1年時にニュージーランドへ1カ月、大学1年時にアメリカのフロリダ州マイアミへ8カ月ほど留学していました。趣味は旅行、カフェ巡り、ショッピング、音楽です。


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    編集:藤間紗花

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