2020.01.17
新燃料「HFPF」誕生!いつか枯渇する化石燃料と環境問題を考える
- Kindai Picks編集部
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石油や石炭、天然ガスといった化石燃料の枯渇が心配される中、年々増加する世界のエネルギー使用量。自国にエネルギー資源をほとんど持たない日本は、主に中東からの輸入に依存し続けています。しかしその裏で、新しい技術を使った代替燃料の開発・研究も進められています。今回は、古着を植物栽培用の培地として再利用する「ポリエステル媒地」を、「廃棄物固形燃料」として再・再利用する実験をレポートします。
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近畿大学 国際学部3年の寺浦成美です。
前回、古着を植物栽培用の培地として再利用する「ポリエステル媒地」の可能性についての記事を書きました。
SDGs×福島復興支援!古着原料の「ポリエステル媒地」で栽培したアンスリウムが象徴する未来の農業
ポリエステル媒地は衣服の大量消費や、地球温暖化、土壌汚染、水質汚染など様々な問題に貢献できるエコで持続可能な栽培方法です。しかし、ポリエステル媒地としての使命を終えた後はどうなるのでしょうか?
連続して10年使用することが可能なポリエステル媒地ですが、使用後にそのまま廃棄してしまうと、結局それが「プラスチック廃棄物」となってしまいます。
そこで、ポリエステル媒地の開発に携わる近畿大学社会連携推進センターの田中尚道教授は、使用後のポリエステル媒地が廃棄物にならないように、「使用済のポリエステル媒地を廃棄物固形燃料にする」という更なる再利用案を考えました。
衣服リサイクルから生まれたポリエステル媒地を、枯渇が心配される化石燃料の代替にすることができれば、廃棄物リサイクルによってCO2排出量を削減するだけでなく、SDGs※の目標No.7「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」という目標に大きく貢献できるものになります。
※SDGs:「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称。2015年9月に国連で開かれたサミットにて定められた、現代社会における様々な社会問題を解決するための国際社会共通の目標のこと。
ポリエステル媒地は新しい代替燃料になるのか!?その実験に同行させていただきました!
化石燃料の枯渇は近い?未来の生活にエネルギーはあるのか……
18世紀の産業革命以降、世界のエネルギー消費量は人口増加や経済成長とともに増加を続けています。石油大手BPが発表した世界エネルギー統計(BP. Statistical Review of World Energy 2019)によると、2018年の世界の一次エネルギー※消費量(石油換算)は138.6億トン。1965年と比較すると約3.7倍にまで増加しているのです。
※一次エネルギー:電気・都市ガス・ガソリンなどの二次エネルギーに変換・加工される前の、自然界から得られるエネルギー
出典:一般財団法人日本原子力文化財団 原子力・エネルギー図面集(根拠データ:BP統計2019)
その中でも日本は、中国、アメリカ、インド、ロシアに次ぐ世界有数のエネルギー消費国。一次エネルギー消費全体の84.7%を石油、石炭、天然ガスの化石燃料が占めています。
出典:一般財団法人日本原子力文化財団 原子力・エネルギー図面集(根拠データ:BP統計2019)
そして、日本は自国にエネルギー資源をほとんど持ってないことから、海外からの輸入に依存し、国内自給率は10%以下です。
原油においてはサウジアラビアやアラブ首長国連邦等の中東などに約88%依存。また、天然ガスや石炭についても、オーストラリアをはじめそのほとんどを海外からの輸入に頼っている状態です。
これらの化石燃料には限りがあることはもちろん、確保できる地域も限られていることから、価格や需要のバランスにも問題があります。
例えば、原油の確認埋蔵量の可採年数※は、2018年末の時点であと49年と想定されています。
※可採年数:現時点で確認されている経済的、合理的な範囲で採掘可能なそれぞれの資源の埋蔵量を年間の生産量で割ったもの
今後、新たな油田が発見されたり、技術の進歩によってこの数字が変わっていく可能性はありますが、化石燃料はいつか枯渇する資源であることに変わりはありません。
そのため、世界中で化石燃料の代替になる次世代燃料の研究が進められています。
近畿大学理工学部の井田民男教授(バイオコークス研究所・所長)によって研究が続けられている「バイオコークス」も、石炭コークスの代替になる次世代バイオ固形燃料として注目を浴びています。
ポリエステル媒地を廃棄物固形燃料に!
ということで、ポリエステル媒地を廃棄物固形燃料にする実験を行うために、田中尚道教授に同行し、はるばる北海道までやってきました。
今回、廃棄物処理やリサイクルなどを行うニセコ環境株式会社にご協力いただき、琴平にあるリサイクルセンターで実験させていただくことになったのです。
琴平リサイクルセンターは、プラスチックや紙・木材などの廃棄物を原材料とする、化石燃料の代替となる固形燃料「RPF」を製造する装置や、缶・ペットボトルの圧縮装置、生ごみの堆肥化施設を有し、様々なリサイクルを行う施設。
「RPF」は Refuse derived paper and plastics densified Fuelの略称で、主に産業系廃棄物のうち、マテリアルリサイクルが困難な古紙や廃プラスチック類を主原料とし、圧縮成形、押出成形などによって固形化した固形燃料のことです。
今回は、RPFの制作と同じ手法で、ニセコ環境が運営するニセコファームのトマト栽培で6年間使用されたポリエステル媒地を固形燃料にしようという実験。
木質、プラスチック廃棄物、廃食品などを、燃料や堆肥にするためにペレット状(円柱形)に固めるRPF製造装置。
通常、ニセコ環境株式会社では、RPF製造装置にプラスチックや紙の廃棄物を入れて固形燃料を作っていますが、今回はポリエステル媒地100%の固形燃料制作を試みます。
使用済のポリエステル媒地をRPF製造装置に入れ、約200度の高熱で溶かし……
固形燃料となって出てくるはずなのですが……
あれ……? 固形になっていない。
一部、固形になっている部分もありましたが、ほとんどがバラバラになってしまいました。固形にならなかった原因は、水分の量でした。
本来、固形燃料を制作するには、水分が10%以下でないといけないのですが、トマト栽培で使用されたポリエステル媒地は30%ほどの水分が含まれていたことがわかりました。
そこで、プラスチックと紙の廃棄物を混ぜて、もう一度挑戦してみることに。
こちらの廃棄物は琴平リサイクルセンターに保管されているもので、普段はこの廃棄物を固形燃料にリサイクルしています。
今度は、ポリエステル媒地とプラスチック、紙の廃棄物を「3:7」の割合(全体の水分が約15%ほどになったという仮定)にして投入。同じく約200度で溶かし固めます。
すると今回は、このような円柱型の固形燃料になりました……!
今回の実験では、ポリエステル媒地にプラスチックと紙の廃棄物を追加することで固形燃料にすることができましたが、本来の目標は「ポリエステル媒地のみで固形燃料を作る」ということ。更に研究を重ね、後日再チャレンジすることに。
新燃料「HFPF」の誕生!
北海道での実験から約2週間後、今度は兵庫県西宮市に本社を置く極東開発工業株式会社にご協力いただき、同社の「突き押し式成形機」で実験。結果、ポリエステル媒地100%で固形燃料を作ることに成功しました!
極東開発工業株式会社では、近畿大学内の原子力研究所内で栽培した自然薯やアスパラガス、ヤマトイモに使用されたポリエステル媒地をビニールハウスの温室で水分が10%以下になるまで乾燥させました。
断面を見るとポリエステル媒地からできていることがわかります。
使用済ポリエステル媒地100%でできた新しい廃棄物固形燃料、名付けて「HFPF(High Calories Final Polyester Fuel)」です。
熱量※を分析したところ、約6700kcal/kg。
※熱量:一定単位量の燃料が、完全に燃焼することによって発生するエネルギー。
この「HFPF」も、「バイオコークス」同様、石炭コークス(約6000~7000kcal/kg)に近い熱量だということがわかりました。
毎年約200万トン廃棄されているポリエステル製品から燃料を作ることができたら、海外から輸入している石炭の量を減少することができると考えています!
このままでは動物の生態系だけでなく人間の生活までもが破壊されてしまう?
破棄されるはずだった衣服が、植物を育てる「ポリエステル媒地」として再利用され、最後は固形燃料として再・再利用できるという……無駄なく最後までゴミを生まない新しいリサイクルシステムが確立しました!これはSDGsの目標No.7「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」、目標No.9「産業と技術革新の基盤をつくろう」、目標No.13「気候変動に具体的な対策を」などに当てはまり、持続可能なリサイクルシステムです。
私たちが解体した作業服が「ポリエステル媒地」になり、福島のアンスリウム栽培の現場、そして固形燃料になるまでの工程を自分の目で見て、限りある資源を大切にするために、私たちができることがまだまだたくさんあると気付かされました。
今まで人間が多くの自然を破壊した結果、地球温暖化をはじめ、地球全体の気候や動植物の生態系に深刻な影響を与えています。2019年9月から頻発しているオーストラリアでの山火事によって、オーストラリアに生存していた動物(哺乳類、鳥、爬虫類)の半分の約5億もの動物が死んでしまったというニュースはみなさんもご存知ですよね。このままでは、生態系のバランスがどんどん崩れ、絶滅する種もたくさん出るだろうと予測されています。これは、今被害となっている一部の地域だけでなく、世界全体の問題だということを意識しなければなりません。
私たち人間が生きていく中で、「環境に全く被害を与えない」ということは不可能でしょう。しかし、残された自然を守るために、私たちが生きていくために何をするべきなのか考え、いち早く行動にする必要があります。他人事ではありません。環境への被害を少しでも減らせるよう、私たち一人ひとりが考えて行動することが大切だと思います。
(おわり)
この記事を書いた人
寺浦 成美(てらうら なるみ)
近畿大学 国際学部 国際学科 グローバル専攻 3年
1月11日生まれ。高校1年時にニュージーランドへ1カ月、大学1年時にアメリカのフロリダ州マイアミへ8カ月ほど留学していました。趣味は旅行、カフェ巡り、ショッピング、音楽です。
▼寺浦さんの記事
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編集:人間編集部
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