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雑学・コラム

2018.12.05

過激な不倫報道はなぜ多いのか? 社会心理学の先生に聞く日本の報道のあり方

Kindai Picks編集部

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OB・OG
オリジナル記事
コラム
学生ライター

年末に放送される年内のニュースを総括した番組で、やたらと目に付くのが有名人の「不倫スキャンダル」。なぜ日本はこんなにも不倫報道が多いの? アメリカ留学中に気付いた、日本と他国の「芸能ニュース」の違いと、他人の行動を目に余るほど批判する日本の風潮について、社会心理学の先生にお話を伺いました。

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みなさん、こんにちは。近畿大学国際学部2年生の寺浦成美です。
約8カ月間、アメリカのフロリダ州にあるマイアミに留学していました。

私はマイアミで、語学学校(ELS)だけでなく、アメリカの大学の授業も受けて、寮のパーティなどで仲良くなった現地の大学生が「she is my friend!(彼女は私の友達です)」といろんな場面で私のことを紹介してくれたおかげで、たくさんの現地学生と出会うことができ、 毎日新しい何かに出会えて、刺激的で楽しく充実した日々を過ごせました。

そんな留学生活の中で、日本とアメリカの違いを感じることは多々ありましたが、一番文化の違いを感じたのは「ニュース・報道」の捉え方でした。

現地の大学生とは、学校の授業や課題の情報を共有したり、自分たちの将来のプランを語り合ったり、流行りのメイクやファッションの話をしたり、「自分たちのこと」を語り合っていました。

しかし日本では、「◯◯の浮気ヤバくない?」「◯◯が炎上してるね!」など、芸能ニュースの話題で盛り上がることが多く感じます。


芸能ニュースで盛り上がるのは日本が平和だから?



©O-DAN

特に日本国内でよく報道されるのが、芸能人や文化人の「不倫スキャンダル」。年末に放送される、年内のニュースを総括した番組では、必ず何件かの不倫報道が取りあげられます。

しかし、留学中に、そのような報道をみた記憶も、不倫スキャンダルについて同年代の友達と盛り上がった記憶もありません。

この違いはなんだろう? と思い、色んな人に「芸能ニュースは好きですか?」「不倫スキャンダルについてどう思う?」と質問してみました。


ナン(アメリカの大学生)
その人の知名度にもよるけど、そもそもアメリカ人は芸能人のゴシップにあまり驚いたりしないね。その人がよっぽど有名だったり、出来事が大きかったりすると、雑誌社やリポーターはそれを売って稼ぎにする。でも、彼らが不倫などをしたとしても、公共的に謝罪をしなければならないことはないし、謝罪会見をしないからといって非人道的だと思わない。もし、彼らが何か犯罪を犯したとしても、彼らは被害者に謝るべきであって、その問題と関わりのない人に謝る必要はないと思う。

アナ(ブラジルの大学生)
個人的にはあまり興味がないけど、誰が誰とデートしているかなんてニュースを楽しんでいる人たちはブラジルにもいるよ。ブラジルでも謝罪会見をするような有名人はいるけど、彼らはだいたい正直ではなく、お金を失わないようにしているように見える。彼らがそのミスを認めることが大事だと思う。

マーク(イギリス出身の英語村スタッフ)
イギリスでも、女の人はよく芸能ニュースの話をしているイメージだね。ニュースを流す番組もあるけれど、主婦向けだからランチタイムに限定的に放送されてるんだと思う。僕自身は、芸能ニュースは好んで見ないよ。

ひろこ(アメリカ在住の大学生)
日本はアメリカと比べて犯罪率が低いから、事件の報道が少ない分、芸能ニュースの報道がすごく多いんじゃないかな。テレビで芸能人の不倫会見を見ると、日本って本当に事件の少ない平和な国なんだな......と思う。でも、テレビ側が意図的に当事者を責める報道をするのはおかしいよね。人の問題に頭を突っ込んで問い詰めて泣かせて「一体誰が得しているの?」と疑問に思うよ。他にもっともっと、宗教や人種差別のこと、国外の事件など報道されるべきニュースがあると思う。



様々な意見がありますが、「日本は平和だから」という意見に「なるほどな……」と思いました。確かに、日本で銃犯罪が起きたなら、それはもう日本中の話題となり大きく報道されるでしょう。しかし、アメリカでは、実際に私が留学していたマイアミの大学で学生が1人射殺された事件がありましたが、そのニュースが取り上げられたのはローカルWEBメディアのみでした。


©O-DAN

また、外国人が好んで使う「ゴシップ」という言葉と、日本で多用される「スキャンダル」という言葉の定義も大きく異なります。

「ゴシップ」は元々「名付け親」という意味の古英語で、「名付け親は、その家で見聞きしたことに尾ひれをつけて外部に話す」といった意味合いで言葉が広がり、現代でも主に噂話や、娯楽性の高い情報のことを指しています。

一方「スキャンダル」は「障害物」「罠」を意味するギリシャ語が元になっており、その語源からも分かるように、現代でも「対象者の地位や名誉を傷つける情報」という意味合いで使われています。

好んで使う言葉にも、日本人と外国人の意識の違いが表れているように感じられます。不倫報道はまさに「スキャンダル」そのものですね。


どうして赤の他人を追い込むのか?


では、どうして様々な芸能ニュースの中でも「不倫スキャンダル」が多く報道されるのでしょうか?

確かに不倫は道徳意識に反する行為ですが、芸能人や政治家が職を辞すまで追い込む日本の風潮は、公私混同がすぎる異常な風潮にも思えます。

「赤の他人」の行動を、目に余るほど批判する人がどうしてこんなにたくさんいるのか……?

このような日本の現状について、近畿大学の社会心理学専門、村山綾(むらやま あや)先生にお話を伺ってきました!


社会心理学専門、村山先生。

――他の国に比べて日本で芸能ニュースが多く報道されている理由は何なのでしょうか?

まずは、作る側に「需要がある」と思われているからだと考えられます。
芸能ニュースが多く扱われる、いわゆるワイドショーの放送時間帯を考慮すると、主な視聴者として専業主婦層や高齢者層が想定されます。日本は先進国の中でも専業主婦の割合が高く、将来専業主婦を希望する人も多いと言われています。また、人口全体に占める高齢者の割合も高いという特徴があります。

人は、様々な社会集団を、「能力の高さー低さ」と、「温かさ―冷たさ」の組み合わせに基づいてステレオタイプ化することが分かっていて、その枠組みに基づくと、専業主婦や高齢者には「政治や世界情勢に関わるニュースよりも、芸能ニュースなどの身近な話題の方が、受けがいい」とされてるのだと思います。

また、日本は島国で、世界の紛争地帯から比較的離れており、他国の情勢を詳しく知らなくても危険な目には遭いにくい。この環境も、外国などの紛争があまり報道されず、その代わりに芸能ニュースが多く報道される要因なのかもしれません。


――結婚などの良いニュースよりも、不倫や離婚などの悪いニュースが多く報道されるのはどうしてですか?

ニュースは新規性や話題性の高さなどで構成されています。例えば「〇〇が結婚!」と報道されても、よほどビックネーム同士でなければ「そうなんや、へぇ」だけで終わってしまう可能性が高く、拡散性も低いと考えられます。しかし、悪いニュースは、「あの人がそんなことを!?」という意外性もあいまって、より話題性が高くなりやすいのです。


――悪いことをしたからといって、人々はどうして赤の他人を批判したり追い込もうとするのでしょうか?

社会心理学では、「公正世界信念」と呼ばれる概念があります。これは、「良いことをした人には良いことが、悪いことをした人には悪いことが起こるという信念です。人々はこのような、公正な世界の存在を信じ続けたいがため、不倫などの道徳違反を犯した人に対し「悪いことをしたのだから罰を受けて当然」と考え、強い非難やその人を追い込むようなコメントをしやすくなると考えられます。自分は当事者ではなく、相手から反撃される心配もないからこそ、赤の他人の非を責めたて、一定の満足感を得るのです。これは私刑のようなもので、決して許されるべきではありませんが、不倫報道はこのような形で消費されやすいニュースと言えます。

他にも、例えばテレビで見ている有名人に対して清いイメージを持っていたら、私生活も清いに違いない……つまり「公私ともに、人間性は一貫しているはずだ」と期待しがちです。そのような期待がある為、不倫や離婚などのニュースで「裏切られた」と感じ、その芸能人を徹底的に非難するという流れも考えられると思います。


――過剰な報道や批判コメントをなくすにはどうしたらいいですか?

まず、そのような芸能ニュースやゴシップネタを、視聴者が見ない、需要があると思われないようにする、ということが考えられます。有名人だからといって、他人のプライベートをレポーターが突撃取材して根掘り葉掘り聞くような報道は間違っていると思いますが、一方で視聴者が望んでいて、視聴率がいいからこそなくならないのです。批判コメントについては、環境やシステムを変えることが有用だと考えます。例えば、コメント欄を設けない、なりすましアカウントを凍結させるなどして、バッシングが共有されづらい環境を整えることが重要ですね。


――今後の報道業界はどうあるべきでしょうか?

「必ずこうあるべき」というものはないでしょうが、NHKが5年ごとに行なっている調査を見ると、幅広い年齢層で、テレビを長時間見る人自体が減ってきているようです。


画像出典:NHK放送文化研究所 『「日本人とテレビ 2015」調査 結果の概要について』より

また、録画機能の技術向上やNetflix(ネットフリックス)などの普及により、「決まった時間に家族がリビングに集まって一斉にテレビを視聴する」という場面も少なくなってきています。視聴時間や視聴環境が変化していることから、テレビ業界も変化せざるを得ない状況になっていると考えられます。

変化の方向としては2つありそうです。1つはテレビの視聴者が減って広告収入が得にくくなるため、制作費を削減するために再放送を多く行う、そして高額なギャラが発生しない一般人を多く出演させる番組などを多作する方向性。この方向性だと、制作側のターゲットに変化がない為、現状の芸能ニュースやゴシップを扱う番組は減らないかもしれません。もう1つは、幅広い年代の視聴者やその人たちの視聴時間を増やしていくために、他媒体にはできない、テレビだけが実現可能な新しいニュースや番組の形を模索する方向性。視聴者の一人としての意見になりますが、個人的にはぜひ後者の方向性でもって、多くの人を惹きつける面白い番組を作っていってほしいですね。これをきっかけにテレビニュースや番組が変化することを望んでいます。


まとめ


今回、村山先生のお話を聞いて、日本の過激な不倫報道の裏には、「需要があるから」だけでは片付けられない様々な要因があることを知りました。

特に「公正世界信念」の話にもとづく「公私ともに、人間性が一貫していないといけない」という日本人の考えが強く影響していると感じました。

例えば、1994年にフランスのミッテラン元大統領と愛人の密会がフランスの週刊誌に掲載された時も、雑誌の発売元である出版社は「プライバシーの侵害」を理由に各メディアから大批判を受けたそうです。

日本だと、同じようなことが起これば当事者が謝罪会見を行う様子が安易に予見できますが、フランスでは不倫した(当時の)大統領ではなく、出版社が大バッシングされたのです。

これは、フランスでは「プライベートな問題と、政治家として問われるべきところは違う」という思想があり、一方、日本では、「政治家であるならば、政治面も私生活も両方が清くなければいけない。公私ともに人間性が一貫していない」といけないという考えが一般的であることがよくわかるエピソードです。


©Pixabay

私以外にも、不倫が報道され有名人を、引退や退職に追い込むまで批判する風潮は異常なのではないか……?と感じている人は多いのではないでしょうか?

近年、スキャンダルの当事者を追い込んでいるのは、SNSなど匿名での批判コメントが大多数です。

批判コメントをすることで自分を守ろうとするのではなく、自分のことに集中し、向き合い、自分のために時間を使う方がはるかに充実して楽しい人生を送ることができると思います。

自分のしたいことや得たいものなどに一生懸命になっていると、芸能ニュースなど自分と関係のない事柄に興味がそれほどわかなくなり、最終的にそのような人が増えて芸能ニュースの需要がなくなると、テレビ業界も変化せざるを得なくなるのではないでしょうか。自分の日常と全く関係のない、スキャンダルの当事者を匿名コメントで追い詰めたり、失敗や罪を犯した人を過剰に叩きのめす社会が少しずつ変わっていくことを私は望みます。

(終わり)

ライタープロフィール
寺浦 成美(てらうら なるみ)
近畿大学 国際学部 国際学科 グローバル専攻 2年
1月11日生まれ、京都外大西高等学校出身。高校1年時にニュージーランドへ1カ月、大学1年時にアメリカのフロリダ州マイアミへ8カ月ほど留学していました。趣味は旅行、カフェ巡り、ショッピング、音楽です。


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編集:人間編集部

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