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産学連携

2021.02.16

国産自給率ほぼ0%の綿花栽培に大学生が挑戦!Tabio✕近大「無農薬コットン靴下」ができるまでの1年半

Kindai Picks編集部

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SDGs
環境保護
Tabio

近畿大学の学生団体Kindai SDGs Associationは昨年、靴下専門店「靴下屋」などを展開するタビオ株式会社とタッグを組み、休耕田を有効活用した無農薬コットンの栽培プロジェクトを行いました。プロジェクトで収穫されたコットンは、オリジナル靴下となりこの春限定販売されます。今回はコットン収穫までのプロセスと、無農薬コットンについてリポートします!

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みなさん、こんにちは。
近畿大学国際学部4年生の寺浦成美です。

私はKindai SDGs Associationという学生団体で、SDGsに関するプロジェクトに取り組み、少しでも多くの人の環境意識を向上させるため、情報発信を行なっています。

今回は、靴下専門店「靴下屋」「Tabio(タビオ)」「Tabio MEN(タビオメン)」を展開するタビオ株式会社と、1年半に及び取り組んできた「Kindai × Tabio 無農薬コットン栽培&靴下プロデュースプロジェクト」についてご紹介します。

タビオ株式会社 会社概要
所在地:大阪市浪速区難波中二丁目10番70号 なんばパークス内パークスタワー16F
事業内容:靴下の企画・製造・卸・小売・フランチャイズ チェーン(靴下屋)の展開、直営店(靴下屋・Tabio・Tabio MEN)の展開
Tabio公式サイト


農薬や化学肥料に頼らない「無農薬コットン」って?




靴下、タオル、Tシャツ、ジーンズなど、私たちが普段何気なく着ている洋服に多く使われているコットン。吸水性・通気性に優れ、手触りもいいことから、赤ちゃんからお年寄りまで気持ち良く使える、人気の素材です。

そもそもコットンは、799年に日本に伝わったと言われており、戦国時代から江戸時代にかけては急速に栽培を拡大させ、1930年代には日本の綿布の輸出量は急激に増えました。しかし戦後、より安価なアジア産のコットンが登場したことで、国内の生産量は激減。現在日本国内のコットン生産量はほぼ0%であり、日本で作られているコットン製品のほとんどは、国外から輸入したコットンが使用されています。

2020年の実綿及び繰綿※(カードし又はコームしたものを除く)の輸入額合計は6,676,183,000円。明治時代は綿花が重要輸出品目になっていた日本だが、現在は、アメリカ、オーストラリア、ギリシャ、ブラジル、インドをはじめ16ヵ国からの輸入に頼っている。
※実綿は綿毛に覆われた種子、繰綿は綿花から種子を除いた繊維のこと。
出典:財務省貿易統計


さらに、天然素材であることからエコな素材というイメージのあるコットンですが、実際には、大量のコットンを生産するために大量の農薬が使用されており、土壌・水質汚染など、環境へ及ぼす悪影響が問題となっています。また、生産者に農薬中毒の症状が現れることもあり、人体に及ぼす影響も問題視されています。

ファストファッション業界のドキュメンタリー『ザ・トゥルーコスト~ファストファッション 真の代償~』を観てこの現状を知った私たちは、コットンの大量生産による被害について調べていくうちに、化学肥料や農薬に頼らずに生産された「無農薬コットン」について興味を持ちました。

そんな時、私たちの団体の顧問を務める、社会連携推進センターの田中尚道教授が、株式会社タビオとの無農薬コットンプロジェクトを提案してくれたのです。
Made in Japanにこだわるタビオは、「素材を種から作る」というブランドの夢を叶えるため、2009年より奈良県広陵町にある休耕田にて、化学肥料や農薬を使用しない農法でのコットン栽培を行っています。しかし、製品化できる量まで栽培することを目標にしていたものの、2018年にコットンの収穫量が例年の約80%まで減少してしまったそう。

北海道で堆肥の研究を行なっており、東日本大震災で被害を受けた東北地方の土壌改善を目的とする「東北コットンプロジェクト」のアドバイザーでもある田中教授は、タビオ創業者であり現会長の越智直正さんから、コットンの収穫量減少の原因と解決策を探るための研究を依頼されていました。

「一度途絶えた奈良の地でコットン栽培が復活できることは素晴らしいし、決して不可能なことではない」と考えた田中教授の提案により、今回の無農薬コットンプロジェクトでは、栽培研究を行いながら、収穫した無農薬コットンから商品を作り上げることになりました。

栽培研究では有機肥料の種類、量、マルチの種類により試験区を6区画設け、区別の収穫量を調査することになりました。私たち学生も、実験研究を兼ねた種植えから収穫までの農作業をサポートさせて頂きました!


半年間の無農薬コットン栽培がスタート!




2019年5月19日。奈良県にあるタビオの畑を訪れ、種まきを行いました。

何もない状態から列の幅を測り、鶏糞を混ぜた堆肥をまき、農業用マルチシートを貼って専用の器具で穴を開けます。今回は実験を兼ねた栽培のため、土壌の酵素処理の有無、堆肥の量、マルチシートの色などの条件が異なる6つの試験区を設け、種植えを行いました。



種まきから約3ヶ月後の8月3日。葉が大きく成長し、花も咲き始めていました。しかし、無農薬で栽培しているので、害虫に食べられてしまった芽を種から植え直したため背丈がまだとても低い苗もありました。



この日は実験区ごとに、生育促進効果のある液体の肥料を撒きました。全体の様子を見ると、すでに背丈の違いなどがわかります。

また、葉のクロロフィル(葉緑素)の数値が収穫量に影響があるか調べるため、クロロフィルの量を計測します。肥料の量の多さがクロロフィルの量に比例するため、生育期間に必要な肥料の量を探る目的です。

※クロロフィル(葉緑素):光合成の明反応で光エネルギーを吸収する役割をもつ化学物質。



そしていよいよ収穫日の11月! 種まきからたった半年ですが、立派な白いコットンがなっています。
現在はコットンの収穫には機械が使われていることがほとんどですが、タビオさんでは一つ一つ手で収穫しています。私たちも収穫のお手伝いをしました。


タビオ奈良株式会社の研究開発事業部検査・研究課シニアエキスパートの島田さん

畑の管理をしているタビオ奈良の研究開発事業部検査・研究課シニアエキスパートの島田さんは、「手で収穫するのは時間がかかるけれど、一つ一つ目で見て良いものを選んで収穫できるから、より良い靴下ができるんです」っとおっしゃっていました。



この収穫には、越智会長も参加してくださいました。プロジェクトにご協力くださったタビオのみなさんとお話しする中で、みなさんの靴下へのこだわりやお仕事への真摯な姿勢が感じられました。収穫したコットンのふわふわでなめらかな手触りにも感動!


収穫したコットンを天日干ししている様子

コットンは一度実を収穫しても、同じ茎からその後も実がなるため、ワンシーズンに2〜3度収穫することができます。私が参加した収穫の後も何度か実がなり、2019年度のトータル収穫量は31kgに。さらにそこから種取りを行い、製品に活用できる量としては18kgとなりました。



さて、今回の収穫では、白と黒のマルチシートでは黒のマルチシートの方が0.1kg収穫量が多いという研究結果が出ました。土壌改良材の使用により、収穫量が増加する傾向があるということになります。

田中教授によれば、「畑での実験は最低でも3〜5年栽培と収穫を繰り返す必要がある」のだそう。今後も田中教授の栽培研究は続いていきます。私は今年で卒業になりますが、団体の後輩たちに研究を受け継いでもらいます。数年後どんな研究結果が出るのか、今からとても楽しみです!


靴下の商品プロデュースに挑戦!



アカデミックシアターでのプロデュースミーティング

今回、収穫したコットンを使用したタビオの靴下を、私たち「Kindai SDGs Association」のメンバーでプロデュースすることになりました。私を含め、他メンバーにとっても初めての経験となります。

タビオさんに提案する企画書を制作するため、メンバーでミーティングを重ねました。ターゲット、デザイン、販売時期など、さまざまなトピックで話し合います。

当初は学内販売を予定していたため、ターゲットを学生、就活生、会社員(近畿大学職員の方や、近大に訪問される方)で考えました。学生を対象に行ったアンケートではスニーカー丈の使用率が多いことがわかったため、種類はスニーカー丈ソックスに。

カラーラインナップは、コットンそのものの色を残した無染色と、白色の2種類。素材そのものの柔らかな色合いを楽しんでもらうため、無染色を採用することは、メンバー総意で決まりました。



販売する靴下が決まったら、次はパッケージとマーケティングについて話し合います。日々の買い物で商品のパッケージを見たり、SNSを利用したPRも目にしているけれど、企業側の視点で考えて物事を進めていく機会は今までになく、アイデアを出すのに苦労しました。


タビオ本社でのサンプル打ち合わせ

パッケージを決めるのには、とくに苦労しました。私たちの活動や思いをどのようにしたら伝えられるのか必死で考え、タビオさんに案を出しても、販売するとなると表記ができない表現やワードなどがあり、なかなかみんなで決めた案が通らなかったのです。

例えば、今回収穫した“有機無農薬栽培綿”は質が良く柔らかいため、「肌にも地球にも優しい」というフレーズを使おうという案が出た時には、水分率などの科学的根拠や、シルク混紡が必要になるいう理由でNGに。モノづくりの大変さ、自分たちの企画を販売までこぎつけるということの大変さを、身をもって感じました。


コットンから靴下ができるまで!

いよいよ私たちが企画した靴下が形になります。収穫されたコットンは糸にするため、岐阜県にある紡績工場、株式会社ナイガイテキスタイルさんへ運搬されました。



紡績工場では、作る製品によって糸の太さ細さ、柔らかさなどとても細かな調整が行われています。今回の私たちの糸は、肌触りが柔らかくなるように紡績して頂きました。



糸になったコットンは、兵庫県にある共栄染色株式会社さんで染色されます。今回は無染色の糸と白く染色された糸を使って靴下を作るので、できた糸の半分をこちらの工場で染色してもらいました。



画像左が無染色の糸で、右が白色に染色された糸。コットンそのものの色を残した無染色は柔らかな風合いで、染色された糸はハッキリとした白色が美しく仕上がりました。


編み立て工場での団体メンバー。編み立ての靴下は、一本に連なっているんです!

使用する材料や機械技術によっても、靴下の仕上がりは大きく異なるそう。新しい機械を使用して、靴下の製造の回転率をあげようとすると、編み上げのクオリティが落ちてしまう可能性も。「技術が発展し、機械が新しくなっても、あえて今まで通りの方法で靴下を編み上げているのがタビオの靴下です」と、専務取締役の高垣さんはおっしゃっていました。

というのも、タビオでは生地や糸に負担がかかるのを防ぐため、生地や糸の性質にあわせて機械の調整を細かく行いながら、あえてスピードを落として編み上げているそう。早いスピードでたくさんの靴下を生産するよりも、一つ一つ丁寧に作り上げることにこだわられているんです。


私たちの育てたコットンが靴下となりました!


「近畿大学とつくった無農薬コットン靴下」レディースサイズ1,320円(税込)/メンズサイズ1,430円(税込)

いよいよ、靴下が完成しました! 私たちの畑で収穫した18kgの有機無農薬栽培綿と、タビオさんのコットンを混合した合計200kgの無農薬コットンが靴下となり、300足限定で2月17日より靴下屋なんばパークス店、近畿大学東大阪キャンパス(31号館1階 近大アシスト)、Tabio公式サイト(10:00〜)で販売されます。

実はコットン製品は、原料が全て輸入品でも、日本で製造・販売される場合、made in Japanとして扱われているそう。しかし今回完成した「近畿大学と作った無農薬コットン靴下」は、コットンの栽培、そして靴下製造過程も全て日本で行われた本物のmade in Japan製品なのです!


さらに、今回栽培した有機無農薬栽培綿は、繊維が長く細かく、光沢があることが特徴のコットン。“超長繊維綿”とも呼ばれる最高級の綿花で、肌触りも抜群です。

デザインはシンプルに仕上げたい一方で、私たちの活動内容やこの靴下の物語を伝えたいという思いもあり、裏面には、団体のSNSのQRコードを貼り付け、興味を持ってくださった方が簡単にウェブページに飛べるようにしました。SDGsを意識した商品のため、パッケージには再生紙を使用しています。


パッケージ付けも団体メンバーで行いました。

商品名:近畿大学とつくった無農薬コットン靴下
販売開始:2021年2月17日(水)
販売場所:Tabio公式サイト(10:00販売開始)
靴下屋なんばパークス店、近畿大学東大阪キャンパス(31号館1階 近大アシスト)
お問合せ:Tabioお客様相談室(0120-315-924)



まとめ

コットンの総生産量のうち、無農薬コットンの割合はわずか0.5%だそう。99.5%のコットンは農薬を使用して栽培されており、未だに多くの人が中毒症などの被害を受けています。従来の栽培法から無農薬に変えていくには、労力が必要となる上、収穫量の減少も避けられませんが、環境や人々の健康のためには変革が必要だと感じています。

また、靴下ができあがるまでには、私たちが想像もしなかった多くのプロセスがあることがわかりました。タビオのみなさんや工場の方々、ロゴの使用許可や販売経路、販売の許可などの手続きでお世話になった近畿大学の方々の働く姿を間近に見ることができ、普段私たちが何気なく使っているモノの背景には、多くの知識や技術、懸命な労力があるのだということを痛感しました。

このプロジェクトを通して、私は改めて“知ることの大切さ”を学びました。コットン生産による問題だけでなく、一つの商品の背景にある人々の労力を知ることで、これからの消費の意識も変わっていくはず。みなさんも何気なく手に取ったその商品がどのように生まれたのか、購入の前にぜひ一度考えてみてください。

▶︎Tabio公式サイト

この記事を書いた人

寺浦 成美(てらうら なるみ)

近畿大学 国際学部 国際学科 グローバル専攻 4年
1月11日生まれ。高校1年時にニュージーランドへ1カ月、大学1年時にアメリカのフロリダ州マイアミへ8カ月ほど留学していました。趣味は旅行、カフェ巡り、ショッピング、音楽です。


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    編集:藤間紗花/人間編集部

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