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雑学・コラム

2020.10.26

日本初、ゴミを出さない町!徳島県上勝町の「ゼロ・ウェイストセンター」に行ってきた

Kindai Picks編集部

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学生ライター
コロナウイルス
環境保護

新型コロナウイルスの影響で海外旅行が難しい中、最近では“stay(滞在する)”と“vacation(休暇)”を掛け合わせた“staycation(ステイケーション)”という、国内や近場のホテルを利用する新たな休暇の過ごし方が流行しています。今回私も「GoToトラベルキャンペーン」を利用して、徳島県勝浦郡上勝町にある、ゼロ・ウェイスト生活(ゴミを出さない生活)が体験できる宿泊施設「HOTEL WHY」でステイケーションを楽しんできました。

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みなさん、こんにちは。国際学部4年生の寺浦成美です。

私はこれまで、近畿大学の社会連携推進センターの学生団体「Kindai SDGs Association」でSDGsに関する活動に取り組みながら、海洋汚染対策のボランティアや、レジ袋などのプラスチックごみの実態について調査してきました。そんな中、ゴミを極力出さない「ゼロ・ウェイスト」というライフスタイルがあることを知りました。

さらに、日本には町を上げてこのゼロ・ウェイストに取り組む地域があるということも知りました。それが、徳島県勝浦郡上勝町です。ゴミを出さない生活とは、いったいどのようなものなのでしょうか? 今回、団体メンバーとともに実際に上勝町へ伺ってきました!


日本で初めて「ゼロ・ウェイスト宣言」を行った街、徳島県上勝町



上勝町は、徳島市から車でおよそ1時間ほどのところにある、人口約1,500人(2020年9月時点)の四国一小さな町。上勝町は2003年に、ゴミをどう処理するかではなく、ゴミ自体を出さない社会を目指す「ゼロ・ウェイスト宣言」を日本で初めて行っており、なんと町のリサイクル率80.6%(2019年度)を実現しています。

上勝町ではもともと、穴を掘ってゴミを1か所に集め、その後焼却する“野焼き”が行われていましたが、1999年に法律で野焼きが禁止されると、新たに焼却炉が設立されることになりました。しかし、2000年に「ダイオキシン類対策特別措置法」が施行され、今度はその焼却炉が法令基準を満たしていないことがわかり、ゴミをすべて山口県内へ運搬しなければならなくなったのです。

当時、コンテナ1つ分のゴミを運搬するのには、なんと17万円もの費用がかかったそう。そこで上勝町は、コスト削減のために分別したものを引き取ってくれる業者を探し始め、2001年からゴミの30分別をスタートさせました。その後、アメリカから来日した化学博士ポールコネット氏の進言により、2003年にゼロ・ウェイスト宣言を出すことになったといいます。



上勝町にはゴミ収集車が走っていません。そのため住民の方々はゴミステーションに自らゴミを持って行き、45種類に分別しています。ゴミを処理するのには廃棄費用がかかりますが、正しく分別することによって、ものによっては売却することが可能になるのです。

もともとは「日比ヶ谷ゴミステーション」と呼ばれる場所があり、住民の方々はそこでゴミの分別を行なっていましたが、町の過疎化や少子高齢化が進む中で、「町外の方々にもゼロ・ウェイストについて学び、体験してほしい」という思いから、10年ほど前から専用施設の建設が計画されていたのだそう。そうして実現したのが、「上勝町ゼロ・ウェイストセンターWHY」です。


ゴミを出さないこだわりが随所に散りばめられた「上勝町ゼロ・ウェイストセンターWHY」




「上勝町ゼロ・ウェイストセンターWHY」がオープンしたのは、今年4月のこと。ゴミステーション、宿泊施設のほかに、ワークショップやイベントに使用されるラーニングセンターなどもある、珍しい環境体験型複合施設です。

SDGsやゼロ・ウェイストについて学ぶスタディーツアーも開催されており、大自然の中で癒されながら、エコな暮らし方について学ぶこともできるんです!


交流ホール

建築デザインを担当したのは、数々の受賞歴を持つ「中村拓志&NAP建築設計事務所」。上勝町内の住宅で使用されていた扉や窓、破棄される予定だったレンガやガラスの破片などが再利用されており、細部にまでゼロ・ウェイストのこだわりが隠されています。



今回宿泊した「HOTEL WHY」内にも、さまざまな工夫がありました。たとえば、サービスのコーヒーは個包装されたインスタントのものではなく、挽いた豆をチェックインカウンターで必要な分だけ計り分けしてもらえます。コーヒー用のドリッパーも、ペーパーフィルターの必要がないものでした。また、歯ブラシなどの使い捨てのアメニティは用意されていません。予約の際に、歯ブラシは自前のものを持参するよう、求められます。



さらにトイレには、「トイレットペーパーは使い切るまで交換していません」という注意書きが。たしかに、一般的なホテルだと、宿泊客が変わるたびに新しいトイレットペーパーに取り替えられていますよね。今まで、ただホテルに利用客として訪れていた私には気付けなかったポイントでした。



今回は朝食付きプランでしたが、食事にもゼロ・ウェイストなこだわりが。ベーグルの紙袋以外はすべてくり返し使えるものでした。さらに、ベーグルの紙袋も、廃棄する際に有機物が付着していなければ、再生紙としてリサイクルすることができるんですよ。


住民全員が利用する、WHY内のゴミステーション




WHY内のゴミステーションでは、一つ一つの分別場所に、どのゴミがどこで何にリサイクルされ、いくらで買い取られるのかが細かく記載されています。



たとえば乾電池の場合、廃棄するには1kgあたり119.8円の費用がかかるのに対し、アルミ缶は1kgあたり90円で売却することができます。

このように金額を具体的に提示することで、住民全員で“街づくり”を意識することができているんですね。



実際にゴミステーションを訪れてみると、ゴミ捨て場特有の嫌なにおいが全くしないことに驚きました。その理由は、ゴミステーションに生ゴミがないことにありました。

各家庭に専用のコンポストがあり、住民の方々は家庭で出た生ゴミを堆肥にしているそう。住民の方々は町の支援により、指定の電動コンポストを1万円の自己負担のみで購入することができます。



こちらはWHY内にある「キエーロ」の写真。微生物の働きによって、生ゴミを2〜3週間かけて堆肥に変えてくれるコンポストです。宿泊施設内で出た生ゴミはすべて、ここで堆肥化されています。


宿泊客でも、自分のゴミは自分で分別!




宿泊中に出たゴミは、宿泊客自ら分別するのがHOTEL WHYのルール。上記の画像は宿泊客用のゴミ箱です。フタに品目が詳しく書かれているので、一つ一つ確認しながら分別しました。分別したゴミはチェックアウトの際、スタッフの方に教わりながらゴミステーションへ持って行きます。



部屋のゴミ箱では一つの箱に入れていましたが、ゴミステーションでは、コンタクトのフタ部分と容器も分別して捨てます。容器部分は“プラスチック製容器包装”として分別され、大分県にて製鉄時の還元剤やプラスチック製品にリサイクルされるそう。なお、1kgあたり0.49円の廃棄費用がかかります。自分のゴミの行先が詳細にわかり、どれくらい費用がかかるのかわかるのは、とてもおもしろいなと思いました。



45種類に分別すると聞いたときは「難しそう……」と思いましたが、住民の方々は「やってみると、意外と簡単にできるんだよ」とおっしゃっていました。たしかに、ホテルに滞在して自分でゴミの分別をしてみると、「このゴミはこうリサイクルされるんだ」「これは費用がかかるけど、これは収入になるんだ」とゲームのような感覚で楽しむことができました。


新卒でCEO?! 上勝町でゼロ・ウェイストホテルを運営する大塚さんにインタビュー



chief environmental officer 大塚桃奈さん

HOTEL WHYを運営している株式会社BIG EYE COMPANYで、CEOとして活躍されているのが、1997年生まれ、神奈川県出身の大塚桃奈さんです。大塚さんは今年3月に国際基督教大学を卒業され、4月から上勝町に移住してきたといいます。

※CEO:本来“chief executive officer(最高経営責任者)”という意味の言葉ですが、大塚さんのは“chief environmental officer”、つまり“環境の最高責任者”。

私と同世代の大塚さんは、いったいどのような経緯でこのホテルを運営することになったのでしょう?

ーーどうして上勝町に移住し、ゼロ・ウェイストセンターで働くことになったのですか?

ご縁やタイミングもあり、今に至るのですが……。そもそもゼロ・ウェイストに興味を持ったきっかけは、ファッションデザイナーを目指していた高校生時代にロンドンに留学した際、どこでどうやって服が作られているのかなどを学ぶうちに、身の回りの生活にも目が向くようになったことでした。それから、自分の暮らしからコミュニティーへ、そして地域へと視野が広がって行ったんです。

上勝町に初めて訪れたのは大学1年生の時。ここを設計した建築家の中村さんが母の知り合いであったことから、上勝町でゼロ・ウェイストの取り組みが行われていると知り、興味があったので来てみました。その後は大学3年生の夏休みに、1週間のインターンとして上勝町を訪れました。

そして、3年から4年生にかけての約1年間で、今度はスウェーデンに留学へ行ったんです。留学を通じて、自然環境が身近にあるライフスタイルに加え、ヨーロッパ各国のサーキュラーエコノミー(循環型社会)に触れる機会があり、環境に配慮したビジネスや暮らし、コミュニティのあり方に興味を持つようになりました。

そうした学生時代の経験もあり、「ゼロ・ウェイストセンターで働いてみない?」と声をかけていただいて、卒業後上勝町に移住してきました。



ーーゼロ・ウェイストセンターで働く上で大切にしていることはなんですか?

コミュニケーションですね。ゴミステーションってただゴミを捨てにくる場所ではなくて、住民の方々と情報交換したりできる、町のホットスポットになっていると思うんです。住民の方々とささいなコミニュケーションが取れる場所、そして人でありたいと思っています。

また、チェックインの際宿泊者の方に上勝町やゼロ・ウェイストについてご説明させていただくんですが、「この町は完璧です」というアピールではなく、「環境について向き合うきっかけになってほしい」という想いが伝わるように話すことを大切にしています。

ーー今後、ゼロ・ウェイストセンターで実現したいことや、力を入れたいことはありますか?

ワークショップやイベント、交流会などを行なって、もっと仲間を増やしたいですね。とくに、若い世代の仲間を増やしていきたいと考えています。上勝町が国内で「環境教育が学べる町」として認識され、ゼロ・ウェイストに向けたイノベーションが生まれる土壌を、施設内にあるラーニングセンターやラボラトリーといった場を活かして育んでいきたいです。

ーー最後に、学生へメッセージがあればお願いします!

現在ゼロ・ウェイストセンターでは、インターンを募集しています! “ゴミから学ぶ”をコンセプトに、ゼロ・ウェイストやSDGs、町づくりなどについて、もっとたくさんの人と共有し、仲間を増やしたいです。何か一緒におもしろいことをしたいですね。


まとめ


今回初めて上勝町を訪れ、自然に触れながらゴミと向き合うことで、日々の暮らしについて見つめ直すことができました。

私たちが毎日捨てているゴミは、行政が処理してくれるのが当たり前と思っている人がほとんどで、普段生活する中でゴミを意識している人は少ないと思います。私も、居住地の規則に従って、何も考えずにゴミを出しているだけでした。ですが、焼却や埋め立てによる処理にも限界があります。ゆくゆくは日本全体でゴミを減らす取り組みが必要になるでしょう。

今回のステイケーションを経て、まずは自分の出したゴミと向き合い、日々の生活を見直すことが大切だと感じました。一人の行動が、いつかコミュニティを変え、地域を変えていくはずです。


(おわり)


この記事を書いた人

寺浦 成美(てらうら なるみ)

近畿大学 国際学部 国際学科 グローバル専攻 4年
1月11日生まれ。高校1年時にニュージーランドへ1カ月、大学1年時にアメリカのフロリダ州マイアミへ8カ月ほど留学していました。趣味は旅行、カフェ巡り、ショッピング、音楽です。


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    編集:藤間紗花/人間編集部

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