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雑学・コラム

2023.12.07

詐欺だらけのネット広告、違法じゃないの?実在しないゲームや一瞬で痩せるタイツ…景品表示法改正で規制できるのか

Kindai Picks編集部

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タイツを履くだけで瞬時に痩せる広告、実際のゲーム内容とは全然違うゲーム広告。よく見る詐欺のような広告、違法じゃないの? どうしてなくならないの? 広告と景品表示法に詳しい先生にアウトとセーフの境界線を聞きました。

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どうも、毎年夏には「夏ってこんなに暑かったっけ?」と言い、冬には「冬ってこんなに寒かった?」と必ず発言するライターのニシキドアヤトです。
フリー素材のような写真で失礼します。

突然ですが、みなさんは詐欺広告を見たことはありますか?

突然「詐欺」なんて強くて汚い言葉を太字まで使ってビックリさせてしまいすみません。

今やあらゆるメディアで目にするWeb広告。
ネット文化が根付いた社会に生きる我々にとって、もはやWeb広告を見ない日はないと言っても過言ではないでしょう。

それもその筈、2023年、インターネット広告媒体費は2兆7,908億円※まで増加する見込みと言われております。

インターネット広告媒体費総額の推移(予測)



※出典:CCI/ D2C/電通/電通デジタル/セプテーニ・ホールディングスが共同で2022年の詳細分析と2023年の予測分析を実施した「2022年 日本の広告費 インターネット広告媒体費 詳細分析」より

なんだ2兆7,908億円って。 小学生が適当に考えた強い数字?

Web広告は人目に付きやすいその特徴から話題にもなりやすく、消費者の意表をついた、クリエイターの魂を込めた作品とも言える広告がバズっているのをよく目にします。

そんなWeb広告ですが、残念ながら素晴らしいものばかりではありません。

みなさんはこのような広告をご覧になったことはないでしょうか?


※広告のイメージは編集部で作成したものです

タイツを履くだけで瞬時に足が細くなる広告。いやゴリゴリに画像を加工してるやんけ!! こんな短期間でこれだけ痩せるか!! こんなの詐欺やん!

しかし最近は加工アプリの性能も上がり、これくらいの加工なら中学生でも作れてしまうレベルなので、こんな詐欺のような広告に騙される人は昔に比べて少なくなっているかもしれません。

また、最近はこういった広告も本当によく見るようになりました。


めちゃくちゃ簡単なのに失敗する広告にイラっとして、成功させたくなってしまう罠。

ピンを順番に抜いて知らんおっさんを助けるゲームかと思いきや、インストールしてプレイしてみると、実際には全く別物のガーデニングゲームだったり……


同じゲームの広告でも、犬がハチに襲われたり、人が黒い虫の大群に襲われたりいろんなパターンが……

自在に壁を創造し、知らん犬をハチから守るゲームかと思いきや、中身は剣と魔法が出てくる王道RPGゲームという、寒暖差で完全に風邪を引くレベルの相違はもはや当たり前のような世の中になってきています。

他にも、明らかにポ◯モンを意識したドット絵のホラーテイストなゲーム広告をよく見るんですが、実際にダウンロードしてみると広告のようなドット絵のゲーム画面は存在しないし、そもそもホラーテイストなゲームでもないのです。なんそれ???

※ゲームの一部に広告の要素が少しだけ入っているパターンもあります

実際には存在しない「無」に対してクオリティの高い広告を作るな。

そんな状況を逆手にとってか、「詐欺広告」の「詐欺」の部分を実際にゲーム化する人が現れたり、「このゲームは広告内容と全く同じです!」というもはや意味の分からない宣伝文句が生まれたりなど、ゲームアプリ広告はとんでもなくカオスな状態に……。

そもそも、こういった詐欺広告ってなんらかの法に触れるものだったりしないのでしょうか?「おとり広告」や「優良誤認」なんて言葉も聞いたことはあるけど、正直よく分かってないし……

詳しい人に聞きたすぎる〜〜〜〜!!!!



あまりにも聞きたすぎるので、詳しい方がいる近畿大学にやってきました。

事前に近大の担当者に今回の相談内容を伝え、ピッタリな方をお呼びいただいているとのことです。



それがこのお二人、左の方が広告に詳しい経営学部の川村先生、右のPCに映る碇ゲンドウのような存在感を放つのが、行政法に詳しい法学部の林先生です!(今回はリモートでの参加)

川村 洋次(カワムラ ヨウジ)

経営学部 経営学科 教授
専門:マーケティング情報論、広告論
企業のマーケティング活動について広告や情報技術の観点から研究しています。特に広告映像の分析・効果・制作について力を入れています。大学教員になる前はシンクタンクで勤務していました。
教員情報詳細


林 晃大(ハヤシ アキトモ)

法学部 法律学科 教授
専門:行政法
環境保護を目的とした市民参加制度について研究しています。特に(1)環境情報の公開、(2)行政による環境意思決定への市民参加、(3)環境保護を目的とした行政訴訟の在り方についてです。
教員情報詳細




それって詐欺じゃないの? 虚偽広告・誇大広告の定義とは





川村先生、林先生、本日はお忙しい中ありがとうございます! よろしくお願いいたします!






よろしくお願いします。






リモートでの参加で申し訳ありません。よろしくお願いします。






早速なんですが、詐欺みたいな広告ってどうしてなくならないんでしょうか? 例えば、タイツを履くだけで瞬時に足が細くなる広告とか、信じて買う人なんているんでしょうか?






やはり売れてしまうのでそういった広告がなくならないんじゃないかなと。買う本人は藁にもすがる気持ちなのかと思うと、なんとも可哀想な話ですが……。






実際のゲームと全く違う内容の広告はどうですか?






ピンを抜くゲームの広告は何度か見たことがありますね。ただ、そのゲームの内容が広告と違うというのは知らなかったです。






実際にそのゲームをインストールして遊んでみよう、となるまではそもそも気づけなさそうですよね






そうですね。TVCMと一緒で「こういうゲームがあるんだな」くらいの感覚で捉えていました。






なるほど……。単刀直入にお聞きしたいんですが、こういった明らかに実際のゲーム内容が違っている広告を配信することを、詐欺として立証することはできるんでしょうか?








結果的に言ってしまうと、難しいですね。そもそも「詐欺」とは言えない可能性が高いです。






詐欺みたいな広告がなくならないどころか、なんか永遠に増え続けているところを見ると、うっすらそんな気はしていましたが……。






そもそもの話にはなるのですが、商品の広告・宣伝には多少の誇張・虚構が社会的に許容されているんです。






え! そうなんですか!?






例えば、ハンバーガーの広告写真って実物よりも美しく、大きく見えがちじゃないですか?






たしかに。写真に惹かれて注文したら、実物は「一回誰か座布団にしたんか?」っていうくらいペッチャンコなことがほとんどですね。








肝心なのは材料や味なので、そこが広告通りであれば、見た目がある程度違っていてもそれは虚偽広告・誇大広告にはならないんです。






まぁ、僕ら消費者もそこは「まぁ、こんなもんか」くらいに捉えてますもんね。じゃあ、一体どんなものが虚偽・誇大広告となるんでしょうか?




実際の内容と違うゲームの広告は、優良誤認表示やおとり広告に該当する!?






例えば、広告の写真ではパテが3枚入っているのに、実際にはパテが2枚しか入っていなかった場合や、国産のお肉を使用していると表示しているにも関わらず、外国産のお肉を使用していた……などという場合は「優良誤認」にあたり虚偽・誇大広告となりうるかと。






その「優良誤認」っていうのはよく聞くんですが、正直あまり詳しく理解できておらず……。






「優良誤認」というのは、実際の商品よりも著しく優良であると誤認させる表示のことです。また、実際の商品よりも著しく有利であると誤認させる「有利誤認」があります。








過去の事例でいうと、マクドナルドが2018年に「東京ローストビーフバーガー」という商品を発売した際の広告で、実際には成型肉(肉の寄せ集めを固めたもの)を使っていたにも関わらず、広告ではあたかもブロック肉から切り出したものを使用しているかのような表現を用いていたことを優良誤認として、消費者庁が措置命令および2171万円の課徴金納付命令※を出しています。




※景品表示法の課徴金制度は、不当な表示を防止するために2016年4月に施行(出典:平成28年 消費者庁 表示対策課「景品表示法への課徴金制度導入について」)



なるほど。ちなみに、明らかに画像加工されたダイエット広告の左下にめちゃくちゃ小さく「個人差があります」とか「効果を保証するものではありません」とか背景の色と同色で分かりにくく書いてあるものも多いですが、これを書いてたらセーフみたいなのってあるんですか?










それは「打ち消し表示」と言って、商品の特徴やメリットを説明する際、その内容に例外がある場合に表示される注釈なんですが、もちろん限度がありますね。






打ち消し表示は強調表示、つまりメリットとなる内容の表示と対になるものなので、強調表示と同程度の大きさでなければならなかったり、そもそも視認性の良い配色だったり位置になければならない、といったある程度のルールはあります。






細かい取り決めがあるんですね。でも、そうなってくると詐欺のような広告だけでなく、このルールに抵触しない広告の方が少ない気もしてきたな…。ちなみに明らかに実際の内容とは違うゲームの広告についてはどうなんでしょうか? ピンを抜くゲームだと思ったらガーデニングゲームだったり、犬をハチから守るゲームかと思いきや王道RPGだったり……。






ゲームの広告については、実際のゲームより広告が著しく優良であると証明することが非常に困難なんですね。








なるほど! 全然分かりません!






清々しいですね。その広告を優良誤認とするのならば、その広告内容が実際にダウンロードしたゲーム内容と比べ、非常に優良な内容だということを証明しないといけないんです。






そんなの、広告の内容だけで判断するなんてめちゃくちゃ難しいじゃないですか! 僕は、明らかにポ◯モンを意識したドット絵のホラーゲームっぽい広告を見て「面白そうだな!」と思い実際にダウンロードページまで行ってはじめて実際は全く内容の違うゲームだと知りました。めちゃくちゃ悔しかったです。






悔しい気持ちは分かるのですが、実際のゲームの方が優良だと思う人の方も多いかもしれません。人によって判断基準が違うので、簡単に線引きができないんですよね。






たしかにその基準を設けるのはめちゃくちゃ難しそうですね……。






他にも「おとり広告」に該当する可能性があるかもしれません。おとり広告は、その商品やサービスが実際には購入できないにも関わらず、購入できるかのような表記をしているものなどが該当します。






おぉ! じゃあゲームの詐欺広告はおとり広告となるのでは?!






ただ、こういった広告を打っているゲームアプリというのは基本的に無料のものが多くないですか?






おぉ……たしかに……。






実際にダウンロードをしてもユーザーが料金を負担するわけではないので、おとり広告にあたるかというとそこも微妙なところになってしまうんです。






ちくしょー!! しかも最近は、おまけ要素として広告の内容のゲームをプレイできるものも増えてきているみたいですし、そうなってくると更におとり広告とするのは難しそうですね……。





詐欺広告はなくならない?






詐欺みたいなゲームの広告がなくなるどころか増え続けている理由が分かりました。このまま詐欺みたいな広告はなくならず、純粋なゲーム広告はドンドン減っていってしまうんでしょうか?






そうとも限りません。イギリスの話にはなるのですが、似たようなケースで「実際のゲームと広告の内容があまりにも違う」とユーザーから多数のクレームが寄せられ、広告基準協議会から二度とこの広告を使用しないよう通告が出されたというケースもあります。






でも海外の話ですもんね。






そうですね。ただ、日本でも2024年に不当表示などにまつわる景品表示法が改正される予定なんです。






え、そうなんですか?






改正前の景品表示法における罰則は、不当表示に対する罰則ではなく、措置命令に従わない場合に科すことができるというものでした。また、措置命令は、一般消費者の利益の保護を主たる目的とするものであり、直接的に事業者の責任を問うための制裁にはなっていなかったんです。今後同様の表示を行わないよう、再発防止策を出して、不当表示をしていたことを一般消費者に周知するということを命じられます。






注意されても謝れば許されるってことですか?






そうなんです。直接的な罰則があるわけではないので、不当表示を故意的に行う業者もいました。そこで、事業者の責任を問うための制裁として、故意犯を念頭に、不当表示に対する罰則(罰金100万円以下)が導入されることになりました。改正後は、措置命令をせずとも、刑事罰を科すことができるようになるため、事業者に対する強い抑止力になるのではないかと期待されています。繰り返し違反行為を行う事業者に対する規制も強化されます。




不当景品類及び不当表示防止法の一部を改正する法律案(令和5年5月17日法律第29号)



法改正されたことによって、広告を出す企業が自粛していくような流れになっていけば良いですね。





詐欺広告はどこに通報すれば良い?






イギリスのようなケースがあるのなら、実際に通報していくのもひとつの手なのかもしれませんね。こういった広告はどこに通報すれば良いんでしょうか?






消費者庁のHPにフォームがあるので、基本的にはそちらから通報してもらうのが一番なのかなと。






JAROという広告・表示に関する公益社団法人の自主規制機関というのもあります。






なるほど、そういった機関もあるんですね。具体的にはどんなことをしてくれるんですか?






寄せられた意見をもとに、広告主へ改善を促すような活動もしているようです。






ということはJAROに通報することもできるんですね!






ただ、JAROは行政機関や公共機関ではないので、強制的に広告を中止、改善させるような権限を持っているわけではありません。通報するのであれば、消費者庁へが良いかなと。






JAROはその活動や理念に賛同し、会員となった企業の会費などで運営されているので、参加企業をドンドン増やして力をつけていって欲しいですね。






消費者庁もJAROも、めちゃくちゃがんばってくれー!! 頼むーーー!!! 広告と同じゲームをさせてくれ〜〜〜〜!!!





終わりに




日々、あの手この手でパターンを増やしながら無限に増え続けていく詐欺みたいな広告。

正直なところ、そのバリエーションに富んだ広告内容に「次はどんなハッタリ広告を見せてくれるんだ?」と密かにワクワクしている自分もいて、驚きます。

ポ◯モン風のホラーテイストな広告に関しては、無駄にクオリティも高く、謎にストーリー性もあったりして考察する人も現れるなど、一種のムーブメントを起こしたこともありました。

もはやゲームの詐欺広告というひとつのエンタメすら生まれそうな勢いですが、やはり広告と同じゲームがやりたいですし、それが当たり前の世界が戻ってきて欲しいです。

こういった広告が悪とされ、自然と淘汰されていきますように!
最後にひとこと。

詐欺広告と同じポ◯モン風のホラーテイストゲームマジでやりてぇから責任持って作ってくれ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!

以上です。
ニシキドアヤトでした。

この記事を書いた人



ニシキドアヤト

1991年の2月に生まれた、フリーのWebライター。お風呂に入ると手がシワシワになる不思議な現象に対して、「不思議だなぁ」と思っている。趣味はネット徘徊。
Twitter:@art_0214


撮影:トミモトリエ
イラスト:百瀬ガンジィ
企画・編集:人間編集部

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