2022.07.07
名誉毀損?侮辱罪?LINEスクショの無断転載や暴露行為は「表現の自由」なのか
- Kindai Picks編集部
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近年、芸能人の不倫問題などで、LINEのスクリーンショットが週刊誌やTVで公表されたり、「暴露系YouTuber」とよばれるインフルエンサーの動画が話題になりますが、暴露行為は名誉毀損や犯罪ではないのでしょうか? 隠し撮りの是非や無断転載問題、さらには「名誉毀損」や、今年の7月7日に厳罰化が施行された「侮辱罪」について、刑事法の専門家にお話をうかがいました。
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こんにちは、近畿大学 文芸学部 2年生の王 禕凝(オウ イギョウ)です。
みなさんは、TVや週刊誌、またはネットニュースなどで「暴露」の文字を目にしたことはありませんか?
まだネットが普及していない時代から、芸能人のプライベート写真の流出がたびたび話題になっていましたが、近年では、いわゆる「芸能リポーター」とよばれる人たち以外にも、「暴露系YouTuber」として有名人などのスキャンダルを暴露し、多数の人たちのフォローを集めるインフルエンサーが存在します。
記憶に新しいところでは、元アナウンサーの小林麻耶※さんが、元義弟である市川海老蔵さんのプライベートな問題を暴露したことが話題になったり、元AKB48メンバーの大島麻衣さんが「大島麻衣の裏チャンネル(仮)」と題したYouTubeチャンネルを開設し、「暴露系YouTuber」への転身を噂されたりしました。
※2022年5月21日、「國光真耶」に改名することを発表
さらに最近では、LINEのスクリーンショットや、SNSのメッセージ機能を用いておこなわれたやりとりなど、本来は個人間でのみ取り交わされるものが、「暴露」されて頻繁に世間で取りざたされます。
仮に、写真やスクリーンショットを流出させた人が被害者だったとしても、「暴露」は犯罪や名誉毀損にはあたらないのでしょうか? また、芸能人と一般人の「名誉毀損」のちがいや、昔から横行している週刊誌の「隠し撮り」などは肖像権の侵害に該当しないのか、専門家の先生にお聞きしました。
どんな発言が「名誉毀損」になるの? 法律の専門家に聞いてみた
今回、暴露問題や名誉毀損について詳しく教えてくださるのは、近畿大学法学部 法律学科の辻本 典央教授です。
辻本 典央(つじもと のりお)
法学部 法律学科 教授
旅行会社勤務を経て29歳で立命館大学に入学し、3年生の時に司法試験に合格。卒業後は京都大学大学院法学研究科に進み、刑事法を専攻。2005年に近畿大学法学部専任講師となり、現在は教授。2011年から2012年にかけて、ドイツ・アウクスブルク大学客員教授を務める。専門は刑事法全般(特に刑事訴訟法)。著書は、『刑事訴訟法』、『刑事手続における審判対象』、『刑事弁護の理論』(全て単著)。博士(法学)。
辻本先生、はじめまして。本日はよろしくお願いいたします。さっそくですが、そもそも「名誉毀損」とはどういう行為を指すのでしょうか? 誰かの悪口を言ったり、不名誉な噂を広めることが「名誉毀損」になるんですか?
そういった行為は、刑法の世界では「名誉毀損罪」と「侮辱罪」、どちらかに分類されます。たとえば、私が誰かに「辻本は、過去に他人の論文を盗用したことで、前に在籍していた大学をクビになった」という話を広められたとします。その噂によって私の評価が著しく下がった場合、たとえこの話が事実だとしても「名誉毀損罪」に該当します。一方「侮辱罪」は、具体的な事実を示さない誹謗中傷が該当します。たとえば、私を例にすると「辻本教授はバカだ」といったものですね。
事実だとしても、名誉毀損になるんですか? ということは、不名誉なことを暴露するのは、すべて「名誉毀損」にあたるんでしょうか?
いえ、そういうわけではありません。そもそも、日本では日本国憲法第21条によって「表現の自由」が保障されています。「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」と記されており、国民の誰もが、思想や意見、主張などを外部に発信する権利をもっています。同時に、その情報を受け取る「知る権利」もあります。
他人の秘密を勝手に暴露することも「表現の自由」で許されるんですか?
どんな表現でも認められるわけでありません。「表現の自由」が保障される一方で、「プライバシーの権利」「肖像権」「環境権」があります。いくら憲法で保障されているとはいえ、他人の人権などを不当に侵害する表現活動は、許されていません。ただ、「表現の自由による発言」と「誹謗中傷」「侮辱」に、明確な線引きがないのが現状です。
今はSNSなどで、個人が飲食店のレビューを書いたりもしますよね。
悪質なSNSの投稿や口コミサイトのレビューによって、本来そのお店に訪れるはずだったお客さんが来なくなり、毎日何十万円の損害が出たとします。その場合、お店の人は尊厳だけでなく、自分の財産も傷つけられたことになり、裁判を起こして損害賠償を要求できるケースもあります。
実際に名誉が傷ついたかどうかって、どんな基準になるんでしょうか? なにが名誉なのかという線引きが難しそうですね。
そもそも「”名誉”とはなにか?」については、私たち専門家のあいだでもいろんな考え方があるんです。社会からの評価が「名誉」であるという考え方と、社会や他人は関係ない、個人の「自分は批判されるような人間ではない」という感情が「名誉」にあたると考える場合もあります。名誉毀損により裁判にまで発展するのは、前者の「社会的地位」が傷つけられたケースが多いです。
週刊誌の記事は「プライバシーの侵害」に該当する? 一般人の発言が罰せられる例も
表現の自由と名誉毀損、侮辱の関係はよくわかりました。ただ、暴露などの芸能ニュースは「プライバシーの侵害」に該当しないのでしょうか? よくLINEのスクリーンショットが週刊誌に掲載されていますが、リークした人や出版社は罪に問われないんですか?
スクリーンショット以前の問題で、誰かのスマートフォンなどを覗き見る行為自体が、他人のプライバシーを侵害する不法行為に該当します。すなわち、LINEやメールなどのやり取りがわかる画面をスクリーンショットにして、どこかに売り込むという行為も、プライバシーの侵害や名誉毀損とみなされることは当然あります。
ということは、プライベートな情報を暴露された側が、リークした人を訴えることも可能ということですか?
そうですね。ただし、政治家や国家公務員に関しては、公務に影響のある「事実」であれば、名誉毀損にあたるような内容を公表していいとされているんです。国民は、国政に関与するにあたって、良し悪しを判断するための情報を受け取る必要があります。そのため、報道機関には事実を伝える「報道の自由」があり、それは「公共の福祉」に役立っているのです。芸能人の場合も、職業柄「報道の自由」と「プライバシーの侵害」の線引きが難しいこともあり、事実を報道された場合は文句を言えないところがあるんです。
不倫など悪いことをしたならわかるんですが、誰かと誰かが付き合っているとか、恋愛事情まで報道されるのはかわいそうです。
過去に、裁判で週刊誌に掲載されたスポーツ選手と芸能人のキス写真掲載をめぐる裁判で「プライバシーの侵害である」と判決が出たこともあります(ただし、この事例は高裁で判断が覆され、原告が敗訴しています)。あと、表舞台に立つ職業の方々はトラブルが起こったとき、一刻も早く事態を収束させたいんです。出版社なんかは事態が二転三転するのを待ち望んでいるわけですよね。裁判なんて起こせば、まさに「火に油を注ぐ」ようなものです。だから、あまり表立って訴えを起こすようなことはしないのではないでしょうか。
芸能人と一緒に写っている交際相手や不倫相手が一般人の場合は、顔にモザイクや目線を入れていますよね。 顔にモザイクを入れても、SNSなどを通じて大勢の人が一斉に考察するので、匿名の人物が誰か、いくらでも特定できてしまうと思うんですが……。
匿名にしておくことや、モザイクや目線の加工をほどこすのは最低限の配慮として、慣習化しているのでしょうね。しかし、記事全体を読むと誰のことを指すのかすぐわかるような記事は、名前を出しているのと大差がないわけです。こういった例も、やはり「プライバシーの侵害」として、出版社側は法律上の責任を負わされることもあります。
週刊誌だけでなく、個人のSNSでもそういった発信は多いですよね。有名人の交際相手を特定して情報を流したり、問題を起こして炎上した人の名前や学校名などを調べて、匿名掲示板に載せている人もいますよね。
最近はツイッターなどの普及で、SNS上の発言が裁判で争われる機会も増えてきましたね。あと、ツイッターの場合は「リツイート」機能を使った情報拡散も、裁判事例が出ています。リツイートは他の人が書いた情報を拡散する行為ですが、その情報に賛同して、二次的に同じ情報を発信しているわけなので、法的責任がないとは言い切れないんです。
ツイッターの場合、後から投稿を削除できるので、問題になった後に情報発信者が投稿を削除することもあり得ますが、もし投稿のスクリーンショットを収めておけば、誹謗中傷や侮辱の証拠になるのでしょうか?
もちろん、証拠になります。ネット上の発言を提訴するには、まず発言した人物の身元を特定する必要があります。ツイッターの場合は、ツイッター社に「こういった発言があったので、発言元の情報を開示してほしい」と要請して、身元がわかってからはじめて裁判を起こせるんです。その際に、スクリーンショットは重要な資料になります。
なりすましアカウントは罪にならない?「著作権」「肖像権」「パブリシティ権」の問題
SNS上では著名人の顔写真や名前を勝手に使用し、本人になりすましている「なりすましアカウント」もたびたび問題視されます。創作物とちがい、顔写真などは権利で保護されていないんですか?
著名人であれ一般人であれ、私たちはみんな「肖像権」という権利をもっています。人格権の一部として、自己の肖像(写真、絵画、彫刻など)をみだりに撮影されたり、使用・公表されたりしないために必要な権利です。さらに、俳優さんやタレントさんといった芸能人だと、肖像が商品になりますよね。ご自身の肖像を利用したCMやグッズなどで、利益が出る。そういった方々は、肖像権とは別に「パブリシティ権」という権利でも保護されています。
パブリシティ権が侵害されているのは、具体的にどういったケースでしょう?
たとえば、アイドルが写真集の画像を無断でネットに公表されてしまったら、写真集の売り上げが低下するおそれがありますよね。このような事態を防ぐために、パブリシティ権が存在します。
なるほど。Twitterの「なりすまし行為」は、肖像権やパブリシティ権の侵害に該当しますか?
許される行為ではないのですが、なりすまし行為だけで権利や利益が侵害されるかといえば、難しいところです。ただ、なりすまし行為が本人に対する嫌がらせにまで発展している場合は、法的な責任を問われることもあるかと思います。
元アナウンサーの小林麻耶さんの暴露ブログが世間を騒がせましたが、有料noteの内容をとある週刊誌が報道したことも話題になりました。有料ブログの内容を他媒体に無断掲載するのは「著作権侵害」にならないんですか?
著作権もなかなか取り扱いが難しい法律で、この世の創作物すべてが著作権で保護されているわけではなく、ある程度の創作性が認められないと、著作権で保護される対象にならないんです。
「創作性」というのはどういうことでしょうか?
たとえば、新聞記事は「いつ、どこで、こういう事件が起こり、容疑者は○○という人物だ」というように、淡々と事実だけが綴られていますよね。このような記事には著作権はないのです。エッセイや小説として成り立っている文章は著作権で保護される対象になりますが、「○日に○○さんと会いました」や「○○をして楽しかった」という程度の文章は、購入が必要な有料の媒体だとしても、著作権侵害の対象にはならないのです。
2019年に 、「#KuToo」運動の発起人として話題になったライターの石川優実さんが、自身に届いたツイッター上のリプライを改変して著作物に掲載したことで訴訟を起こされましたが、あの一件でも原告側の控訴は棄却されましたよね。
私たちでも、論文や本を書くときに、他の方の考えや文章を少し引用させていただき、賛成や反対の意見を添えることがあります。このとき注意しないといけないのは、引用する文章の方が自分の書いた文章の程度を上回らないこと(あくまで、自分の文章が主であること)、また、自分オリジナルの主張としないことです。正当な「引用」の範囲が守られていれば、著作権の侵害には該当しません。
「パクツイ」や「リツイート」で訴訟問題になるケースも
ツイートは著作物として認められないということでしょうか? たとえば、誰かのツイートがいわゆる「バズ」※を起こしたとします。そういった、バズったツイートを全文パクツイ※するだけのアカウントは、著作権の侵害には該当しないんですか?
※バズる:SNS上での発言などが、短期間で爆発的に話題になること
※パクツイ:ツイッター上で、他人のツイートを盗作すること
いえ、一概に「該当しない」とはいえません。ツイッター上の短い文章でも、風刺が効いていたり言い回しが巧妙だったりして、バズを引き起こすような文章は創作物と認められ、著作権の対象になる場合もあります。ツイッターには、「これがオリジナルの文章ですよ」と示した上で情報を拡散できる「リツイート」機能があるのに、それを使わないでまったく別のツイートとして同文章をツイートすると、著作権侵害に該当するおそれがあります。
「著作権侵害」の対象もさまざまなんですね。先生のお話を聞いていると、自分も知らず知らずのうちに罪を犯していないか、不安になってきました。
過去に暴露系YouTuberが名誉毀損で逮捕された事例もありますし、昨今はネットやSNSの普及により情報発信が容易になったため、一般人でも加害者側に回ってしまう可能性が十分あります。
先ほど、情報を発信した人だけでなく、二次的に拡散した人も罪に問われる可能性があるというお話がありましたよね。
芸能ニュースやスキャンダラスな話題は、いつの時代も人々の興味を惹きつけます。しかし、マナーやルールを無視してみだりに情報を拡散していいものか、一度立ち止まって考える癖をつけてもらいたいです。
誹謗中傷や侮辱など、誰かがおこなっているからといって便乗するような行為は、絶対に避けたいです。
先ほどお話しした「侮辱罪」ですが、かなり昔にできた法律で、長年法定刑がすごく軽かったんです。しかし、ネット上の中傷行為が過激化している現代にはそぐわないということで、今年の6月に改正刑法が参院本会議で可決され、成立しました。今回の改正で、1年以下の「懲役・禁錮」、または30万円以下の「罰金」が加えられ、厳罰化されたんです。ネットの世界では、個人が何千人、何万人に一斉に攻撃されることもありうるので、時代に合わせて法律も変えていかなければならないのです。
そう考えると、ネットというのは使い方を間違えると恐ろしいツールですよね。
私たち法律の専門家は、どういった発言がどんな犯罪に該当するのか把握しているので、誹謗中傷などにも冷静に対処できます。しかし、法律の知識がない一般の方だと、そうはいきませんよね。それに、ネット上の発言は相手の表情や声色まで窺い知れないので、過激な言葉がより心に刺さります。そういった性質も理解した上で、被害者にも加害者にもならないでSNSなどを楽しく利用できるよう、努めていただきたいです。
自分が加害者になってしまう可能性も念頭において、ネット上での発言には気をつけたいと思います。辻本先生、ありがとうございました!
自分や誰かを傷つけないために。「権利の侵害」について、今一度考えよう
今回の取材を通じて、世の中にはたくさんの権利があり、一般人でも知らず知らずのうちに、その権利を侵害しているおそれがあることを知りました。
いつの時代も、芸能人のプライベートなニュースなど、スキャンダラスな話題が世間を賑わせますが、ネット文化が発達し、誰でも情報の発信が容易になった現代では、つねに「誰かの権利を侵害していないか」を念頭におき、情報を取り扱う必要があります。いつものように、何気なくスマホを使って軽い気持ちで拡散した情報が、誰かを傷つけ、さらには自分が罪に問われる可能性もあるのです。
タップひとつで情報を拡散する前に、今回の記事で取り上げた「名誉毀損」や「肖像権」「著作権」などを思い出し、自分が目にした情報が不適切なものではないか、考え直してみてください。そのわずかな手間が、あなたや、見知らぬ誰かを権利の侵害から救うことになるかもしれません。
この記事を書いた人
王 禕凝(オウ イギョウ)
近畿大学 文芸学部 2年生。
中国出身の留学生。最近は自分の部屋にアレンジにハマっている。今年は金沢と沖縄旅行をしたい。
編集:人間編集部
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