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2020.10.13

フェミニストの主張を「不快」に感じるのはなぜ?SNSの論争からフェミニズムと男女差別の本質を探る

Kindai Picks編集部

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オリジナル記事
学生ライター
フェミニズム
ジェンダー
SNS
奥田祥子

SNSで日々、繰り広げられている「フェミニズム論争」。アメリカ発の「#MeToo」運動が話題となり、女性のハイヒール着用義務付けに抗議した「#KuToo」は2019年の流行語大賞にノミネートされました。ですが、若者の中にはフェミニストを敬遠している人も多いそう。もしかして、何か違う方向に勘違いされているのかも? 今回は、知っているようで知らないフェミニズムについて専門家に聞きました!

こんにちは! 国際学部3年の龍崎真侑です。

みなさん、「フェミニズム」という言葉をご存知でしょうか。

フェミニズムとは、「女性の社会的・政治的・法律的な自己決定権を主張し、性差別からの解放と両性の平等を目指す思想」と定義されています。

最近では、ハリウッド女優がセクハラ被害を訴えたことから世界に広がった「#Metoo」運動や、日本の職場でのハイヒール・パンプス着用義務付けに抗議する「#Kutoo」運動などがSNSで話題になりました。



また、アニメの女性キャラを使った広告ポスターが「不要なパンティラインを強調している」と炎上したり、大手アパレルメーカーのTシャツが「DVや少女売春を助長している」と批判されたり、「女性蔑視」「女性差別」をテーマにジェンダー論争が起きています。

一方で、こういった運動や発言をするフェミニストの主張を「不快」と感じる若者も増えているようです。実際私も、SNSでの過激な発言などを見ていて「ちょっと怖いな」と思うことがあります。

他の大学生はどう感じているのでしょうか?

今回、大学生154人にフェミニズムに関するアンケートを実施。さらにフェミニズムの歴史やSNSとの関係も含めた様々な疑問を、ジェンダー論の専門家に聞いてきました!


男女ではっきりと分かれた「フェミニスト」のイメージ


アンケートでは、フェミニズムの意味を知っているか? フェミニストという言葉に対して抱く印象、自分がフェミニストなのかどうかを調査しました。


フェミニズムに関する意識調査

回答者:大学生154人(男性72人/女性80人/性別未回答2人)

フェミニズムの本来の意味を知っていましたか?

フェミニズムの本来の意味を知っていましたか?。はい79.9%、いいえ20.1%

あなたはフェミニストですか?

あなたはフェミニストですか?。男性、はい16.9%、いいえ47.9%、どちらでもない23.9%、わからない11.3%。女性、はい37.0%、いいえ14.8%、どちらでもない25.9%、わからない22.2%。

フェミニストという言葉に対して抱くのは良いイメージですか?悪いイメージですか?

フェミニストという言葉に対して抱くのは良いイメージですか?悪いイメージですか?。男性、良いイメージ12.7%、どちらかというと良いイメージ19.7%、悪いイメージ11.3%、どちらかというと悪いイメージ32.4%、どちらでもない23.9%。女性、良いイメージ19.8%、どちらかというと良いイメージ34.6%、悪いイメージ1.2%、どちらかというと悪いイメージ13.6%、どちらでもない30.9%。性別未回答:良いイメージ...2人。

「あなたはフェミニストですか?」という質問では、女性の37%が「はい」と答えたのに対し、男性で「はい」と答えた人は16.9%。「いいえ」と答えた男性は47.9%と半数近くいました。私も「フェミニストですか?」と聞かれると、「うーん......」と考えてしまうかも。

また「フェミニスト」という言葉に対して抱くイメージが、女性では「良い」「どちらかというと良い」を合わせると54.4%に。反対に、男性は「悪い」「どちらかというと悪い」と答えた人が合計43.7%で、違いがはっきり分かれる結果となりました。

確かに、私の周りにも「フェミニスト=男性嫌い」や「面倒な話題」として、悪いイメージを持っている人が少なくありません。

ということで、改めてフェミニズムとは何なのか?ネガティブなイメージがついてしまったのはなぜなのか?その真相を確かめるために、ジェンダー論の専門家、近畿大学社会連携推進センターの奥田祥子教授にお話を伺いました。


フェミニズムの本来の意味って?




奥田 祥子(おくだ しょうこ)

近畿大学 社会連携推進センター教授 博士(政策・メディア)

ニューヨーク大学文理大学院修士課程修了、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科博士課程単位取得退学。読売新聞記者を経て、2017年より近畿大学教授。総合社会学部で授業を担当。専門はジェンダー論、労働・福祉政策、メディア論。2000年代初頭、男性の非婚化現象の深層に迫った特集記事「結婚できない男たち」を雑誌に発表し、話題を呼ぶ。現在は「社会的うつ」という新たな概念を独自に構築して研究しているほか、働き方改革や育児・介護問題、非婚化、家族、労働問題の医療化、SDGs、メディア言説と社会変容などをテーマに取り組んでいる。『男はつらいらしい』『男性漂流』『「女性活躍」に翻弄される人びと』『夫婦幻想』『社会的うつーうつ病休職者はなぜ増加しているのか』ほか著書多数。専門社会調査士。



龍崎:奥田先生、本日はよろしくお願いします!

大学生を対象としたアンケートでは、「フェミニスト」という言葉に対して女性は良いイメージを持っている人が多く、男性は悪いイメージが多い結果になりました。
これは、SNS上での議論が関係しているのでしょうか?

奥田:実際には性は多様で、男女で分けられるものではありませんが、まずフェミニズムの歴史を説明するために、男女二元論に基づいてお話ししていきますね。
龍崎さんは「ウーマン・リブ」という言葉を知っていますか?

龍崎:ウーマン・リブ……。知らないです。どういったものでしょうか?

奥田:ウーマン・リブは、現代のフェミニズムの始まりとされる女性解放運動のことです。「第二波」のフェミニズムと呼ばれ、1960年代後半から70年代前半にかけてアメリカから世界に広がりました。「女性の社会的・政治的・経済的・法律的・性的な自己決定権」の獲得を要求、つまり、「権利を男性と同等にして、女性の能力や役割の発展を目指す主張」です。ちなみに「第一波」は19世紀半ばから20世紀前半に起こり、欧米の女性参政権の要求を軸にしていました。

龍崎:フェミニズムには長い歴史があるんですね。

奥田:ウーマン・リブでは"The personal is political”、日本語で「個人的なことは、政治的なことである」というスローガンが掲げられました。


1970年、アメリカの首都ワシントンで男女同権を求めてデモ行進を行う人々。

龍崎:「個人的なことは、政治的なこと」というのは、どういう意味でしょう?

奥田:根底にあるのは、「男女や夫婦関係で個人の抱える悩みや苦しみは、男性社会の中で政治的に押し付けられたものだ」という考え方です。ウーマン・リブは1970年頃から日本にも広がりました。

その後「第三波」のフェミニズムが1980年代終わりから1990年代まで続き、「ダイバーシティ(多様性)」や「インターセクショナリティ」の考え方が強調されました。

※インターセクショナリティ:差別について考える時「人種や宗教、国籍、性的指向、性自認、階級、障害など、ひとりひとりの持つ属性や、それによる差別の構造は多層的で”交差”している」という考え方(参照

龍崎:なるほど……。

奥田:現在のフェミニズムは「第四波」にあたります。

龍崎:今までと何が違うんでしょうか?

奥田:これまでと大きく違う点は、SNSの存在です。SNSによる発信が原因で、より過激な印象を持たれているのが「第四波」の特徴です。


SNSで議論が過激化するのはなぜ?




龍崎:SNSでは、いわゆる「ツイフェミ」と呼ばれる人たちをよく見かけます。

奥田:ツイフェミとは「ツイッターで意見を言うフェミニスト」を略した言葉ですね。SNSで誰もが自分の意見を発信できるようになり、男性差別につながる過激な主張をしたり、意見が異なる相手との対話を拒否したりする人が可視化されるようになりました。感情的に、時に強い怒りを込めて女性差別を訴える人に対し、蔑称として「ツイフェミ」という言葉が使われることも多いですね。

龍崎:先生は、ツイフェミと呼ばれる人たちが過激化しているのはなぜだと思われますか?

奥田:要因の一つに「エコーチェンバー現象」があると思います。これは、「閉じたコミュニティの中で同じ意見の人々とコミュニケーションを繰り返すことによって、自分の意見が増幅・強化されていく現象」のことです。SNSでは特に、同じ考え方や怒りを抱いた人たちが強固なコミュニティを形成する一方で、意見の異なる他者・コミュニティの人たちをブロックし、攻撃の標的にしやすい状態になります。


検索エンジンやSNSのアルゴリズムによって、見たくない情報が遮断され、自分の考え方に近い情報ばかりが集まる現象(フィルターバブル)によって、自分の意見が増幅・強化されていく。

龍崎:確かに、同じような意見の人が集まると偏ったり、怒りが連鎖して悪い方向につながりそうですよね。

奥田:問題は、意見を主張する側もそれに反論する側も、感情をエスカレートさせていき、対話を拒否していることです。そうした過程で、本来の思想や活動とはかけ離れたかたちでフェミニズムが誤用・乱用されている面もあります。ネット上の排他的な議論だけを見ていると、若い人がフェミニズムにネガティブな印象を持つのも仕方ないと思います。


フェミニズムが男女の対立を助長している?




今回のアンケートでは、フェミニストへのイメージが「良い」「悪い」を選んだ理由も書いてもらいました。

「良い(どちらかというと良い)」を選んだ理由


女性アイコン

フェミニズムは「あたりまえの権利」を獲得するための活動だから。(19歳・女性)




女性アイコン

「女性だから」や「男性だから」という理由だけで社会的地位がある程度決まってしまうのは、不平等だと思うから。(20歳・女性)




女性アイコン

「フェミニストである」ということは、普通のことであるから。ジェンダーの平等を願う人にとって、特別な思想ではないと思う。(22歳・女性)




女性アイコン

何かと女性の立場が不利になる状況に理不尽さと怒りを覚えることがあるから。(20歳・女性)




男性アイコン

「女性だから」という理由で正当な評価を受けていない(東京医大の女性受験者一律減点など)のは、許されざる行為だと思うので。(24歳・男性)




「悪い(どちらかというと悪い)」を選んだ理由


女性アイコン

フェミニスト自体に悪い印象はないが、それに対する世間の声や批判があるというイメージがあるから。(21歳・女性)




女性アイコン

フェミニスト思考が強まって男性に対する差別も出てきてるから。(20歳・女性)




男性アイコン

面倒くさいイメージ。男性蔑視をされている気がしてしまうから。(21歳・男性)




男性アイコン

SNSなどで過激な発言をする「フェミニスト」が多くみられるから。(20歳・男性)





男性アイコン

本末転倒していると思っているから。というのは、両性の平等を目指すなら過程に女性目線があっても男性目線も同様に扱い総合的に考えるべきだから。(21歳・男性)



龍崎:アンケートのコメントや、さきほどのSNSでの話を踏まえると、やはり過激な発言により「男性が排除される」と感じる人が多いのかなと思います。ツイフェミ=男性に対して排他的な思想だと思われているのかもしれません。

奥田:若い男性は特に、「女性が優遇されている」と感じている人が多い気がします。学生さん向けのワークショップを開くと、男子学生から「何で女性専用車両だけがあるのか」「レディースデーがあるのに、メンズデーがないのはなぜか」など、疑問の声が上がることも多いんです。

龍崎:女性専用車両は痴漢対策のために導入されたものだと思いますが、「男性差別だ」という声も多いようですね。



奥田:そういう制度ができた背景・理由や、労働分野をはじめ社会の様々なシーンにおける男女格差の現状について、しっかり学ぶ機会がないために、根拠なく「男が悪い」と言われているように思うのではないでしょうか。また、SNS上の一部の人たちによる誤った発信や過激な活動によって、フェミニズムにネガティブなイメージを持ってしまう人も少なくありません。本来、フェミニスト=男性嫌悪(ミサンドリー)ではないのです。

※ミサンドリー:男性嫌悪・男性蔑視。対になる概念として、女性嫌悪・女性蔑視をミソジニーという。

龍崎:私も、SNSでの炎上や論争を見て「怖いな」と思うことがあります。女性差別を主張するツイートに対して「男だってつらいんだ」とコメントをぶつける人もたくさんいて、お互いに対話せず自分の主張だけをしているように見えます。

奥田:私は20年ほど前から「男性の生きづらさ」を取材・調査し、それに関する本も出してきました。SNS上でのそうした男性の主張は、長年「男らしくあらねばならない」という「男らしさ」の性規範に囚われてきた、あるいは性規範を無批判に内在化してきた男性側からの、実は「男らしさ」の呪縛が「つらい」のだという本音の表れだとも言えますね。

龍崎:男性も我慢していたということですね。

奥田:しかし、どちらも感情的になりがちで建設的なやりとりができていないんですね。欧米では浸透している「マスキュリズム」が日本ではまだ普及しておらず、男性が声を上げる場所がほとんどない状態です。日本でも一時期、1990年代に「メンズリブ(男性解放思想・運動)」が起こりましたが、残念ながら大きなムーブメントには至りませんでした。男性も、もちろん生きづらさを訴えるべきですが、フェミニズムに対する批判以外の方法を取る必要があります。

※マスキュリズム:男性に対する性差別を撤廃し、男女平等を目指す思想・運動



龍崎:ネット上では、「フェミニスト vs 男性」の構図になってしまっている気がします。

奥田フェミニズムは本来、男女を分断するものではありません。自身や、同じ意見を持つネット上のコミュニティの人たちに起きた差別にだけ反発して、ほかの人が感じている差別を無視していては、平等な社会からますます遠ざかってしまいます。フェミニズムはすべての人が幸せに生きる権利を求める包摂的な思想・運動であると、私は考えています。


お互いに生きやすい社会を作るために




龍崎:どんな性別の人でも生きやすい社会を作るためには、どうすれば良いのでしょうか?

奥田:まずひとりひとりが、他人を昔からある性規範に当てはめて考えることを避けるべきです。例えば、男性の伝統的な性規範に「弱音を吐かない」「女性を養う」「仕事で出世する」などがありますが、そういったステレオタイプを誰かに押し付けることは苦しみを与えることになります。

龍崎:もし、性別を理由に理不尽なことをされたらどうするべきですか?

奥田自分の中で「この人は性差別をする人なんだ」と一方的に決めつけてしまわず、可能な限り相手とコミュニケーションを取ってみてほしいです。学生の皆さんはこれから社会に出て、例えば女性であれば、年配の上司に「今の女性は優遇されて良いよね」などと言われるかもしれません。

そういった時にSNSで怒りを爆発させるのではなく、「どうしてそう思うんですか?」と聞いてみる。もしかしたら、その人も性規範や性別役割分業に関する規範に、何らかのかたちで傷ついた経験があるのかもしれませんからね。

龍崎:確かに、相手の本当の気持ちや過去の経験までわからないですよね……。

奥田:勇気のいることではありますが、身近に性差別やハラスメントをする人、偏見を持つ人がいたら、冷静かつ客観的、論理的に意見を伝えられるようになってほしいです。相手と話し合うことなく、他者を排除してしまうのではなくて、対話を通して考えられるようになることがとても大切だと思います。

そのためにも、SNSから流れてくる不確かな情報にあおられて怒りを抱かないよう、注意する必要があります。

龍崎:具体的にはどうすれば良いですか?

奥田:例えば「フェミニズム」という言葉についても、誰かがツイッターでつぶやいているイメージだけで判断せず、自分なりに言葉の意味を調べてから、それに対する意見を見るようにしてください。
ネット・ニュースの派手な見出しやツイッターのまとめ記事だけを見て、わかった気にならないことも重要です。新聞記事や論文などにも目を通し、情報の真偽を見極めるリサーチ力・判断力を身につけてほしいですね。これはフェミニズムの問題だけでなく、あらゆるデマ情報に騙されないためにも必要なスキルです。

龍崎:間違った情報を鵜呑みにして怒りをぶつけ合っても、生きづらい世の中になるだけですよね。

奥田:その通りです。たとえ「正義感」からであっても、人を排除して追いつめていくことは決して許されないことです。自分が正しいと思ったことを貫こうとする「正義感」も度を超すと、冷静さや思いやりを失い、相手への「攻撃」につながる危険性があります。今は特に、コロナ禍で差別・排除が表面化していますよね。誰も排除されず、苦しまず、皆が包摂される社会をつくるために、学生の皆さんには不確かな情報に惑わされず、メディア・リテラシーを高めて「知」の力で闘ってもらいたいです。

龍崎:私も頑張ります! 本日はありがとうございました。

今回の取材を通して、フェミニズムとは「人間が人間らしく生きるための、女性視点の一つの考え方」なのだなと思いました。また、SNSでの炎上や感情的な議論だけを見て、イメージで判断することの危うさにも気づかされました。ひとりひとりが過ごしやすい社会を作っていくのは簡単なことではありません。しかし、フェミニズムの長い歴史を振り返ると、確実に前進しています。その歩みを止めないために、私たち若い世代も疑問に感じたことを声に出し、対話していくことが大切だと思いました。


(おわり)


この記事を書いた人

龍崎真侑(りゅうざき まゆ)

近畿大学 国際学部 国際学科 グローバル専攻 3年
大学1年次にアメリカのケンタッキー州へ7か月間留学していました。好きな言語は日本語。趣味は村上春樹の小説を読むことです。


取材・編集:ヒトミ✩クバーナ/トミモトリエ
企画:人間編集部

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