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2019.12.20

男はデートでおごるべき?ジェンダー論から考える、日本の「恋愛格差」と「生きづらさ」

Kindai Picks編集部

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学生ライター
ジェンダー
ジェンダー論
奥田祥子
男女格差
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暗黙の了解となっている「男性が食事代を支払って、女性がおごられる」という構図。誕生日にはプレゼント、その日の食事代、はたまた夜の飲み代も……。これって男性の負担が大きすぎますよね。それだけで女性と付き合うのが嫌になってしまうかも……。なぜ、そんな構図が出来上がったの? お金のことで男性が嫌な気持ちをしないためにはどうしたらいいの? そんな疑問を、女性活躍や男女格差、生涯未婚率の話も含めてジェンダー論の専門家にお聞きしました!



こんにちは。国際学部2年の龍崎真侑です。

突然ですがみなさん、異性に「おごった」あるいは「おごられた」経験はありますか? 私はあります。

ですが、中高6年間女子校で育った私にはいささか疑問が残るのです。
なぜ男性ばかりが女性の食事代を支払うのか?ということ。



女子校時代は特に自分の性別を意識することはありませんでした。

しかし大学に入った途端、「男の子やから」「女の子やから」という理由でみんなご飯をおごったり、おごられたりしとる〜!!!! なんやこれは!! と思ったわけです。

アルバイトをしている人は多いと思いますが、大学生のうちは男女の収入差はほとんどないように思えます。だから女性だって割り勘でも大丈夫と思ってるはず……! もしそれで男性側が嫌な気持ちになっていたら……あわわ! 良い関係も壊れちゃうんじゃないの!?


多くの男性が「お金を多く負担すること」に生きづらさを感じている!?


一般社団法人Lean In Tokyoが、2019年11月19日の「国際男性デー」に先駆けて実施したアンケートによると、最も「生きづらさ」を感じることについて、20・30代男性の回答で、「デートで男性がお金を多く負担したり女性をリードすべきという風潮」が大多数を占めているんです!


男性が職場や学校、家庭で感じる「生きづらさ」
順位20代30代
1位デートで、男性がお金を多く負担したり女性をリードすべきという風潮デートで、男性がお金を多く負担したり女性をリードすべきという風潮
2位男性が弱音を吐いたり、悩みを打ち明けることは恥ずかしいという考え「一家の大黒柱」でいなければならないというプレッシャー/力仕事や危険な仕事は男の仕事という考え
3位力仕事や危険な仕事は男の仕事という考え高収入でなければならないというプレッシャー

参考:Lean In Tokyo『男性が職場や学校、家庭で感じる「生きづらさ」に関する意識調査』

男女の金銭的な問題に関して、今の大学生は実際どう思っているのか?近大生120人にアンケートを取ってみました。


恋人と食事をする時お会計はどちらが支払う?




「恋人と食事をする時お会計はどちらが支払う?」というアンケートでは、大学生ということもあり、男女共に「割り勘する」が半数以上。「自分が支払うことが多い」は、男性が28.3%に対して女性が1.4%。誕生日や記念日など「特別な場合」を含めても、「自分が支払う」の総数は男性が47.9%、女性が12.7%……と、やはり男女差があります。


恋人におごりたいですか?おごられたいですか?




そして、「恋人におごりたいですか?おごられたいですか?」というアンケートでは、「どちらでもない」が、男女共に30%前後。

注目すべきは、「おごられたい」と思っている女性の割合が7.0%と意外と低いこと! そう、女性たちは常におごられたいわけではないのです。しかし、誕生日や記念日など特別な場合は別。42.3%の女性が「特別な場合はおごられたい」と思っているようです。

しかし、男性の回答を見ると、特別な場合でも「おごられたい」と思っている人はとても少ない。この差は一体なんなのでしょうか?


クリスマスプレゼントの予算は?




更に、クリスマス間近ということで、クリスマスプレゼントの予算も調査してみました。

こちらも、男性の方が予算は多い様子。予算1万円以上と答えた割合は男性が53.3%に対して、女性は27.5%です。

20・30代の男性の多くが「デートで男性がお金を多く負担したり女性をリードすべきという風潮」に生きづらさを感じているのに、近大生の調査では男性が食事代を払うことが多く、おごりたいと思っている。そしてプレゼントに使う予算も多いという結果に。

どうして「男性がおごる」が定着して、今現在もその風潮が残っているのか?その真相を確かめるべく、専門家にお話を伺いました。


ジェンダー論から「男性がおごる」文化を読み解く!


奥田祥子(おくだ・しょうこ)
近畿大学 社会連携推進センター 教授。博士(政策・メディア)
ニューヨーク大学文理大学院修士課程修了、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科博士課程単位取得退学。読売新聞記者を経て、2017年より近畿大学教授。総合社会学部で授業を担当。専門はジェンダー論、医療福祉・労働政策、メディア論。2000年代初頭、男性の非婚化現象の深層に迫った特集記事「結婚できない男たち」を雑誌に発表し、話題を呼ぶ。現在は「社会的うつ」という新たな概念を構築して研究しているほか、働き方改革や育児・介護問題、非婚化、家族、医療化、SDGs(国連の「持続可能な開発目標」)などをテーマに取り組んでいる。『夫婦幻想』『「女性活躍」に翻弄される人びと』『男性漂流』ほか著書多数。専門社会調査士。




今回お話を伺ったのは、ジェンダー論の専門家、近畿大学社会連携推進センターの奥田祥子教授です。

龍崎:本日は、よろしくお願いいたします! いきなりですが、奥田先生の研究されているジェンダー論とはどういう学問なのでしょうか?

奥田教授:まず、龍崎さんはジェンダーとはどういうものだと思いますか?

龍崎:難しい質問ですね……。生物学的な性別ではなく、人々が心の中に持っている性のようなものでしょうか?

奥田教授:近いですね。ジェンダーとは簡単にいうと社会的、文化的に形成された性差のこと。性別に基づいて社会的に要求されるルール、つまり性規範と考えてみてください。ですから、例えば「性的マイノリティ」という言い方は、「男性と女性だけに分類した性規範を基準にした“少数派”」で、差別的表現だと思いませんか?

龍崎:なるほど……確かにそうですね。

奥田教授:このあたりはまた別の機会にお話ししましょう。私は、「性規範が時代とともにどう変化し、また変わらないのか、そして人々の生き方や社会構造にどのように影響しているのか」などを読み解く学問であるジェンダー論を専門としています。

龍崎:奥田先生は実際にどのようなことに取り組まれているのでしょうか?

奥田教授:いわゆる男社会で、女性一人ひとりが望む働き方、生き方を歩むために何が障害になっているのかという視点はもちろんのこと、私の研究の新規性としては、女性へのポジティブ・アクション(積極的改善措置)も、いきすぎると男性への“逆差別”にならないか……といった視点を重視していることですね。「女性活躍推進法」に規定された女性の職業生活における活躍だけでなく、家庭や地域生活における活躍も含めた、十人十色の「女性活躍」のあり方についても、長年、インタビュー調査や参与観察などの手法を用いて研究しています。

※女性活躍推進法(女性の職業生活における活躍の推進に関する法律):2015年に公布・施行された、女性が仕事で活躍することを、雇用主が推進することを義務づけた法律。


なぜ、男性がおごり、女性がおごられるという構図に?




龍崎:近大生の男女に実施したアンケートで、男性が食事代を払うことが多く、おごりたいと思っているのに対して、日常的に「おごられたい」と思っている女性の割合は意外と低いんです。

奥田教授:実生活では男女ともに「割り勘」が最も多いのに、願望になると、男性は日常も特別な場合も「おごりたい」に対して、女性は日常的に「おごられたい」とは思っていないけれど、特別な場合は「おごられたい」というのは、面白い結果ですね。

龍崎:そうなんです。願望としては、男性は「おごりたい」、女性は「おごられたい」と思っているのはなぜなんでしょうか?

奥田教授:この現象を一種の性別役割分業のあらわれと捉えてみると、このルーツは、日本の中世、鎌倉時代以降の「家社会」「家父長制」までさかのぼることができると私は考えています。

龍崎:おお……。それはどういったことなんでしょうか?

奥田教授:日本の中世の時代にはすでに、夫は「家」の対外的活動、妻は「家」の中の活動を担う、という構図が出来上がっていました。そして、明治維新以降、「男は外で仕事、女は内で家事・育児」が社会規範として定着します。そこで、性別役割分業が「男性は金銭面で女性の面倒を見る」という考え方へと広がっていったのではないかと私は推察しています。

龍崎:へえ……。そうなんですね。他にも要因はありますか?

奥田教授:他には、これも日本に中世からある「贈答儀礼」、すなわち「贈与の文化」も関係しているかもしれません。

龍崎:贈与って、人に何かあげることですか?

奥田教授:そうです。現代でも、会社でお世話になった人にお中元、お歳暮を贈ったり、親しい人に贈り物をプレゼントしたりしますよね。そもそも中世の「贈与」は功利的……つまりその結果生じる効用、見返りを求めることで成り立っていたのですが、一方で義務感にも基づいていました。あまり思いたくはないかもしれないけれど、今も彼氏彼女に贈り物をすることが義務になっていたり、「プレゼントしたんだからこうしてよ」などと相手に見返りを求めたりすることはありませんか?

龍崎:確かに。喧嘩した時や別れる時に「あんなにしてやったのに……」なんて言い出すケースはよくありますよね。


男性は「男らしくいなければならない」に縛られている?




龍崎:アンケートの結果では、男性のおごりたい人(特別な場合も含む)は63.1%と半分以上でしたが、やはり男性はおごりたいと思っている人が多いのでしょうか?

奥田教授:先ほどお話しした「性規範」ですが、「男はこうあるべき」といった伝統的な「男らしさ」の規範が、大きな影響をもたらしていると思いますね。男性のおごりたい気持ちは、お金を多く払うという行為によって、自分の心に持っている「男はこうでなくてはならない」という規範に従うことになり、また、「社会からどう見られているのか」という他者評価の視点からも一定基準をクリアすることになるからです。

龍崎:なるほど。一方で、女性は「特別な場合だけおごられたい」人が42.3%と一番多かったですが、先生はこれをどう思いますか?

奥田教授:この結果を見て興味深かったのは、願望のほうで日常的に「おごられたい」という女性がかなり少ないということ。これは、男女関係のこの30年余りの歴史をみると、例えば、バブル経済の崩壊以降、不況の波が押し寄せ、その後景気が回復基調にあっても男性の賃金がいまだに伸び悩んでいることや、「男女雇用機会均等法」の浸透による女性の意識の変化なども関係していると思います。

※男女雇用機会均等法(雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律):1985年に制定された、職場における男女の差別を禁止し、雇用における男女の均等な機会及び待遇の確保を目標とする法律

龍崎:昔はもっと男性の「おごりたい」、女性の「おごられたい」の割合が多かったんでしょうか。女性の意識が変わってきている?

奥田教授:バブル時代は「男性が女性の分まで支払う」というのが当たり前のようになっていましたが、今では「男性には、特別な日だけ払ってもらう」という考え方に、女性の意識が歳月を重ねて変化したことは良いことです。女性が受け身ではなく、「自分も相手に何かしてあげたい」と主体的になった気持ちの表れだと思いますから。

龍崎:しかし、男性は「おごりたい」と思っている人が大半で、記念日でも女性に「おごられたい」と思う人はかなり少ないようです。

奥田教授:男性の方が、昔ながらの「男は男らしく」という考え方に縛られているということなのではないでしょうか。世界的にみても日本はまだまだ低い水準ですが、1986年に「男女雇用機会均等法」が施行されてから、日本でも女性の社会進出が進み、徐々に女性が活躍できる社会になってきました。しかし、新たな問題として、男性の収入が意中の女性より少なくなっているケースでは、引け目を感じて、結婚はもとより、女性と交際することさえ躊躇してしまう男性が増えているんです。


奥田教授の著書には、「女性活躍」に男性が翻弄されるなど、男性の生きづらさに焦点を合わせた作品も多い。

龍崎:時代が変わっても、男性の方が「男性は金銭面で女性の面倒を見るべき」ということを気にしてコンプレックスに思っているんですね……。

奥田教授:メディアではほとんど報道されませんが、私が大勢の人たちをインタビュー調査していると、女性が気にしなくても、男性の方が気が引けてしまい、「収入が少ないから恋愛できない・結婚できない」とネガティブ思考に陥ってしまうケースは実はとても多いんですよ。

龍崎:最近、世界の男女格差を測る「ジェンダー・ギャップ指数」で、日本が121位で主要7カ国の最下位だというニュースが話題になりましたが……それにも男性の根深い「こうあるべき」という意識が関わっている気がしてきました。

※世界経済フォーラム(WEF)による、男女格差の大きさを国別に比較した2019年度版グローバル・ジェンダー・ギャップ指数「Global Gender Gap Report 2020」より

奥田教授:男性の生涯未婚率(50歳時点で一度も結婚したことのない未婚者の割合)が年々増加して、この20年で男女差がかなり広がっているんです。今は生涯未婚は男性の約4人に1人、女性の約7人に1人と言われています。SNSなどソーシャルメディアが盛んになっている今、表面的には誰とでもつながっているようにみえて、実は真につながれている人は少ないと、私は考えています。そんな状況のなか、男性はよりプレッシャーを感じ、孤独に陥りやすいのではないでしょうか。

※国勢調査によると「50歳時の未婚割合」は2015年で男性23.4%、女性14.1%(参考:2019年版内閣府「少子化社会対策白書」

龍崎:すごく考えさせられますね……。Lean In Tokyoによるアンケートでも「男性が弱音を吐いたり悩みを打ち明けることは恥ずかしいという考え」に生きづらさを感じるという男性が多かったようです。

奥田教授:夫婦や家族について、「リスク」「危機」などネガティブな言説が飛び交うようになって久しいですが、私は、先ほど「ソーシャルメディア社会」の実情で触れたように、こんな人間関係がますます希薄化した現代社会だからこそ、人との本当のつながりを求めて、貴いパートナーを見つけたいと思う人は後を絶たないのだと分析しています。残念ながら、多くが結婚を望んでいても、結婚できない人が増えているという非婚化問題は深刻です。

龍崎:本当に深刻な問題ですね……。


これからの男女の「良い関係」とは?


龍崎:カップルがお金のことで揉めないために何かできることはありますか?

奥田教授:そうですね、まずカップル間でゆるやかな取り決めをつくることが大切だと思います。たとえば、「今週は私が払うから、来週はあなたが払ってね」「誕生日やクリスマスには、互いにプレゼントを贈り合おうね」のような。当然、日頃からコミュニケーション、特に対面でのコミュニケーションを重視してくださいね。SNSなどで簡単に終わらせてしまわないで。

龍崎:ついついLINEスタンプだけでコミュニケーションした気になっているかも……。

奥田教授:自分が「どうしてあげたいか?」「どうしてほしいか?」という思いを、しっかりと相手に伝えることも忘れずに。人はどうしても相手に求めてしまいがちですが、求め過ぎず、相手の気持ちになって考えてみることはとても重要です。お互いに思いやりの心を持てば、自ずと良い関係はつくれると思います。

龍崎:そうですよね……。自分の願望も伝え、相手を思いやる気持ちを忘れないことが一番ベストな方法ですね。本日はありがとうございました!


女性活躍や男女格差、生涯未婚率など根深い問題ともつながっていた男女の「おごる」「おごられる」関係。時代が変わり女性の社会進出が推奨される世の中になっても、男性の意識の中で「男らしくいなければならない」という固定観念はずっと残っているようです。これからもっと、社会の性的役割が複雑になるかもしれません。ですが、全てのカップルがお互いの希望や意見を言うことによって、よりよい関係を作れるようになればいいな……と思います。


(おわり)


この記事を書いた人





龍崎真侑(りゅうざき まゆ)

近畿大学 国際学部 国際学科 グローバル専攻 2年
大学1年次にアメリカのケンタッキー州へ7か月間留学していました。好きな言語は日本語。趣味は村上春樹の小説を読むことです。


編集:人間編集部

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