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2020.02.14

いい匂いと思う相手とは遺伝子レベルで相性がいい!? 遺伝子工学の専門家に聞いてみた

Kindai Picks編集部

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オリジナル記事
学生ライター
遺伝子
匂い
恋愛

「わ〜、この人いい匂いだなぁ」。恋人や気になるあの人、好きな人の「体臭」そのものに好感を持つことってありませんか? 人の体臭がもつパワーはじつに奥深く、体臭の好みは【相性のいい遺伝子】に深く関係しているかもしれません。人の免疫に関わる「HLA遺伝子」の違いが、本能的な配偶者選択に影響しているのだそう。匂いの好き嫌いってどこからくるの? 匂いの相性だけが全てなの? 遺伝子工学の専門家である宮本先生にお聞きしました。

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好きな人の「匂い」、体臭そのものに好感を持つことってありませんか? わ〜、この人いい匂いだな……。そう思ったらつい、くんくんと嗅いでしまいますよね?

なんと、人の体臭が持つパワーは想像以上にすごくて、いい匂いと感じる異性とは遺伝子レベルで相性がいいらしいんです! そんな噂を聞きつけ、専門家にインタビューをおこないました!



こんにちは! 近畿大学生物理工学部食品安全工学科3回生の葉山みなみです!

上の画像を見て、近大ってこんな所だったっけ? 私が知ってる近大じゃない……と思った皆さん! 大丈夫です!

私が通う近畿大学生物理工学部のキャンパスは、和歌山県にあるんです。自然に囲まれていて、とても落ち着いた空気が流れていますよ。

さてさて、本題に入りましょう!

皆さん、あの人には何だかわからないけど惹かれる……なんて思ったことありませんか? なんと、いい匂いと感じる体臭を持つ異性とは、遺伝子レベルで相性がいいらしいのです! それって本当なのか、またその理由は何なのか……気になる疑問を専門家に聞いてみました!!


いい匂いと感じる異性とは相性がいい?


お話をうかがったのは、進化生物学の専門家である近畿大学生物理工学部遺伝子工学科の宮本裕史先生です!



宮本 裕史(みやもと ひろし)
近畿大学 生物理工学部 遺伝子工学科 教授
生命倫理委員会委員長。1992年大阪大学大学院理学研究科修了。2001年近畿大学生物理工学部講師、2012年より現職。進化生物学・分子生物学を専門としている。海産無脊椎動物の特性、特に、軟体動物や環形動物の高次分類群について、発生機構、形態、遺伝子についての情報からどのような類推が可能か検討している


葉山みなみ

宮本先生、本日はよろしくお願いいたします。





宮本先生

よろしくお願いします。





葉山みなみ

先生、匂いがパートナーとの相性に影響するのは本当なのでしょうか?





宮本先生

ええ! そうなんです。これから、匂い・恋愛・遺伝子の関係についてお話ししますね。まずは、匂いと相手選びについて話題になった研究をご紹介します。





恋愛における遺伝子と匂いの関係





宮本先生

マウスの実験なんですが、以前から、同じケージの中に多種類のマウスを入れておくと、違う系統のマウスでペアになりやすいことがわかっていたんですね。そこで注目されたのが、「MHC遺伝子」という遺伝子です。MHC遺伝子は人の場合、「HLA遺伝子」と呼ばれています。

MHC遺伝子は免疫にかかわる遺伝子なので、多様であるほど感染症などに対して強くなるといったメリットがあります。逆に、近親交配などで多様性が減少すると、感染症に弱くなってしまいます。





葉山みなみ

それじゃあ、できるだけ自分のHLA遺伝子と違うタイプの遺伝子を持つ相手を見つけるほうが、子どもにとっていいわけですね。





宮本先生

そうなんです。でも問題なのは、どうやってMHC遺伝子が違う配偶相手を見分けるのかということ。そこで考えられたのが、マウスは匂いによって、自分と違うMHC遺伝子を持つ相手を選別しているのではないかという説です。

匂いの好みが遺伝子に関係している……この考えを証明するために、人間による実験も実例としてあります。男子大学生にTシャツを1日着てもらい、女子学生にそのTシャツの中から好みの匂いがするものを選んでもらうという内容です。







宮本先生

その結果、好みだと感じるTシャツの匂いが人によって違っており、しかも、女子学生は、自分と違うHLA遺伝子を持つ相手を好む傾向が高いことが示されました。





葉山みなみ

ええ! 本当に匂いでわかるんですか!?





宮本先生

そうですね。人間は視覚が発達しているので、世界を認識することにおいて視覚の重要性が高いのですが、嗅覚も情報源として重要です。嗅覚によって人の選択や行動が左右されます。そもそも、動物が持っているあらゆる感覚は、周囲の環境を敏感にとらえ、生き延びることへのの適応です。そして、次世代に子孫を残すこと。より子孫を残すために嗅覚も進化したと考えられます。

HLA遺伝子など、免疫にかかわる遺伝子が自分と違う配偶相手を選ぶことで、より感染症に強い子どもを持つことが期待できます。そのような選択を実現する手段として、「匂いによる配偶者選択」というものが進化したと考えられますね。

ただ、人のHLA遺伝子の違いが本当に匂いを指標として区別され、パートナーの選択に影響を与えているかどうかは、個々の研究結果によってばらつきが大きいのも事実です。人種によっても違ったりするので、さらなる研究が必要でしょう。




まとめ
マウスを用いた実験で、タイプの違うMHC遺伝子を持つマウスはペアになりやすいことが報告されている。
女性が男性のTシャツの匂いを嗅ぐ実験から、匂いが好みだと感じる男性とはHLA遺伝子のタイプが違うという結果が出た。


体臭の違いはどこからくるのか





葉山みなみ

そもそも、体臭ってなんで人によって違うんですか?





宮本先生

匂いとは、空気中を漂う低分子の物質です。この物質が鼻の粘膜にくっつくことによって、私たちは匂いを感じます。人間の場合、体臭は汗の影響が大きく、汗は汗腺から分泌されます。





葉山みなみ

なるほど、体臭のもとは汗なんですね。





宮本先生

また、汗腺の中でもエクリン腺は全身にありますが、わきの下・耳の裏・陰部など特定の場所にはアポクリン腺があります。このアポクリン腺から分泌される汗は、老廃物や脂肪を多く含み、体臭に大きく影響を与えると言われています。汗に含まれる脂肪やタンパク質は、細菌によって分解され匂いとなりますが、この細菌の繁殖の仕方や汗に含まれる物質によって体臭は変化します。







葉山みなみ

図解するとこんなイメージでしょうか?





宮本先生

そうですね。そんな感じです。体臭が異なる原因は、ほかにもあります。年齢や食生活、ホルモンバランス、生理状態などによっても人の体臭は変化します。たとえば、糖尿病にかかっていたりストレスがたまっていたりすることでも体臭は変わります。




まとめ
体臭の違いは、汗の成分、汗腺の周りの細菌、年齢、ホルモンバランス、生理状態など様々な要因で変化する。
ホルモンバランスや生理状態は、遺伝的な要因から変化することもある。


匂いをどう受け取るかにも遺伝子が関係する?





宮本先生

次に、匂いの好みの違いを生物学的にみていきましょう。





葉山みなみ

それは気になります。私は柑橘系の芳香剤が好きなのですが、私の妹は好きじゃないって言います。匂いの好みってさまざまですよね。





宮本先生

そうですね、匂いの好みが違うことには、大きく分けて3つの理由があります
ひとつ目は、匂いの受け取り手の「生理的な状態の違い」です。女性は、月経周期によって匂いの感度が変わり、特に排卵期に最も匂いに敏感になると言われています。また、アポクリン腺から分泌される匂いは、同性では嫌な臭いと感じることが多いのに対し、異性では心地よく感じる傾向にあるんです





葉山みなみ

性別によっても匂いの受け取り方が違うんですね!





宮本先生

ええ、そうなんです。これに関しておもしろい実験があります。歯医者さんでおこなわれた実験なんですが、男性のわきの下から分泌される「アンドロステノン」という物質を待合室の椅子に振りかけたんです。その結果、男性はアンドロステノンがかけられた椅子を避ける傾向に、女性は好む傾向になったことが報告されています。





葉山みなみ

おもしろいですね! その実験、私も参加してみたいなぁ。では、同性愛者の方は同性の匂いを不快に思ったりしないのでしょうか……?





宮本先生

脳の性と体の性が違う場合は、不快と感じないかもしれません。詳しいことはわかっていませんが、人が発生する際、体と脳がともに変化して男女の違いが出てくる。しかし、脳の形成の段階で体の性とのギャップができてしまうと、匂いの感じ方も体の性とは異なる場合があると考えられます。







宮本先生

次にふたつ目の理由です。それは、遺伝的背景の違い。もともと人間には匂いを感じるためのレセプター(受容体)が400種類ほどあります。これらのレセプターの遺伝子の中には構造が人によって違うものがあり、その場合、同じ匂いに対しての受け取り方が変わってきます。





葉山みなみ

お! ここでも直接的な原因として遺伝子が出てきましたね。ということは、一卵性双生児は匂いの感じ方が同じなのでしょうか?





宮本先生

似ているかもしれませんが、違いが出るかもしれません。ここで3つ目の理由ですが、やはり経験や学習によっても匂いの感じ方は変わります。比較的よくわかっているのは、胎児における匂い環境の研究です。妊娠中にお母さんがにんじんジュースを飲んでいると、子どもはにんじん嫌いにならない可能性が高いという報告があります。つまり、胎児のときの匂い環境が生まれてからの嗜好に影響するというのです。





葉山みなみ

へー! それも匂いに関わることなんですね。




まとめ
主に「生理的な状態」「遺伝的背景」 「経験や学習」の影響を受け、人によって匂いの好みが異なる


おわりに





葉山みなみ

お話ありがとうございました。人は自分と違うタイプのHLA遺伝子を持つ人の匂いに惹かれやすく、また前提として人それぞれ体臭や好みも違うということですね。





宮本先生

ええ、そうなんです。





葉山みなみ

でも……それって、逆に匂いが気に入らない人とは相性が悪いということなんでしょうか?





宮本先生

匂いの好き嫌いはあるとは思いますが、やはり相手との相性ってそれだけで決まるものではないですよね。第一印象に匂いが影響することもあるかと思いますが、人はコミュニケーションを通して深い関係を育んでいくものです。匂いだけで人との相性を判断するのはつまらないし、人生における重要な出会いを失うことになるのではないでしょうか。





葉山みなみ

そうですね。あくまで匂いも相性の一因ということですね。
先生、本日は本当にありがとうございました!





宮本先生

ありがとうございました。





(終わり)


この記事を書いた人



葉山 みなみ

近畿大学 生物理工学部 食品安全工学科
行動力のある方向音痴。趣味は、絵を描くことと読むこと全般。寝過ごして起きたらだいたい終点。初老になったらヨーロッパの海辺で絵を描いて暮らしたいです。


    撮影:ヒラヤマヤスコ(おかん)
    編集:人間編集部

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