こんにちは。ヨッピーです(写真左)。
本日は「
元自衛官で期間工を経て弁護士になった人」や「元ゴールデンレトリバーのブリーダー弁護士」など異色の経歴を持つ、
近畿大学通信教育部出身の弁護士の先生方にお話を聞きました。
近畿大学通信教育部
近畿大学通信教育部は、創設者・世耕弘一の「学びたいものに学ばせたい」という理念に基づき1957年に設立。法学部法律学科(4年制)、短期大学部商経科(2年制)の2学部に加え、2025年4月より建築学部建築学科が新たに開設。
公式サイト
ちなみに会場は近畿大学内にある知る人ぞ知る秘密の寿司店「
THE LOUNGE 近鮨」です。
近鮨は「近大マグロ」でお馴染みの近畿大学の水産研究所が手塩にかけて育てた、新鮮な魚介類が食べられる1日1組限定の寿司店! ある意味では日本トップクラスの予約困難店とも言える名店であります。
乾杯!
いやー、恐縮です!
母子家庭で母親が自己破産、高卒で自衛隊に
ちなみにこちらが工業高校卒→自衛隊→通信教育課程→期間工→弁護士という異色の経歴を辿っている弁護士の大久保先生。早速お話を聞いてみたいと思います!
大久保先生
まず、私は母子家庭で育ってるんで、家はそんなに裕福じゃないんですね。お父さんが借金作って逃げて、お母さんも自己破産して。
高校も偏差値の高い学校じゃなかったから、「大学に行く」という選択肢がそもそも無かったんですよ。親からも「自分のお金は自分で稼いでくれ」って言われてましたから、高校生の時もバイト漬けでしたし。
だから高校を卒業して自衛隊に入ったんですけど、「高卒で自衛隊に入ってもそんなに稼げない」ということに気づくんですよ。
ヨッピー
あー、防衛大を出てないとある程度までしか出世出来ないんですよね。
今はなき護衛艦「はるな」の乗組員として勤務した自衛隊入隊時の大久保先生(写真右上)
大久保先生
そうなんです。それに母親がお金で苦労してるのを間近で見てたので、お金で苦労したくないし、稼げる仕事を探すんですよ。そしたら「どうも弁護士は儲かるらしいぞ」と。よし、じゃあ弁護士になろう、と思って。
大久保先生
世間知らずやったんが逆に良かったんやと思います。弁護士になるのがこんなに難しいとは思ってなかったんで(笑)
それで、大卒だと司法試験の一次試験の免除があるので※大学に行こうと。でも、受験勉強なんてしたことが無いし、学費払うのもしんどいし、通信制の学部やと授業料も安いし昼間は仕事が出来るじゃないですか。それで近大の通信教育法学部に入ったんです。
※一次試験の免除があったのは「旧司法試験制度」(2011年に廃止)
ヨッピー
なるほどなーー。期間工してたっていうのはどのタイミングですか?
大久保先生
休学してた期間も入れると卒業までに9年半かかってるんで、その間ですね。期間工で勉強しながらお金を貯めて、ある程度貯めたお金で生活して勉強に専念して、みたいな。それでなんとか司法試験に受かったという。
ヨッピー
それがすごいんだよなーー。期間工って大変ですよね?
大久保先生
それはもう体力仕事ですからね。夜は疲れ切って勉強が出来ないんで、朝早くに起きるんですよ。
早番で朝5時から仕事の時はその5時間前、つまり夜の12時に起きて5時間勉強して、そのまま仕事して帰るのが15時くらい。そこからお風呂入ってご飯食べても夜の12時まで6時間くらいは寝られるんですよ。それでまた夜の12時に起きて勉強っていう。土日はずっと勉強です。
ヨッピー
とんでもねーな! 他の人たちは夜みんなで飲みに行ったりしますよね? そういうのにも行かなかったんですか?
大久保先生
そういう飲み会があったのかどうかもわからないくらいです(笑)。きっとあったんでしょうけど、まったく行かなかったですね。仕事と勉強の毎日で。
ヨッピー
なんだろう。自衛隊で養われた根性とかが効いてるのかな……。それで、実際に弁護士になったら周りの人とかびっくりしたんじゃないですか。
大久保先生
それは確かにありますね。同窓会に行ったら「えっ! 中学で一番アホなグループやったあの大久保くんが弁護士に!」みたいな(笑)
高校を中退、料理人やゴールデンレトリバーのブリーダーを経て弁護士に
お次はこちらの髙橋先生。髙橋先生も料理人やゴールデンレトリバーのブリーダーなどを経て弁護士になった、異色の経歴の持ち主です。
ヨッピー
先生は高卒どころか高校中退っていう話を聞きましたが。
髙橋先生
そうです。私はそもそも高校すら出ていないので、まずは「
特修生」という通信教育部の入学資格を得るためのコースからスタートしました。そのあと昼間は働きながら通信教育課程で大卒の資格を取って、そこから司法試験を受け続けたという。
「特攻ちゃん」と呼ばれていた、中学生の時代の髙橋先生。
ヨッピー
そもそも、なんで「弁護士になるぞ」って思ったんですか?
髙橋先生
若い時に交通事故を起こしちゃったんですが、その相手方がちょっと怖い人だったんですよ。それで、警察が来る前にわーっと怖い人に囲まれちゃって。そしたら示談交渉の時にこっち側の保険会社の人も怖がってしまって、相手が「おう、こんなもんでええやろ」ってゴリ押ししてくるようなことがあったんですよ。
それで「こんなことが許されて良いのか」「自分が弁護士になってこういう人たちと戦おう」と思ったのがきっかけで司法試験を受けてみたら、一回目で択一試験に通っちゃったんですよ。
髙橋先生
それで「ひょっとして向いてるんじゃ」と思って本格的に弁護士を目指し始めたんですが、合格には苦戦して、自分でも何回受けたかわからないくらい受けました。
ヨッピー
昼間、お仕事をしながら勉強を続けたんですよね? なんの仕事をしてたんですか?
髙橋先生
その間は料理人ですとか、ゴールデンレトリバーのブリーダーとか……。本当に色んな仕事をしました。
ヨッピー
犬のブリーダー!? 弁護士と畑違いすぎる。
髙橋先生
そうなんです。犬を可愛がりすぎてあんまり売れないブリーダーでしたが(笑)
髙橋先生
当時ゴールデンレトリバーが流行ってて、広告を出すとわーっとお客さんが来るんですけど、面接して飼育環境なんかも聞いて、ダメだと思ったら「貴方には売りません」っていう(笑)
ヨッピー
例えば、ゴールデンレトリバーのブリーダーの経験ってどういう時に役に立ちます……?
髙橋先生
ペット絡みの法律のトラブルの相談はよく来ますよ。「ペットの親権争い」みたいな。
髙橋先生
離婚した夫婦が、それまで飼ってたペットをどっちが連れて行くかでトラブルになるんですよ。自分の子どもみたいにペットに愛情を注いでいる人たちはもちろん居るので、連れていかれたほうはたまらないじゃないですか。
ヨッピー
でもあれですよね。ペットって法律的には「モノ」扱いされるんですよね。
髙橋先生
その通りです。ですから連れ去られたとしても子どもの親権争いと違って、子どもの意思を確認するとかそういう話にはならないんですよね。
最終的にはお金でどう決着つけるか、っていう話になってしまうんですけど、自分の子どもみたいに育てていた人にとってはもうお金の問題じゃないんですよ。そういう時にどう寄り添うか、みたいな部分はすごく経験が活きてると思います。
髙橋先生
私は弁護士になるまでにけっこう遠回りをしてきた人間ですが、でもそういう経験が良かったなと思うことは多いですよ。
弁護士の仕事って、ある意味では「通訳」だと思ってるんですよ。依頼者の方の主張を、法律的に正しい言葉に通訳して裁判官に伝える仕事。
でも裁判官って、普通の仕事をしてきた人たちじゃないので、一般社会のことをあんまりわかってなかったりするんですよね。それをどう伝えるか、みたいな部分で今までの経験が役に立ってるなって思います。
通信教育部には「本気」の学生が集まる
こちらは横田先生。いったんは近畿大学文芸学部に入学するも中退。その後サラリーマンを経て通信教育課程に進み、2015年に司法試験合格。
横田先生
私は、高校卒業後近大に進学して通ってたことがあるんですよ。だから通学の良さも通信の良さもどっちもわかるんですけど、通学はサークル活動とか部活もあって友達も出来るし、キラキラして見えますよね(笑)
ヨッピー
通信制だとキャンパスに行かないんですか?
横田先生
オンデマンド授業がメインなので、そもそも通う必要がほとんど無いですからね。「友達を作る」という意味ではやっぱり学校に通ってるほうが出来やすいと思いますよ。ただ、今、私は近大で授業を持って学生に教えてるんですが、通学制の人たちと通信制の人たちで熱量の違いを感じることもあります。本気度が違うと言いますか。
ヨッピー
へー! そうなんだ! なんでなんだろう。
横田先生
そもそも、法学部に通ってる人みんながみんな「俺は弁護士になるぞ!」って思ってるわけじゃない。法学部の学びを活かして別の仕事に就く人も多いです。
良い話の最中に恐縮ですが、めちゃんこ良い笑顔で美味い鮨を食べながらお話を聞いております。全ての取材がこうであってくれ……!
ヨッピー
あーーー、それはそうかも。僕も関学の法学部でしたけど、「弁護士になるぞ!」って言ってるやつは一人も知らない気がする。
横田先生
でも通信のほうは昼間働きながらでも「弁護士になるぞ!」って本気で向き合ってる人が多いのでみんな真面目なんですよ。
ヨッピー
大久保先生みたいに期間工やりながら勉強する人が居るくらいですもんね。
横田先生
そうそう。ロースクールに入るにしても基本的に大卒の資格は必要じゃないですか。でも、昼間普通に働いていらっしゃる人が昼間の大学に通って単位を取るのは不可能ですよ。だからそういう本気の人が通信制に通って勉強するという。
ヨッピー
先生はなんで弁護士になろうと思ったんですか?
農学部の学生と教職員が協力して田植えや収穫を行った酒米「山田錦」を使用した純米酒「近大酒(KINDAISAKE)」
横田先生
実は、それほど強い動機があったわけじゃないんですよ。大学を中退して普通にサラリーマンをしてたんですが、「やっぱり大卒の資格は欲しいな」と思ったんですね。大卒と高卒で給料のテーブルが違ったりするじゃないですか。
横田先生
だから、最初は「とりあえず大卒の資格をとろう」ということで昼間働きながらでも卒業出来る通信制に入ったんですけど、「せっかくだからロースクールも行こう」と思ってそのまま弁護士を目指しました。
通信制に見出す「人生の新しい道」
こちらは三井先生。臨床工学技士から司法書士を経て弁護士に。
三井先生
私は当時、専門学校で臨床工学技士という資格を取って医療機関で働いてたんですが、あんまり私には合わなかったんですね。率直に言えば面白くなかった、という(笑)。
それで司法書士の資格を取ってみたんですけど、バブルが弾けて不動産があんまり動かない時代になってしまったのでこれはあんまり稼げないぞ、と。それで司法試験を受けることにしたんですが、大久保先生のお話にあったように、大卒の資格があれば一次試験の免除を受けられたので大卒の資格を取るために通信制に入ったんです。
ヨッピー
へーー。弁護士って、なんとなく学生時代から法学部でバリバリ勉強してロースクールに入って司法浪人何年もしてやっとなれる、みたいなイメージでした。昼間働きながらってイメージ無かったなー。
三井先生
今で言うリスキリングみたいなことですかね。横田先生のお話にもありましたけど、高卒と大卒で給料のテーブルが違う会社っていうのはたくさんありますから、高卒で入社したけどそのままその会社で働いて大卒の資格を取る人も居ますし。
最近では近大の通信制で建築学部も出来たんですよ。これは昼間現場で働いてらっしゃる方が通信制に通って大卒の資格を取って、それで一級建築士や施工管理技士を目指そうっていう。
ヨッピー
おー、建築士って実務経験が必要ですよね。昼間働きながらその実務経験を積んだら一石二鳥なのか。
三井先生
そうです。例えば高卒で大工さんになって現場でバリバリ働きながら大卒の資格も取って、それで一級建築士になったら現場の細かいことまで理解してる建築士が誕生するわけですから強いですよ(笑)
ヨッピー
とはいえ働きながら勉強するのは大変ですよね……!
というわけで(
マジで)美味しいお鮨を頂きながら皆さんのお話を伺いました!
なんか、僕も大学を卒業してから20年経ちますが、先生方のお話を聞いてると「新しく何か勉強を始めるのもアリだな……!」という気持ちになって参りました。
全ての人たちに学ぶ権利を
今日の主催であり近畿大学通信教育部長を務める世耕石弘さん。
世耕さん
通信教育は、全ての人に勉強する機会を与えるためのものだと思ってるんです。大久保先生のように、お金に苦労した人はそもそも「大学に行く」という選択肢が無かったりするじゃないですか。
育った環境によって、そもそも「勉強する」「大学に行く」という選択肢がはじめから無い人が居るのはおかしいと思うんです。
でも、ITの進歩によって、全国どこに居ても、質の高い教育が受けられるようになったんですよね。この機会を活かさなければと。
ヨッピー
そういう、遠隔授業みたいなシステムを作るのってめっちゃ大変だったんじゃないですか?
世耕さん
そらもう大変でした(笑)。我々が遠方でも授業を受けられるオンデマンド教育に力を入れ始めたのは、11年前からです。地理的な制約で勉強する機会が失われるのはすごく勿体無い話じゃないですか。やはり、誰が、どこにいても勉強する権利はあるべきだと思うんです。
オンデマンド教育の実例。テストもレポートも全て通信、インターネットで完結する仕組み。
世耕さん
おかげさまでコロナ禍でもオンライン授業に移行するのはスムースでした。そしてこの仕組みのおかげで誰が、どこに居ても勉強が出来るようになったんです。
ヨッピー
コロナ前から仕組みが出来ていたんですね。
世耕さん
近大の通信制には若い人からおじいちゃん・おばあちゃんまで居ますし、北は北海道から南は沖縄・台湾まで色んな人が在籍していて、それぞれの人たちが勉強して、そして新しい道にチャレンジしてるんです。そら働きながら大学を卒業するのは大変ですよ。大変ですけど、こんなに素晴らしいことは無いと思うんです。
ヨッピー
なるほどな~~~。さっき三井先生が言ってた「通信制の建築学部に入って、一級建築士を目指そう」みたいなやつ、僕もちょっと興味あるもんな……。大工の仕事やりたいなとか思い始めてるし……。
というわけで、社会人やりながら「弁護士になるぞ!」とか「一級建築士になるぞ!」とお考えの方、通信制の大学に通うことも選択肢に入れてみてはいかがでしょうか!
この記事を書いた人
ヨッピー
大阪出身、東京在住のライター。二児のパパで子どもと銭湯を溺愛しており、週に8回銭湯に行く生活をかれこれ20年続けている。最近、KADOKAWAより「育児ハック」という子育て本を出版した。
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撮影:北川暁
編集:
人間編集舎