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2017.10.05

工業高校を経て弁護士へ!異色の経歴を持つ大坂章仁氏に聞く、弁護士に必要な「センス」とは?

Kindai Picks編集部

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「弁護士」と聞いてあなたはどんな人物を想像するだろう?
子供の頃から秀才で、勉強ばかりしているエリートで、ドライで沈着冷静、といったところだろうか。
今回紹介する大坂章仁氏は、そんな弁護士についてのステレオタイプなイメージをいい意味で裏切ってくれる人物。
工業高校を卒業し、近畿大学法学部を経て弁護士に。意外にも思えるその経歴には、現在の彼を形作るポイントがいくつもあった。

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【プロフィール】
大坂 章仁弁護士(辻田博子法律事務所)
2000年3月 兵庫県立洲本実業高等学校卒業
2004年3月 近畿大学法学部卒業
2008年3月 近畿大学法科大学院修了
2009年9月 司法試験合格
2009年11月 司法修習
2010年12月 兵庫県弁護士会登録
2015年4月 大阪弁護士会へ登録換え。現事務所にて執務開始

弁護士への「王道」からははずれたスタート



――工業高校から弁護士という経歴はかなり珍しいと思いますが、まず、工業高校に行った理由を教えてください。

正直に言うと、中学校のときは勉強が苦手で、成績も悪かったんです。
特に数学が苦手で、そもそも「何が分らないのかすら分からない」という状態。

生まれ育ったのが淡路島の田舎なので、子供の頃から「お受験」にも縁がなく、もちろん塾にも行っていませんでした。
親も「勉強しろ」とは言わない人だったので、部活でバスケをやったり、ゲームに夢中で、中学3年生になっても勉強しないまま遊んでいたんです。

しかし、高校受験の時期になって、周りのみんなは実はこっそり勉強していたことが分かって(笑)。
友だちと同じ学校に行きたくても、進路相談で「君はこの学校無理だよ」と言われるわけです。
なので、結果的に工業高校に行くことになってしまったんです。


工業高校時代の集合写真。

ーー工業高校ではどんな勉強をしていたんですか?

機械科に入学したので、実習の授業が多かったです。
溶接したり、旋盤やったり、ねじを作ったり、定規をあてて製図したり、車のエンジンを分解したり。


旋盤加工の外丸削りについての実習内容が記された工業高校時代のノート。弁護士の仕事とは全く関係ない内容。

授業は結構厳しかったです。作業着の襟が整ってかったり帽子がずれていたりするだけでこっぴどく叱られ、さながら軍隊のようでした。

工業高校は卒業後に進学せずに就職する人が多いのですが、父は夜間高校を出て苦労した人間だったので「大学には行っておけよ」と言われていて。
もの作りは好きだったので、そのまま工学系の学部を受けようかなと思っていました。


ーーそこからどうやって弁護士の道へ?

高校2年生の夏に、新聞広告に出ていた裁判傍聴会に興味本位で応募したんです。
オーバーステイの刑事裁判でした。それをきっかけに「弁護士になろう!」と思い、大学は法学部を目指すことにしました。

もともと弁護士に興味はあったんです。映画やテレビや本なんかに出てくるでしょう。
それまでは単純に「かっこいいな」と思っていたくらいだったんですが、傍聴の後の座談会で、弁護人が関係者のもとを走り回って嘆願書を書いてもらったという苦労話を聞いた時「やりがいがあって面白そう」と思ったんです。単純ですよね(笑)。
この時は司法試験があんなに大変なものだとは思っていませんでしたから…。


大学入学から、司法試験まで

ーーそこからどんなふうに勉強していったのですか?また、近畿大学を選んだのはどんな理由からですか?

勉強の仕方はガラッと変わりました。
そもそも、工業高校の授業では法学部の受験科目が足りないんです。数Cだとか物理Ⅲの代わりに溶接の実習とかをやるので。

なので、先生に相談して、朝8時からマンツーマンの早朝補講をしてもらうことにしました。工業高校でそんなことをしているのは僕1人だけでしたね(笑)。
また、得意な暗記を活かして「政治経済」を一気に得点源にすることにしました。日本史や世界史の何千年に比べれば政治経済は百年くらいの範囲だろうという安直な考えで(笑)。


大学受験のために早朝から補修講義を受けていたという大坂章仁弁護士。

近畿大学は実は第一志望ではなかったのですが、自分が勝負できる科目で受験できる大学を絞り込んでいったときに、最終的に辿り着きました。
そもそも、工業高校から法学部を目指す人がいなかったので、大学入試の情報もあまり入って来なかったんです。
しかしなんとか、最後の最後で、近畿大学法学部合格することができました。


ーー大学では、どんな勉強をしていたんですか?

1〜2年の時は授業とは別に開催されていた司法試験対策講座に参加していました。
でも、自分の悪いクセで、実は同級生と徹夜でゲームをしたりして、大学の時もあまり真面目に勉強していなかったんですよね…。授業も後ろの方でしゃべっていたクチです。

そうこうしているうちに周りが「就活」を始め、僕も焦り始めます。
進路に悩んだ僕は、ゼミの先生の勧めで、新しく出来る法科大学院に進むことにしました。司法試験を受ける権利を得るために必須だったので。
当時は法科大学院入試は激戦で、苦手な数学の問題もある「適性試験」を受けないといけなかったため、大学受験の時のように得意な科目で攻略するということができませんでした。
案の定、大学院受験に失敗。そこからの1年間はホテルの給仕のアルバイトをしながらの浪人生活です。

翌年、無事に法科大学院へ進学できましたが、そこからは人生で一番勉強をしましたね。ただ、進級試験のプレッシャーで体調を崩したり、試験に出られなかったりと、精神的にかなりしんどいこともありました。
同級生は、企業に勤めて独立しているのに、自分は、いつまで学生をやっているんだという劣等感もありました。


ーー司法試験は更に大変だったのではないでしょうか?

司法試験も1回目は落ちてしまいました。
受けた瞬間に「落ちたな」という確信がありましたね。

2回目は初心に戻ってやり直そうと思い、1回目の敗因分析をしたんです。
すると、得意の暗記に頼った勉強方法がダメだったんだと改めて気付きました。

司法試験では、与えられた事案を法律を適用して解決することが求められているんです。暗記した知識を披露する場所じゃない。
勉強が進むと「論点」といわれる条文で解決できない問題点を覚えようとしてしまいます。
でも、本当はまず条文にあてはめて事案を解決してみて、不都合があれば条文の解釈で解決できないかという発想が出てくるはずで、これが「論点」なんです。
条文と事案に正面から、虚心坦懐に向き合うことを意識するようになって、勉強の方法が180度変わりました。
そうすると、あとは進め方です。
合格というゴールから考えて、どんな答案なら評価されるのか、いつまでに何をすべきかというスケジュールを組んで黙々と実行しました。

幸い、近大は卒業しても自習室を使わせてくれたので、毎日来て勉強してました。
学校へ来ると、同じように落ちた人もいれば、現役の子もいて。
司法試験を目指してる人ばかりなので「あ、あの子まだ勉強してる!自分もがんばろう」なんていうふうにモチベーションを保っていましたね。

そして、2度目の挑戦で司法試験に合格することができました。
自分が信じた方向性で受けたので、「ダメだったら向いてない」とキッパリ諦めるつもりでした。

自分の受験番号を見ても合格したとは信じられず、地方紙で名前が掲載されてやっと実感がわいてきました。
嬉しいというより「やっとスタートラインに立てた」という感じでしたね。


弁護士は、知識よりも知恵とセンス



ーー28歳で、晴れて弁護士になられたのですよね。当初「かっこいいな」と思ってた弁護士ですが、実際なってみて、どうですか?

実際は泥臭いですし、地道な仕事ですよ。
分厚いカルテを、1枚1枚読んで、何かきっかけがないかとか、大量の帳簿を見て、そこからなにか見いだせないかと探したりするんです。
直接面談に行ったり、現地に行ってその場の状況を見て、なにか有利になるもの、不利になるものないかなど、体を使って探し出さないといけない。
なのでフットワークは要りますね。

世の中で起こってることって、ほんとかどうかわからないことばっかりじゃないですか。
でも試験問題って「それが実際にありました」って、あったこと前提で書いてあって、それが実際に起きたことなのどうかは問題にならない。

でもそれを確認するのが、我々の仕事です。調べて、本当は何があったのかを追求する。
もちろん、真実まではたどり着けない時もありますけど、何かあるなと思えたりとか、確信となるところで嘘をついてるなと気づいたりとか、証拠を見つけたりとか、そういう飛び石を繋ぐ作業が、弁護士の仕事ですよね。

法律は毎年変わるので、最新情報をアップデートして知識を補充する必要はあります。
でも、日常的には「知識」よりも「知恵」を使う、という感覚です。

壁がずっとあって、何回もその壁にぶち当たっていたら、一段階上がって別のもの見えてくるっていう感じです。
見えてくるかどうかは、まさにセンスだと思います。
でも、そのセンスは特別のものじゃない。「おかしいんじゃない?」「むかつく」「ホッとした」という普通の人なら感じる、疑問や感情が出発点です。それをそのままにせず、ちょっと時間をかけてもう一度視点を変えて読んでみると「あ~!」という発見やヒラメキがあるんです。このときは快感ですね。

どの業界にも言えることかもしれませんが、「素人のように発想して、プロとして判断する」ことが大切だと思って仕事をしています。プロの視点だけだと、「法律ではこうなっています」で終わってしまいかねないですから。



ーーこの先、弁護士としてどんなふうになっていきたいですか?

いま、弁護士業界全体に活気がなくなってきているという意見もありますが、製造業でも、芸術でも、どんな分野にでも法律はあって、弁護士の活動範囲は無限大だと思っています。
仕事のしかた次第で可能性は広がるのだと。

弁護士は学歴は関係なく、それぞれが持っている視点で能力を発揮して活躍できる仕事の最たるものだと思います。
これからは型に捉われず、弁護士らしくない弁護士になりたいですね。

それから、司法試験を目指す近大の後輩とぜひ一緒に仕事がしたいです。

(Text: 池田佳世子)

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