2025.10.09
子宮体がんから脳梗塞へ 稀な「トルーソー症候群」を婦人科の専門医師が解説
- Kindai Picks編集部
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タレントの山瀬まみさんが「子宮体がん」と「脳梗塞」の手術を受けていたことを公表されました。 婦人科のがんと脳の病気。一見関係がなさそうな二つの疾患のあいだには、実は「トルーソー症候群」と呼ばれる仕組みがあるという。 婦人科腫瘍を専門とする近畿大学医学部松村謙臣 先生に、子宮体がんの基礎知識とメカニズムを聞きました。
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松村 謙臣 (まつむら のりおみ)
近畿大学医学部 産科婦人科学教室 主任教授
専門:婦人科腫瘍学
婦人科がん(卵巣がん、子宮頸がん、子宮体がん)の診断と治療。
教員情報詳細
「子宮体がん」とはどんな病気かおしえてください。

松村先生
子宮は、骨盤の中にある臓器で、妊娠中に赤ちゃんを育てる“部屋”の役割を果たします。
「子宮頸部」と「子宮体部」に分かれており、そのうち子宮体部の内側を覆う「子宮内膜」にできる悪性腫瘍が「子宮体がん」です。
つまり、「子宮の内膜にできるがん」と覚えると分かりやすいでしょう。
「子宮頸部」と「子宮体部」に分かれており、そのうち子宮体部の内側を覆う「子宮内膜」にできる悪性腫瘍が「子宮体がん」です。
つまり、「子宮の内膜にできるがん」と覚えると分かりやすいでしょう。
どんな人がかかりやすいのでしょうか?

松村先生
発症のピークは閉経後です。40代で発症する人もいますが、50代以降が最も多いですね。
若年発症の場合は比較的予後が良いタイプが多いのに対し、60代以降で発症する子宮体がんは進行が早いケースも見られます。
また、妊娠や出産の経験がない方、肥満や糖尿病のある方はリスクが高まります。 日本では肥満が軽度でも発症する人が増えており、少子化も背景の一つと考えられています。
若年発症の場合は比較的予後が良いタイプが多いのに対し、60代以降で発症する子宮体がんは進行が早いケースも見られます。
また、妊娠や出産の経験がない方、肥満や糖尿病のある方はリスクが高まります。 日本では肥満が軽度でも発症する人が増えており、少子化も背景の一つと考えられています。
「子宮体がん」は増えていると聞きますが、本当ですか?

松村先生
はい。過去30年ほどで約6倍に増加しています。
食生活の変化や晩婚化・少子化などが関係している可能性があります。
一方で、早期に見つかれば治療による改善が見込めるがんでもあります。
一方で、早期に見つかれば治療による改善が見込めるがんでもあります。

「トルーソー症候群」とはどのような状態ですか?

松村先生
トルーソー症候群とは、がんが原因で血液が固まりやすくなり、血栓ができやすい状態のことを指します。
がん細胞が「ティッシュファクター」という物質を出して、血液の凝固を促進するためです。
この血栓が脳の血管をふさぐと、脳梗塞を引き起こすことがあります。
ただし、婦人科のがんでは卵巣がんで起こることが時々ある程度で、子宮体がんに合併するのは非常に珍しいです。医療現場でも日常的に遭遇することはほとんどありません。
ただし、婦人科のがんでは卵巣がんで起こることが時々ある程度で、子宮体がんに合併するのは非常に珍しいです。医療現場でも日常的に遭遇することはほとんどありません。
手術中に脳梗塞が起きることもあるのでしょうか?

松村先生
まれにあります。
麻酔からなかなか覚めない、意識が戻らないといった経過から、画像検査で脳梗塞が判明することも。
ただ、これは極めて稀なケースです。 担当医にとっても想定外の事態だった可能性があります。
ただ、これは極めて稀なケースです。 担当医にとっても想定外の事態だった可能性があります。
トルーソー症候群が起きた場合、予後は悪いのでしょうか?

松村先生
一概には言えません。
「トルーソー症候群=予後不良」とされることもありますが、これはがんが進行して治療できない場合のデータを含むことが多いです。
がんを手術で完全に取り除けた場合は、血栓症の再発は少なく、経過は良好なことが多いです。 脳梗塞の重症度や範囲にもよりますが、治療がうまくいけば社会復帰できる例もあります。
がんを手術で完全に取り除けた場合は、血栓症の再発は少なく、経過は良好なことが多いです。 脳梗塞の重症度や範囲にもよりますが、治療がうまくいけば社会復帰できる例もあります。
予防や早期発見のためにできることは?

松村先生
最も大切なのは異常に早く気づくことです。
子宮体がんの主なサインは不正出血。
特に閉経後の出血は、必ず婦人科を受診してください。 また、体重管理や糖尿病のコントロールもリスク軽減につながります。
特に閉経後の出血は、必ず婦人科を受診してください。 また、体重管理や糖尿病のコントロールもリスク軽減につながります。
チェックポイント
- ・閉経後の出血がある
- ・生理以外の出血が増えた
- ・生理周期や量が急に変わった
→ このような症状があれば早めに受診を。
今回のケースから学べることは?

松村先生
著名人の公表は、こうした稀な合併症や病気の理解を広めるきっかけになります。
トルーソー症候群は決して一般的ではありませんが、がん治療の過程で起こり得ることを知っておくことが、患者さんや家族の安心につながります。
そして、早期発見・適切な治療ができれば、決して悲観すべきものではありません。
そして、早期発見・適切な治療ができれば、決して悲観すべきものではありません。