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雑学・コラム

2019.11.12

「汚い」って何だ!? お金・スマホ・トイレ…身のまわりの菌を採取して免疫学の先生に聞いてみた

Kindai Picks編集部

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オリジナル記事
キャッシュレス
医学部
免疫学

世の中に少なからずいる、「誰でも触ることができる公共のもの」が好きじゃない人。私たちの生活に欠かせないお金も、不特定多数が触っているからキャッシュレスのほうがいい! なんて意見も聞こえてきます。でも、本当にお金って汚いんでしょうか? 公共のものを触るのが苦手なライターが、お金やスマホ、そのほか「汚なそう」と思われる世間のいろんなものに生息している細菌たちを採取し、近畿大学病院が培養。医学部免疫学教室の教授・宮澤先生に「汚い」とはなんなのか、お金とキャッシュレスならどちらがおすすめなのか聞いてみました。

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こんにちは、フリーライターの吉川ばんびです。

みなさんには「あまり触りたくないもの」がありますか?

私にはめちゃくちゃあります。

電車のつり革、エスカレーターの手すり、個室トイレのドアノブ(内側)……。挙げればキリがないのですが、昔から「誰でも触ることができる公共のもの」が苦手で、外に出るときは、できる限りそうしたものに触らないようにしてきました。生きづらい。

そして、「現金を触ること」に対しても苦手意識があります。

それは、「お金は何十年もの間いろんな人が触っているから相当汚い」という話を昔聞いたことがあるから。でも、最近は一気にキャッシュレスが普及してきて、自分のスマートフォンで支払いができるのでずいぶん心情的にラクになりました。現金を触らずに済む生活、本当にラク……!



ちなみに近畿大学は、キャッシュレス決済にめちゃくちゃ力を入れている大学なのだそう。日本ではじめて学生証にVISAプリペイドを導入し、近畿大学東大阪キャンパスの新食堂は注文方式のほとんどがキャッシュレス対応。そのほか、LINEPay、メルペイといったスマホ決済にもいち早く対応しています。

超学食革命!健康管理とキャッシュレスに特化した次世代型「近大新食堂」徹底紹介

きっと私のように、「現金を触りたくないからキャッシュレスがいい」という学生さんも喜んでいるのでは!?

ただ、気にしない人たちからは、「いやいや、お金だけじゃなくてスマホやパソコンだって汚いでしょ!」っていわれるんですよね。う~ん、確かに。個人で使っているものだって汚いといえば汚いのかも。

もしかすると、じつは「お金や公共のものだけが特別に汚い」わけではないんじゃないか……?

そう思うようにもなってきました。このモヤモヤした気持ちを解消するには、実際に調べてみるのが一番。そこで、いろんなものに付着した菌を採取して近畿大学病院で培養し、「これは汚いのか?綺麗なのか?」を専門の先生に分析してもらうことにしました。 

結果によっては、「誰でも触ることができるもの」への苦手意識を克服できるかもしれない……!


お金・スマホ・公衆トイレ……汚そうなものを探す


そんなわけで、身近にある「なんとなく汚そうなもの」を調べていきます。



近畿大学病院から提供してもらった「採取キット」を使って、ポンポンとスタンプのように対象物に軽く付けることで菌を採取。

まずここで、そもそも「汚いとはなにか?」という問いが頭をよぎります。今回は油汚れやホコリなど目に見えるわかりやすい汚れではなく、「不特定多数の人が使っていて」「不衛生なように思える」「ヤバイ菌がいそう」なものや場所を対象としました。



まずは、肝心な「お金」の菌を採取!
お金といっても、発行年が昭和〜令和まであるので、なるべく古いものを探します。



そして集まった精鋭たち。500円玉以外はすべて昭和40年代〜50年のもの。
※50円玉は100円玉と材質が同じなので割愛

これは良い結果(?)が期待できそうです。



ちなみに紙幣は硬貨と違って素材に大差なさそうなので、千円札のみを調べます。


一度も拭いたことのないおかん(編集者)のスマホ

そして、次はスマートフォン。



ばんび

スマホって何日かに1回は除菌ウエットティッシュで拭いてますよね?





おかん

え!? 拭いたことないよ!?





ばんび

え!? 指紋だらけになるじゃないですか……!?




ということで、私の「何日かに1回除菌しているスマホ」と、そこまで気にしていない編集者・おかんの「一度も除菌されたことのないスマホ」の画面からそれぞれ採取。拭くだろ、スマホ……。

そして、知人のデザイナーのキーボードを拝借して採取。

アルコール除菌はせず週5でみっちり使っているそうなので、これはきっと汚い(確信)。



こんな感じで菌をサクサク採取していきます。楽しい。



床も! きっと汚いに違いない!



私が苦手な「公園のトイレ」も調べます……。結構な汚れ具合だったのでモザイク加工。



さらに「汚いものはねえが〜〜〜〜〜」と公園を歩いていると、突然目の前に恰幅のいい猫ちゃんが。かわいい。



人馴れしているのか強めにすり寄ってきてくれたので、ついでに採取させてもらいました。



このリラックスしきった表情から察するに、危機感はないようです。

室内や街を探し回り、30ヶ所の菌を採取しました。なかでも期待値の高いものは以下の20パターン。

採取したもの

1. 1円玉(昭和41年)
2. 5円玉(昭和50年)
3. 10円玉(昭和46年)
4. 100円玉(昭和43年)
5. 500円玉(平成16年)
6. 千円札
7. ばんびのスマホ(何日かに一度アルコールで除菌)
8. おかん(編集者)のスマホ(除菌したことナシ)
9. AさんのPCキーボード
10. BさんのPCマウス
11. 編集部の床
12. 編集部の共用サンダル
13. 台所のシンク
14. 台所のスポンジ
15. おかん(編集者)の携帯歯ブラシ
16. エレベーターの1階ボタン
17. 公衆トイレの洋式便座
18. 公衆トイレの流すボタン(プッシュ式)
19. 野良猫
20. おかんのひじの裏(アトピー持ち)

編集者がアトピーで肌が弱いそうなのですが、「アトピーの肌は健康な人の肌に比べて黄色ブドウ球菌が多いらしいから調べて」といわれました。ちゃっかり自分の健康状態を調べてもらう気だ……!

採取した菌は、4日間ほどかけて近畿大学病院内の検査室で培養してもらいました。


いよいよ培養完了!結果やいかに




「培養が完了した」との一報を受け、近畿大学病院にやってきました。
案内されたのは「細菌検査室」。



今回、培養を担当してくださった中央臨床検査部・技術主任の戸田さんにお話をお聞きしました。


ばんび

菌を育ててくださってありがとうございます〜。





戸田さん

いえいえ。このあと先生から話を聞かれると思いますが、いろいろとおもしろい結果が出ましたよ。





ばんび

えっ、本当ですか!?





戸田さん

すごかったです、野良猫のやつとか、生きものに付いてる菌なのでしょうがないんですけど、培養したらもう、ほんとに臭くて…………嗅いでみます?





ばんび

ええ……いや絶対嗅ぎたくないですけど……嗅ぎます。まあそこまで言うほど臭いわけg




本能が警告音を鳴らす臭い!


ばんび

クサッ!!!!!!????





戸田さん

でしょう。





ばんび

疑ってすみません、なんか獣のすごい……本能的に危機感を覚える香りがしました…





戸田さん

ほかにもおもしろいのはあるんですけど、宮澤先生に検査結果を送っているので詳しく聞いてみてください。




専門家に調査結果を解説してもらう




宮澤 正顯(みやざわ まさあき)
近畿大学医学部免疫学教室 教授
1982年東北大学医学部を卒業。東北大学助手、アメリカ合衆国国立保健研究所(NIH)客員共同研究員、三重大学医学部助教授(生体防御医学講座)を経て、1996年より近畿大学医学部教授。
現在、近畿大学遺伝子組換え実験安全主任者、バイオセーフティー委員長、大学院医学研究科長、医学部共同研究施設長などを兼務。死体解剖資格(厚生労働省)を持つ、元・病理医で、厚生労働科学研究費エイズ対策研究事業の研究代表者などを歴任し、2002年にはノバルティス・リウマチ医学賞を受賞している。

今回お話をうかがうのは、近畿大学医学部免疫学教室の教授である宮澤正顯先生。
インタビューには編集者のおかんも同行しました。


ばんび

宮澤先生、よろしくお願いします





宮澤先生

よろしくお願いします。まず大前提としてお伝えしておく必要があるのですが、今回の調査方法で見つけることができるのは細菌やカビの一部だけで、ウイルスは検出できませんし、多くの細菌は培養方法も知られていないものなのです。





ばんび

そうなんですか?





宮澤先生

私たちの身のまわりや顔、体、手の表面、口や腸の中、また空気中にはあらゆる種類の微生物がおびただしい数存在しているのですが、この採取方法で見つけることができるのは、そのうち寒天培地で培養できる細菌のみです。なので、本当はほかにもいろんな種類の、ものすごい数の微生物がいるんだけれど、その一部だけを培養して見ることができている、と考えてください。





ばんび

ものすごい数の菌……。





宮澤先生

あっ、よく「菌」といわれますけれど、本当は「菌」というのは細菌やカビ(専門家は 「真菌」と呼びます)の仲間だけですね。ウイルスは「菌」ではありません。うんと簡単にいうと、細菌やカビ、つまり菌の仲間は栄養を与えて温めれば自分で増えるけれど、ウイルスは増えない。生きた細胞の中に入り込まないと増殖できないのがウイルスです。今回見ているのは菌だけで、しかもどんな栄養素が必要で、どのくらいの温度が良いというような増やし方の条件がわかっているものだけです。この世は菌だらけで、今回使った方法では見つけられない菌もいっぱいなんですよ~。じゃあ、さっそく調査結果を詳しく見ていきましょうか。




1.お金






あれ……お金ですが、けっこう菌が付いていませんか?





宮澤先生

ええ、そうですね。たとえば、1円玉や100円玉からは「黄色ブドウ球菌」が取れました。黄色ブドウ球菌は人間の皮膚に棲んでいる細菌です。けっこう病原性が強くて、少し抵抗力の弱った人だと皮膚にウミがたまったり、真っ赤に腫れたりする病気を起こすことがあるんですよ。健康な人でもニキビが真っ赤に腫れあがる原因になることがあります。






ええー!?





宮澤先生

でも、これらは自然界に普通にいる菌なので大丈夫ですよ。硬貨から採取できたものは、自然界のいろんなところに生息しているので、危険性が高いとは一概にいえません。






え、そうなんですか?





宮澤先生

そもそもわざわざ寒天培地で培養しているので、こういった検出結果が出てもおかしくありません。






なるほど……。不特定多数の人が触っているから菌が多いわけではないんですよね?





宮澤先生

ええ。年代もさまざまですが、たとえば古いお金だから特別菌が多い、というわけではないんです。ちなみに、偶然ですが今回は、紙幣からはこの寒天培地で培養できる細菌は取れませんでした。




2.スマホ






2人のスマホの菌の数が全然違う!!





おかん

私のスマホめっちゃ汚い……!?





宮澤先生

これね、おもしろいんですよ。おかんさんのスマホからは「セレウス菌」という、いわゆる「食中毒菌」が採れました。





おかん

食中毒菌!?





宮澤先生

ですが、セレウス菌は地面や川の水など自然界のどこにでもいる菌です。これもわざと寒天培地で培養して増やしてあるので、セレウス菌が出てきても問題ありません。しかし、この菌は4℃から50℃くらいの広い温度範囲で増殖して、数時間のうちに毒素を作るので、たとえば作り置きの料理や2日目のカレーなどにはセレウス菌がたくさんいますし、毒素が含まれている可能性が高いです。





おかん

それ、加熱したら死にますよね……?





宮澤先生

死にませんね(即答)。セレウス菌は固い殻をもつ芽胞というものを作って、それは煮沸にも耐えるんです。しかも、その芽胞から4℃でも50℃でも増える。増えると吐き気を起こす毒素を作りますが、その毒素は100℃以上でも壊れないのです。冷蔵庫で冷やそうにも、どのみち作りたてから冷めていく過程で菌が増殖するので、僕は作り置きはオススメしません。よく煮込み料理などは「ちょっと寝かせたほうがおいしい」といいますけど、細菌の増殖速度は速いので、室温で寝かせるのは食中毒のリスクがとても高いんですよ。





ばんび

あーーーーー、だから手洗いうがいをして、少しでも菌の侵入を防ぐことが食中毒の予防につながるんですね。





宮澤先生

そうそう。あと、おかんさんはよく料理をしていますか?





おかん

あ、料理ライターなのでそれはもう日常的に。





宮澤先生

ああ、それでかな。「アシネトバクター・レディオレジステンス」という、たとえば魚粉とかに含まれるちょっとめずらしい菌が育ったんですけど、普段魚粉を使ったりしてます?





おかん

!! 出汁を取るのに使ってます……!! すごい、生活パターンが丸わかり。





宮澤先生

ね、おもしろいでしょ。個人の持ち物の細菌を調べると、その人がどんな生活をしてるかがわかることもあって楽しいんですよ。





ばんび

私のスマホからあまり菌が採れなかったのは、たまたま、今回の調査キットで確認できない菌が付いていたからでしょうか?





宮澤先生

そうですね。別の調査方法だと確認できたかもしれません。あと、アルコール消毒は結構有効ですよ。





ばんび

持ち物に付いている細菌の種類は、人によって全然違うんですね。アルコール消毒はこれからも続けます。




3.知人のデザイナーのキーボード


キーボードには、なんと5つもの菌が!


宮澤先生

キーボードはねぇ、すごかったんですよ。





ばんび

どうすごかったんですか……?





宮澤先生

キーボードには指先の皮脂が付いているので、栄養や水分が豊富で微生物が増えやすい環境なんですが……それにしてもいろいろな細菌が付いてました。





ばんび

いろいろな細菌。





宮澤先生

興味深かったのは、病原性のないブドウ球菌で、しかもとくに脇の下に多く棲んでいる種類の菌が採取できたことですね。モラクセラという、口や性器の粘膜に棲んでいる菌も出ています。多分この人、脇の下とか体のあちこち掻きながら仕事してるんじゃないかな。





ばんび

またしても生活パターンが明らかに……。






宮澤先生

特徴的なのが「口腔常在菌」。歯垢に棲んでいる菌です。多分この人、口の中を触ったあとにキーボードに触ってますね。





ばんび

何気ない行動が全部バレていくの怖い……。




4.野良猫





ばんび

猫ちゃんはどうでしたか? 広範囲に菌が育ってるみたいなんですが……。





宮澤先生

野良猫ちゃんなので当たり前なんですけど、菌はたくさん付いていますね。さきほど紹介した「セレウス菌」という食中毒菌と、「パエニバシラス」という細菌の仲間が多かったです。パエニバシラスも、土壌とか動物のエサとか、どこにでもいるような菌ですが。





ばんび

じゃあ、もし猫ちゃんを触ったら、しっかり手洗いうがいをしないと食中毒の原因になることもあるんですよね。





宮澤先生

まあ、セレウス菌はもともとどこにでもあるんですが、野良猫ちゃんにはとくにたっぷりという可能性はありそうですね。





ばんび

もしこの猫ちゃんを舐めたりしたら、お腹痛くなりますかね?





宮澤先生

食中毒を起こすには菌の数が数万個以上に増えることが必要なので、猫ちゃんを舐めたからすぐさま食中毒の症状を出すことはないと思いますけれど、ある程度の菌数が口に入ることになるので、舐めるのはやめた方が良いですよ。私はイヌを飼っていた時も、触ったあとは必ず手洗いをしていました。




5.携帯用歯ブラシ





おかん

ぎゃー!ワシの携帯用歯ブラシの形にびっしりと菌が育っているー!!





宮澤先生

これが意外なんですよねぇ。先ほど出てきた、人間の皮膚にいる「黄色ブドウ球菌」が歯ブラシから出るのはめずらしいです。アトピー体質ということだったので、それも関係しているかもしれませんね。





おかん

うう……結構ショック……ちなみに、キッスはしても大丈夫ですか?





宮澤先生

キッスする相手も最初から持ってる菌だから大丈夫です。口の中にいるのがめずらしいだけで。





おかん

よかった、キッスできる……。





ばんび

大事ですよね、キッス。





おかん

それにしても世の中にはいろんな細菌がたくさんいるんですね。でもばんびちゃんはスマホを頻繁にアルコール消毒しているということなので、世の中とばんびちゃんのスマホを比較したら、後者は「キレイ」ということになるんでしょうか。





宮澤先生

アルコール消毒しても、次に触った瞬間に、ばんびさんの皮膚の表面に棲んでいる微生物がすぐくっつくんですけどね。なんといっても、お金にとどまらずこの世の中は菌だらけですから。菌の有無をもって「汚いか」を判断するなら、結局「私たちはまんべんなく汚い」ってことなんですよ。




先生の思う「汚い」の基準は?





ばんび

結果から、「私たちはまんべんなく汚い」ことがわかったのですが、先生が普段「なるべくこれは触らないようにしている」ものはありますか……?





宮澤先生

うーん、強いていうなら、ですが、電車のつり革や手すりなど不特定多数の人が触るものですね。





ばんび

私もそれはあまり触りたくないんです。ベタベタしているし汚そうだから……という気持ちの問題が強いんですが。先生が触らない理由は何ですか?





宮澤先生

やはり多くの人が触れるものは、たとえばノロウイルスやインフルエンザウイルスなど、感染力の強いウイルスや細菌が付着している可能性が高くなります。かといって過度に避ける必要はありませんが、家に帰ったら必ず手洗いうがいは徹底しておいたほうがいいでしょうね。






ばんび

あーー確かにそうですね、私も病気のリスクが怖くて。先生にとって「汚い」とは何だと思いますか?





宮澤先生

「汚い」といえば、私たちも含めてこの世のあらゆるものは微生物だらけで汚いんですよね。大事なのは、我々の持っている「抵抗力」と、微生物の持つ「攻撃力」のバランスを考えることなんです。





ばんび

「抵抗力」と「攻撃力」……。





宮澤先生

たとえば、指先を切っちゃったりしたとき、痛いですよね? あれは、我々の皮膚に棲んでいる常在菌が傷口から中に入ることで、体がそれに反応して痛くなるんです。血の中の白血球が傷口に集まって、なんとかそこで菌の侵入を止めようと反応しているんですね。





ばんび

あ、あれは常在菌の仕業だったんですね。






宮澤先生

そうそう。手術のときに、体毛を剃ったりするでしょう。あれは、毛にたくさん細菌が付いているからなんです。手術後に、赤く膿んだり腫れたりせずに傷口が綺麗に閉じるのは、常在菌をできる限りしっかり取り除いているからなんです。





ばんび

確かに、注射も必ず消毒してから刺しますね……!





宮澤先生

ね。我々の体にもしも抵抗力がなければ、体はあっという間に腐っちゃうんです。痛いし、腫れるのは、戦う仕組みがある証拠。だから、菌にまみれて暮らしていても、めったなことでは害を受けないんです。





ばんび

物質そのものが「汚い」かどうかより、「持っている抵抗力よりも強い菌をいかに体に入れないか」を考えなければならない、ということですよね。






宮澤先生

そうそう。でもね、気にしすぎもよくないんですよ。過剰に手を洗ったり、アルコールで指先を拭きすぎたりしていると、共存している微生物が減って、その隙を狙って病原性の強い微生物が棲みつくようになることがあります。「菌交代現象」というんですけどね。





ばんび

えええ、そうなんですか……!





宮澤先生

知り合いにね、歯医者さんで手術をしたあとに、過剰に抗生物質を飲み続けた結果、口の中の常在菌が減ってカビが生えちゃった人がいました。あと、マウスウォッシュを必要以上にやりすぎて、口の中がカビだらけになって舌が黒くなった人もいます。





ばんび

怖ーーー!気を付けないと。





宮澤先生

まぁでも、何事もやりすぎず手洗いうがいさえやっていれば、日常生活で特別気にしすぎることはありませんよ。




「なるほど……」


ばんび

実は「もしかしてお金ってかなり汚いのでは?」と思って今回調べてみたんですが……硬貨に付いている菌が特別恐ろしいわけではなさそうで、少し安心しました。





宮澤先生

おお、それは良かったです。





ばんび

先生はちなみに、現金とキャッシュレスだとどちら派ですか?





宮澤先生

圧倒的にキャッシュレス、クレジットカードですね。





ばんび

それは、現金が「不特定多数の人が触るもの」だからですか?






宮澤先生

ポイントが貯まるからです。





ばんび

あ、衛生的な話ではないんですね。





宮澤先生

違います。便利だし、明細も一元管理できるし、クレジットカードも現金もスマホもどれも汚いので……。





ばんび

確かに、今回の調査結果を見れば納得です……便利ですよね、キャッシュレス。





宮澤先生

うんうん、ポイントも貯まるからね。




やっぱり自分のスマホでキャッシュレスがいいかも!?




とにかく「汚そうなもの」が苦手だった私ですが、今回の調査を経て、「とんでもなく汚いものは身のまわりには意外となかった!」と知ることができました。ちょっと安心。

ただし、菌だらけの世の中とはいえ、不特定多数の人が触れるものには感染症などを引き起こす強い菌がいることも。

ちなみに、先生は感染症の予防のために懐かしの「紙石鹸」を普段から持ち歩いているそうです。外出先で、たまにハンドソープが置いていないトイレもありますもんね……。

また、空気中の菌がもっとも多いのは、圧倒的に満員電車なのだとか。帰宅時だけでなく、通勤・通学で会社や学校に着いたあとは、必ず手洗いうがいをして感染症を予防したいですね。

「お金や公共のものは汚いのか?」という疑問からスタートした今回の取材。心情的にはラクになりましたが、不特定多数の人が触るものに完全に抵抗がなくなったわけではなく……引き続き、私はキャッシュレスの恩恵に頼っていこうと思いました。自分のスマホならこまめにアルコール消毒できるし。

これから寒くなってインフルエンザやノロウイルスなどが猛威をふるう時期に入るので、自衛はしっかりしていこうと思いますー!


全培養結果
No.採取場所Photo主な発育細菌
11円 昭和41年Staphylococcus aureus
Lysinbacillus sphaericus
Staphylococcus warneri
25円 昭和50年Staphylococcus epidermidis
Staphylococcus haemolyticus
Micrococcus leteus
Bacillus sp.
310円 昭和46年Bacillus sp.
4100円 昭和43年Staphylococcus aureus
Staphylococcus hominis
Staphylococcus epidermidis
Bacillus sp.
Lysinibacillus sphaericus
5500円 平成16年Roseomonas mucosa
Staphylococcus epidermidis
6千円札
7ばんびスマホ
8おかんスマホAcinetobacter radioresistens
Staphylococcus cohnii ssp urealyticus
Staphylococcus epidermdis
Bacillus cereus group
9AさんPCキーボードStaphylococcus hominis
Moraxella sp
Staphylococcus aureus
Kocuria rhizophila
Streptococcus parasunguinis
10BさんPCマウスStaphylococcus epidermidis
Bacillus sp.
Acinetobacter baumannii complex
11編集部の床Staphylococcus capitis
Micrococcus luteus
Staphylococcus cohnii ssp urealyticus
Moraxella sp
Corynebacterium afermentans
12編集部の共用サンダルStaphylococcus cohnii ssp urealyticus
Klebsiella pneumoniae
13台所のシンクEnterobacter sp.
14台所のスポンジEnterobacter sp.
15おかんの携帯用歯ブラシStaphylococcus aureus
16エレベーター1階ボタンAcinetobacter radioresistens
Staphylococcus pasteuri
Micrococcus luteus
17公衆トイレ 洋式便座Staphylococcus epidermidis
Staphylococcus hominis
Bacillus megaterium
18公衆トイレ 流すボタンBacillus megaterium
Staphylococcus hominis
Micrococcus luteus
19野良ネコPaenibacillus alvei
Bacillus cereus group
20おかんのひじの裏(アトピー持ち)Staphylococcus aureus
Bacillus sp.


(終わり)


ライタープロフィール
吉川ばんび
フリーライター。持ち前のフットワークの軽さであちこち飛び回っています。人が苦手なものの、猫や動物には異常な執着心を見せる。

@bambi_yoshikawa


企画・構成:人間編集部

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