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2023.03.30

ゲレンデマジックって実際にありえるの?非日常が恋愛にもたらす心理的影響を専門家に聞いてみた

Kindai Picks編集部

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オリジナル記事
学生ライター
上野将敬
恋愛

スキー場というシチュエーションで、普段以上に異性が魅力的に見え、さらには加速度的に恋愛関係へと発展する……俗に「ゲレンデマジック」と呼ばれるこの現象。非日常的な白銀の世界は、人が親密になる過程にどのような影響を与えるのでしょうか。そのメカニズムについて、スキー場でリゾートバイトをしている学生が、比較行動学の専門家に話を聞きました。

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こんにちは、総合社会学部3年生の西陽菜です。今、私はスキー場にリゾートバイトに来ているのですが……なんと周りは従業員カップルだらけ! 休みの日に一緒に出かけたり、滑ったり……まぶしい! すてき! うらやましい!

でもね、毎冬リゾバをしている私は知っているのです。スキー場でのアツい恋は、雪と同時に溶けてしまいがちな事実を……。一目惚れして3ヶ月かけて猛アタックして付き合った友達も、短期間でいい感じになった友達も、私が間を取り持って付き合った2人も……。あんなに毎日、2人で出かけて滑ってラブラブしていたのに、山を降りればみんな別れています。

そして、彼らはこう言い放ちます。「山を降りたらそんなにかっこよくなかったわ!」「全部雪のせいや!」。



そう、これが俗に言うゲレンデマジック……いつもならなんとも思わない異性が、なぜ雪の上では魅力的に見え、一瞬にして恋が燃え上がり、最終的にはひと冬限りの関係に終わってしまうのでしょうか?


そもそもゲレンデマジックとは?




まずは国語辞典で「ゲレンデマジック」がどのように定義されているかを調べてみました。

ゲレンデマジック
ゲレンデで、スキーウェア姿の異性を実際より魅力的に感じること。またそのように、日常とは異なる状況・服装の異性を、普段より魅力的に感じること。

出典:『デジタル大辞泉』(小学館)

客観的な定義ですが、確かにアルバイト先の同僚から聞く体験談と合致します。ちなみにそれは以下のようなもの。

「スノボを教えてくれる姿がかっこよかった」
「キャーキャー言いながら転げる姿がかわいく見えた」
「リフトで隣になって急接近した」

これらに加えて、スキーウェアやヘルメットで外見が見えづらくなり、顔をまじまじと眺める機会が少ないことも、恋愛の展開を加速させたという声も周囲でよく聞きます。



さらに婚活支援サービスを展開するパートナーエージェントが、東京2020オリンピックを機に行った20〜69歳の男女2300人を対象にした調査(2019年)の結果を見てみましょう。「ゲレンデマジック(現象)はあると思いますか?」という質問に対して、「あると思う」「どちらかと言えばあると思う」と答えた人の割合は、なんと全体の50.6%。幅広い年代から認知され、その効果についても一定の評価を得ていることが分かります。

こうした周囲の声や一般的な認識、さらには雪による光の反射がもたらす美白効果など、ゲレンデマジックへのイメージをもとに、こんな仮説を立ててみました。

①雪による光の反射で顔がきれいに見える
②顔が隠れているから理想の顔をイメージする
③守ってあげたくなる
④非日常感がある
⑤寒いので人肌が恋しくなる

果たしてこれらは、科学的に説明がつくものなのか? 総合社会学部で霊長類を題材に比較行動学を研究する上野将敬先生へのインタビューを通して、ゲレンデマジックのメカニズムをひも解いていきたいと思います!


非日常的な環境が恋愛に与える影響とは


上野 将敬(うえの・まさたか)

近畿大学 総合社会学部 総合社会学科 心理系専攻 講師
専門:比較行動学・発達心理学・比較心理学・霊長類学

ヒトを含む霊長類の心理について研究。野猿公苑のニホンザル1頭1頭を識別し、その社会性や社会的認知能力を解き明かしている。「霊長類の社会性と他者認知に関する研究」で、大阪大学賞 若手教員部門(令和元年度)を受賞。
教員情報詳細



西陽菜

今回はゲレンデマジックのメカニズムについて、お話を聞ければと思っています。よろしくお願いします!





上野先生

よろしくお願いします。





西陽菜

さっそくお聞きしたいんですけど、ゲレンデというシチュエーションは、恋愛にどのような影響をおよぼすのでしょうか?






上野先生

ゲレンデのような非日常的な状況での恋愛、あるいは配偶は近親交配を避ける行動といえるかもしれません。生物学的にいって、動物の交配は遺伝的に離れている相手の方が望ましい場合がある。そのような相手を選択すると、免疫に関するいろんな遺伝子を手に入れることができるんです。普段とは異なる環境にいると、おのずとその可能性は高まりますよね。





西陽菜

つまり、どんなメリットがあるのでしょうか?





上野先生

免疫力が高まって生き残りに有利になり、より子孫を残しやすくなります。僕が研究しているお猿さんでも、いつもは別の群れにいる個体同士が交配するのはよくある話です。遺伝的に離れた相手を選好するという。同じ理屈で、旅先では日常生活で出会えない人を好きになりやすい傾向があります。ゲレンデだけじゃなく、海水浴なんかでも似た話はありうるかと。





西陽菜

なるほど、本能的な行動なんですね! あと、スキー場に限らずリゾート地ってテンションが上がりやすい部分もあると思うんですけど、そのあたりの影響はどうですか?





上野先生

感情の浮き沈みによって、いつもとは判断軸がずれることがあります。気分が高揚していると、大胆な判断をしがちで、慎重な行動が難しくなる。気分がいいとギャンブルで無謀な賭けをしやすいとかもそうですね。リスク判断が大ざっぱになってしまうんです。これは心理学的な観点からもありうる現象です。





西陽菜

お酒で気分がよくなって、判断が鈍るとかと同じなんですね。





上野先生

はい。俗っぽくいうと「ワンナイト」もそうで、気分が高揚して理性的な思考力が鈍るとそういうことも起こりやすくなる可能性があります。同窓会マジックなんかも似通った事象かもしれないですね。






西陽菜

周囲を見ていると、そういう手順を踏んで生まれた恋はあまり長続きしない印象があります。これにも理由があるんですか?





上野先生

僕が研究している分野だと、オスとメスの配偶関係は2種類に分けられます。まずは長期配偶。結婚に結びつくような長期的な配偶のことで、オスとメスが一緒に子を育てるような関係を指します。一方の短期配偶は文字通り期間の短い配偶で、短いスパンで子をつくって終了する関係です。





西陽菜

う〜ん、ということはゲレンデマジックは短期配偶になりがちということ……?





上野先生

そう言い切るのは難しいですが、結婚という行為が物語るように、長期配偶は他の哺乳類にはあまり見られない、ヒトに特徴的な関係性です。長い間一緒に生活できるかや、子育てに協力的かなどに重きを置いてパートナーを選ぶわけですが、ゲレンデではスキーがうまくて教えてくれるとか、いつもは見られない魅力的な一面が発揮される。そういう目先の一時的な情報に魅力を感じて、関係継続に重要な部分を見落とすことはありうると思います。





西陽菜

山を降りて「かっこよくなかった!」「あんまりだな」となるのは、長期配偶を前提とした判断ができていないからなんですね。私自身もリゾバ友達と街中で会った時「おまえ街中で会ったらそんなにやな」と言われたことがあります(笑)





上野先生

そうですね。僕が中学生の時も、いわゆるヤンキーっぽい同級生が体育祭で活躍して、その後しばらくはモテるようなことがありました。あまり長続きはしなかったんですが、個性が輝く環境では一時的であっても魅力が高まるのかなと。






西陽菜

なるほど。確かにスノボが得意みたいな前提があれば、リフトが一緒になった知らない異性に話しかけられても、街中ほどいやな印象にはならないかも。梅田なら無視しても、ゲレンデなら会話することはあります。男性に聞いても、理由もなく話しかける勇気はないけど、こけているところを助けようと話しかけたことがあるみたいで。そこでハードルが下がるようです。





上野先生

助けたり、教えたりといった行動が生じそうな場面では、そういう安心感はあるかもしれませんね。下心を感じにくいというか。





外見が分からない……都合のいい解釈も動物としての本能?



西陽菜

やはり、ゲレンデマジックによって生じた恋愛は継続しづらいものなんですか?





上野先生

もちろん継続する関係もあるとは思いますが、そこはケースバイケースでしょうね。





西陽菜

私の周りに限っていえば、そこが見つからなかったのか……。ところで、もうひとつ気になっていたのが外見の影響です。ゲレンデだと、ヘルメットやスキーウェアで外見の情報が制限されて、背格好だけでより魅力的に見える気がします。雪による光の反射で顔がきれいに見えるっていうのもよくある話題で。やっぱりそういう効果があるんでしょうか?






上野先生

日常生活では第一に外見の情報が入ってきて、そこで好みかどうかを振り分ける、ある種の「足切り」が起こっている可能性があります。しかし、顔の見えにくいゲレンデではそれをいったん保留し、内面やスノボの技術といった別の部分を評価していると考えられます。人間というのは、見えない情報について他の情報をもとに都合よく補完するところがあるんです。その習性ゆえに、山を降りたときにギャップが生まれてしまう。





西陽菜

そうか、マスク詐欺とかと同じ原理なんですね。マスクで口元が隠れていても、目元や髪型から理想のルックスを想像するというか。





上野先生

そうですね。隠された部分を、脳が都合よく解釈するんです。外見的な情報が得られない以上、性格やスノボの技術といったポジティブな特性から、よりよい人物像を想像する部分はあると思います。





西陽菜

確かにリゾートバイトで集団生活をしていると、ゲレンデの外ではそんなにかっこいいと思えない人もモテていたような気が……。でも、あとになって違和感を抱くリスクを背負ってまで、他者をいいように補正してしまう理由ってあるんでしょうか?





上野先生

たとえば、他者をいい方に補正する人と、悪い方に補正する人がいたとします。どちらがより異性と密に関われるチャンスがあるかといえば、それって結局はいい方に解釈する人ですよね。ヒトに限らず、生物というのは異性との接触が増えるほど、子孫を残すチャンスも増える。そういった行動をするように、僕たちは進化してきたのかもしれません。





西陽菜

なるほど、私たちが気づいていないだけで、動物としての生存戦略まで関わっていたんだ……! ゲレンデって恋愛が生じやすい条件が複合的に存在していて、必ずしも関係が長続きしないことにもちゃんと理由があったんですね。





上野先生

あと、西さんの場合はリゾートバイトでゲレンデに長期間滞在するから、集団生活もしていますよね。





西陽菜

はい。それも何か関係が……?





上野先生

心理学では「単純接触効果」といって、日頃から頻繁に接触する他者と仲よくなったり、ひいては恋愛関係になったりする現象が古くから言われています。物理的な距離の近さは心理的な距離も縮めるんです。





西陽菜

分かる気がします。





上野先生

若い男女が山の中に隔離されて共同生活を送る。ゲレンデマジックの仕組みからは少し外れるかもしれませんが、こういうシチュエーションなら恋愛が生じるのは理解できるなとは、正直思うんですよね。





西陽菜

バイト同士で飲んで仲よくなって、っていうところは確かにそうだ。一般的なゲレンデマジックはもちろんだけど、リゾートバイトに固有の要素も含めて、冬が来るたびにモヤモヤしていたことがはっきりしました。今日はありがとうございました!





ゲレンデマジックには確かに理由があった!




ゲレンデという非日常的な環境下において、人は気分を高揚させた結果、大胆な判断を取る可能性があります。特に人間関係においては、普段は出会わない相手とスキーやスノボを通して交流が生まれることに加え、ヘルメットの影響から外面が都合よく解釈され、それ以外の要素から価値判断が行われることも。こうした効果が組み合わされた結果、「ゲレンデマジック」と呼ばれる現象が生じているといえそうです。仮説の一部は裏付けできたといえるのではないでしょうか。

同様の現象は免許合宿や飲み会、花火大会、同窓会といった非日常のシチュエーションでも起こりうるものです。恋愛の取っかかりにはなりそうですが、長期的な関係を見越すとデメリットがないわけではなさそう。そうした場はあくまでひとつの契機になる、それくらいに考えておく方がいいような気がしました。

このインタビューを通して「結局、ゲレンデマジックってなんなん?」という大きな疑問が解消されました。日常生活以上に、人が魅力的に見える可能性があるゲレンデマジックは、私たちの体感だけではなく、しっかりと理論的に説明がつくものでした!


この記事を書いた人

西 陽菜(にし・はるな)

近畿大学 総合社会学部 総合社会学科 社会・マスメディア系専攻の3年生。広報室でインターン中。スキーが大好きで、毎年雪山に住み込んで滑っている。最近、流行りのスノボもはじめたミーハー。一緒に滑れる友達募集中。


編集:人間編集部

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