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2021.10.15

なぜ「生理」の話はタブー?世界の「月経禁忌」の背景を人類学の先生に聞いてみた

Kindai Picks編集部

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学生ライター
人類学
タブー

近年、公共のトイレに無料で生理用品を置く動きや、アスリートが生理の困りごとを積極的に発信するなど、「生理についてオープンに話そう」という雰囲気が高まっています。一方で、あまり話題にしたくない人もいますよね。生理をタブー視する「月経禁忌」の考えは、日本だけでなく世界各地に存在しています。なぜ生理は触れてはいけない話題になったのか、文化人類学の先生に聞きました。

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こんにちは! 国際学部4年の龍崎真侑です。

みなさんは、生理について身近な人と話すことはありますか? または、話したいと思っていますか?

「女性とは話せるけれど、男性とはちょっと」「自分には生理がないから、話す機会がない」という人もいるかもしれません。性別を男女で分けた時、その半分が経験しているはずの生理。なのになぜ、オープンに話しづらい空気があるのでしょうか。



日本では、平安時代から月経をタブー視するようになったと言われ、生理中の女性を小屋に隔離したり、食事に使う火を別にしたりする風習がありました。明治初期に、そういった慣習は法令で廃止されましたが、地域によっては戦後まで残っていたそうです。

海外では、今でも似た風習をおこなっている地域もあります。「タブー」という言葉自体、ポリネシア語で「月経」を表す「タブ(tabuまたはtapu)」が語源という説も。社会的・文化的背景の異なる国々で、なぜ生理に関しては同じようにタブー視されてきたのでしょうか。

また、現代の日本の大学生は、どれぐらい生理についてオープンに話したいと思っているのでしょう。

そんな疑問を解消するため、大学生を中心とした男女113人にアンケートを実施。さらに文化人類学の専門家に、各地で生理がタブー視される背景や、「生理はこれからも隠すべきものなのか?」など、お話を聞いてきました。


現代の若者にも根強く残るタブー感

アンケートでは、ふだん誰と生理の話をするか、生理を話題にすることに恥ずかしさを感じるかなどを調査しました。

生理のタブーに関する調査

回答者:10代~30代の男女・113名(男性:44人/ 女性:69人 ※生物学的な性別を回答)

誰と生理の話をしますか?



女性は「女友達と話す」と回答した人が約85%ともっとも多く、続いて「母親」と答えた人が71%でした。男性は、「恋人やパートナー(女性)と話す」人が約47%と一番多く、その次に多かったのが「友人(女性)」の約40%、そもそも「生理の話をしない」という人も約36%いました。

自分や周囲の人が生理の話をオープンにすることに対して、恥ずかしさや嫌悪感を抱くことはありますか?



男女ともに、恥ずかしさを抱くことが「ほとんどない」「あまりない」を選んだ人は、「生理現象として当たり前に起こることだから」という意見が多かったです。他には、「生理痛が重いので、同じような経験を聞くと安心する(女性)」や、「オープンに話してくれた方が、何を考えているかわかってコミュニケーションが取りやすい(男性)」といった回答もありました。

一方、「たまにある」「わからない」を選んだ人からは「生理の話をオープンにしてはいけないという暗黙の了解がある」「自分がよくても、他の人が気にしているかもしれないので話題にすることは少ない」(ともに女性)という声や、「理解をしたいと思うが、ハラスメントに当てはまるかがわからない」「そもそも話をする機会がない」「決して綺麗なものではないから」(いずれも男性)という意見が挙がりました。

アンケートの結果から、日本では月経禁忌の習慣がなくなったにも関わらず、社会の中にタブー視が残っていることがわかります。

さらに、複数の国の留学生にも、生理を話題にすることへの意見を聞いてみました。


香港

香港・女性・22歳

生理は女性の問題かつプライベートな話題なので、公の場で誰かが話していたら変だし、恥ずかしく感じる。生理に関する性教育を受けていないため、女性同士で相談し合うことはある。学校の授業で知識だけでなく生理への向き合い方も教えれば、恥ずかしさや嫌悪感はなくせると思う。




台湾

台湾・女性・22歳

私の世代の女性は、生理の悩みを共有することに抵抗はない。もし男性がパートナーのために生理用品を買っていたら、まわりは「気遣いのできる人だな」と感じると思う。




マレーシア

マレーシア・男性・22歳

女性にとって当たり前に起きることという教育を受けているので、恥ずかしいとも不快だとも思わない。職場や学校で話題になることはないが、みんな生理中の人を気遣うべきだと理解している。




ベトナム

ベトナム・女性・23歳

若者の間では話題になるが、昔は恥ずかしいことだと思われていたので、年配の世代は抵抗があると思う。最近のベトナムは色々とオープンになってきているので、生理もいずれ学校の性教育で取り上げられると思う。




ロシア

ロシア・女性・24歳

10代なら恥ずかしいと感じるかもしれないが、私の世代にとっては、自然なことだし特に恥ずかしいとは思わない。




フランス

フランス・女性・22歳

もちろん、生理について話すことに抵抗を感じる人はいる。個人的には、なぜ恥ずかしがるのかわからない。学校では生理について話す授業があったし、今も友達が困っていたら普通に話題になる。




フランス

フランス・25歳・女性

生理に関する授業がなかったため、クラスの誰かが生理になった時に話を聞いたりした。最近は、知識を持っている人も増えてきたので、話題にすることに抵抗はない。ただ店で生理用品を買う時、周囲の人に自分のプライベートが晒されるようで恥ずかしい気持ちになることはある。




オランダ

オランダ・24歳・男性

生理はタブー視されているため、公共の場で話題になることはない。女性の体に起こる普通の現象なので、恥ずかしいことであってはならないし、偏見や誤解をなくすべきだと思う。



他の国でも、オープンになってきてはいるものの、世代や状況によって話題にしづらい雰囲気があるようです。

そもそもなぜ生理をタブー視するようになったのか、そして今後どのような社会になれば理想的なのかを、南アジアの文化人類学が専門の、近畿大学国際学部・東聖子准教授にお聞きしました。


月経は昔から特別視されてきた

東聖子(あずま・まさこ)

国際学部 国際学科 グローバル専攻 准教授
スィク教徒をはじめとする南アジア系移民についての研究をしています。人の移動にともない文化や社会がどのように展開していくのかに着目しながら、移住先と出身地の双方で調査をおこなっています。






龍崎真侑

東先生、本日はよろしくお願いします!

アンケートでは、男女ともに「生理の話をしにくい雰囲気がある」という意見が目立ちました。留学生へのヒアリングでも、様々な国でタブー視されてきたことがわかります。そういう空気は世界中にあるのでしょうか。





東先生

世界には、日本のように月経をタブー視する社会と、そうでない社会があります。タブー視する社会の一部では、かつて日本でもあったような、生理中の女性を隔離したり、男性の仕事場(山林や漁船など)に入ることを禁じたりする風習がありました。





龍崎真侑

文化や宗教が異なる国でも、似たような風習があったのですね。





東先生

そうですね。月経に対する意識は、人間に共通する観念に基づいていると思います。つまり、「穢れ(けがれ)」や「浄・不浄」といった感覚です。

月経をタブー視する社会では、月経血を穢れと見なすことが多いようです。




静岡県に残る産屋。月経と同じく、お産にも血の穢れがあると考えられていた。


龍崎真侑

血液は、触ると感染症のリスクなどがあるから、不浄視されてきたのでしょうか。





東先生

感染症というのは西洋医学の知識ですが、それが伝わる以前から、穢れという考え方は各地にありました。イギリスの文化人類学者ダグラスは、本来あるべき場所に収まっているものが外に出ると「場違いな存在」となり、「汚い」もの・不浄なものとして認識されると指摘しています。

つまり、血液や唾液、切った爪や抜けた髪の毛などは本来、体にくっついているべきなのに、体から離れると場違いなものになり、穢れと認識されるという考えです。





龍崎真侑

でも、血液は男女関係なくありますよね。どうして、特に月経が穢れと見なされてきたのでしょうか。





東先生

そこなんです。月経は女性にしかない現象であるため、特別視されてきました。例えば、南インドやスリランカのヒンドゥー教徒は、初潮を迎えた女性を豊穣のシンボルとして扱い、祝祭の儀式をおこないます。




ネパールの「クマリ」が暮らす館(やかた)。思春期を過ぎても初潮がこなかったため、2歳から30年間クマリとして館の中で隔離された生活を送った女性もいた。


龍崎真侑

以前、先生は授業でネパールの「クマリ(Kumari)」についても話されていましたよね。初潮前の少女を生き神様として信仰する、今も続いている伝統です。あれも、月経を特別視しているということなんですね。





東先生

そうです。初潮を成熟や豊穣のシンボルとして祝う半面、日常の月経は穢れとしてタブー視する。月経は社会の中で、ポジティブ・ネガティブ両面から特別視されてきたんです。





生理のタブーと家父長制との関係


龍崎真侑

先ほどヒンドゥー教の話が出ましたが、先生は南アジアの研究をされる中で、インドに住んでいたことがあるそうですね。現地で生活しながら、生理へのタブー視を感じることはありましたか。





東先生

ひとことでインドと言っても、地域や宗教によってかなり文化が違います。例えば、北インドのパンジャーブ地方に多いスィク教の場合、経典には月経を穢れと見なす記述はないとされています。

一方、ヒンドゥー教や西インドに多いジャイナ教では、月経中の女性が寺院に入ることはできません。実際に、私が東京にあるジャイナ教のお寺に入ろうとした時、月経中かどうかを確認されました。私が日本人だから、規律を知らずに来ている可能性を考えて確認したのでしょう。





龍崎真侑

月経をタブー視しているにも関わらず、直接質問されたんですね。





東先生

「生理の話はしにくい」という感覚より、しっかりと規律を守ることが優先されているんだと思います。

ただ、そういう状況でもない限り、南アジアでは公共の場で性の話をしません。初潮を祝う風習のある地域でも、日常的に男女間で生理の話はしないと思います。




インド北西部ラジャスタン州にある、ヒンドゥー教の聖地プシュカル湖


龍崎真侑

日常の中では、宗教によるタブー視が根強いんですね。





東先生

月経をタブー視する理由は、宗教的なものより、家父長制の影響もあるんじゃないかと思います。家父長制とは、一家の長である男性が家族を統率・支配するという形態です。

家族を性も含めて管理することが男性の役割ですし、特に南アジアでは「家族がきちんと統率されている=家の名誉が保たれている」と受け止められます。

妻や娘が、その社会の性規範の中でつつましく過ごしていれば家の名誉は保たれますが、そこから外れると「家長が女性の性をコントロールできていない」となり、家の不名誉につながるのです。

スィク教では、女性の穢れはないとされていますが、実際には生理中の女性を不浄視することもあります。隔離まではしなくとも、あまり家族と接しないようにしたり、食事を分けていたり。





龍崎真侑

インドといえば、移民として家族で他の国に住む人も多いですよね。価値観の異なる国に移住した場合、考えが変わることもあるのでしょうか。





東先生

例えば、カナダのトロントにはスィク教徒のコミュニティがあります。インドの農村部からトロントに移り住むと、生活スタイルは大きく変わりますし、手に入る生理用品も違います。

ただ、そこで子どもがカナダの文化に馴染み、学校でボーイフレンドを作ったりすると、移民コミュニティの中では恥となり、「家の名誉はない」と思われるでしょう。移住しても、そういった考え方は引き継がれていきます。





龍崎真侑

その場合、親と子の世代間で、性に対する考え方にギャップが出てきそうですね。





東先生

そういったこともあるでしょうね。ただ、必ずしも若い人が新しい価値観に柔軟だとは限りません。実際には、親の世代でオープンな考え方をする人もいれば、若くて保守的な人もいます。年代だけでは、単純に判断できないと思います。





男性は生理についてどう思っている?





龍崎真侑

アンケート結果に話を戻すと、「生理についてオープンに話せる社会になってほしいと思うか」という質問に対し、「はい」と答えた人の割合は、男女とも同じ63%でした。男性も「オープンに話せるようになってほしい」と考えていることが意外でした。先生はこの結果について、どう思われますか。





東先生

以前、朝日新聞夕刊に掲載された「生理のこと隠す?隠さない?」という記事を使って授業をしたことがあります。当時、ユニ・チャーム株式会社がはじめた「#NoBagForMe」プロジェクトや、大丸梅田店で従業員がつけて議論となった「生理バッジ」などを取り上げました。



※「#NoBagForMe」プロジェクト:ユニ・チャーム株式会社が、生理用品を購入する際の選択肢の多様化を目指し、女性がより自分らしく過ごせる社会につなげようと2019年に発足したプロジェクト。


「#NoBagForMeプロジェクト」の一環として、生理期間を快適に過ごせるように考案された「7Days Box」


東先生

その授業のアンケートでも、男子学生が興味を持って色々な質問をしてきたんです。今まで機会がなかっただけで、彼らも生理について話したり聞いたりしたいと思っていたんだと気づきました。





龍崎真侑

今回のアンケートでも、「話す機会がない」と答えている男性は多かったです。中には、「自分には関係ない」という意見も何人かいました。でも、女性の恋人や家族がいれば、男性にとっても身近な話題のはずではと思うのですが……。





東先生

大学生のうちは、関係ないこととして過ごせるのかもしれないですね。社会人になったり、家庭を持ったりするうちに、関わらざるを得なくなってくるでしょう。

私の家族は男性が多い会社で働いていましたが、生理痛がひどく仕事に支障が出るほどだったため、周囲に伝えていました。職場にそういう人がいることで、男性も生理について考えるきっかけになると思います。






龍崎真侑

企業では、労働基準法により生理休暇が取得できるようになっていますよね。でも、まわりに生理休暇を取っている人が少なかったり、生理に理解のない上司に申請しないといけなかったりすると、取りにくく感じるかもしれませんね……。





東先生

その話で思い出したんですが、私が南インドのチェンナイで働いていた時、同僚達は体調が悪いと気兼ねなく休暇を取っていました。

日本のように休む理由を詳しく聞かれることがないので、生理中であっても「体調が悪い」と言うだけで、規定の範囲で休むことができたんです。そういう意味では、職場で生理についてオープンに話せなくても、困ることはなかったですね。





どこまで話すのか、個人で選べる社会に


龍崎真侑

アンケートでは、「男性が多い職場で生理の話はしづらい」「男性店員だと生理用品が買いづらい」といった女性の意見が出ていました。やはり、異性間で特に話しづらいテーマだと感じます。





東先生

生理は体に関するプライベートな話題ですから、隠したい人がいるのは当然です。話したくない人にまで、「もっとオープンにいこうよ」と強要するのはダメですよね。

「#NoBagForMe」が注目された2019年、職場でのヒール靴の強制に抗議した「#KuToo」運動が盛り上がりました。「#KuToo」も、全員に「ヒール靴を履くな」と訴えていたわけではありません。職場でヒールを履きたい人は履けばいいけれど、履きたくない人に強制するのはやめよう、という考えでした。





龍崎真侑

生理についても、言いたくない人がいる以上、単にオープンに話せる社会になったらみんながハッピーなわけではない、ということですね。





東先生

その通りです。ただ私としては、もう少し普通に話せる雰囲気があればいいなと思います。男性も知りたいと思っているのに、家庭や学校で、生理の話をあまり取り上げてこなかったんですよね。男女関係なく、教育で知識を補うことは必要だと思います。






龍崎真侑

私は小学校高学年の時、生理に関する授業を受けました。その時、教室には女子だけが集められました。





東先生

龍崎さんの世代でもそうだったんですね! そもそも、男女で性教育をわける必要があるのか、そこから考えなければいけないと思います。

女性の体にしか起きないことだからと、知識や経験を共有せず、女性間の話に限定してきた結果が今の空気を作っているのではないでしょうか。





龍崎真侑

私は女子高に通っていたので、友達と生理のことをオープンに話していました。それが大学に入って、急に会話が遠回りになった気がして。

例えその場に男性がいても、自分が体調について話したいと思ったなら、普通に話せるようになればいいなと、個人的には思います。





東先生

生理の経験があるかないかに関わらず、同じ知識を持って、必要な時に話題に出せる雰囲気があれば過ごしやすそうですよね。

ただ、「どこまでなら心地よく話せるか」という線引きには、かなり個人差があります。生理に限らず、他のプライベートな話題も含め「ここまでは話したい」「ここからは隠したい」というラインを、個人で決められることが重要だと思います。その選択に対して、寛容な社会であることも大切です。





龍崎真侑

確かに、みんなが心地いい範囲で会話できたら、もっと生きやすい世の中になりそうですよね。私もこれから、意識して人と話そうと思います。本日はありがとうございました!






今回の取材を通して、生理の話題は「オープンにする・しない」の二択ではないと気づきました。また、男性が生理について知りたいと思っていても、フラットに話せる機会が少ないこともわかりました。個人間の知識の差を埋めるには、教育や情報共有が不可欠だと思います。

私も、生理やプライベートに関する話題では、相手に話すことや話さないことを強要することなく、話しやすい空気を作っていこうと思いました。

参考文献
「生理用品の社会史」田中ひかる著(KADOKAWA)
「よくわかる文化人類学[第2版]」 (ミネルヴァ書房)
「文化人類学事典」(弘文堂)
「新版 南アジアを知る事典 」(平凡社)



この記事を書いた人

龍崎真侑(りゅうざき まゆ)

近畿大学 国際学部 国際学科 グローバル専攻 3年

大学1年次にアメリカのケンタッキー州へ7か月間留学していました。好きな言語は日本語。趣味は村上春樹の小説を読むことです。


取材・編集:ヒトミ✩クバーナ/トミモトリエ
企画:人間編集部

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