こんにちは! 近畿大学広報室でインターンシップをしている、国際学部 国際学科 グローバル専攻 3年生の日野莉里(ひの りり)です。
私は国際学部の留学プログラムで、1年生の頃にアメリカ・カリフォルニア州ロサンゼルスのラバーン大学へ約1年間留学していました。現地ではコミュニケーションの一環として、よく友人とハグをしていたんです。少し照れ臭かったものの、アメリカ生活でホームシックになりかけていた私にとって、ハグの文化は現地の人の温かみや優しさを感じることができました。アメリカ生活が半年を過ぎた頃には、自らハグをしていたぐらいです。
ロサンゼルスのマンハッタン・ビーチで現地学生とハグをした写真。
勉強もプライベートも充実した留学生活を過ごし、あっという間に帰国。約1年ぶりに友達や家族に会えてうれしい! はずが、何か物足りない……。
そう、日常生活に「
ハグ」がないのです。「初めまして」、「おはよう」、「おやすみ」など、どんな瞬間でもハグをしていたアメリカ生活と比較すると、なんだか寂しい気持ちになりました。
そこで、ハグの重要性を感じた私は、ハグの効果や必要性、またハグの文化に馴染みがない日本で代わりとなるコミュニケーションがあるのか調査することに。
海外でもハグをするのは親しい相手だけ
左から日野莉里(日本)、ミミ(カナダ)、アミン(オランダ・モロッコ)、マーク(スペイン)、ミンソン(韓国)
まずは、ハグに対する文化の違いを知るため、留学生に参加してもらい座談会を開きました。
日野莉里
今日は集まってくれてありがとう。日本人はハグにあまり馴染みがないのですが、みなさんの母国での挨拶について教えてもらえますか?
ミンソン
韓国の挨拶では、握手をするのが一般的です。
ミミ
カナダでは、ビジネスの場では初めて会うときに握手をします。普段は「こんにちは」と挨拶するだけのことが多く、人にもよりますが、ハグは親しい相手とするものですね。カナダにはさまざまな人種がいるので、伝統的な挨拶がないんだと思います。
日野莉里
相手とどういう関係かによって挨拶の仕方が変わるんですね。
アミン
私はオランダ人ですが、モロッコの文化で育ったので、お互いの頬にキスをしたりハグをしたりするのが一般的です。唇で頬に触れるのではなく、自分の頬を相手の頬に当てて、キスの音を出すような感じですね。
マーク
私も女性の友達と会うときは、いつも頬にキスをします。1日に何度も会っても、毎回しますよ。男友達とは握手をします。
日野莉里
相手が同性か異性かで挨拶が変わるんですね?
マーク
年齢や地域によって異なるかもしれませんが、私が育ってきた環境では男性同士でキスはしないですね。ハグは、家族や親戚とならすることもあります。
日野莉里
日本に比べると距離感が近いですね。コロナ禍での挨拶はどうしていたんですか?
アミン
オランダではできるだけ接触を避けていました。キスやハグの代わりに軽く肘を合わせるようになり、コロナが収束した後もしばらくはそうしていましたね。
マーク
スペインでも、キスやハグは控えていましたね。
コロナ禍でハグやキスの代わりになった、肘を合わせる仕草。
日野莉里
肘を合わせるのはいいアイデア! コロナ禍でも何かしらの身体的接触はあったんですね。
国\挨拶の仕方 |
会釈(お辞儀) |
握手 |
ハグ |
チークキス |
日本 |
◯ |
◯ |
× |
× |
韓国 |
◯ |
◯ |
× |
× |
カナダ |
× |
◯ |
親しい相手のみ |
× |
モロッコ |
× |
◯ |
◯ |
◯ |
スペイン |
× |
男性同士 |
親しい相手のみ |
男女間 |
※あくまで参加者の傾向を示したものであり、各国の挨拶の仕方を断定するものではありません。
幸せを感じるのは、家族や恋人とのハグ
ミンソン
韓国には、とてもシャイな人が多いです。基本的に、家族や恋人としかハグをしません。
日野莉里
そうなんですね! 日本人と似ているのかもしれません。
ミンソン
もし、ただの友達同士がハグをしようとすると、異性でも同性でも「何をしているの!?」と動揺してしまいます。握手の場合でも、異性同士で触れ合うことは一般的ではないので、このようにぎこちないことがあります(笑)
韓国での、異性同士の握手を再現するアミンとミンソン。
日野莉里
かわいい(笑)。指先同士をくっつけているだけなんですね。
マーク
日本人もとてもシャイに感じます。来日してすぐの頃、難波で日本の女性の友人に会ったとき、いつもの癖でキスしようとしてしまったんですよ。
マーク
はい。相手はすごく驚いていましたが、私が慌てて「ごめん。私(スペイン)の国ではこうするんだ」と説明すると、すぐに理解してくれました。もう絶対に日本では繰り返さないと誓います(笑)
アミン
私は日本のお辞儀の文化が好きです。相手への敬意を感じる素敵な挨拶だと思いますが、最初の頃は終わるタイミングが分かりませんでした(笑)
日野莉里
文化の違いには戸惑いますよね(笑)。私は友人とハグをすると安心したり、幸せな気持ちになったりするのですが、みなさんはどうですか?
アミン
普段、友人に挨拶するときの短いハグでは特に感情はありません。家族や、長い間会えなくなる友人にするときは感情的になりますね。
マーク
友人なら特に何も感じません。でも、それが家族や恋人などの愛する人なら、幸せを感じることがあります。
ミンソン
私もみんなと同じで、家族や恋人とのハグはすごく安心しますね。
ミミ
私は元々ハグをする習慣がないのですが、両親に愛情や感謝を伝えるときや、友人としばらく離れるときにはハグをします。でも、一番ハグをしてる相手はペットの猫で、抱きしめるとすごく幸せな気持ちになれるんですよ。
日野莉里
羨ましい……! ペットも大切な家族ですもんね。
ミミ
そうなんです。癒しが欲しいときにハグしています。
日野莉里
みなさんに共通しているのは、親しい相手とのハグに特別な感情を抱くということですね。今日はありがとうございました!
座談会の結果、日本だけでなく、韓国やカナダでもハグの習慣があまりないということが分かりました。
また、ハグやキスの文化がある国でも、それらの行為を挨拶の一つとして捉えているため、
知り合いや友達には特別な感情を持たないという事実も。家族や恋人などの親しい間柄の場合は、幸せな気持ちになったり安心したりするようです。
次に、どうして国によって文化的な差があるのか、なぜハグをすると幸せになるのかを知るため、心理学の先生にインタビューしてみました。
日本の文化では「距離を保つこと」が礼儀

総合社会学部 総合社会学科 心理系専攻の本岡先生にお話を聞きました。

本岡 寛子(もとおか ひろこ)先生
近畿大学 総合社会学部 総合社会学科 心理系専攻 総合文化研究科 博士(心理学)
専門:臨床心理学
不安や気持ちの落ち込みが強い状態から克服していく問題解決プロセスを研究しています。
教員情報詳細
日野莉里
今日はよろしくお願いします。アメリカで過ごした経験と、留学生との座談会を経て感じたのですが、日本ではハグの文化があまり根付いていないですよね。
本岡先生
それにはいくつかの要因が考えられます。たとえば、日本文化では「距離を保つこと」が礼儀とされてきました。
日野莉里
たしかに、日本ではお辞儀の文化があるし、むやみに身体を触るのは失礼とされることもありますね。
本岡先生
そうなんです。ちなみに、日本で親密さを示す非言語コミュニケーションって何があると思いますか?
日野莉里
うーん。握手やハイタッチ、アイコンタクトなどでしょうか?
本岡先生
まさにそうですね。また、「相槌を打つこと」も親密さを示す重要な要素と言われています。
本岡先生
近すぎる距離で話したり、食い気味に相槌を打ったりするのは、不快感につながってしまいますよね。
日野莉里
相手が自分の話をちゃんと聞いてくれているのか不安になります。相槌のタイミングもコミュニケーションの一環として大事なんですね。
愛着の形成は「肌触り」や「温かさ」が関係している
日野莉里
私は留学先で親しい友人にハグをしてもらい、安心感を抱いていました。座談会では、家族や恋人とのハグに幸せを感じる学生が多かったんです。
本岡先生
親密性や相手との関係性によって、ハグの効果を感じるかどうかは大きく異なると思います。
日野莉里
たしかに。座談会では「普段の友人との短いハグでは何も感じない」と言ってる人もいました。
本岡先生
少し話がそれるかもしれませんが、「アタッチメント(愛着)」という心理学の概念を聞いたことがありますか?
本岡先生
心理学では非常に重要なテーマの一つなんです。たとえば、「愛着」を感じるのはどのようなときだと思いますか?
日野莉里
家族や恋人、ペットと一緒にいて「大切にしたい」と感じるときでしょうか。
本岡先生
いいですね。では、愛着が形成される要因とは何でしょうか?
日野莉里
うーん……単に一緒にいる時間が長いからとか?
本岡先生
それもありますが、実はある心理学の研究で、お猿さんを使った実験があって。赤ちゃん猿を母親から隔離して、「布製の母親」と「ワイヤー製の母親」を用意し、どちらを好むのかを調べたんです。
心理学の代表的な書籍『心理学の基礎』の1ページ。
本岡先生
ワイヤー製の母親と布製の母親に交互にミルクを持たせても、ワイヤー製の母親がミルクを持っているときは食料だけ取って、すぐ布製の母親のもとに戻ったそうです。
本岡先生
そうなんです。単にお腹を満たすだけではなく、愛着の形成には「肌触り」や「温かみ」が関係しているんですね。
日野莉里
なるほど。そう考えると、人間のスキンシップも同じですね。
本岡先生
そうですね。心理学的に見ても、スキンシップには「安心感を得る」という効果があるんです。
日野莉里
ハグをすると「オキシトシン」という幸せホルモンが分泌されると聞いたことがあります。
本岡先生
よくご存知ですね。オキシトシンは安心感や愛情をもたらすホルモンで、ストレスホルモンであるコルチゾールを軽減する効果があります。リラックスしたり、幸福感や他者との絆を強めたりする傾向があるんです。
「幸せになるからハグをする」という学習理論
日野莉里
では、ハグをすると幸福感を得やすくなるんですね。
本岡先生
ただ、オキシトシンは常に分泌されるわけではなく、ハグをする相手によって変わってくると言えます。親しさを感じるから分泌されるのか、分泌されてから親しさを感じるのか。どっちが先かというのも面白い問いだと思いますね。
本岡先生
そうですね。心理学的に言うと、ある相手に対してハグをすることで幸福感を得られるため、「ハグをする」という行動が維持されるということ。これは「学習理論」といって、たとえば、疲れたときに美味しいものを食べるとホッとするのと同じで、不安になったときに肌触りのいい布やブランケットを触るとリラックスしますよね。布やブランケットを持っていると安心して寝られるのも、そういう経験からきているんです。最初は暖まるために使っていた布が、次第に安心できるものに変わっていく。これも学習の一環です。
日野莉里
そういえば、幼稚園児の頃から使っていた抱き枕が大好きで、小学校高学年まで寝るときに使っていました。雷が鳴ったり、ホラー映画を観たりして怖いときに、その抱き枕を探していましたね(笑)
本岡先生
まさにその通りで、「オペラント条件付け」という言葉を聞いたことがありますか?
本岡先生
これは、ある行動を起こした結果、好ましい結果が伴うとその行動が増え、好ましくない結果が伴うとその行動が減るというモデルです。 抱き枕やブランケットへの愛着も、持っていることで安心感やいいことがあったりすると、行動が維持されるんです。ハグをしたら幸せになるのではなく、幸せになるからハグをしていると言ったほうがいいかもしれませんね。
日野莉里
ハグやキスなどのスキンシップは、生きていく上で必要なんでしょうか?
本岡先生
必要と言えます。就学するまでの幼少期に愛着形成をすることが重要とされていますが、大人になってから恋人や友達とスキンシップを取ることで愛着が形成されることもあります。
日野莉里
ただスキンシップを取ればいいというものではないのですか?
本岡先生
はい。ただ、行為をするだけではなく、相手との関係性が重要です。愛着を抱く相手に出会うことが大切で、家族でなくとも、先生や恋人、友達と時間をかけて信頼できる関係を築くことが大切ですね。
日野莉里
相手との関係性が重要なんですね。相手は生き物でないといけないのでしょうか?
本岡先生
安心感を得るためには、ぬいぐるみやブランケットも役立つと思います。「肌触り」や「慣れ親しんだ匂い」が心地よくさせるということですね。
日野莉里
じゃあ、ハグの代わりにそういうものを活用するのもアリなんですね。
本岡先生
そうです。ただし、「人との愛着関係」がないと、それだけでは十分な効果を得るのは難しいかもしれません。
日野莉里
まずは「人との愛着関係」があって、それを補完する形でぬいぐるみなどが役立つということですね。
本岡先生
その通りです。だから、単に「ぬいぐるみにハグすれば幸せになる」というわけではなく、あくまで「補助的な役割」として捉えるのがよいでしょう。
日野莉里
とても勉強になりました。今日はありがとうございました!
友達やぬいぐるみにハグをしてみた!
3歳から仲良くしている幼馴染みのもも。
最後に、ハグをしたらどんな気持ちになるのか再確認するため、実際に友達やぬいぐるみ、ペットにハグをしてみたいと思います! まずは、幼馴染みに協力してもらいました。
日野莉里
もう20年近い仲やけど、ハグしたことあったっけ?
もも
幼稚園のときならあるかも。大人になってからは初めてやけど、りーちゃんとハグするのは思ったより違和感がないかな。
日野莉里
親しいからこそ、抵抗はないのかも。ギュッてしてるとなんか落ち着くわ。
もも
たしかに! しかもこんなに長くハグすることで、りーちゃんとより親しくなれる感じがする。友達以上家族未満みたいな(笑)
日野莉里
ほんまやね! 日本にはハグの文化がないけど、私たちならこれからもハグできそう。
もも
最初は遠慮しつつのハグやったけど、段々と慣れてきて自然とくっつけるようになってくるね。体が近づくと、心も近づくみたいな感じ。
日野莉里
心も近づくって素敵な表現! ハグってしてみるものやね。
本岡先生がおっしゃる通り、幼馴染みのような親しい間柄だと、愛着や安心感を抱き、より相手と親密になったように感じました。
次に、ぬいぐるみではどのように感じるのかを試してみます。小学生のときに父がクレーンゲームで取ってくれたお気に入りのぬいぐるみです。

ぎゅー!!!
ふわふわで、
肌触りがよくて気持ちいいです。子どもの頃に抱きしめながら眠っていたぬいぐるみなので、やっぱり安心感がありますね。なんだか眠くなってきました……。
次に、抱き心地が悪い、肌触りの悪いものでも試してみます。ちょうど雛祭りの時期で雛人形を飾っていたので、お雛様に抱きついてみましょう。
関西では、お雛様を向かって左、お内裏様を向かって右に飾ります。
うーん……。
綿入りのぬいぐるみとは違って、やっぱり抱きつきにくいですね。
硬くて冷たい人形なので、安心感や落ち着きは感じられないと思いました。
それでは最後に、ペットとのハグにも効果があるのか実践してみました! と言いたいところなのですが、我が家で飼っているのは犬や猫ではなく……
幸福の「福」とフクロウの「フク」をかけた“ふくちゃん”。
スピックスコノハズクという種類のフクロウを飼っています。犬や猫よりも小さいフクロウって、どうやってハグしていいのか分からない……。

初めてのことに、ふくちゃんも困惑しています(笑)。ハグができないのは残念ですが、ふくちゃんとは、撫でたり目を見つめたり、違ったコミュニケーションの取り方で、愛着を深めていきたいと思います!
まとめ
座談会と先生への取材を通じて、ハグの文化がある国でも、挨拶と愛情表現のハグは別物ということが分かりました。ハグはただ行為をすればいいわけではなく、
相手との関係性が重要。家族でも、恋人でも、友達でも、ハグをしたら安心したり、リラックスしたりできる関係性を築いていくことが大切だと学ぶことができました。
留学先でのハグが安心して幸せを感じるものだったのは、きっと慣れない環境を一緒に乗り越えてきた友達との絆が生まれていたからだと思います。
これからは日本でも、家族や友達を大切だと思ったとき、感謝を伝えたいときにハグをしていきたいです。いきなり人にハグするのはハードルが高いという方は、お気に入りのぬいぐるみやブランケットから試してみてくださいね!
この記事を書いた人
日野莉里(ひの りり)
近畿大学 国際学部 国際学科 グローバル専攻 3年生。
近畿大学広報室でインターンをしています。手のひらサイズのフクロウを中学生の頃から飼っており溺愛中。ハリーポッターが大好きで、イギリスなどヨーロッパを旅行するためにアルバイトに励んでいます。ダンスも好きでTWICEのツウィちゃん推しです。
取材・構成:オカジマアヤノ
企画・編集:
人間編集部