2020.07.06
生理周期が安定しているほうがなりやすい? 専門医に聞くPMSの原因と改善方法
- Kindai Picks編集部
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日本では、月経のある女性の約80%が抱えるといわれる月経前症候群(PMS)。多くの女性に症状があるからこそ、日常生活に支障をきたすほど症状が重くても「我慢できる」と思われてしまうなど、周りに理解されにくい病気のひとつです。そこで今回は、東洋医学と西洋医学の両面から診療を行う近畿大学東洋医学研究所所長の武田卓先生に、PMS、そしてPMSより重症度が高いPMDDについて、エピソードをまじえつつお聞きしました。
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武田 卓(たけだ たかし)
医師/博士(医学)/近畿大学東洋医学研究所所長/同女性医学部門教授/東北大学医学部産婦人科客員教授
1987年大阪大学医学部卒業、1995年大阪大学大学院博士課程修了。日本産科婦人科学会専門医・指導医、日本内分泌学会内分泌代謝科専門医・指導医、日本女性医学会女性ヘルスケア専門医・指導医、日本女性心身医学会認定医、日本婦人科腫瘍学会専門医、日本がん治療認定医機構暫定教育医・癌治療認定医、日本東洋医学会漢方専門医・指導医、日本産婦人科学会代議員、日本内分泌学会評議員、日本思春期学会理事、日本女性心身症学会理事、日本抗加齢医学会評議員。
近畿大学東洋医学研究所
近畿大学病院
月経周期が安定している人は、PMSの症状がより出やすい
――PMSとはどのような病気ですか?
月経前の黄体期に、3~10日ほど精神的症状や身体的症状が続き、月経が始まると軽快したり消失したりするものを月経前症候群(premenstrual syndrome:PMS)といいます。精神的症状が中心でより症状が重い場合は、月経前不快気分障害(premenstrual dysphoric disorder:PMDD)に分類されることもあります。
――具体的にどのような症状がみられるのでしょうか?
個人差はありますが、主な症状として次のようなものがあげられます。
PMSの主な症状※1
精神的症状 | 身体的症状 |
---|---|
●抑うつ ●怒りの爆発 ●イライラ ●不安、混乱 ●社会からの引きこもり など | ●乳房の張りや痛み ●お腹の張り ●頭痛 ●腰痛 ●むくみ など |
ただし、これらはごく一部で、細かいものを合わせると150種類以上の症状があるといわれています。
――150種類以上もあるんですか!?
細かいものまで入れるとそうですね。PMSやPMDDの症状って本当に人それぞれで、程度にも個人差があります。
――発症する原因はわかっているのでしょうか?
はっきりとした原因はまだわかっていません。ただ、セロトニンやGABAなど、脳の神経に働く「神経伝達物質」に異常が生じて起こるのではないかと考えられています。また、排卵を抑制すると症状がおさまるので、排卵後に分泌が増える「黄体ホルモン(プロゲステロン)」がなにか悪さをしているんじゃないかともいわれています。
そして、ストレスや不規則な生活が症状の引き金になることもあります。最近外来をしていて感じるのですが、新型コロナウイルスによる自粛生活も確実に悪影響を及ぼしているようです。
――月経不順は関係しますか?
患者さんにもよく聞かれます。ホルモンがちゃんと分泌されていないからじゃないかと思っている人もおられますが、逆ですね。卵巣機能に問題がなくて、排卵があって、ホルモンが正常に分泌されている人のほうがPMSやPMDDの症状が出やすいんです。
――そうなんですか? では月経周期が安定している人のほうが……
なりやすいですね。ホルモンはきちんと分泌されているけれど、そのホルモンが脳に働くときの感受性の違いで、症状を引き起こすのではないかと考えられています。原因はまだ解明されていませんが、卵巣に問題があるから症状が出るわけではありません。
中3からPMSに悩む人も。大人より高校生のほうが重い症状を抱えている
――PMSに悩む人は多いのでしょうか?
日本では、月経のある女性のうち約80%の人にPMSに関する症状がみられるといわれています。
――かなり多いですね……
そうですね。症状を抱える人が多いからこそ、かなり重い症状でも「大したことない」「我慢できる」と周りから思われてしまうことはあると思います。
20歳~49歳の日本人女性1,152名を対象に実施した調査※2では、生活に支障をきたすほど重いPMSを抱えている人の割合は5.3%、PMDDの割合は1.2%という結果になりました。身体的症状を抱えている人の割合は81.2%と、最も高い割合を示しています。
20歳~49歳の日本人女性によくみられるPMS症状(n=1,152)※2
※2 T. Takeda. et al., Arch Womens Ment Health, 2006.を参照
――PMSは大人の女性に多いのでしょうか?
いえ、高校生が対象の調査※3ではさらに高い割合が出ています。618名の日本人の高校生を対象にPMSの有病率について調査したところ、生活に支障が出るほどの重いPMSをもつ人は11.8%、PMDDをもつ人は2.6%という結果になりました。症状については、倦怠感や気力の低下を感じる人が最も多くなっています。
日本人の高校生によくみられるPMS症状(n=618)※3
※3 T. Takeda. et al., Arch Womens Ment Health, 2010.を参照
――高校生のほうが多いんですか? 意外です。
ええ。10年ほど毎年調査を行っていますが、中学3年生くらいから症状が出はじめたと答える人が多いんです。901名の高校生を対象とした別の調査では、11.9%の人がPMSやPMDDを理由に学校を欠席したことも明らかになっています。※4 一方、日本の働く女性907名を対象に実施した調査※2でも、11.5%の人がPMSやPMDDで仕事を休んでいます。
※2 T. Takeda. et al., Arch Womens Ment Health, 2006.を参照
※4 M. Tadakawa, T. Takeda. et al., Biopsychosoc Med, 2016.を参照
また、35歳~59歳の女性253名を対象とした調査※5で昇進への影響についてたずねたところ、昇進を辞退したことがある人が17.0%、辞退を考えたことがある人が45.5%と、あわせて過半数を上回る結果になっています。
女性の社会的立場を拒む課題※5
※5 ホルモンケア推進プロジェクト調べ(方法:インターネット調査 対象者:35歳~59歳女性 調査時期:2014年12月)より引用
思っている以上に、PMSやPMDDが及ぼす社会生活への影響は大きいんですよ。
まずは生活習慣の見直しから! 漢方薬やピルなども組み合わせて症状を改善する
――PMSやPMDDのつらさは、周りの理解を得にくいところにもあるように思います。
本当にそうですね。まだまだ日本での認知は進んでいないと感じますし、症状がかなりひどくなってからやっと病院に来られる患者さんも少なくありません。受診されてPMSやPMDDのお話をすると、「そんな病気があるとは知らなかった」といわれることもあります。月経の前になるとひどい症状が出るので、ホルモンの調子が悪いんじゃないかと思って来られる患者さんもいらっしゃいます。
PMDDで症状がかなり重くなると、常勤が難しくなりますし、症状が出ないときだけ仕事する人もおられます。
――確かに、常勤で毎月まとまった休みをとるのは難しいですよね……
症状が出ているのに我慢して出社して、会社で上司に暴力をふるってしまった患者さんもいらっしゃいました。そうなるまで病院に行かず、ひとりでつらい症状に耐えておられたんですよね。そこまで症状が重くなると、仕事だけでなく日常生活全般に大きな支障が出てしまいます。
――治療で症状は改善されたのでしょうか?
はい。症状がおさまって常勤の仕事にもつかれましたし、結婚もされました。僕は立ち会っていないんですが、僕が勤めていた病院で出産もされたんですよ。すごくハッピーになられました。
――そうなんですね! 実際にどのような治療が行われたのですか?
その患者さんの場合は、漢方薬などを処方して治療を進めました。基本的には、まずは生活習慣の見直しや食事指導、運動習慣による改善を目指します。ご自身の重症度を認識するためにも、患者さんには症状を記録していただいています。
症状が軽い場合は、鎮痛剤や精神安定剤など症状を抑える治療(対症療法)を行っていきます。日常生活に支障が出るほど症状が重い場合は、低用量ピルやセロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)という抗うつ薬を使用することもあります。漢方薬は副作用も少ないですし、軽い症状からある程度重い症状でも対応できるので便利ですね。西洋薬との組み合わせも可能です。
――ストレスや不規則な生活が症状の引き金になるとのお話もありました。生活指導も治療を進めるうえでは重要なポイントになるのですね。
そうですね。規則正しい生活や十分な睡眠、定期的な運動の習慣づけが大切です。タバコはよくありません。栄養面では、精神安定作用をもつカルシウムのほか、セロトニンを作るときに必要なビタミンB6やマグネシウムが有効だと考えられています。
逆によくなさそうなのは、肉などに多く含まれる飽和脂肪酸です。肉よりも、DHAやEPAなどの不飽和脂肪酸が多い魚を食べるほうがいいですね。近大マグロならトロですね。コーヒーもよくないといわれていましたが、それを否定するデータ※6も報告されていますし、飲みすぎなければ大丈夫ではないでしょうか。
※6 Purdue-Smithe AC. et al., Am J Clin Nutr, 2016.を参照
――PMSやPMDDについて、いろんなことがわかってきているんですね。
はい。さまざまな切り口で研究が行われています。僕はいま植物性タンパク質の摂取との関係性に注目していて、大豆イソフラボンの効果を調べる臨床研究を行っているところです。臨床研究にご参加いただける方も募集しています。
つらいときは我慢せず、病院の受診を考える
――つらい症状を抱えている場合、どこに相談すればよいのでしょうか?
できれば、PMSを扱う婦人科の専門医に相談するといいと思います。精神症状が重い場合は精神科につなぐこともできますから。
先ほどもお伝えしましたが、治療とあわせて症状を記録することをおすすめしています。いつ重い症状が現れるかをある程度予測できれば、予定も組みやすくなりますし、それだけで気分がラクになることもあります。ノートのメモ書き程度でも大丈夫ですし、最近はスマートフォンのアプリを利用される患者さんもいらっしゃいます。
――自分の症状を知ったうえで、向き合うことが大切なのですね。
ええ、そうです。PMSやPMDDは多くの女性が抱える病気ですが、症状の内容や重さにはかなり個人差があります。「つらいのは私だけじゃないから……」とひとりで我慢せず、まずは病院で相談してみてください。きっと、よい方法が見つかると思いますよ。
(おわり)
取材・文:藤田 幸恵
イラスト:にしむらみう
企画・編集:人間編集部
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