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2022.05.13

牛乳やヨーグルトでお腹がゴロゴロ。つらい下痢が起こる「乳糖不耐症」の原因と、自分でできる改善法

Kindai Picks編集部

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オリジナル記事
医療
乳糖不耐症

牛乳やヨーグルトなどの乳製品をとって、お腹がゴロゴロしたり、下痢になったりした経験はありませんか? その理由のひとつとして、日本人に多い「乳糖不耐症」の影響があげられます。そこで今回は、近畿大学医学部講師で小児アレルギー疾患を専門とする竹村豊先生に、乳糖不耐症の原因や治療法、自分でつらい症状をおさえる方法などについてお話をうかがいました。

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竹村 豊 (たけむら ゆたか)

医師/博士(医学)/近畿大学医学部講師/アレルギー学会専門医/小児科専門医・指導医

専門は小児アレルギー疾患。小児のアレルギー疾患のなかでも、主にアトピー性皮膚炎、食物アレルギーの診療・研究を行っている。

近畿大学医学部小児科学教室
近畿大学病院



牛乳やヨーグルトなどの乳製品で下痢になるのはなぜ?


――牛乳を飲んだりヨーグルトを食べたりすると、下痢になる人がいます。その原因は何でしょうか?

主な原因としては、「乳糖不耐症」「牛乳アレルギー」「過敏性腸症候群」の3つが考えられます。

乳糖不耐症では、牛乳や乳製品に含まれる「乳糖(ラクトース)」を分解するラクターゼという酵素が欠乏したり、働きが弱まったりします。その結果、乳糖の消化吸収がうまくできなくなり、下痢や腹痛などの症状が起こります。まれに生まれつきラクターゼが欠乏している先天性の乳糖不耐症も見られますが、ほとんどはラクターゼが減少したり、感染性の胃腸炎などが原因で一時的に発症したりする後天性のものです。

ヨーグルトやチーズなどの乳製品に含まれる乳糖は、製造段階である程度分解されているため、牛乳に比べて症状は出にくいといわれています。

乳糖不耐症、牛乳アレルギー、過敏性腸症候群の比較

主な症状
乳糖不耐症下痢、腹痛、腹部膨満、酸性便 など
牛乳アレルギー下痢、腹痛、じんましん、皮膚の赤み、呼吸困難 など
過敏性腸症候群下痢、下腹部痛、便秘、腹部膨満 など

牛乳アレルギーは食物アレルギーの一種で、牛乳やヨーグルトなどの乳製品の摂取によって、下痢や腹痛、呼吸困難、嘔吐のほか、ときにアナフィラキシーショックを起こすこともあります。じんましんや皮膚の赤みを併発することが多いため、症状が下痢や腹痛だけであれば牛乳アレルギーの可能性は低いでしょう。ただし、赤ちゃんの場合は下痢だけを生じる「食物蛋白誘発胃腸症(消化管アレルギー)」という特殊なアレルギーの可能性もあるので、専門の医療機関で受診することをおすすめします。



また、過敏性腸症候群でも下痢や腹痛は生じます。牛乳やヨーグルトはとりすぎると症状を引き起こしやすいため、摂取には注意が必要です。ただ、過敏性腸症候群の場合、1種類の食品だけで症状が出るわけではありません。牛乳やヨーグルトを摂取したときだけ起こるなら、過敏性腸症候群の可能性は低いでしょう。

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――乳糖不耐症について詳しくお聞かせください。乳糖を分解するラクターゼは、なぜ欠乏したり働きが低下したりするのですか?

乳糖は、牛乳や乳製品、母乳などに含まれている糖質です。母乳や粉ミルクなどを栄養源とする哺乳期が終わって離乳期をすぎると、ほかの食物からも栄養をとれるようになり、ラクターゼの産生は低下していきます。ですので、大人なってから牛乳を飲むと下痢をするようになったという方もおられます。また、子どもはよく感染症にかかりますが、その影響で一時的に乳糖不耐症になることもあります。

乳糖不耐症



こうした理由で、ラクターゼが欠乏したり活性が低下したりして乳糖が小腸で分解されなければ、栄養として体内に取り込むことができず、消化されないまま大腸へと進みます。そして、大腸にすむ腸内細菌が乳糖を消費するのですが、その際にガスが発生するため腹痛や腹部膨満、おならが生じるのです。また、消化しきれない乳糖が大腸内に蓄積されると、浸透圧が働いて水分を呼び込むため、下痢になってしまいます。

ラクターゼの産生については、地域差や民族差も大きいようです。もともと乳製品を摂取する機会が多かった欧米では、大人になってからもラクターゼを産生できる遺伝的な性質(ラクターゼ持続性:LP)をもつ人が多く見られます。一方、日本を含むアジアではラクターゼの産生が低下する性質(ラクターゼ非持続性:LNP)をもつ人が非常に多いため、乳糖不耐症も起こりやすくなっています。

民族・人種によるラクターゼ非持続性(LNP)の構成比率

地域(民族)ラクターゼ非持続性(LNP)の比率
北欧2~15%
アメリカ系白人6~22%
中欧9~23%
インド(北部)20~30%
インド(南部)60~70%
ヒスパニック50~80%
黒人60~80%
アメリカ原住民80~100%
アジア95~100%
(出典:一般社団法人Jミルク「よくわかる!乳糖不耐」)


乳糖不耐症は自分で改善できる? 病院で受診したほうがいい?


――乳糖不耐症は治るのでしょうか?

生まれつきラクターゼが少ない先天性の乳糖不耐症には、有効な治療法がないのが現状です。乳児が無理に摂取すると、成長障害を引き起こす可能性があるため、診断を受けたら食事から乳糖を除去しなければなりません。

後天性の乳糖不耐症の治療では、ラクターゼの働きをサポートする「β-ガラクトシダーゼ製剤」という薬剤の服用で一定の効果が見られます。ただし、先天性の乳糖不耐症への効果は限定的なものと考えられています。

また、「乳糖漸増(ぜんぞう)負荷治療」といって、少しずつ牛乳を摂取することで症状を緩和させる治療が欧米では行われており、日本でも同様の症例が報告されています。この治療が腸内細菌叢(腸内フローラ)によい影響を与え、乳糖を分解しやすくなる可能性が示されています。ただし、現時点では一般的に行われる治療ではなく、今後の研究が期待されるところです。



――症状を改善させるために、自分でできることはありますか?

症状には個人差がありますし、どれくらいの量を摂取すれば下痢が起こるのか、その境界線も人によって異なると思います。下痢などの症状が出ない程度の量で乳糖を摂取することが、最も適切な対応方法です。

また、乳糖は加熱によって分解されるため、例えば牛乳を温めて飲むと症状が緩和される可能性はあります。一度に多くを摂取しようとせず、一日のなかで数回に分けて摂取するのもよいでしょう。

――乳糖不耐症が疑われる場合、医療機関を受診したほうがよいのでしょうか?

乳児で、栄養の摂取や体重の増加などに問題があれば、医療機関を受診する必要があります。大人の場合は、何をどれくらい摂取するとどのような症状が出るのか、ご自身のパターンを把握できているなら、必ずしも受診する必要はないでしょう。

ただし、牛乳に関係なく下痢症状が起こる場合や、下痢のほかに発熱や血便を伴う場合などは乳糖不耐症ではない可能性があるため、医療機関で受診してください。


そもそも牛乳やヨーグルトは体にいいの? 代替食品を利用すべき?




――乳糖が原因で下痢が起こるなら、なるべく摂取しないほうがよいのでしょうか?

牛乳に含まれるカルシウムの量は、ほかの食品での代替が難しいレベルですし、タンパク質も非常に豊富です。そして、発酵食品であるヨーグルトは、腸内細菌叢によい影響を与えることが知られています。これらが不足すると、子どもでは成長障害、大人では骨粗しょう症などを生じることがあります。20年くらい前に「牛乳は体に悪い」という説が話題になりましたが、科学的根拠はほとんどありません。

過剰な摂取は、乳糖不耐症などのリスクを高めます。ただ、乳製品を摂取する機会が多いと乳糖不耐症になりにくいという指摘も見られます。牛乳は乳糖を多く含みますが、ヨーグルトは製造過程で乳糖の一部が分解されており、チーズは乳糖のほとんど、もしくはすべてが分解されています。体調に合わせて、摂取する食品や量を上手に調整するとよいでしょう。

――欧米では乳糖を除去した「ラクトースフリー」製品が多く見られます。一方、日本ではあまり身近ではありません。

欧米に比べて、日本では牛乳や乳製品の摂取量がかなり少ないことが影響しているのではないでしょうか。あと、欧米にはヴィーガンなどの多様な食習慣(食嗜好)があるからかもしれませんね。ラクトースフリー食品は、乳糖不耐症の方だけではなく、ヴィーガンの方にも利用されているようです。日本ではそうした食嗜好をもつ方が比較的少ないため、あまり広まらないのではないでしょうか。



――ラクトースフリー食品のほかに、代替食品となるものはありますか?

豆乳のほか、アーモンドなどのナッツを使ったミルクや、近年ではオーツ麦からつくられるオーツミルクが、牛乳や豆乳に次ぐ第三のミルクとして利用されているようです。お米を原料とするライスミルクもあります。こうした食品も、乳糖不耐症の方に限らず、ヴィーガンの方に活用されています。

――食事上の制限はストレスの原因ともなるかと思います。つらい下痢を伴う乳糖不耐症に、どのように向き合えばよいのでしょうか?

牛乳やヨーグルトなど乳糖を含む食品の摂取によって下痢や腹痛、おならが引き起こされるのは厄介ですし、特に外出先では不便を感じることが多いと思います。しかし、牛乳や乳製品には健康維持に欠かせない栄養が含まれており、多くの方において、一定以上の量を摂取することができています。体質だから仕方ないとあきらめている方も、乳糖不耐症のつらい症状を改善できる可能性は十分あります。



過剰な摂取には注意が必要ですが、体のコンディションに合わせて摂取する量を調整したり、加熱したりといった工夫によって、下痢や腹痛などの症状をおさえることは可能です。ご自身の体の反応に配慮しながら、牛乳や乳製品を上手に活用して、下痢が長引くなど気になる症状があれば医療機関で受診しましょう。


取材・文:藤田幸恵
企画・編集:人間編集部

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