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2016.03.01

こんな症状があれば要注意! 下痢や便秘を繰り返す「過敏性腸症候群」とは

Kindai Picks編集部

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医療
過敏性腸症候群
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オリジナル記事

検査をしても異常がないのに、下痢や便秘を繰り返す。そんな人は、「過敏性腸症候群」という病気の可能性が……。特に10代から30代に多いとされるこの病気の原因や治療法について、近畿大学医学部の奥見裕邦先生にお聞きしました。

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奥見 裕邦(おくみ ひろくに)

医師/医学博士/近畿大学医学部医学科 内科学教室 心療内科部門 講師

1996年近畿大学卒業、2013年千葉大学大学院修了。2019年マサチューセッツ総合病院Center for Neurointestinal Health 研究留学。ストレス関連の身体症状、特に消化管疾患、小児心身症、漢方治療、産業保健衛生を專門とする。取得専門医資格は、心療内科専門医、消化器病学会専門医、消化器内視鏡学会専門医、消化管学会胃腸科専門医・指導医、心身医学「内科」専門医、こどものこころ専門医、東洋医学会専門医、日本医師会認定産業医など多数。国際医療支援の経験も。




腸は第二の脳。ストレスが下痢や便秘を引き起こす


――「過敏性腸症候群」とは、どのような病気なのでしょうか?

過敏性腸症候群は、検査をしても身体的な異常が見つからないのに、下痢や便秘が続く病気です。食後のもたれ感や、お腹にガスが溜まって起こる不快感などの症状が現れることもあります。いまや、日本人の10人に1人が過敏性腸症候群にかかっているといわれています。

過敏性腸症候群の診断には、RomeⅣという国際的な診断基準が用いられています(2020年4月現在)。

過敏性腸症候群の診断基準(RomeⅣ)
最近3ヵ月の中の1週間につき少なくとも1日以上は腹痛が生じ、その腹痛が次のうち2つ以上の項目に当てはまるもの。
①排便に関連する
②排便頻度の変化に関連する
③便形状(外観)の変化に関連する
※6ヵ月以上症状が続き、基準を満たす期間が最近3ヵ月以上であること

過敏性腸症候群は症状によって、下痢が続く「下痢型」、便秘が続く「便秘型」、下痢と便秘が交互に現れる「混合型」に分けられます。

――なぜ検査で身体的な異常がないのに、下痢や便秘になるのでしょうか?

脳のトラブルが要因だといえます。脳がストレス刺激を受けると、コルチコトロピン放出ホルモン(CRH)やセロトニンなどの生体内ホルモンのほか、肥満細胞などの免疫系のバランスが崩れます。それにより、腸の動き(蠕動運動)が不安定になったり、お腹の張りや痛みに対して過敏(知覚過敏)になったりして、下痢や便秘をきたしやすくなるのです。最近では、腸内にいる善玉菌と悪玉菌のバランスも関与していると考えられています。

腸は「第二の脳」ともいわれており、「脳腸相関」という言葉もあるくらいストレスの影響を受けやすい器官なのです。

――どのような人が過敏性腸症候群になりやすいのでしょうか?

10代から30代くらいで発症しやすく、男性は「下痢型」、女性は「便秘型」が多い傾向があります。あとは、神経質な人ですね。ちなみに、この病気は「発展途上国よりも先進国において発症率が高い」というデータもあるんですよ。それも、やはりストレスが関係しているからだと考えられます。

――予防方法について教えてください。



過敏性腸症候群は、あらゆるストレスと関連することが多い病気です。不規則な食事、暴飲暴食、睡眠不足、不規則な睡眠、慢性的な疲労を避けるようにしましょう。特に食事については、脂質、糖質、辛味刺激物、アルコール、カフェインなどをとりすぎないことが重要です。タバコは症状を悪化させるため、本数を減らすようにしてください。また、仕事や勉強の作業を長時間続ける場合は、合間に適宜休憩をとりましょう。


放っておくと、パニック障害、不眠、うつを引き起こす可能性も


――どのように検査や治療を進めていくのですか?

下痢や便秘が続くからといって過敏性腸症候群であるとは限らないため、まずはほかの病気の可能性もきちんと調べなくてはなりません。患者さんはストレス性の症状だと思い込んでいたけれど、検査をしてみたら実は大腸がん、あるいは潰瘍性大腸炎などの自己免疫異常による炎症性腸疾患が隠れていたなんてこともあるんです。
 
別の病気の可能性を排除していき、過敏性腸症候群であると診断された場合は、食事や生活習慣の改善、そして薬による治療を進めていきます。最も大切なのは、環境調整の実施です。生活指導を行い、病気が起こりにくい環境を普段の生活のなかで整えていきます。

――食事や生活習慣を、具体的にどのように改善していくのでしょうか?



食事では、一日のなかで食べる時間を決め、暴飲暴食を避けるようにして、量やタイミングを改善していきます。そして、「下痢型」の場合は乳製品や脂っこいもの、刺激物を控え、「便秘型」の場合は水分や繊維質のものを中心に摂取するようにします。

生活面では、朝の排便を習慣づけ、特に便秘型の場合は軽い運動を心がけることが大切です。また、十分な睡眠時間をとったり、仕事や学業において長時間にわたる作業を避けたりすることも、症状の改善に大きく結びつくことがあります。

――病院ではどのような治療が行われるのですか?

腸の動きを安定させるため、便の硬さを変える薬や、腸の動きを調節する薬を処方します。さらに、より過敏性腸症候群に特化して専門的な治療を行う病院では、ちょっとしたガスや便に反応して腹痛を起こす「腸の過敏性」を治療する目的で、抗不安薬抗うつ薬を使用することがあります。また、複合的な効果が見込める漢方薬もよく処方されます。

加えて、いくつかの心理テストで患者さん一人ひとりの心理評価を行い、それを踏まえてカウンセリングなどの心理社会的治療を併用することもあります。さまざまな治療の組み合わせで症状が徐々に軽減されれば、活動性も高まり、快適な生活を送れるようになっていきます。

――放っておくと、どのようなことが起こるのでしょうか?

下痢や便秘が続くと生活に支障が出るだけでなく、いつお腹の調子が悪くなるかわからないため、さらにストレスが増えるという悪循環に陥ってしまいます。また、ストレスで暴飲暴食をしたり喫煙量が増加したりすると、腸への負担は増える一方です。

ひどくなるとパニック障害を引き起こすこともありますし、不眠症うつ病逆流性食道炎といったほかの病気を併発することもあります。

――気になる症状があった場合、どこで相談すればよいのでしょうか?



まずは、お近くの内科や消化器内科を受診してください。軽症であれば、そこで処方される薬のみで改善することもあります。重症化すると大きな病院を紹介されることになりますが、大病院だからといって、必ずしも過敏性腸症候群の専門的な診療を行っているわけではありません。あらかじめ、過敏性腸症候群に対応している病院をウェブサイトや電話で調べてから、担当の先生に紹介先の病院について相談するといいと思います。 

下痢や便秘と聞くと、軽く考えてしまう人もいるようですが、実際には過敏性腸症候群が原因で会社や学校を休むことも珍しくありません。下痢や便秘を繰り返している人は、「そういう体質だから仕方がない」と諦めるのではなく、ひとつの病気として捉えて早めに検査や治療を受けるようにしましょう。


(終わり)


取材・文・編集:藤田幸恵
イラスト:九月タロウ

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