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2016.11.28

新型インフルエンザのメカニズムと専門家が勧める30秒でできる予防法とは

Kindai Picks編集部

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インフルエンザ

今年は11月からインフルエンザの患者が増え、25日に国立感染症研究所が、昨年より1カ月以上も早く、全国的な流行期に入ったと発表した。
予防接種をしていても、新たに発見され人への感染力が強い「新型インフルエンザ」については不安が残る。対策法を専門家に聞いてみた。

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【監修】
中山隆志(なかやまたかし)
近畿大学 薬学部 医療薬学科/教授
1994年、京都薬科大学大学院修士課程を修了。その後、塩野義製薬医科学研究所研究員を経て、近畿大学医学部へ。翌年、大阪大学大学院薬学研究科で薬学博士を取得。2012年より現職。専門は免疫学で、特に感染症や癌に対する新規創薬・ワクチンの開発を行っている。

●戦争や地震よりも恐ろしい殺人ウイルス


限られた期間に感染症が世界中に大流行することを、パンデミックと言う。4世紀にはアジアで天然痘が大流行。14世紀のヨーロッパでは、ペストでイギリスの人口400万人のうち半数が死亡した。それ以降も、発疹チフスや梅毒、コレラなどのパンデミックが起き、20世紀以降は結核、エイズ、マラリアなどのパンデミックが発生している。

幾度となく起きてきたパンデミックの中でも、最も大きな被害をもたらしたは何か。

実はそれがインフルエンザウイルスだ。これまでに少なくとも5回、インフルエンザのパンデミックが発生したことが報告されており、その中には2009年の新型インフルエンザも含まれる。特に被害が大きかったのは1918年から大流行したスペイン風邪(インフルエンザの一種)で、なんと4,000万人もの死亡者が出た。これは戦争や地震、津波などと比較しても、過去最悪の被害である。




●新型インフルエンザの発生源は、豚の体内だった


季節性の(いわゆる通常の)インフルエンザに対しては、ある程度免疫を持っている人が多く、流行したとしても一度にそこまでたくさんの人が発症することはない。しかし新型のウイルスはこれまで経験したことがないため免疫を持っていない。そのため重症化するし、感染もしやすいということになる。

そもそも新型インフルエンザウイルスは、一体どのようにして作られるのだろうか。

通常のインフルエンザは人から人へのみ感染するし、鳥インフルエンザは鳥から鳥にのみ感染する。しかし、豚はどちらのウイルスも感染するという特徴があり、同時に感染すると体内で2種類が混ざり合って新型のウイルスができてしまうのだ。



その際、人のインフルエンザウイルスと鳥のインフルエンザウイルスがどれくらいの割合で混ざるかはわからない。鳥インフルエンザ由来の割合が多い新型ウイルスが人に感染すると、免疫を持っていない分、重症化しやすい。2009年に流行した新型インフルエンザの重症度が低かったのは、人インフルエンザ由来の割合が多いウイルスだったからである。


●1億5000万人以上が死亡!?これが厚労省が想定するパンデミックのシナリオだ


鳥インフルエンザの中でも、特に重症度が高いものを「高病原性の鳥インフルエンザ」と言う。そして、高病原性の鳥インフルエンザは、豚の中で人のインフルエンザと混ざらなくても一部の構造が変化して人に感染することがある。当然、人はこれに対する免疫を持っていない。

現在、この高病原性の鳥インフルエンザが世界中の鳥の間で蔓延しており、既に鳥の間ではパンデミックの状況にあると言える。鳥での致死率が60%を越えるこのウイルスが、人から人へと効率よく感染できるようになったら、極めて恐ろしい事態になるであろう。具体的には厚生労働省が、以下の被害を予想している。

※厚生労働省が想定する、高病原性鳥インフルエンザによる被害
・世界の人口の1/4が感染し、日本でも約3200万人以上が感染
・世界では1億5000万人が死亡、国内でも64万人が死亡と推定
・感染流行のピーク時は
 学校は閉鎖
 企業は40%の従業員が欠勤し、会社機能が停滞
 電気、水道、ガス、食料販売などが停滞(生活維持に必要なサービスが受けられなくなる)


●新型インフルエンザの予防に有効な「いつものアレ」とは


それでは、もし新型インフルエンザのパンデミックが起こってしまった場合、我々はどうすればいいのだろうか。

ワクチンは予防に有効だが、新型インフルエンザは全く新しいウイルスが原因となっているため、発症するまでワクチンを作ることはできない。そして、日本国民全員にワクチンを作るためには半年以上の時間を要する。2009年のケースを振り返ると、新型インフルエンザが発生して2カ月以内で世界中に拡がったため、間に合わない可能性が高い。

では抗インフルエンザ薬はどうだろう。現在は、タミフルやリレンザ、イナビルなどの特効薬があり、季節性のインフルエンザには高い効果を発揮している。ただし、新型インフルエンザに対しても効くかどうかはわからない。

結局私たちにできるのは、手洗いなど日常生活における対策となる。飛沫感染という言葉があるが、実際は患者の咳やくしゃみで発生するしぶきを直接吸う人はほとんどいない。一番多いのは、咳やくしゃみでウイルスが飛散し、それがドアノブやスイッチ類を汚染し、それを触った人が同じ手で食事をすることによって口からウイルスが入ってくるというケースだ。

そういう意味では、手洗いは新型インフルエンザ予防に非常に有効な手段であると言える。幸いなことに、石鹸を使ってしっかりと手洗いすれば、ほとんどのウイルスが除去されることは実験でも確認されているのだ。


●手洗いに必要な時間は、たったの30秒?




「しっかりと手洗いする」とは時間にするとどれくらいだろうか。

実験によると30秒でほとんどのウイルスが除去されることがわかっている。意外と短いと思った人もいるかもしれないが、実際には、30秒間も手を洗うと驚くほど長く感じるものだ。ある実験では、小学校・中学校・高校の手洗い場にビデオカメラを設置して手洗い時間を調べたところ、なんと平均2秒であることがわかった。10秒手を洗うだけでもかなり長く感じる人がほとんどだろう。

手洗いが有効とは言え、実際にはほとんどの人が30秒も時間をかけていない。つまりウイルスがついたままの手で食事をしている。手首に残っているウイルスも、実は食べ物の上にポロポロと落ちているのだ。

もし、30秒間の手洗いを行うようになれば、恐らく新型インフルエンザの発症率は10分の1程度にまでなるだろう。たかが手洗い、されど手洗い。新型インフルエンザの流行に備えて、普段から「正しい手洗い」をしておきたいところだ。

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