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2016.11.29

ASKA再び――何故、手を染めてしまうのか。覚醒剤 その恐怖のメカニズム

覚醒剤

Kindai Picks編集部

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覚せい剤
オリジナル記事
コラム
健康

2014年に覚醒剤を使用した罪などで有罪判決を受けた歌手のASKAが、再び覚醒剤使用容疑で逮捕された。
高知東生、酒井法子、そして清原和博…。各界の成功者たちをも魅了し、破滅に導く覚醒剤とはいったい何なのか。その恐るべき実態について、近畿大学医学部の中尾慎一教授と、薬学部の川畑篤史教授に聞いた。

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【PROFILE】


京都大学医学部医学科を卒業、同大学院医学研究科の博士課程を修了。その後、京都大学医学部附属病院、自治医科大学附属病院、スウェーデン国ウプサラ大学留学、関西医科大学附属病院麻酔科、神戸市立中央市民病院などを経て、2010年に近畿大学へ。専門は臨床麻酔全般、集中治療医学。



近畿大学薬学部薬学科を卒業、同大学院薬学系研究科を修了。その後、カルガリー大学への留学を経て、1998年に再び近畿大学へ。日本薬理学会学術評議員、日本疼痛学会評議員を歴任。2000年には日本薬学会近畿支部奨励賞、1998年にはAnnual Award 1998 of The Pharmacological Society of Canada を受賞。専門は病態薬理学。


人が人でなくなる。覚醒剤 その恐怖のメカニズム


――そもそも「覚醒剤」とは何ですか?



中尾:その名の通り精神を興奮状態にして覚醒させます。簡単に言うと「ハイになる」ということです。一方、モルヒネやヘロインは麻薬と分類され、精神の抑制作用を持っています。

川畑:「アンフェタミン」や「メタンフェタミン」といった成分を含むものを覚醒剤と言います。特に多いのはメタンフェタミンですね。

――麻薬・大麻と覚醒剤はちがうのですね。

中尾:覚醒剤は医療で使われることはありません。「メタンフェタミン」は、ナルコレプシーという睡眠異常には一応使用できますが、管理が厳しく、最近は他にもっと良い治療薬があるためほとんど使用されていません。

一方、麻薬取締法で管理されているモルヒネやフェンタニルなどの強オピオイドは、術中・術後の鎮痛目的を含め鎮痛薬として医療で使用していますが、痛みのある人には依存が起きないといわれています。痛みは交感神経活動を活性化し生命予後や免疫能を低下させるだけでなく、Quality of Life(生活の質)やActivities of Daily Living(日常生活動作)を下るため、これを取り除いたり軽減させることが必要です。特に、手術による激痛には強オピオイドの使用が必要になりますが、われわれ医師が正しい知識と厳しい管理下に使用しています。

また、大麻はヨーロッパやアメリカの多くの州で医療用の使用が可能で、嗜好用の大麻が解禁されているところもあります。しかし、幻覚や妄想を引き起こし、学習能力を低下させ、依存性もあるので、正しい知識を持ち合わせていなければ非常に危険です。なお、日本では医療用も含め大麻の使用は全く認められていません。

――覚醒剤を使用すると、どうなるのでしょうか?

川畑:脳には「報酬系」という神経の働きがあるのですが、そこが刺激されて気持ち良くなります。

もう少し詳しくご説明しますと、何か嬉しいことなどがあると、脳の「腹側被蓋野(ふくそくひがいや)」というところから「側坐核(そくざかく)」まで伸びている神経が興奮し、その結果ドーパミンが分泌されます。一方、覚醒剤の成分はダイレクトに側坐核の神経末端に働きかけ、強制的にドーパミンを分泌させることで強烈な快感を発生させます。麻薬やアルコールも間接的に同じような作用がありますが、覚醒剤はその程度が全く異なります。

実は統合失調症もこれと同じメカニズムで、報酬系の働きが過剰になってしまい、幻覚などの症状が現れます。総合失調症のお薬はそこの神経が働かないようブロックする効果があるので、覚醒剤による興奮症状を一時的に治めるのにも使用されます。

――劇薬のようですね。

中尾:そうです。それでも使い続けていると体がだんだん慣れてくるので、同じ量では快感がなくなっていき、使用量が増えたり、吸引から注射へと使用法をより強めたりすることにつながります。

また、使い続けていくうちに、幻覚症状が現れるようになります。例えば、壁のシミが人の顔に見えたり、体中を虫が這っているように見えたりします。効果が切れた時には、ひどい不快感や疲労感が出ますし、鬱のような症状が出て自殺をしようとしてしまうことも…。他にも、大脳の神経細胞が死んでしまうことによる記憶力の低下やボケ症状、心臓の血圧上昇や心不全、眼の視神経異常や眼底出血による失明、脊髄での赤血球の形成異常、歯が抜ける、骨がボロボロになる、幻聴が聞こえるなど、挙げればキリがありません。場合によっては死に至ることもあります。

川畑:常同行動といって、同じ行動をひたすら繰り返すこともありますね。例えば、マウスに覚醒剤を投与する実験を行うと、そのマウスは首を上げたり下げたりすることを延々と繰り返す行動が見られます。

中尾:本人の体が蝕まれていくだけでなく、車を運転して事故を起こし、他の人まで傷つけてしまうことも…。人が人でなくなってしまう。それが覚醒剤なのです。


その一回が命取り。覚醒剤依存に効く薬はない。


――覚醒剤を使うことで頭がさえるというのは本当ですか?

川畑:眠気がなくなるといったことはありますが、本人は目がさえているように感じているだけで、周りから見たらフラフラで支離滅裂なことを言い、同じ行動を繰り返しているだけということがほとんどです。

よく「勉強のために…」という話を聞きますが、実際は薬のことしか考えられなくなり勉強どころではありません。本人にとっては覚醒剤が一番大事で、そのためならなんだってやる、それ以外はどうでもいいという状態になってしまうのです。

――「一度手を出すとやめられない」のはなぜですか?

中尾:単に気持ちいいから、というのもありますが、覚醒剤の場合は最初に打った時の快感が鮮明に残るメカニズムがあるのです。

川畑:まず、薬物などの依存性には「精神的依存」と「身体的依存」がありますが、覚醒剤には精神的依存しかありません。麻薬中毒やアルコール中毒になると、それなしでは体が震えるといった禁断症状が出ますが、覚醒剤の場合はそういったことはないというのも大きな特徴です。 

しかし、この精神依存にはものすごく「逆耐性」があり強力です。逆耐性というのは、一定期間あけてから再度使うと、効果が強くなるという意味です。例えば、毎日タバコを吸っている人にとってはタバコはあまりおいしいものではありませんが、1週間禁煙してから吸うタバコには格別のおいしさがあると言います。それと同じようなものですね。実際、しばらく日数を置いてからネズミに覚醒剤を投与すると、興奮して動き回る距離が長くなります。

――覚醒剤を一旦やめても、そこから時間が経てば経つほど、次に使用した時の快感は増すということですか?

川畑:そうです。逆耐性は一生消えることがありません。この快感が戻ってくることを「フラッシュバック」と言うのですが、恐ろしいことに覚醒剤を使わなくても、お酒やストレスなどによって報酬系が活性化されてフラッシュバックが起き、「覚醒剤を使った時の快感」が蘇ってしまうことがあります。

この性質が、覚醒剤の再犯率を高めています。警察庁によると、平成26年に覚醒剤で摘発された人のうち、再犯者は64.5%を占めていたそうです。

――有名人が手を出してしまうのは何故でしょうか?

川畑:覚醒剤を使うことでパフォーマンスが上がることはありませんが、「上がった気になる」ということはあり得ます。普通の人よりプレッシャーがあるため、行き詰まった時などに使用してしまうということも考えらなくはないですね。借金地獄に陥ってしまった人が、現実逃避で覚醒剤に手を出してしまうケースもよくあります。

いずれにせよ、麻薬などは上手く治療すれば中毒から脱することができますが、覚醒剤は脳の仕組み上、快感を記憶し続けてしまいますし、それを治す薬もありません。麻薬ももちろんですが、特に覚醒剤は絶対にやめた方がいいですね。

中尾:どんな人でも、1回使ったら次も絶対に欲しくなりますし、手に入れられる状態にあれば、間違いなく我慢できないでしょう。たった1回の使用が、常習の始まりなのです。

――厳罰化を求める声も挙がっています。これについてはいかがお考えでしょうか?

川畑:刑の厳罰化が解決策だとは思いません。それよりも覚醒剤中毒者が有罪となった場合に、初犯の場合は執行猶予が付くようですが、その後の再犯を予防するため、中毒から回復するための公的な施設を設立して、一定期間入所することを義務付けるなどの対策が必要だと思います。民間の施設に頼っているだけでは、特に、低所得の中毒者の再犯を防ぐことは不可能です。

中尾:覚せい剤を含めた違法薬物の薬物耽溺は法律違反ですが、違法でない薬物にも耽溺性があります。一旦薬物に耽溺してしまうと肉体的にも社会的にも破滅をもたらすということを周知徹底させ予防するとともに、逆に薬物耽溺は脳に記憶が出来てしまう(報酬系の活性化)一種の病的状態であり、厳罰化だけでなく、罪を償ったならば適切な治療を行い、もう一度チャンスを与え社会復帰をさせる体制を整えることも重要だと思います。

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