2020.01.20
魚のEPAが「冷え症」に効く?東洋医学と西洋医学の両面からみた予防&改善法
- Kindai Picks編集部
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日に日に寒さが深まり、冷えによる不調を感じている方も多いのではないでしょうか? 冷えがひどくなると「冷え症」へと進むことがありますが、その症状は実にさまざま。なかには、深刻な病気のサインである可能性もあり、注意が必要です。そこで今回は、東洋医学と西洋医学の両面から診療を行う近畿大学東洋医学研究所所長の武田卓先生に、冷え症の予防法や対処法について詳しくお伺いしました。
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武田 卓(たけだ たかし)
医師/博士(医学)/近畿大学東洋医学研究所所長/同女性医学部門教授/東北大学医学部産婦人科客員教授
1987年大阪大学医学部卒業、1995年大阪大学院博士課程修了。日本産科婦人科学会専門医・指導医、日本内分泌学会内分泌代謝科指導医・(産婦人科)専門医、日本女性心身医学会認定医、日本婦人科腫瘍学会専門医、日本がん治療認定医機構暫定教育医・癌治療認定医、東洋医学会専門医・指導医、日本産婦人科学会代議員、日本内分泌学会評議員、日本女性心身症学会評議員、日本抗加齢医学会評議員、日本思春期学会理事、日本女性医学会女性ヘルスケア専門医・指導医。
冷え症ってどんな病気? 原因は何?
――そもそも、冷え症は病気と考えていいのでしょうか?
性格の性の字を使った「冷え性」の場合はその方の体質みたいなものを指しますが、症状の症の字が入る「冷え症」は、それよりも段階が進んだ病気と考えていいと思います。しかし、これは東洋医学ならではの概念ですね。冷え症は日本人にはよく知られていますが、実は西洋医学では病気として扱われていません。欧米では、基本的に冷えという概念がなく、問題視されていないため、西洋医学で冷え症と診断されることはないんです。
――とくに症状が出やすい部位はありますか?
冷え症には大きく分けて3つのタイプがあります。ひとつは、手足の冷えが中心となる「末梢冷えタイプ」。もうひとつが、お腹まわりが冷える「お腹冷えタイプ」。そして、下半身に冷え、上半身にほてりが出る「冷えのぼせタイプ」です。
抹消冷えタイプ | 手や足に冷えを感じるタイプ。血のめぐりが悪くなり、心臓から離れた位置にある手や足の血流が悪化して起こります。 |
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お腹冷えタイプ | お腹まわりが冷えるタイプ。胃腸が弱い方や下痢をしやすい方によくみられます。 |
冷えのぼせタイプ | 下半身は冷えているのに、上半身がほてるように熱くなるタイプ。更年期障害の一症状として現れるほか、自律神経のバランスが乱れやすい方にもみられます。 |
――同じ環境でも、冷えを強く感じる方とそうでない方がいるのはなぜですか?
もともとの体質もあるでしょうね。血のめぐりが悪いと冷えやすくなるんですが、血流には筋肉量が深く関係しています。
血液を滞りなく全身に循環させるためには、筋肉の働きが不可欠。とくにふくらはぎの筋肉は第二の心臓とも呼ばれ、ポンプのように血液を上へ上へと押し戻すことで、血液が心臓に戻るようサポートしています。また、筋肉は熱も生み出します。だから、男性と比べて筋肉量が少ない女性のほうが冷えやすいと考えられ、女性の54.5%に見られると報告されています。
「手足が冷える」と自覚症状のある男女の比率
出典:厚生労働省「平成28年 国民生活基礎調査の概況」性・年齢階級・症状(複数回答)別にみた有訴者率(人口千対)
※有訴者には入院者は含まないが、分母となる世帯人員には入院者を含む。
※数値は熊本県分を除いたもの。
――血のめぐり以外に原因はありますか?
ストレスで自律神経が乱れることも関係しますし、ほかの病気が原因で冷え症になることもあります。食生活や運動不足などの生活習慣も、冷え症を増やす要因になりますね。冬に限らず、夏でもクーラーで冷えすぎたり、冷たいもののとりすぎで冷えたりもします。いまは、冷蔵庫があればいつでも手軽に冷たいものを一年中とれますし、冷え症の原因は昔に比べて多くなっているようです。ダイエットで食事を制限したため、必要な栄養が不足して冷え症につながることも考えられます。
――どんな治療が行われるのでしょうか?
「冷えがつらい」と診察に来られる方は、それぞれ背景や症状、原因が異なります。西洋医学だと、症状に対してアプローチしていきますが、東洋医学では症状ではなく「その症状を抱えたご本人全体」をみて治療をしていくんです。診察でも、患者さんの体質や個体差を重視して時間をかけて問診をしています。
その結果、漢方薬を処方することもありますし、更年期障害の症状として冷えが生じている場合は、ホルモン補充療法など西洋医学に基づいた治療を行うこともありますね。患者さん一人ひとりの状態やライフスタイルに合わせて、東洋医学と西洋医学の両方を考慮した治療を行っています。
※東洋医学では、症状に対する治療ではなく、なぜその症状が出ているのかを考慮したうえで患者本人に対して治療が行われる。その診断は、「舌の形状や色」「腹部の筋肉の緊張」「脈の流れ方」などに「気・血・水」のバランスを組み合わせるといった、西洋医学とは異なる方法に基づくもの。冷え症外来のある近畿大学東洋医学研究所では、西洋医学と東洋医学の両方の利点を生かした診療が行われている。
体の冷えを防ぐために意識したいことは?
――冷えを防ぐために、どんな対策を取り入れればよいのでしょうか?
なぜ冷えが起こっているのかを考えて、その要因への対策をとることでしょう。たとえば、抹消冷えタイプの方であれば、血のめぐりを促すために適度な運動を習慣づけることが大切。具体的には、ウォーキングやストレッチなどを、気持ちいいと感じるペースで行うのがおすすめです。
――足先が冷えてなかなか寝付けない方も少なくないと思います。靴下を履くなど、なにか対策はありますか?
靴下を履くのであれば、締め付けないものがいいでしょうね。血流が悪くなりますから。ただ、足から熱がうまく発散されず、睡眠を妨げてしまうかもしれません。寝る直前まで靴下を履いて寝るときに脱いだり、湯たんぽをうまく活用したりするのもいいと思います。外出中だけでなく、家でも首や手首、足首が出ない服装にすると冷えにくくなります。
――足用のカイロを使うのも有効ですか?
確かに、足用のカイロもありますね。ただ、カイロを使うのであれば、おへそのちょっと上のあたりに30分くらい貼るほうがいいかもしれないですね。肌に直接貼って大丈夫なものに限りますが、太い血管が通っているので全身が効率よく温まります。
――お腹冷えタイプの方が気を付けることはありますか?
冷たいもののとりすぎには注意が必要です。アイスクリームなど、みるからに冷たいものもそうですが、夏野菜もとりすぎると体を冷やします。
お腹冷えタイプの方に限りませんが、魚に含まれるEPA※には熱を産生する作用があるので、魚を意識して食べるといいと思います。たとえば、寒い所に住んでいるアザラシって魚ばかり食べてるでしょ? EPAをたくさんとっているから、うまく熱産生ができていると考えられているんですよ。
※EPA(エイコサペンタエン酸):高度不飽和脂肪酸の一種で、魚油に多く含まれる。体内では合成されにくいため、意識して食事から摂取する必要がある。
- 可食部100gに含まれるEPA含有量
- ● マイワシ(生):780mg
- ● 本マグロ(クロマグロ、生、脂身):1,400mg
- ● マサバ(生):690mg
- ● マダイ(養殖、皮つき、生):520mg
- ● ブリ(天然、生):940mg
――そうなんですか? 脂肪がたくさんあるから寒くないのかなと思っていました。
それもあるでしょうね。魚のEPAはいいですよ。近大マグロのトロにもたくさん含まれています(笑)あと、羊肉もいいですし、唐辛子やコショウ、ネギ、ニンニク、タマネギ、ニラなんかもいいですね。だから、ジンギスカンとか食べるといいでしょうね。
――ジンギスカンといえば北海道……確かに寒い地方ですね。寒さ対策で食べていたりするんでしょうか?
どうなんでしょう(笑)でも、羊肉があってタマネギがあって、ニンニクの入ったタレで食べて……あったまるでしょうね。もちろん、こうしたものを食べてすぐ冷えやすい体質が改善されるわけではありませんが、食生活の影響は少なくないですね。
――冷えのぼせタイプには自律神経が深く関わっているんでしょうか?
そうですね。ストレスや生活習慣の影響で自律神経が乱れて、冷え症につながることがあります。夜更かしや休日の寝だめなどで生活のリズムが不規則になったり、睡眠を十分にとれなかったりすると、自律神経が乱れやすくなるので注意が必要です。更年期障害で冷えのぼせが出ている場合は、更年期障害に対する治療を行うことで症状をおさえていきます。
――湯舟にゆっくり浸かるのも効果的ですか?
寒い日にぬるめのお風呂にゆっくり浸かると、リラックスできますよね。ただ、温度変化には気を配る必要があります。とくに、熱いお湯に浸かってすぐ寒い脱衣所に移動すると、急な温度変化に対応できず自律神経が乱れやすくなります。できれば、脱衣所を暖めておくといいですね。
なかには注意が必要な冷え症状も!
――東洋医学では冷え症以外の症状もみて治療するとのことですが、注意が必要な症状はありますか?
足の冷えと同時に歩くと痛みが出る場合は、すぐに病院を受診してください。閉塞性動脈硬化症といって、動脈硬化によって血管が狭くなり、血流障害を起こしているときに生じます。とくに、高齢の方や喫煙習慣がある方、糖尿病を患っている方は注意が必要です。
――足の痛みだと整形外科を受診してしまいそうですが……
血流障害なので、循環器系の診療科がある病院ですね。あとは、うつ病が原因で全身に冷えが生じることもあります。症状が重い場合は、メンタルヘルス専門医の受診をおすすめしています。
――冷え症は治りますか?
環境が変わると症状が出なくなることもありますし、治療によって改善される方もいらっしゃいます。更年期障害に対するホルモン補充療法もそうですし、高齢で筋肉量が減っている方に漢方薬を処方したところ、活動的になって筋肉量が増え、冷え症の症状が出なくなったケースもあります。
生活習慣をいきなり変えるのは難しいかもしれませんが、意識して体を動かすことで筋肉量を増やしたり、冷たいもののとりすぎを控えたりと、身近な対策から始めてみてはいかがでしょうか。これからますます寒さが深まりますし、もし冷え症状が続いてつらい場合は病院で相談してください。とくに、冷え症のような病気では、東洋医学の考え方が有効な手段になると思います。
(終わり)
取材・文:藤田 幸恵
イラスト:九月タロウ
企画・編集:人間編集部
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