こんにちは! 近畿大学広報室でインターンをしている、総合社会学部 総合社会学科 社会・マスメディア系専攻 3年の横田真由子です。
突然ですが、皆さんには「ついつい集めてしまうもの・買ってしまうもの」ってありますか?
私にとっては、「推し
※のグッズ」がまさにそれ!
※推し:特定の人物やキャラクター、作品などに対して、熱心な支持や愛情を示す行為やその対象を指す言葉。
買うものを決めていても、購入のタイミングでほかのものも欲しくなり、予定よりもたくさん買ってしまうことが多々あります。
「また買っちゃったけど、まあいいか」を繰り返していると、グッズ置き場は飽和状態に……。推したちよ、綺麗に飾ってあげられなくてごめん! 許してくれ!
自室の一部。ゲーム『アイドリッシュセブン』や 『Collar×Malice』のグッズなどを、無理やり詰め込んで置いている。お気に入りは、白いタキシードを着た六弥ナギのグッズ。
公式のグッズだけでなく、推しに関係するものを集めるために、遠出することもよくあります。
最近、私がいちばんハマっているのが『刀剣乱舞 ONLINE』
※。推し刀は「へし切長谷部」です! 先日、京都の建勲神社で「へし切長谷部」と書かれた御朱印と御朱印帳が手に入ると知って、自宅から電車で2時間、そこからさらに徒歩で30分かけて行ってきました。
※刀剣乱舞ONLINE:PC版ブラウザゲーム・アプリゲーム。日本刀を男性に擬人化(ゲームでは付喪神という設定)した「刀剣男士」を収集・強化する刀剣育成シミュレーションゲーム。
決して短い距離ではありませんでしたが、道中はずっと「へし切長谷部」のことを考えていたので、楽しくて仕方がありませんでした!
神社には『刀剣乱舞 ONLINE』のキャラクターグッズも飾られていました。織田信長公を祀る神社のため、信長公と関係の深い刀剣男士も。(左)
「お写真撮ってもいいですか?」とお聞きすると、神社の方が「長谷部くんもいますよ」と、ぬいぐるみを出してくれました。(右)
しかし、ふと我に返ると、なぜ毎月のアルバイト代から必死に費用を捻出したり、時間をかけたりしてここまでグッズを買っているのか、自分でも理解できないんです! 集めたい衝動を抑えきれていないのって私だけなんでしょうか? 誰か教えてくださいー!
と、悩んでいたところ……
友人が「それって、行動経済学が関係しているかもしれないんだって!」と教えてくれました。
なんと!! それなら専門家に聞いてみるしかない!
というわけで、行動経済学を専門に研究されている、佐々木 俊一郎先生にお話をうかがいにやってきました!
行動経済学ってなに?
佐々木 俊一郎(ささき しゅんいちろう)先生
経済学部 経済学科 経済心理学コース
専門は行動経済学・実験経済学。不覚実性が存在する状況(投資やギャンブル、将来の消費計画など)において、心理的な要因が経済的な決定にどのように影響を与えているかについて実験やアンケートを実施して研究しています。
教員情報詳細
横田真由子
先生、本日はよろしくお願いいたします!
横田真由子
そもそも「行動経済学」とは、どういうものなんですか?
佐々木先生
私たちは毎日経済的な決定をしています。例えば、お財布のなかの現金のうち、いくらを昼食に使って、いくらを明日以降の消費のためにとっておくか……。そしてそれは、心理的な要因に影響されることがあるんです。
横田真由子
それって、お昼ご飯を選ぶときに、「最近カレーを食べていないから、今日はカレーにしよう」と思うことでしょうか?
佐々木先生
そうです。さらに、「カレーと思っていたけど、メニューを見たらラーメンにしちゃった」ということもありますよね。行動経済学とは、心理学の研究成果を経済学に応用することによって、心理的要因が経済的な決定にどのような影響を与えるのか、研究しています。横田さんが自分では理解できない行動も、行動経済学のなかでの重要なテーマと関係している部分が多くあります。
横田真由子
そうなんですか!? 詳しく教えてください!
計画を無視して「ついつい買っちゃう」理由とは
横田真由子
買うと決めていたもの以外を買ってしまったり、今月は経済的に厳しいことがわかっていても買ってしまったりすることが多いのですが、どうしてなんでしょうか?
佐々木先生
今話してくださった2つの行動は、衝動的な消費ですよね。
横田真由子
衝動的…!! たしかにそうかもしれません!
佐々木先生
そもそも、私たち1人1人にとって最適なお金の使い方というのは、本来決まっています。例えば、毎月の収入のうち、住居費、食費、趣味のための消費、将来のための貯蓄や投資にそれぞれいくらまわせばよいかという計画を立てますよね。しかし実際に買い物をするときに、作った計画を無視して、ついつい衝動買いをしてしまう。
横田真由子
私の場合は、買わないと決めた自分の計画を完全に無視していますね。
佐々木先生
どうして計画を無視してしまうのか、そしてそれをどうやって防ぐのかを考えるのも行動経済学では重要なテーマです。なぜ計画通りにいかないのかが、よくわかるテストがあるので試してみましょう。
テストにチャレンジ!
佐々木先生
では1つ目。2択の問題に2回答えてもらいます。
佐々木先生
それでは、次の場合ではどうでしょうか?
佐々木先生
ですよね! 横田さんと同じように(a)は2番、(b)は1番を選ぶ人は多いです。
佐々木先生
これは、遠い将来のことについては冷静に計画が立てられるものの、近い将来については目先の小さな利益を優先させることが確認できるテストなんです。
横田真由子
去年の春休みに、旅行しようと計画を立てていたんですが、グッズにお金を費やしすぎて行けずじまいでした。
佐々木先生
まさに、推しのグッズという目先の小さい利益がすごく大きく見えていた例ですね。ではもう1つ。
横田真由子
(a)は2番で、(b)は3番ですね。8月の頭には終わらせるつもりが、実際は8月の後半に終わっていました……。
佐々木先生
「当初立てた計画を実行することよりも、目先のものが魅力的に見えたり、誘惑に負けてしまうことで計画が実行できない」ということですよね? これを行動経済学では「時間非整合的な行動」と言います。例えばダイエット。計画を立てても 美味しそうなスイーツが目の前にあれば……?
佐々木先生
そうなると、なかなかダイエットの計画が実行できないかもしれない。経済的な決定には、時間が関係していることが少なくないため、時間非整合的な選択をしてしまう可能性が多くあります。つまり「買う予定のなかった推しグッズを衝動買いしてしまう」という現象は、まさに時間非整合的な選択によるものだと思います。
横田真由子
では、時間非整合的な選択をしない人は、計画通りに物事を進められるのでしょうか?
佐々木先生
なかなか難しいのが事実です。ただ、時間非整合的な選択をしてしまいがちな人の方が肥満の傾向が強かったり、薬物中毒やギャンブル依存、多重債務などに陥る傾向が強いという研究結果もあります。
横田真由子
大きなトラブルに繋がりかねないんですね。そうならないように気を付けないと!
人は購入前に価値とコストを天秤にかけている!
横田真由子
推しがコラボした商品もつい買ってしまいます。これは期間限定でリプトンと好きな作品がコラボしたときの写真です。普段は2週間に1度飲む程度ですが、期間中は多いときで1日2本に増えました。
『アイドリッシュセブン』のキャラクターが描かれたパッケージ。全9種を集めるために、近所のコンビニやスーパーを駆けずり回りました。
佐々木先生
なるほど……。そもそも人が商品を購入するときは、その商品を購入したときに感じられるベネフィット(価値)と、それを手に入れるためのお金などのコストを天秤にかけています。天秤にかけた結果、ベネフィットの方が大きければ買い、コストが大きければ買わない。単純にそれだけなんです。
横田真由子
衝動的に買っているのかと思ったら、実はコストとベネフィットをちゃんと天秤にかけていたなんて……。
佐々木先生
コラボパッケージは、その作品を好きな人にとって価値が高い。横田さんが感じるベネフィットが大きくなり、普段はかけないコストをかけてたくさん購入したということです。
横田真由子
もしかして「グッズを見たときはいつもより高揚しているから、冷静な判断ができていない」といった可能性もありますか?
佐々木先生
そうですね。落ち着いている状態なら天秤にかけられたけれど、推しグッズが魅力的に見えて、ベネフィットが急上昇して冷静な判断ができない……みたいなことはあるかもしれません。
横田真由子
もう少し正常な意識を持ってたら、立ち止まれたことも多かったのかも……! そういえば、グッズを買うために遠出したり、長蛇の列に並んだりすることもあるんです。最近は好きな刀のために遠出したんですけど……。
横田真由子
はい! ゲームから刀にハマって、その刀の名前が入った御朱印帳と御朱印を手に入れるために神社まで片道2時間半かけて行きました。
佐々木先生
2時間半……すごいですね。お金だけでなく、時間もコストです。時間と価値を天秤にかけた結果、価値の方が高く感じられて足を運ぶという選択をしたんですね。
横田真由子
時間がかかっても道中ずっと楽しかったので、相当価値が大きかったということですね!
ランダム商品を買うのは、当たる確率を大きく見積もってしまうから!
横田真由子
先生、ほかにも困りごとがありまして……。ランダム商品もついつい買ってしまうんです。買って開けるまで、自分の推しが当たるかわからないのですが……。
ランダム商品のパッケージ。トレーディングカードやカプセルトイなどと同じように、開けてみるまで中身はわからないようになっている。複数の絵柄があるなか、自分の推しを引き当てられるかは開けるまでのお楽しみ。
横田真由子
はい!!! この写真の右側にある四角い缶バッジやカードがランダムの商品でしたが、推しが出る可能性を上げようと結構買ってしまい、会計が1万円近かったです……。
オトメイトのゲームソフト『Collar×Malice』のグッズ。ちなみに推しは白石景之。
佐々木先生
それは狙っていたものがうまく当たるんですか?
横田真由子
いえ!! 圧倒的にダメなことの方が多いです! でもこの前は奇跡的に欲しかったカードがすぐ当たりました!
横田真由子
19分の1でした。当たったときの嬉しさを知ってしまっているから、懲りずについ買ってしまうんです。
佐々木先生
それは、プロスペクト理論と関係があるかもしれません。19分の1というのは、確率的にはかなり少ないですよね。でも、人間というのは、小さい確率をすごく大きく見積もってしまうんです。例えば宝くじ。1等当選なんてとてつもなく小さい確率だけど、「言われているよりも当たるんじゃないの」と思って、つい買ってしまいますよね。
横田真由子
そうです! なんだかんだ当たるやろと思って買っていました!
買うことを我慢するには自分の行動を縛る!
横田真由子
ついつい買ってしまうことや、衝動買いの対策はなにかありますか?
佐々木先生
まずは、自分が目先の小さい利益に惑わされやすいということを、自覚することが大事です。
横田真由子
たしかに……! 計画を無視して目先の利益を優先させていたとか、ベネフィットとコストを天秤にかけてから購入していたとか、知らないことだらけだったので、知って理解するというのは大事だと感じました!
佐々木先生
その上で、 自分の立てた計画を守る必要があるのであれば、計画を立てた時点で自分の行動を縛る「コミットメント」の仕組みを準備しておくことがいいかな。メンタルアカウンティングの仕組みを利用した手段を1つお伝えします。
横田真由子
新しい言葉! メンタルアカウンティングってなんですか?
佐々木先生
日本語では「心の家計簿」と訳されます。同じ金額でもお金を使う目的や、稼いだ方法によって、無意識にお金の重要度を分類してしまう心理現象のことを言います。このテストもやってみましょうか。
メンタルアカウンティングのテストにチャレンジ!
横田真由子
2番の場合だとすぐに5000円を出すのは難しいかも。1番の方が買いやすいです。
佐々木先生
そうですよね。実際にテストをしてみると、1番の方が買いやすいと答える人の方が多いんです。
佐々木先生
2番ではライブ予算、つまりライブのメンタルアカウンティングのうちから、もう5000円は出してしまった状況なので、 すでに5000円が少なくなっています。
横田真由子
2番のときは、「もう5000円払ってるからなあ」と思いました!
佐々木先生
ということで、どちらかというと2番の方が買いにくい。 1番の5000円はまだライブのメンタルアカウンティングからは出ていないお金なので、払いやすいのだと思われます。
横田真由子
では、メンタルアカウンティングをどのように利用するんですか?
佐々木先生
原始的なことではありますが、推し活に使う予算枠をあらかじめ決めておくというものです。例えば、毎月の推し活予算を1万円と決めて、その枠内で推し活グッズの消費を行う。
横田真由子
1万円という枠を作ることがメンタルアカウンティングを作ることになり、それが自分を縛ることになるんですね。
佐々木先生
毎月決めた額を封筒に入れておき、推し活グッズはその封筒の現金からしか使わないようにすれば、より効果的です。それでも自分だけでは守れない人は、「私は月〇円しか使わない」と周りに公言し、自分の行動を監視してもらうことも有効かと思います。
横田真由子
仮に両親に監視されている状況を想像すると……。守らなきゃ、と思えてきますね……。
佐々木先生
ですが、そもそも人間は全ての決定を合理的に行うのは難しいのです。経済学の教科書のように、全てコストとベネフィットを天秤にかけて商品を選んで、なおかつ将来の消費計画をちゃんと守って、とはなかなかならないよね、というのが行動経済学です。
横田真由子
ということは、パターンは違えど私と同じようなことをしている人は意外といるんでしょうか?
佐々木先生
いると思いますよ。振り返って後悔するほどだったら、事前に自分の行動を縛ることが必要かもしれません。でも、のちのち困ったことにならなければ、このままで大丈夫だと思いますよ。
横田真由子
本当ですか!? じゃあ問題ない範囲で楽しみつつ、末永く推し活が続けられるように、反省すべきところは改めていこうと思います。
横田真由子
ちなみに先生にはついつい買っちゃうものってあるんでしょうか?
佐々木先生
趣味に関するものなんかだと、そうなってしまいますよね。今はランニングが趣味なので、似たようなシューズが2つ3つあったりします(笑)
横田真由子
先生も私と同じようについ買ってしまうものがあることが知れて嬉しいです。
本日はありがとうございました! 楽しかったです!
「ついつい買ってしまう」は仕方がないことだった!
まずは…。
やったー! 私だけじゃなかったーー!!
ですが、バイト代のほとんどをグッズに費やしてきたことも事実。今回の取材で自分の行動の理由は理解することができたので、今後の生活で困ることがないように、「稼いだ分全額使う」のはやめようと反省しました。
今回先生にお話をお聞きしたことで、知らなかったことをたくさん学べました。
まず、グッズを買うときに実はたくさん考えて判断していたというのが驚きでした! なにも考えずに買い物をしていると思っていたけど、頭は働いていたんだなあ……。
そうやってたくさん考えているけれど、人間は合理的には判断できないから、グッズを手に入れることを優先してしまう。「経済学で語られているようにはうまくいかない」からこその行動経済学というのも大変興味深かったです。やはり人間の行動は一筋縄ではいかないものなんですね。
これからも推しのグッズを集めていけるように、程よく自分に制限をかけつつも、全力で推し活を楽しんでいこうと思いました!
この記事を書いた人
横田 真由子(よこた まゆこ)
近畿大学 総合社会学部 総合社会学科 社会・マスメディア系専攻 3年生。近畿大学 広報室でインターンシップ中。
好奇心旺盛で推しがたくさんいる。最近は刀剣を見に行くことにはまっており、そのための旅行を計画中。行きたい舞台のチケットが当たらないことに悩んでいる。
編集:
人間編集部