自転車は環境にやさしく、子どもから大人まで手軽に利用できる乗り物です。日常生活にレジャーにとまさに生活必需品ともいえますが、2026年4月から自転車に関する法律が大きく変わります。
近大構内の駐輪場
大阪府は、1世帯当たりの自転車保有台数が全国1位(※)です。近畿大学でも自転車通学をする学生は多く、キャンパスのメイン駐輪場は約2,800台、そのほか2カ所の駐輪場を合計すると約4900台もの駐輪場が埋まるほど、自転車の利用者が多いのです。
※2021年度 ⾃転⾞保有並びに使⽤実態に関する調査報告書(一般社団法人 自転車産業振興協会)より
大きく法律が変わるのは、これまで自動車やバイクにしか適用されていなかった「交通反則通告制度(通称:青切符)」が、自転車にも導入されることです。違反内容によって反則金が科せられます。対象となるのは16歳以上。学生だからといって甘えは許されない今回の法改正、「知らなかった」では済まされないようです。
何が違反行為になるのか?反則金はいくら?なぜルールが変わるの?
法学部法律学科の辻本典央教授に詳しく教えていただきました。

辻本 典央(ツジモト ノリオ)
近畿大学法学部法律学科 教授
専門:刑事法一般(主として刑事訴訟法)
犯罪捜査、刑事裁判(裁判員裁判を含む)、再審問題。海外の刑事法制度(特にドイツ)。犯罪者処遇に関する問題に精通。
教員情報詳細
自転車に「青切符」ってどういうこと?
ーー自転車にまつわる法律が変わるというニュースが流れていますが、大きな変更点を教えてください。
辻本先生
道路交通法が一部改正され、「自転車にも青切符(交通反則通告制度)を導入する」という点が新しいルールです。青切符は、これまで自動車やバイクにしか適用されてこなかったものですが、16歳以上のすべての自転車利用者に適用されるようになります。高校生や大学生も含まれますし、車の運転免許の有無に関わらず適用されます。2026年4月からは正式に「反則」として処理され、反則金を納めなければなりません。その意味を、しっかり理解しておく必要がありますね。
ーーそもそもですが、自転車の交通違反にはどういうものがあるのですか?
辻本先生
まず、重大な違反として、いわゆる「赤切符」があります。飲酒運転などの重大な違反に対して、自動車やバイクと同じように裁判を経て刑事罰を受けるもの。罰金や、場合によっては拘禁刑を受けることもある厳しい処分です。これは、これまでも法改正後も変わりません。
もう一つが今回導入される「青切符」。正式名称は「交通反則告知書」で、青い紙のためこう呼ばれています。自転車の二人乗りや信号無視、スマートフォンを操作しながらの運転など、飲酒運転ほど重大ではない違反が対象です。改正後は「青切符」が切られ、自動車の違反と同じ扱いになるわけです。
ーー免許証がいらない自転車なのに?
辻本先生
運転免許証の有無は関係ありません。16歳以上の違反者はすべて対象になるうえ、対象になる違反行為は100以上ありますから、安易に考えてはいけませんね。
知っておくべき違反内容と反則金
ーーついうっかりやってしまっていたことも違反になるんですね。それにしても、スマホ運転の反則金は、ずいぶん高額ですね。
辻本先生
スマホを見たり音楽を聴いたりというのは、やりがちですが、「ちらっと確認しただけ」「これくらいなら事故をおこさない」という軽い気持ちが、一番危険なのです。スマホ使用に限らず、ここにあげた項目は従来もやってはいけないことだったんですよ。
ーーたしかにそうですね。でも厳しいなと思ってしまいます。
辻本先生
一つ一つの項目を見ていくと、すべて安全のためなんです。「信号のない交差点での一時不停止」や「歩道通行中の歩行者接触」は、事故につながりやすいし、「無灯火」は自動車や歩行者に自分がいることを知らせるという目的が果たせません。「並走」や「二人乗り」も、つい話しこんだり、ノリでやってしまうかもしれませんが、自分だけでなく周りを巻き込む事故につながる可能性があります。
これまで自転車の違反は注意や指導で済まされてきましたが、それでは実効性が低かったんですね。交通ルールは、命を守るための約束ごとです。罰則があることで、社会全体の安全意識が底上げされます。つまり、新しい制度は、「罰するための法改正」ではなく、「守るための社会の仕組みづくり」ともいえます。
ーー自転車だから大目に見てもらえる、というこれまでの甘い認識を改めないといけないんですね。
辻本先生
事故を起こすと本人が一番傷つきますから。一人ひとりがどう自転車と付き合うか、しっかり考えないといけませんね。
もし違反をしてしまったら、どうなってしまうの?
ーー気をつけて走るつもりですが、もし違反してしまって青切符が切られたら、そのあとはどうなるんでしょうか?
辻本先生
違反を確認されると、警察官から「交通反則告知書(青切符)」が交付されます。そこには違反の内容と反則金額が記載されています。内容を確認したらサインをして、記載されている反則金を、青切符を受け取った翌日から原則7日以内に銀行や郵便局などで納付します。納付すれば刑事処分なしで終了します。
ーー反則金を払うのは、イタイですね。
辻本先生
反則金というのは、行政上の罰であって、刑罰ではありません。だから前科もつきません。言い方を変えると、裁判をせずに進められるけれども、違反をしたことは自覚してもらう、相応の痛みとして反則金を払ってもらう、という解釈ですね。
納付しなかったり、同じ違反を繰り返したりする場合は、厳罰対象となるケースもあります。
法律が変わる背景にある深刻な現実
ーー今回、なぜ法改正が行われたのでしょうか。
辻本先生
15年ほど前から交通事故そのものは減っているのですが、自転車が関係する事故は年間約7万件前後で推移しています。このうち死亡・重傷事故の約4分の3は、自転車側にも法令違反が確認されています。特に、歩行者との接触事故では自転車が加害者になるケースが増えていますね。
ーー報道でも自転車の事故を目にすることが増えましたね。
辻本先生
報道されるのは大きな事故の場合だと思います。車の場合は自賠責保険(自動車損害賠償責任保険)への加入が法律によって強制されていますが、自転車は保険加入が原則任意です(大阪府など条例による加入義務がある自治体あり)。だから、加害者が保険に入っていなければ、被害者が賠償を求めて裁判になることが多いのです。実際に、加害者が一生かかっても支払えないほどの高額な賠償金の判決も出ています。そのため、被害者の救済が社会的に問題になっているのです。
ーー自転車でスピードを出して走っている人も見かけますし、ヒヤッとすることもありますね。
辻本先生
自転車の種類が増えていますからね。電動アシスト付きの自転車の増加や、ロードバイクのブーム、自転車の形をしていながら原付扱いになるものもあります。これだと本当にスピードが出てしまいます。まちなかで気軽にレンタルできる自転車もあるし、自転車ではありませんが、電動キックボードなんかも危ないなぁと思うことはありますね。
ーー車と同じように自転車も取り締まるんですね。
辻本先生
取り締まるというより、乗る人も乗らない人も安全のためにルールを守ろうというものです。自転車のルールは元々あるもので、違反した時の手続きが変わるというだけなんです。
ーー自転車のルールって、きちんと習った記憶がないのですが…
辻本先生
親御さんから教わることが多いと思いますが、小学生の頃に、地域の警察署から警察官が来て、交通安全教室とか自転車指導とかなかったですか?
ーーそういえば……。
辻本先生
車の運転免許と違って、自転車に乗るのに資格はいらないし、年齢制限もありませんから、ルールの認識度は必ずしも高くないかもしれませんね。でも例えば、目の前を自転車が猛スピードで通り過ぎた時に、ぶつかってはいないけれど転んでしまった場合、「交通事故」となる場合があります。そうすると、歩行者側からも安全を求める声は高まってくると思います。今回の法改正は、乗る人、乗らない人、両方に関わってくるんです。
ルールが変わる前に、今日からできること
ーー法施行を待たずに今すぐやっておくことがありそうですね。
辻本先生
そうですね。自身の安全に関わることですから、今からすぐに行動してほしいですね。大切なのは、「知って、備えて、行動する」ことです。決して難しいことではありません。
ーー一方通行無視や歩道走行も、うっかりやってしまいそうです。
辻本先生
「一方通行」の標識の下に、「自転車を除く」と書かれている道は、反対方向に走っても違反にはなりません。ただし歩行者への配慮は必要で、すぐに止まれる速度で通ることが義務付けられています。
近大西門前の近大通り。一方通行標識に「自転車を除く」の表記
辻本先生
自転車は原則、車道通行ですが、「普通自転車歩道通行可」の道路標識や道路標示がある歩道は通れます。13歳未満、70歳以上、一定の身体障がいのある方、車道を走ると事故の危険があるなど、やむを得ないと認められる場合は歩道走行が認められますが、歩道の中央から車道寄りを徐行しながら通るのがルールです。歩行者の通行を妨げてはいけないということは、覚えておいてほしいですね。
各地で整備が進む自転車レーン
ーーたしかに歩道は歩行者を守るスペースですね。
辻本先生
注意していても事故が起きてしまうことはあります。ルールを守っているからといって、責任を免れるわけではありません。自転車と歩行者の事故は、たいてい自転車側が加害者になるから賠償責任を負うことになります。若い人が高額の賠償金を払わないといけなくなったら、一生が台無しです。保険に入ることは、加害者だけでなく、被害者にとっても安心材料になります。
ーー成果はすぐに出るんでしょうか。
辻本先生
今回の改正の実効性がどれくらいあったのかは、検挙数や事故の数などを検証しないとわかりませんが、効果があればそれでいいし、逆に事故の減少につながっていないなら、青切符以外に、例えば道路の自転車レーンを見直すとか、他の対策も必要になりますね。法律は作って終わりではなく、実情に合わせて見直すことも必要ですから、法律家として施行後も見守っていきたいですね。
みんながルールを守ることで安全な社会になる
ーーたくさんあるルールを覚えないといけないですよね?
辻本先生
繰り返しになりますが、決して新しいルールではなくて、これまでから気を付けていたことを改めて確認して、安全に自転車を利用することを最優先に考えればいいのです。
スマホやヘッドホンを使いながらの運転などは、「自分の勝手だろう」と捉えがちですが、自分が加害者にも被害者にもなる可能性があるわけです。どちらになったとしても、お互い嫌な思いをします。だからそうならないように、できる限りのことをしておきたいですね。
決して怖がるのではなく、安全運転のためのいい機会だと前向きに捉えていただきたいと思います。
取材を終えて
キャンパスの駐輪場に自転車を停めていた学生さんに聞くと「知らなかった」「変わることは知っているけど内容を知らないので、これから調べます」という声。ある学生さんは、「もう自転車に乗るのをやめようかな」とぽつりとつぶやきました。その気持ち、少しわかります。
でも、辻本先生のお話を聞いて、警察庁の資料を読むうちに、考えが変わりました。ヘルメットをかぶること、標識を見ること、車道を走ること、どれも「新しいルール」ではなく、もともと安全のために定められていた、当たり前のこと。その一つひとつに、理由と意味があります。
新しい法律は、罰するためのものではなく、私たちの安全を守るためのもの。青切符の導入は、違反を減らすための取り締まりではなく、自転車をより安全に利用するための仕組みづくりの一環です。これをきっかけにルールを学び直して、気持ちよく自転車ライフを楽しみたいと思います。
大阪府布施警察署監修のもと、「自転車に関する道路交通法改正」の啓発動画も公開中!!
≫自転車の交通違反への「青切符」制度の開始について|大阪府警本部はこちら
この記事を書いた人
松田 きこ
編集者兼ライターとして、知識人や文化人、経営者など3,500人以上を取材。生活文化・観光・ものづくりを軸に、独自のネットワークで情報を掘り起こします。美味しいものやお酒、旅が大好きで、出会いを大切に、心に残る瞬間を積み重ねています。
取材・執筆 松田 きこ
編集 アール・プランニング