2023.03.22
春は「悪質な勧誘」に注意!大学生を狙うネットワークビジネスや霊感商法の手口と対策
- Kindai Picks編集部
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「ネットワークビジネス」とよばれるマルチ商法やネズミ講、カルト宗教や霊感商法の悪質な勧誘……これらのターゲットに、大学生が選ばれることも少なくありません。いざ勧誘されたときの対処法や、ターゲットになりやすい人の特徴、被害にあってしまった場合の対応策などを、法学部の先生に伺いました。
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ネットワークビジネスは海外では「MLM(マルチレベルマーケティング)」とよばれ、商品の購入者である消費者自身が販売システムに参加できることが特徴のマーケティング手法のことです。
日本では「マルチ商法」ともよばれ、たびたびニュースなどで取り上げられています。記憶に新しいところでは、アメリカの大企業「アムウェイ」の日本法人である「日本アムウェイ合同会社」が、2022年10月に消費者庁による行政処分を受け、特定商取引法に基づく6カ月間の一部業務停止になりました。
日本アムウェイが処分されたのは、マルチ商法が違法だから? そもそも「ネットワークビジネス」と「マルチ商法」は違うの? 「霊感商法」や「カルト宗教」など、勧誘手法が似ていると聞いたことがあるけれど、どんな方法で勧誘されるの? さまざまな疑問について、法学部 法律学科の田近先生に詳しく伺いました。
ネットワークビジネスやマルチ商法、ネズミ講ってどんなもの?
田近 肇(たぢか はじめ)
法学部 法律学科 教授
国家と宗教団体との関係、宗教団体法制、墓地埋葬法制の問題について、イタリア法、アメリカ法と比較しながら研究。最近は、憲法裁判所にも関心をもって研究をすすめる。
教員情報詳細
ーー田近先生、本日はよろしくお願いいたします! さっそくですが、「ネットワークビジネス」と「マルチ商法」、「ネズミ講」の違いについて教えてください。
使い分けはありますが、簡単にいうと「ネットワークビジネス」も「マルチ商法」も、名前が違うだけで同じマーケティング手法です。AさんがBさんに商品を宣伝し、さらにBさんがCさんに宣伝すれば、AさんもBさんも「紹介料」などの名目で利益を受け取れるシステムのことで、法律上は違法ではないんです。
一方「ネズミ講」では商品の販売はなく、会員費を集めて収入にする商法です。商品の売買を目的としたネットワークビジネスと違い、金品の受け渡しが目的のネズミ講は違法です!
関連記事:SNSで「ネットワークビジネス」の勧誘が急増中!コロナ禍で大学生を狙う悪徳商法の手口とは?
ーーなるほど。では、ネットワークビジネスは危険がないのでしょうか?
いえ、決してそうではありません。実は、ネットワークビジネスの中には商品ではなく、実際には金品を受け渡しているものがたくさんあるからです。表向きはネットワークビジネスをうたっていたものの、裁判で実質的にはネズミ講だと認定されて、違法とされたケースもあります。
さらに「ネズミ講でなければ問題なし」というわけでもなく、ネットワークビジネスにはさまざまな規制があるので、違反すると罰せられるんです。例えば、こんな勧誘方法には注意です。
・自分の氏名や勧誘目的であること、商品やサービスの種類など実態を告げない!
・嘘の説明をしたり、不都合な事実を隠している!
・脅迫まがいなど、強引な勧誘!
・自宅や貸し会議室など、他人の出入りがない場所で勧誘する!
このような勧誘は、そもそも法律で禁止されています。日本アムウェイ合同会社が業務停止処分を受けたのは「マッチングアプリ」を利用し、アムウェイ会員であることを隠して行った勧誘が問題になったからです。みなさんも知っているようなアプリで行われたと聞けば、身近に感じますよね?
ーー違法ではないはずのネットワークビジネスにも、悪質なものはたくさんあるんですね……。最近では大学生が狙われるケースも多いと聞きます。
勧誘にSNSを使うので、大学生に限らず若年層の被害が増えています。起業や投資に関心をもつ人の意識の高さを狙って、違法なビジネスに勧誘してくる業者もいます。
大学生はサークルやバイト先で先輩・後輩など上下関係ができやすい環境の中で生活していることが少なくないと思いますが、そうした信頼関係を悪用するような勧誘だってあるんです。言葉巧みな勧誘は、さまざまな経験を積んだ社会人でも悪質性には気づきづらい。すこしでも「おかしいな」と思う話をもちかけられたら、勧誘してきた人とは必ず距離をとることが大事です。
ーー10代の大学生が被害にあった場合、大人とは違う救済措置があるのでしょうか?
2022年4月1日から成人年齢が20歳から18歳に引き下げられましたよね。つまり、だいたいの大学生は成人なんです。ですから、それまで18歳以下の学生がもっていた「未成年者契約の取消し」(未成年者が法定代理人の同意を得ないで行った契約の申し込みは、取り消すことができる)という権利も失われました。
関連記事:4月から18歳で成人に!高校生でカードやローン契約できるの!?当事者の認識は……?
マルチ商法の契約当事者年代別の相談件数と割合(2018年度)
出典:独立行政法人国民生活センター「友だちから誘われても断れますか?若者に広がる「モノなしマルチ商法」に注意!」
国民生活センターがまとめた2018年度の消費者相談件数のデータによると、20歳をこえると一気に相談件数が増える傾向にあり※、成人になったタイミングで勧誘を行う業者がいることを示唆しています。18〜19歳の新成人のみなさんも、十分に気をつけてください。
※参考:18歳、19歳の皆さん、ご用心!成人になると増える、こんな消費者トラブル~18歳から大人(政府広報オンライン)
さらに最近では、SNS上で「#春から○○大」などのハッシュタグを利用した悪質な勧誘も行われています。新入生の「早く同じ大学で友達がほしい」という気持ちを利用した手段です。大学公式サイトに掲載されているアカウントや、公式アカウントで紹介されたり、リツイートされているアカウント以外は警戒するように。ネット上で知り合った相手にはむやみに個人情報を教えないよう、新入生以外も気をつけてくださいね。
「カルト宗教」や「霊感商法」などの、さまざまな勧誘にご注意!
ーー悪徳ビジネスだけでなく、カルト宗教の勧誘にも注意が必要とよく聞きます。
日本では宗教団体が勧誘行為をすることは、自由とされています。でも1980年代以降、いわゆるカルト宗教団体にまつわるさまざまな問題が表面化しており、そうした被害に関しては、法曹界からも警鐘※が鳴らされています。例えば「強引な勧誘を行う」などの悪質なケースは、違法と判断されることがあります。
※1999年、日弁連は「反社会的な宗教的活動にかかわる消費者被害等の救済の指針」と題する意見書を公表し、宗教団体などによる消費者被害を抑制するべく、相談事例や裁判例の紹介をするとともに宗教的活動に関わる人権侵害についての判断基準を解説。
「カルト宗教」は、外部からの情報を遮断して、個人の私生活を奪う点が人権侵害に該当します。勧誘を受けた人は巧妙な手口で洗脳されてしまうので、被害者が「自分はカルト宗教から被害を受けた」と認識できず、むしろ「私は自分から信仰を選んだ」と確信してしまう点が問題視されているんです。
「霊感商法」は、健康面や経済面など、人の弱みや心配ごとにつけこんで、「先祖のたたりで不幸になる」などと不安をあおり、高額な壺、数珠、印鑑などを買わせたり、祈とう料やお布施名目の金品を要求したりする、悪徳ビジネスの一種です。あからさまなので「まさかひっかからないだろう」と思われがちですが、無料の悩み相談や姓名判断で細かく聞き出した本人や家族の境遇を利用して、言葉巧みに勧誘するようなケースもあるんです。
「カルト宗教」や「霊感商法」と説明されても若い方はピンとこないかもしれませんが、最近よくメディアで報じられている「世界平和統一家庭連合(旧統一教会)」も、代表的な霊感商法団体として知られています。
ーーカルト宗教や霊感商法の勧誘だとわからないうちに、騙される危険性もあるんですね……。カルト宗教の信者になってしまうと、どうなってしまうんですか?
最後は、自分が宗教勧誘や霊感商法などの「騙す側」に回ることになります。それも、強制されて行うのではなく、洗脳され自ら団体のために普及活動に励むようになるんです。昔の統一教会の若い信者は、一般企業の新人研修を装って各家庭を訪問し、さきいかなどお酒のおつまみを売り歩いていました。「修行」として行われているので、もちろんアルバイト代などは支給されないタダ働き。朝から晩まで、無償で労働させられるんです。かの有名な「オウム真理教」も、パソコンショップやお弁当屋などの副業を行っていましたが、従業員である信者たちはみんな、無賃金で労働させられていました。
ーーそんな違法なことをしても、カルト宗教は罰せられないんですか?
これは難しい問題ですが、簡単にお話しすると、違法な活動をしている宗教法人は、宗教法人法に基づいて解散させる(法人格を剥奪する)ことができ、その前段階として、文部科学大臣などは宗教法人に対して報告を求めたり、質問をしたりすることができます。でも、この質問権は去年の10月に初めて行使されたんですよ。1995年に法律改正で追加されて以来、質問権が行使されたのは27年間で一度だけです。
ーー約30年前に追加された権利なのに、使われたのはたった一度だけ!? それはなぜですか?
日本では憲法によって「信教の自由」が守られているんです。要するに、あまり厳しく宗教団体に踏み込みすぎるのは「信仰の自由を侵害している」ことになってしまうんですよ。そのため、従来はカルト宗教が違法な活動をしていても、警察などがこれを摘発するのに非常に慎重で、違法なカルトやその信者を罰するのはなかなか難しかったといえます。これは、一度信者になってしまった人を救うのはかなりの困難だという結果にも通じています。
どんな人が騙されやすい? 悪徳ビジネスとカルト宗教の共通点
ーー悪徳ビジネスやカルト宗教に勧誘されやすい人の特徴などはありますか?インターネット上でよく見かける「騙されやすい人の特徴」といったチェックリストでは「将来に漠然とした不安がある」「経済的に不満がある」「寂しがり屋」などの特徴が挙げられていますよね。でも、正直なところ騙されやすい性格は、一概には「こう」とは言えないと私は思います。いつの時代も「孤独を感じている人」には、悪徳業者が優しい顔をして近づいてくる。初めて地元を離れて見知らぬ人ばかりの都会で過ごす大学生たちが、まさにこれにあてはまります。孤独や将来の不安を感じている若者や大学生につけこむ悪質な勧誘方法は、昔からよくある手口です。
さらに、悪徳ビジネスの勧誘に騙されやすい人には、先ほどお話しした「孤独を感じている」など、カルト宗教の勧誘にひっかかる人となんらかの共通点があります。「カルト宗教を脱会しました」と話していた人が、また別のカルト宗教に入信してしまうことも。孤独感や将来への不安など、根本的な問題が解決していないと、二重三重に被害にあってしまうケースもあるということです。
ーーどのような勧誘の手口があるんでしょうか?
悪徳ビジネスもカルト宗教も、正体を隠した勧誘や人間関係を利用した勧誘が多いです。若年層の場合は、親身に相談に乗ってくれていたバイト先の先輩から、年配の方の場合は悩みを相談していた占い師から……このように、普段は親切にしてくれていた人から勧誘され、誘いに乗ってしまうケースも少なくありません。
旧統一教会も、1960年には「原理研究会」という大学生向けの学生サークルを発足し、表向きはボランティアなどを行うサークルとして活動を続けていましたが、実際に入会すると団体の施設に連れて行かれて特殊なビデオを見せられたり、受講料を徴収されたりの悪質な勧誘を繰り返していたことから、1980年にはすでに社会問題になっていました。
また、カルト団体の信者はサークル勧誘の時期に限らず、大学構内の路上、掲示板の前、売店、図書館、食堂、教室内など、いろんな場面で声をかけてきます。
しかも、勧誘対象者の興味に合わせてスポーツ系サークルや文化系サークルなど、巧妙にダミーサークルを使い分けるため、「もしかしたら宗教の勧誘かも?」と見分けることはまずできません。新入生は、フレンドリーに話しかけてくる相手でも、見知らぬ人なら必ず警戒心をもって接するようにしてください。
自分や身の回りの人が騙されたら、どうしたらいいの? 被害にあったときの対策
ーーどの勧誘も、人間心理や人の弱みにつけこんだ巧妙な手口であることはよくわかりました。では勧誘に騙されないよう、予防する方法はありますか?
「予防」は、なかなか難しい! だって、不満や不安がまったくない人って、なかなかいないですよね。例えば、給料が安くて悩んでいる社会人には「簡単に儲かる」と近づいてくるネットワークビジネス、病気で悩んでいる高齢者には霊感商法など、人の不幸を食い物にする悪徳業者や勧誘員がそこかしこに潜んでいるわけです。強いていうなら、もし違和感に気づいた場合は、即座に「嫌だ」という意思表示をはっきりしてください。
ーー注意していても被害にあってしまった場合、どうすればいいのでしょうか? 自分ひとりで解決する方法はありますか?
以下のような専門窓口があります!
・各都道府県&市町村の消費生活センター
・各弁護士会や司法書士会の (無料) 法律相談
・法テラス (日本司法支援センター)
被害にあってしまった場合、ひとりで解決するのは難しいし、また、ひとりで解決しようとする必要もないと思います。「友だちや家族に知られたくない」という気持ちが邪魔をするかもしれませんが、消費生活相談員や弁護士などは職務上、知り得た秘密を保持する義務(守秘義務)があるんです。窓口で誰かに相談された内容を、無断で口外することはありえないので、安心して頼ってください。
近畿大学の場合は、学生相談室に相談窓口があるので、まずそちらに問い合わせてみるのもいいです。学生部が発行している「マナー&防犯ガイドブック」という資料がありますので、参考に。「自分には関係ない」と、無視しちゃダメですよ!(笑)
もし、身の回りに「被害にあっているのでは?」と思える人がいたら、自分でなんとかしようとするのではなく、まずは大学内の相談窓口など身近な大人を頼ってください。
ーー金品などを支払ってしまった場合、返金を要求することは可能なのでしょうか?
違法なネットワークビジネスやネズミ講の被害にあったなら、契約の取消(クーリングオフ)や、民法上の契約の無効や取消をしたり、支払ったお金が自分に戻るように請求したり、損害賠償を求めることができます。それらを自分でやろうとすると難しいですが、こういった法的な対応は専門家にすべて任せればいいんです! プロに頼りましょう。
被害はひとりで抱え込まず、必ず専門機関・専門窓口に相談を
慣れない大学生活や新社会人生活に悩む若者に近づき、寄せられた信頼を利用し悪質な勧誘をする……そんな違法行為の被害者にならないために、すこしでも違和感を抱いた人間関係は自分から手放す勇気をもってください。
表向きはカルト宗教と無関係な学生サークルとして、新入生を騙そうとする勧誘手段も横行しています。18歳で新成人を迎えた新入生のみなさんは、特に注意してください。
それでも被害にあってしまったら、以下のような相談窓口などに相談してみてください。ひとりで抱え込んでいたトラブルも、専門家のアドバイスで、解決の糸口が見えてくるはずです。
☎︎188(局番なし)
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■大阪府消費生活センター
☎︎06-6612-7500(9:00〜17:45)
※土・日・祝日、年末年始は休み
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■大阪弁護士会 総合法律相談センター
☎︎0570-783-748(ナビダイヤル)
☎︎06-6364-1248 (予約用)
(電話予約受付は平日:9:00〜17:00、土曜:10:00〜15:30)
※日・祝日、年末年始は休み
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■法テラス大阪 法律相談予約
☎︎0570-078329(9:00〜17:00)
※日・祝日、年末年始は休み。土曜日は、前日までに予約した方に対する相談業務のみ実施
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■近畿大学 学生部 学生相談受付窓口
所在地:11月ホール1階
(平日9:00~17:00、土曜日9:00~12:30)
E-mail: gakusei@itp.kindai.ac.jp
※夏期・冬期・春期の休暇や諸事情により時間変更になる場合があります
※ご利用できるのは近畿大学在学生に限ります
マナー&防犯ガイドブック(10ページ目:防犯対策④「悪質な勧誘」参照)
文:渡辺あや
撮影:平野明
企画・編集:人間編集部
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