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研究・教育

2020.08.19

「近大マグロの、父と母。」-第3回 養殖の父&白浜の母-

Kindai Picks編集部

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水産研究所
マグロ
近大マグロ
オリジナル記事

グランフロント大阪、東京銀座に続き、2020年8月3日 東京駅構内グランスタ東京に養殖魚専門料理店「近畿大学水産研究所 はなれ」がオープン!あわせて、近大マグロ誕生に至る養殖研究エピソードのコラムがスタート!小芝風花さん主演ドラマ「TUNAガール」の監督・脚本をつとめた安田真奈氏が、原田輝雄教授(故人)と、かをる夫人の素敵なエピソードをご紹介します。

長野からの救世主

国内外から「海水魚養殖の父」と呼ばれた、水産研究所の原田輝雄氏。研究には細心の注意をはらって没頭されましたが、生活面は割と無頓着だったそうです。着替えや食事も後回しにして、延々と魚の観察や世話を続け、睡眠もろくにとらないなど、いわゆるワーカホリック体質。そんな原田氏を数十年にわたって支える救世主が現れました。故郷長野から嫁いでこられた、かをるさんです。
原田氏はかをるさんのお兄様と、旧松本高等学校(現信州大学)の同期生で寮も同室、という旧知の仲でした。しかし、かをるさんと長野時代から交際していたわけではありません。実はかをるさん、地元の商家の方と結納まですませたのですが、活発な性格ゆえ「一年中着物をきて大人しく接客なんて、やっぱり私には無理…!」と、頭をさげてお断りしました。そんな経緯を見たお兄様が、仕事に忙殺されて結婚相手を探す余裕もない原田氏に、「妹はどうか。」と提案したのです。


ハマチを測定する原田氏と事務員

「きっと何かをやり遂げる」

お兄様からすれば、マジメで信頼できる原田氏は妹の嫁ぎ先としてピッタリ。とはいえ、本当に見知らぬ土地に妹を送りこんでよいものか…と心配したのでしょう。お兄様はフットワークも軽やかに、白浜まで下見にいきました。そして帰宅するなり、かをるさんにこう言ったそうです。
「いいか。なーんにもないぞ!本当に、白浜にはなーんにもないぞ!」
白浜は温泉旅行の地として人気でしたが、研究所界隈はとりたてて賑わいもなく、ただ地味な海辺の地でした。テレビも普及しておらず、よその土地事情はわかりづらく、故郷から出ずに一生を終える女性も少なくない時代。かをるさんにとって、住み慣れた雪国長野から南紀白浜に嫁ぐのは、覚悟が必要だったはずです。しかも原田氏の仕事はまだ将来性が見えづらく、他の知人はゼロ。結婚に迷いはなかったのでしょうか?
現在も白浜にお住まいのかをるさんにそんな質問を投げかけると、ハッキリと答えられました。
「原田さんは、何もないところで何もせず終わるような人じゃない。きっと何かをやり遂げる。ゼロからの出発だ、二人で頑張ってみよう、って思ったの!」
これから夫となる原田氏への、全面的な信頼。迷いのない、前向きな明るさ。かをるさんのまっすぐな愛情に支えられたからこそ、原田氏はますます研究に邁進することができたのでしょう。淡水浴によるハダムシ駆除法を開発した1955年(昭和30年)。お二人は、結婚されました。

お嫁さんは実験助手

かをるさんは、新婚早々、実験助手という役割も担いました。例えば、「ハマチの耐久性の観察実験」。研究所では、古びた温泉旅館を買い上げて寮にしていました。原田氏は、その温泉の湯を大きな桶に入れ、その中の桶に海水とハマチを入れました。ハマチは何度で弱りはじめるのか、どういう風に様子が変わるのか、何度になると死んでしまうのか、塩分濃度による差はあるのか…。原田氏とかをるさんは24時間交代で観察を続け、データをとったそうです。
日々の生活は、原田氏と同じくハードなものでした。養殖魚を販売するために朝の4時から注文を受け、寮の炊事をし、イワシやサバなどの生餌をハマチが食べやすい大きさに包丁で切り…、長野時代とは180度違う暮らしとなりました。そして住まいは28年間、風呂無しの小さな監視所。二人の娘さんを授かったのですが、冬、冷たい海風に吹かれながら橋を渡って寮の風呂に連れて行くのは、かなり辛かったそうです。


長年暮らした監視所にて

苦労話も楽しく

当時を振り返るかをるさんは、実に楽しそうでした。
「ハマチの観察は、ご近所から『今度は何やってんだ、あの夫婦?』って、変な目で見られてたわ。だって、夜中まで桶の魚を見つめて、記録してるんだもの」
広い第一養魚場での獲りあげも、大変だったそうです。
「もう大騒ぎよ。伝馬船で長い網をひいて魚の群れを巻くんだけど、主人が木に登って魚の動きを見て、『あっちだー、あっちに網を回せー!』って大声で叫ぶのよ。ご近所さんは何ごと?って思うわよねぇ。おまけに魚の動きが早いから、そう簡単には捕まらないし。」
餌切りや餌やりの苦労についても、イキイキと語られました。
「出刃包丁で餌を細かく切るのは、力がいるし、ドロドロに汚れて本当に大変だったわ。運んだり蒔いたりするのは力仕事だから、男性陣が頑張ってたわね。餌を海にボチャンと落としちゃダメなの!たくさんの魚にいきわたるよう、広く蒔かなきゃいけないから、力とコツがいるのよ。」


当時の職員との休憩時間

似合いの二人

かをるさんは、あらゆることを笑いに変換する前向きなお人柄で、日々の苦労を乗り越えられました。同時に原田氏も、実に熱い魂をお持ちでした。安定した国家公務員の二次試験を捨ててまで研究所に残ったのは何故か、とかをるさんが尋ねたところ、こう答えたそうです。
「険しい道と緩やかな道があって二者択一の時は、必ず険しい方を行くんだ。誰も進んだことのない道の方が、苦労は多いけど面白いじゃないか。」
…なんと頼もしい言葉でしょう。後々「海水魚養殖の父」として国内外に馳せる方ならではの、素晴らしい探求心。思うに、戦後の昭和は、このように意欲的な方々が技術革新や経営改革を次々に成し遂げた時代ではないでしょうか。諸先輩方のご尽力に、改めて頭が下がる思いがします。熱い魂の原田氏に、明るくパワフルなかをるさん。お似合いの二人は力を合わせて、研究の道をさらに突き進んでいくのでした。

(第4回に続く)

■小芝風花主演、近大マグロをアツく育てる青春ドラマ「TUNAガール」
(ひかりTV、大阪チャンネル配信中)
(ネットフリックス世界配信中[英語字幕])

・「TUNAガール」サイト
・予告編

(C) 吉本興業/NTTぷらら

この記事を書いた人

安田真奈(監督・脚本家)

大学映画サークルで8㎜映画を撮り始め、メーカー勤務の後、2006年、上野樹里×沢田研二の電器屋親子映画「幸福(しあわせ)のスイッチ」監督・脚本で劇場デビュー。同作品で第16回日本映画批評家大賞 特別女性監督賞、第2回おおさかシネマフェスティバル 脚本賞を受賞。2017年「36.8℃ サンジュウロクドハチブ」、2019年「TUNAガール」監督・脚本の他、NHKドラマ「やさしい花」(文化庁芸術祭参加)脚本担当など、参加作品多数。
公式サイト



近畿大学水産研究所 はなれ

2020年8月3日 東京駅構内「グランスタ東京」にオープン。これまでの2店舗とは異なり、近畿大学が生産した完全養殖の稚魚を日本各地の養殖業者が育成した「近大生まれの魚」を中心に提供します。完全養殖とは完全ふ化した仔魚を親魚まで育ててその親魚から採卵し、人工ふ化させて次の世代を生み出していくもので、天然資源に依存しない持続可能な水産業を確立するには不可欠な技術です。

近畿大学水産研究所
店舗ホームページ


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