2021.09.01
ブラック企業から一転、ホワイト企業に成長!トラスコ中山の中山哲也社長から滲み出る人柄と発想力【突撃!近大人社長】
- Kindai Picks編集部
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今回、訪ねた近大OB社長は、日本のモノづくりを支えるプロツールカンパニー・トラスコ中山の中山哲也社長。かつてはブラック企業といわれていた会社を父親から受け継ぎ、「ホワイト500」認定企業に変革。また、業界最後発にもかかわらず、在庫の多さと自社配送ルートによる「即納」やEC受注の強化によって堅調に業績を伸ばしています。そんな同社の中山社長にお話を聞くべく、理工学部理学科物理学コース2年生の山元ありるさんが東京本社を訪れました。
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やって来たのは、東京・新橋にあるトラスコ中山本社。2014年に竣工した、地下1階、地上12階建ての瀟洒(しょうしゃ)なビルです。
トラスコ中山は、機械工具商「中山機工商会」を前身とし、1959年の高度成長期に、先代で中山哲也社長の父・注次氏によって創業されました。
同社では、製造現場で必要な産業用ツール47万アイテムの在庫(在庫総個数4,500万個)※を保有。業界最大級の在庫を武器に、必要なときにスピーディーに道具が届く利便性で、日本のモノづくりを支えてきた企業です。
※2021年6月末時点
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2018年に稼働した同社最大の物流センター「プラネット埼玉」。
昨年は、コロナ禍においてもデジタル技術を活用して社会のニーズに応えた企業として注目を集め、経済産業省と東京証券取引所が選出する「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)」の中から、”デジタル時代を先導する企業”として最優秀賞にあたる「DXグランプリ2020」に選ばれ、2021年には2年連続で「DX銘柄」に選定されました。
膨大な受注システムを支えるデータセンター「Solemare(ソルマーレ)」。
また、ITを活用した経営革新に顕著な努力を払い優れた成果をあげた企業として、公益社団法人企業情報化協会主催の「2020年度IT賞」において「IT最優秀賞(トランスフォーメーション領域)」を受賞。
かつてはブラック企業といわれていたトラスコ中山を大改革した中山社長とは、いったいどんな人物なのでしょうか……?
1958年生まれ。1981年近畿大学商経学部経営学科(現・経営学部商学科)卒業。同年、中山機工株式会社(現トラスコ中山株式会社)に入社。配送業務や管理業務などを経て、1987年に常務取締役、1991年に代表取締役専務取締役を歴任し、1994年より代表取締役社長に就任。1996年東京・大阪両証券取引所1部に上場。また、視覚障害者を支援する公益財団法人「中山視覚障害者福祉財団」を設立し、現在も理事長を務め、社会貢献活動にも積極的に取り組んでいる。
右目の視力を失って生まれた中山社長のために父が起業
中山社長はお父様が創業した会社に入社し、35歳で社長に就任されたそうですが、学生時代からお父様の会社を継ぐと決めていたのでしょうか?
私は生まれるとき、鉗子分娩で視神経が傷つき、右目の視力を失って生まれてきました。そんな私の将来の働き口として、当時会社員だった父が創業したのが中山機工商会(トラスコ中山株式会社の前身)なんです。なので、小さい頃から会社を継ぐのがあたりまえとして育ち、大学卒業後、すぐに入社しました。
広くて明るい応接室にて、近大マスクをつけてインタビューさせていただきました。
実際に会社に入ってみて戸惑うことはありましたか?
いやー、実は当時はとんでもなくひどい会社で、いわゆる「ブラック企業」だったんです(笑)。ブラックどころか、漆黒、暗黒と言われていましたから。
具体的にどんな感じだったんでしょうか?
父親がトップだった時代はよく「いかに利益を上げるかだけ」を追求する「取捨銭択(ぜにたく)」が優秀な経営者のモット―だと言っていて。
取捨銭択……!
最初は、経営者はそれくらいシビアじゃないとダメなのかなと漠然と思っていました。でも、そのやり方を続けた結果、損得勘定で決めたものはすべて失敗し、優秀な社員は辞めてしまいました。社員教育もちゃんとしていなかったため、私が入社した当初は、組織力どころか、社員の仕事に対するモチベーションが皆無という状態でした。
在庫を増やして「暗黒企業」から「ホワイト企業」に
そこから中山社長が奮闘されたのですね。近年は「健康経営優良法人 認定制度」の大規模法人部門である「ホワイト500※」認定企業に選ばれるようになるなんて、偉業ですよね。
※ホワイト500:経済産業省が2016年に創設した健康経営に取り組む優良な法人を認定する制度「健康経営優良法人」のうち、大規模法人部門の上位500法人を指す通称。トラスコ中山は、2017年以降、3年連続で「ホワイト500」に認定され、それ以降も継続して「健康経営優良法人」の認定を受け続けている。
すごいでしょ。どうしてホワイト企業になれたのか、不思議でしょ?
とても想像がつかないです。どんな対策をとられたのですか?
ホワイト企業になれたのは、実は商品の在庫を沢山増やしたからなんです。
えっ!
普通は残業を減らそうと思ったら、勤怠管理を徹底しますよね。もちろんそれもやっていましたが、そんなことでは根本的な改善はできません。そこで、在庫を増やすことに注力したんです。在庫が多いと欠品が少なくなり、メーカーから取り寄せる手間が大幅に減ります。結果、人手も手間も減らすことができたんです。
在庫が豊富にある状態ってことですよね。
一般的には「在庫回転率が高い方が優秀な経営」といわれています。でも在庫回転率って、お客様から見たら、まったく意味のない数字なんです。山元さんだって、買い物に行ったときに品物が少ないよりも多い方が嬉しいですよね? だからうちでは徹底的に顧客目線にこだわり、在庫を47万アイテムまで増やして他社と差別化しました。
【おすすめ】常識破りの「在庫を多く持つ経営」はなぜ強いか――中山哲也(トラスコ中山代表取締役社長)
在庫アイテム数と売上高の推移
その発想はすごいです……。他にも、社員を成長させるために大事なことはありますか?
あらためて振り返ると、社員を成長させるためには、まず会社を成長させるしかありませんでした。平成元年にJASDAQに上場しましたが、そうすると社員の意識も変わっていきます。人に言われて仕事をやっている間はいつまでも半人前。いかに当事者意識、当事者意欲を持たせるかが大事だと思っています。
社長って普段、どんな仕事をされているんですか?
社員が手を動かし、汗をかきながら働く……その苦労に準じるアウトプットに対し、ちゃんと利益が出る仕組みを考えることが、社長の総論的な仕事だと私は考えています。
ブラック企業をホワイト企業に変えた中山社長だけに、社員の「働きやすさ」についてもさまざまな取り組みをされていますよね?
せっかく縁あってうちの会社に入ってくれたなら、できれば一生安心して仕事を続けてもらえる会社にしたいと思っています。ということで、だいぶ前からうちでは、定年は65歳、それを過ぎても70歳までは雇用延長できます。さらに70歳からはパートタイマーで75歳まで働ける制度もありますよ。
ブラック企業だったなんて想像できない優良企業じゃないですか……。
おしどり転勤制度を使った社員。他にも、子供が3歳になった月の月末まで休業することができる育児休業や、子供が小学校6年生の3月末になるまで育児のための短時間勤務が可能な制度を取り入れ、次世代育成支援対策に積極的に取り組む企業として 厚生労働省より「くるみんマーク」を取得。
他にも「おしどり転勤制度」といって、社員の配偶者が社外の人であっても、転勤があった場合に配偶者の転勤エリアについていき、勤務を続けることができる制度を20年以上前から取り入れています。
社員の事情に寄り添った良い制度ですね。
とはいえ、単身赴任の社員もいるので、週末に家族の元に帰った社員が、日曜の夜までゆっくり家族と夕食を共にしてほしいという思いから、たとえ月曜の出社時間に間に合わない距離でも、自宅を出るのは月曜の朝一番でOKとする「ハッピーサンデー制度」という制度や、学生さんは基本的にお金がなくて大変だろうという考えのもと、5年前から新入社員向けに「トラスコ新社会人支度金制度」を設けました。支度金として実家からの通勤の場合は10万円、1人暮らしの場合は20万円を支給しています。
それはありがたい制度ですね。私がその支度金をもらえたら、冬用のスーツしか持っていないので、夏用のスーツを買いたいです! そうした社員思いの取り組みの数々によって、ホワイト企業に変化していったのですね。
これは父親の反面教師のおかげです。父の経営スタイルだった「取捨銭択(ぜにたく)」から「取捨善択(ぜんたく)」に変えて、お金基準で判断したことは大抵うまくいかないことを確信したんです。
顧客目線でサービスを考えたら見えてきたムダなこと
やはり、昨今のコロナの影響で、EC受注も伸びていますか?
おかげさまで売上げが順調に伸びています。当社はネット通販企業様とも取引があって、実はそこでもトラスコは引っ張りダコです。即日47万点から出荷できるということで利便性を感じていただいています。ネット通販企業様の要望に合わせて直送する体制を整えることで、輸送や時間のロスがなくなります。今後は環境保全の観点からも、注力していきたいと考えています。
高密度ロボット収納システム「AutoStore(オートストア)」
私の父は工場に勤務していて、業務上、トラスコさんのサービスは身近で、「商品が早く手元に届くのは非常にありがたい」と言っていました。今後、よりサービスを充実させるために考えていることはありますか?
同業他社のライバル企業に勝つことが目的ではなく、あくまでお客様が欲している商品を早くお届けすることで、いかにお役に立てるかが重要なんです。
当社のベースにあるのは、工業ツールを「即納」し、モノづくりのお役に立つこと。現在、1オーダーごとに受注時間や納品時間をきちんとトレースして、リードタイムを詰めて効率化を進めています。それにはAIを含めた物流の高度化が役に立っています。
高速自動梱包出荷ライン「I-Pack®(アイパック)」
現在、SDGsが注目されていますが、輸送のロスを減らすことも大きく関係しますよね。
これは近大生にも覚えていてほしいことですが、誰しも環境破壊の加害者なんです。例えば、トイレットペーパーは誰もが使うものですよね。でも、それを作るのに、膨大な石炭が使われているのが現実です。それに対し、メーカーがいけないことをしているといった論法は間違いです。それよりも、当事者意識を持って、水の出しっぱなしをしないといった、一人一人の日常の心がけが大事だと思っています。
確かにそのとおりですね……!
置き薬ならぬ置き工具「MROストッカー」
当社では、富山の置き薬からヒントを得た置き薬ならぬ置き工具「MROストッカー」を提供しています。ユーザー様の購買履歴などをデータ分析し、先回りしてユーザー様の手元に必要な分だけ、商品を利用していただくことができます。お客様の必要に応じて使えるし、いちいち発送する必要がないので、環境にも優しいサービスです。
高齢者向けの商品として、独自規格の「トラスコユニバーサルデザイン」を取り入れた商品を拡大されていますが、どのような思いがありますか?
開く動作を助ける回転式ばね付の「ハードハサミ(THA-165AB)」、ユニバーサル文字と黒地に白目盛のコントラスで目盛の視認性を高めたメジャー「ユニバーサルデザインコンベックス ユニロック(TRC-2555GLK)」、ペダルを踏むことにより台車を動かし始動時の力を軽減した「始動アシスト台車(502NFA)」。
ラインナップとしてはまだまだですが、工具ひとつとっても、利き手に合ったご要望があるので、左利き用などのきめ細かい要望に沿った商品開発にも力を入れています。そうした観点から、視覚障がい者向けのユニバーサルカラーの商品開発にも着手していきたいと考えています。作業用の手袋や安全靴も多く扱っているので、個々のケースを考慮し、片側だけのバラ売りにも対応しています。
お客さん目線に立って、より便利にするための提案ですね……! 実は私は、将来バイク製造にかかわりたいと思っていまして、いつかモノづくりの現場でトラスコさんにお世話になるかもしれません(笑)
それは渋いね(笑)。私も高校時代は、バイクが好きでよく乗っていましたよ。
早起きは三文の徳。新社会人になったらスタートダッシュで出遅れるな!
1981年近畿大学商経学部経営学科(現・経営学部商学科)卒業アルバム。
大学在学中の思い出をぜひ教えてください。近大に入学したきっかけはありますか?
近大は比較的、商家の子息が多いと聞いていたこともあって、とくに迷いなく入学しました。経営の基本とされる、「いかに在庫を少なくするか」「物流は固定費ではなく変動費にすべき」といったことを学びましたが、今では教科書にない経営がモットーです(笑)
大学で学んだことと、リアルはかならずしも同じではないのですね。他になにか印象に残っていることはありますか?
近大の学園祭といえば、毎年大スターが出演することで有名でした。私が在学中は、当時のトップアイドルグループのキャンディーズや、後にトレンディードラマでブレイクした浅野ゆう子が出ていて、とても楽しみでしたね。
生駒祭(近畿大学東大阪キャンパス大学祭)の歴代ゲスト芸能人をご紹介
1980年年頃、東大阪キャンパスで撮影。
では、現在の中山社長の1日のスケジュールを教えてください。
4時に起床し、まず神棚と亡き愛犬のお水を替え手向けます。仏壇に線香をあげたら、1時間かけてウォーキングとストレッチを行います。その後、朝食をとり、入浴して、お風呂掃除まで済ませます(笑)そして8時過ぎには会社に来て、17時半には帰宅する流れです。仕事中は私の処理能力を超えて多忙なため、今社長室は常識を疑われるほど散らかっていますよ(笑)
中山社長の1日(平日)のスケジュール
やはり社長さんは早起きして朝活されている方が多いですね……!
忙しいことを嘆くのは簡単ですが、よく考えたら忙しいのは周りが頼ってくれているということ。笑顔は最高のお守りだと思っていて、人望のあるところには仕事もあると信じています。早起きは絶対におすすめで、「早起きは三文の徳」は真実です。日頃から感じるのは、朝からウォーキングしている人ってテンションが高いんです。そんな人と朝から挨拶を交わすことで、エネルギーにもなります。逆に一番ダメなのは、出かけるギリギリまで寝ていること。疲れた顔で電車に乗って仕事に行くのはよくないですね。
ついしてしまいがちですが、気をつけます……! 最後に、現役近大生へ、就職活動や人生のアドバイスをお願いします。
どこに就職するかより、どこまで本気で仕事するかの方が大事。いい会社に就職したいとみんな願いますが、そこに執着するのは不幸の始まりで、自分のレベルに合ったところに就職する方が大事だと思います。
本気で仕事に打ち込めれば、きっと楽しくなりますよね。
ふてくされた顔で、さも面白くなさそうに仕事していても、縁もチャンスも逃げていくだけ。相性やレベルを含めて自分に合った会社に行けば、きっと仕事も本気で楽しめるはずです。ところで、社会に出たら、出世したいと思ってる?
う〜ん、私は誰かの下で働いているイメージしかないです。
指示を受けてやる方が楽ですよね。でも、絶対出世した方が仕事も面白くなるし、いろんな人に会えて世界が広がりますよ。近大生のみなさんには、もっと発奮してもらいたいですね(笑)
今は、就職先を見つけるだけでいっぱいいっぱいですが、いずれ考えたいと思います。
学生時代、私はちゃんと勉強しなかった方なので、学業では人より3〜5周は遅れていたと思います。でも、社会人になれば、またそこから一斉にスタートラインに着くわけです。そのとき固く誓ったのは、「今度こそ遅れをとらないぞ」ということでした。逆に学生時代に優秀な人ほど、社会人になるとパッとしないケースが多い気がします。それはおそらく、「自分は勉強ができる」というおごりがあるから。だからこそ、社会人になったらスタートダッシュで遅れるなということは、若い人には言っておきたいですね。
ありがとうございました。出遅れないように、がんばります……!
対談を終えた山元さんの感想は?
面白いことが好きで遊び心があり、社員思いの中山社長。率直に魅力的な社長だなと感じ、働くならこんな素敵な社長のもとで働きたいと思いました。「身の丈に合った企業に就職すべき」「新社会人になれば全員再びスタートラインに立つので、スタートダッシュで遅れるな!」という言葉にはとくに感銘を受けました。
お会いできたのを機に、これからの就職活動や人生の選択、考え方のイメージを描きたいと思います。
取材協力:庄司真美(EDIT for FUTURE)
企画:人間編集部
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