2023.12.26
なぜ日本人は何でも「擬人化」するの?ウマ娘、艦これ、刀剣乱舞…日本オタクのラトビア人とサブカル研究者が分析!
- Kindai Picks編集部
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ちまたにあふれる「擬人化」。擬人化されたキャラクターはアニメや漫画だけでなく、企業マスコットなどでも広く親しまれています。ところがこの擬人化、日本でだけやたらと増えているようで……!? ラトビア人のアルトゥルさんと、“ゾンビ先生”こと総合社会学部の岡本健准教授が、海外と日本で「擬人化」の受け取り方がどう違うのか、日本でなぜ擬人化が愛されているのか考えます。
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皆さんこんにちは! アルトゥルです。
僕は日本が大好きで、日本の面白いところや不思議なところをX(旧Twitter)で発信しまくっているうちに本まで出してしまったラトビア人です。前回はこんな記事にも参加させていただきました!
ぷりぷり?すたこらさっさ?日本推しラトビア人と近大留学生が悶絶する日本語オノマトペ
そして、今回僕が気になったのは、「擬人化」。
擬人化とは「人間でないものを、人間に見立てて表現すること」だそうで、古いものでは「鳥獣戯画」も擬人化コンテンツとされています。
アニメや漫画だけでなく、いろいろなところで「人間のように動いたり、話したりする」擬人化キャラクターを見かけることがありますよね。
ところでこの「擬人化」、日本ではちょっと多すぎじゃないか? というのが今回のテーマ。というのも、僕が住むラトビアには、擬人化キャラクターやそれを扱ったコンテンツが「ほとんどない」からなんです!
なぜ日本には擬人化コンテンツがこんなにたくさんあるのか? 今日は、この疑問について一緒に考えてくれそうな先生に会いに、近畿大学にやってきました!
アルトゥル
ちょっとまって、なんかヤバそうな人がいる……!!
岡本先生
ヨウコソ……
アルトゥル
え? 僕は今日ゾンビと対談するんですか? 襲われたりしない?
岡本先生
こんにちは、総合社会学部准教授の岡本です!
アルトゥル
まさかの先生!?
岡本健(おかもと・たけし)
近畿大学 総合社会学部 総合社会学科 社会・マスメディア系専攻 准教授
専門:観光学
1983年生まれ。担当授業は「現代文化論」「情報と社会」など。博士(観光学)。アニメや漫画などを動機とした旅行・観光、地域振興をはじめ、ゾンビやポップカルチャーの研究も行う。
教員情報詳細
岡本先生
最近はVTuberの「ゾンビ先生」としても活動していますが、専門は観光学で、アニメなどの舞台をめぐる「聖地巡礼」やコンテンツツーリズムについて研究しています。
アルトゥル
すでに情報量が多い……。よろしくお願いします!
名馬に国、細胞まで!? 日本の擬人化コンテンツ、渋滞しすぎ
岡本先生
改めて、今日はよろしくお願いします。アルトゥルさんは日本が好きということですが、日本のアニメなんかもお好きですか?
アルトゥル
はい、最初に日本に興味をもったのもアニメがきっかけでした。小さい頃は『ポケットモンスター』とか『美少女戦士セーラームーン』が放送されていたり、中学生の頃は『NARUTO』にハマりました!
岡本先生
ラトビアでも日本のアニメが放送されてるんですね!
アルトゥル
そうなんです、しかもきちんとラトビア語への吹き替えがされていて。ラトビアは人口も多くないんです。ラトビア語話者も150万とか、180万人くらいだと言われていて。
岡本先生
スゴい! ちなみに、アルトゥルさんが気になっていたり、衝撃を受けた日本の擬人化コンテンツは何ですか?
アルトゥル
僕は『ウマ娘 プリティダービー』をはじめて見たときに驚きと感動がすごくて……。こんなポストもしていました。
そう言えば、私の狂おしいほどの日本愛を見て「日本ってどんな国?」と聞いた私の友人がいて、それに対し「かつて輝かしい成績を残した名馬達が擬人化、しかも可愛い女の子となり、それらを育てるゲーム『ウマ娘』が人気な国」と伝えたら「知りたい情報が何もない」と言ったあの子、元気にしてるかな。
— アルトゥル📛日本推しラトビア人 (@ArturGalata) June 18, 2023
岡本先生
現実の競走馬が元ネタになるっていうのもスゴいですよね。見た目は完全に人間で、耳としっぽ、あとは走る速さが馬っぽいという(笑)。私はゴルシが好きです!
アルトゥル
日本には擬人化コンテンツが多いですよね。不思議なんですよ。
岡本先生
子ども向けのアニメだと、海外にもたくさんありますよね。『スポンジ・ボブ』とか、ミッキーマウスなんかも「人間以外のものが人間のように動く」というタイプの擬人化ですね。
日本でも人気のキャラ「スヌーピー」の絵本。こちらも犬が二足歩行で言葉を話すなど、擬人化の要素がある。
アルトゥル
『きかんしゃトーマス』もですね。子ども向けコンテンツだと日本以外の国でも親しまれている気がします。
岡本先生
僕個人の考えですが、子どもの頃ってわりと擬人化に寛容なんじゃないかな。花が枯れたりすると「かわいそうだね」とか、モノが壊れると「ケガしちゃったね」みたいに、親がモノや動植物を人間に例えて子どもに語りかける場面が多いからかなって。
アルトゥル
確かに。子どもは大人と比べると人間以外のものを人や友達みたいに扱うことが多いですね。
人間の姿でありながら、原型となったモノの性質を持っているパターンの擬人化が多い
アルトゥル
ただ、気になるのが日本の擬人化コンテンツの多さなんです。大人もハマりすぎじゃないですか? “萌え系”の擬人化が多いっていうか……。
岡本先生
社会に浸透してる感じはしますね。キャラクターの造形も、子供向けのコンテンツはどちらかといえば「モノに顔や手足がついたり、人間みたいに話す」タイプですが、日本の最近の擬人化コンテンツは「人間の形をしたキャラクターが、擬人化されるモノの性質や特徴をもっている」パターンが多いかもしれません。
アルトゥル
『ウマ娘』もそうですね。
岡本先生
『ウマ娘』は、これまでにヒットした擬人化ゲームコンテンツの系譜に連なる作品とも言えますね。先行する事例として、戦艦を美少女化した『艦隊これくしょん-艦これ-』や、実在または実在していた刀を男性キャラクター化した『刀剣乱舞』などの大ヒットがあった。「ウマ娘」は、キャラクターも多くヒットを狙いやすいコンテンツ性に、もう一つヒットさせやすいファクターである“アイドル”のエッセンスをかけ合わせた、とてもうまく作られたコンテンツだと思います。
アルトゥル
アイドルは日本の人気エンタメでもあるので、より意図的にヒットを掴みにいったんですね。
岡本先生
ちなみに、アルトゥルさんはラトビアの出身ということで『ヘタリア』はご存じですか? これは国を擬人化した漫画なんです。
アルトゥル
ラトビア、こんなにかわいくなっちゃって……!!
アルトゥル
もう一つ面白いなと思ったのが『はたらく細胞』です。
岡本先生
細胞がどんな機能をもっているのかを、白血球とか赤血球のキャラクターデザインや「働き方」でよく表現されていましたよね。酸素の入った段ボール箱を細胞たちに運ぶ赤血球とか……。それぞれの特徴をきちんと表した表現のおかげで、学習アニメ・漫画としての側面も大きかったですね。
アルトゥル
そうなんです。人体の構造についてもわかりやすくて、ぼんやりとしか理解できていなかったことがよくわかって勉強になりました。
岡本先生
こうした「元ネタになったモノの性質をキャラクターにもたせる」という擬人化が、今の日本の擬人化コンテンツには多くなっているかもしれません。例えば『文豪ストレイドッグス』という作品では文豪を擬人化してるんですよ。
アルトゥル
文豪ってすでに人間じゃないですか……?
岡本先生
そうなんです、意味わからないでしょ?(笑)『文豪ストレイドッグス』は、文豪や、その関連作品などをモチーフにした「異能力」と呼ばれる力をもったキャラクターたちによるアクションバトル作品です。
例えば主人公の中島敦は「虎になる」という異能力をもっていて、これは中島敦の代表作『山月記』に由来するもの。キャラクターの造形は文豪本人とは違っていますが、彼らのもつイメージが各キャラクターの「異能力」に落とし込まれているんです。
アルトゥル
文豪の書いた作品やそのモチーフがキャラクターに落とし込まれるって、もう単なる「擬人化」じゃ済まないレベルの創作じゃないですか。
岡本先生
僕も最近知ってビックリしたのが、サンリオキャラクターをモチーフにした『フラガリアメモリーズ』です。おなじみのキャラクターたちと契約した「騎士」という設定で、服装やイメージカラーなどで各キャラクターの要素をもったカッコいい男の子の姿になってるんですよ。
アルトゥル
サンリオのキャラクターたちはもとからで魅力的なのに、もう一段いってしまってるじゃないですか!? こういうのを見てると、ますます日本以外の国にはないな……という気になるんですが、日本ではなぜ大人も擬人化コンテンツを受容しているんですか?
岡本先生
よく言われるのは、日本には「万物に魂が宿る」という信仰があって、人間以外のものを生きていると考えたり、人間に例えることにあまり心理的なハードルがないから……という説ですね。
アルトゥル
「八百万の神」の考え方ですよね。古い道具などに人格が宿った付喪神(つくもがみ)とかもそうですよね。
【衝撃映像、怖い方気をつけて】先日のことですが日本の田舎へ行ったときのことです。私は生まれて初めて心霊体験をしてしまいました。日本のトイレには神様がいると聞いたので、これは幽霊がしたのではなく付喪神がしたのだと信じたいです。お願いします。いい子にします。 pic.twitter.com/dSs4e7X3zg
— アルトゥル📛日本推しラトビア人 (@ArturGalata) March 23, 2023
岡本先生
本来ただのモノであるはずの家電に名前をつけてかわいがったりする人も多いんですよ。かくいう僕も先日自宅のロボット掃除機が床の凸凹にハマって力尽きていたときには「なんてけなげなんや……!」と感じてしまいました。
アルトゥル
確かに、僕たちは家電に名前をつけたりもしません……。日本人、想像力豊かすぎる……。
岡本先生
そういえば、関西では特に顕著ですが、食べ物にも「さん」をつけることがありますね。「アメちゃん」とか「おいもさん」「お豆さん」、「お粥さん」なんかも……。
アルトゥル
食べ物にも敬称が……!? 「ミスタードーナツ」みたいなお店の名前じゃなくて?
岡本先生
言われてみれば! ドーナツさん!! そうなんです。お店の名前じゃなくて、単なる食べ物にですね(笑)。方言の要素も強いかもしれませんが。
アルトゥル
モノや食べ物にも人格があるように感じるのは、日本のユニークな感性かも。
岡本先生
アニメや漫画が好きな人が多い、というのもベースにあるでしょうね。日本にはコミケもあるし、アニメなどに限らずいろいろなジャンルについて突き詰める「〇〇オタク」という存在が受容されつつあります。
アルトゥル
日本はアニメや漫画、ゲームをたくさん作っていますもんね。
岡本先生
アルトゥルさんの地元には、何かのオタクっていますか?
アルトゥル
言われてみると少ないかも……!
岡本先生
おお。
アルトゥル
人口そのものが少ないし、アニメが好きだという人もそのことを周囲にあえて公表したりはしないですね。英語でも「geek」や「weeb」といったオタクの蔑称のようなものがまだありますね。
岡本先生
日本でも「オタクは犯罪者予備軍だ」というように言われていた時代はありますが、今は「コミケ」が広く知られるようになったり、好きなものを突き詰める姿を肯定的にとらえられることも増えてきています。
アルトゥル
好きなものを追究する、それがオタク……。
岡本先生
そうした土壌があるところで、一つ擬人化コンテンツがヒットすると、それが一種の「ヒットの法則」のようになり、次々と擬人化コンテンツが生まれたのかもしれません。
アルトゥル
なるほど! ビジネス的にヒットさせやすいから、擬人化というツールを使っている面もあるんですね。
岡本先生
オタク向けのコンテンツに限らず、家電の例でも海外メーカーならアラーム音などで済ませるところを、日本のメーカーは「お風呂がわきました」とか「おはようございます」とか、機械に喋らせることが多いそうです。海外でも、日本の中古車がよく使われる国では「一番よく聞く日本語は自動車の『ETCカードが挿入されていません』だ」なんて笑い話もあったくらいで。
アルトゥル
スゴい! 日本人の親切心みたいなのも関係ありそうだし、モノが言葉を話すことに違和感を抱きにくいんだな……。
元ネタのところへ“聖地巡礼”。観光ビジネスにもつながる
岡本先生
商業的な面についてもう少し見ていくと、擬人化コンテンツによってその元ネタの認知度を上げやすいという効果も期待されています。
アルトゥル
擬人化キャラのファンが増えると元ネタのファンも増える、みたいなことですか?
岡本先生
その通り。例えば刀剣を擬人化した『刀剣乱舞』はイケメンの姿にデザインされています。それで、キャラのもととなった刀にファンがついたり、作品をきっかけに刀剣の世界に興味をもつ人が非常に増えました。
アルトゥル
「推しのことをもっと知りたい!」みたいな気持ちになるんですね!
岡本先生
刀の公開に合わせて描き下ろしイラストが発表され、展示に女性ファンが多数訪れるようになったりもして、それまではマイナーカルチャーだった「刀剣」の世界に一大ブームを巻き起こしました。僕はコンテンツツーリズムも専門ですが、こうしたブームが起きたことは観光業界にとっても衝撃だったと思いますよ。
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アルトゥル
好きなキャラクターと関連のあるモノが見たい! という気持ちで、展示を見に行く人が増えたりするんですね。その気持ちはわかります!
岡本先生
観光と擬人化はすごく相性がいいと思っています。日本の各地にある「灯台」を擬人化するという『燈の守り人』プロジェクトなんてものもあったりするんですよ。
アルトゥル
灯台を!?
岡本先生
その街や県の特産品をデザインに取り入れたりする従来の「マスコットキャラクター」の作り方を踏襲しつつも、名前のイメージや歴史など、灯台そのものの特徴も取り入れたキャラクターデザインがなされていますね。好きなキャラクターの灯台にはファン心理として訪れたくなるはずです。温泉を人型の神様に擬人化した「温泉むすめ」なんかも観光とのつながりが深いと思います。
アルトゥル
灯台に温泉……。もう、日本人が擬人化してないものなんてないのでは。
日本人の感受性と想像力が豊かすぎる
アルトゥル
海外の「擬人化」はほとんどが子ども向けのキャラクターなのに対して、日本ではなぜこんなにたくさんの人に受け入れられているのか、少しわかった気がします。とりあえず日本人は想像力が豊かすぎるし、それを受け入れる心が広すぎる。
岡本先生
日本は平和な時代が続いていることで、“子ども”の延長にいられる期間が長いというのもあるかもしれませんね。無理に「大人にならないと」とか「男(女)なんだから」とか言われることも、以前に比べると減っているはずで。アニメなどを「子どものもの・いつかは卒業するもの」ととらえずに、長く楽しむ土壌ができていることは、日本のコンテンツや擬人化カルチャーにも影響を与えていると思います。
アルトゥル
いろいろな仮説が出ましたが、日本人がモノにも魂の存在を感じて、自分たちと同じようにとらえているという話も、やっぱり関係あるのではと思いました。
岡本先生
そうですね。それから日本で発展してきた「モノの特徴を抽出してキャラクターの造形や性格にちりばめる」という手法が受け手の心をくすぐるというのも、日本の擬人化コンテンツが長く愛され発展してきている要因の一つかな。「うまいこと考えたな!」みたいな(笑)
アルトゥル
『はたらく細胞』や『刀剣乱舞』などは、これまで知らなかったモノの世界への入り口になっていますね。
岡本先生
日本がものづくりの次に勝負したいと考えているのはこうしたコンテンツの部分でもあって、これまで培ってきたアニメや漫画の文化をベースにして新しいビジネスを作っていく段階にきているんですよね。その可能性の一つがVTuberだったり、擬人化だったりするのかもしれません。
日本の擬人化コンテンツの多様さをきっかけに実現した今回の対談。「そんなものまで擬人化してるの!?」と驚いたり、ちょっと引く場面がありながらも、「なぜ、日本人はモノを人間になぞらえるのか」を考えてくれた岡本先生とアルトゥルさん。
日本人の心理の分析や、海外との比較を通していろいろな説が飛び出すなかで、それらすべてが関わりあって、現在の擬人化コンテンツ需要へとつながったように感じられました。
海外では見られない日本のカルチャーに、アルトゥルさんはまた日本への興味を深めてくれた様子。これからも「不思議の国・ジャパン」をどんどん掘り下げてほしいです!
取材した人
アルトゥルさん
「日本のメロンパンが好きすぎるラトビア人」としてX(旧Twitter)で話題に。母語はロシア語。日本の文化の面白いところや珍しいところをSNSで発信し続けている。日本には観光目的で計1年3ヶ月ほどの滞在経験あり。原案を担当したコミックエッセイ『アルトゥルと行く!不思議の国・ジャパン』(KADOKAWA)がある。好きな漫画は『NANA』。
取材:ヒラヤマヤスコ
写真:トミモトリエ
文:藤堂真衣
企画・編集:人間編集部
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