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2022.06.02

ぷりぷり?すたこらさっさ?日本推しラトビア人と近大留学生が悶絶する日本語オノマトペ

Kindai Picks編集部

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オリジナル記事
オノマトペ

どんぶらこ、ぷりぷり、ワンワン……多彩な日本語のオノマトペ。中には「すたこらさっさ」など難解なものもあって、日本語を学ぶ外国の方は頭を悩ませているそう。今回は「日本のオノマトペ」のクイズ&座談会を開催! SNSで人気の日本推しラトビア人のアルトゥルさん、3人の近大留学生、文芸学部で日本語学が専門の大田垣仁准教授を招いて、音と言葉の不思議な世界にひたりました。

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「大きな桃がどんぶらこ、どんぶらこ……」

昔話でおなじみ『桃太郎』の一説。

日本語に慣れた人ならば、このワンフレーズさえ聞けば、川べりで洗濯をしているおばあさんに向かって、上流から巨大な桃が流れてくるシチュエーションを簡単に想像できます。



一方で、海外の方によるこんなツイートが話題になっていました。


「どんぶらこ」は、外国人にはめっちゃ難しいらしい。

そういえば、「しとしと」「ぽつぽつ」などの雨が降る音はもちろん、「もぐもぐ」「ドカーン」「ぴかぴか」など、日本語はオノマトペがめちゃくちゃ多いような……。

これらについて海外の方はどう思っているのでしょうか? そもそも、日本人でも説明が難しい微妙な違いを、どれだけ知っているのでしょうか?

そこで、先ほどのツイート主のアルトゥルさん、そして近大で学んでいる留学生3人、文学部で日本語学を専門とする大田垣 仁 先生を招いて、「日本のオノマトペ」座談会を開催!

「わんわん」から「ゆあーんゆよーん」まで(!?)、クイズ形式でいろんなオノマトペを出題しながら、大田垣先生が解説。日本語にオノマトペが多い理由や、音が持つ特定のイメージについても教えてもらいました。


登場人物紹介


アルトゥルさん

「日本のメロンパンが好きすぎるラトビア人」としてTwitterで話題に。母語はラトビア語。日本の文化の面白いところや珍しいところをSNSで発信し続けている。日本には観光目的で計6ヶ月ほどの滞在経験あり。
@ArturGalata


リュウさん

中華人民共和国出身。母語は中国語。近畿大学 法学部 法律学科3年生。日本の法律や国際法律について学んでいる。現在、日本滞在歴は3年半ほど。


フランシスさん

コンゴ民主共和国出身。母語はリンガラ語とフランス語。近畿大学 経営学部 経営学科3年生。身長2m4cmの高身長を活かし、バスケットとバレー、ふたつの競技で活躍する二刀流アスリート。日本滞在歴は6年ほど。


ライアンさん

アメリカ合衆国出身。母語は英語。近畿大学 薬学部 医療薬学科1年生。日本で1年ほど塾講師のアルバイトを経験。はじめは英語だけを担当していたが、いつの間にか英数国理の4科目を担当していた。日本食が好き。滞在歴3年。


大田垣 仁 准教授

文芸学部 文学科日本文学専攻 准教授 博士(文学)。日本語学を専門にしており、比喩表現や言葉の形と意味のミスマッチについて研究をおこなう。




オギャーと泣く生き物は? オノマトペクイズ



動物の鳴き声、風や雨などの自然の音、料理音や感情の音など、みなさんにオノマトペのクイズを出題してみました。まずは、比較的わかりやすい動物の鳴き声からクイズを出してみましょう。

動物の鳴き声は鉄板オノマトペ?




フランシス

「ニャー」はわかります。ネコ!






アルトゥル

「ワンワン」は犬ですね。





大田垣先生

そうです! 「チュー」なんかはどうでしょう?






ライアン

キスを表す擬音じゃないんですか……?





大田垣先生

確かに! キスの擬音も「chu」と書いて「チュー」ですね。でもこれは動物です。





ライアン

あ、ネズミですか!





大田垣先生

正解! ネズミの鳴き声は英語だと「squeak(スクイーク)」と発音するので、「チュー」とは認識していない国の人もいるかもしれませんね。これはどうでしょう?






困惑する一同。


アルトゥル

オギャー……?





フランシス

知らない動物です……。





アルトゥル

鳴き声……なんですよね?





大田垣先生

動物は動物なんですけど、人間です。実は、生まれたばかりの赤ちゃんの声なんです。






アルトゥル

へー! 確かに、そういうふうに聞こえるかもしれません。





ライアン

僕の国だと「wah」と書いて「ウェー」って言いますね。





怒りと〇〇〇は同じ「ぷりぷり」という表現!?




フランシス

これは怒っているってことじゃないですか?





アルトゥル

「ぷりぷり」かわいいですよね〜! 以前「ぷりぷり」に関してツイートしました。ほんとにかわいい言葉。





大田垣先生

実は、食べ物に関するもうひとつの意味があるんです。





リュウ

なんか……弾力のある感じですかね。





大田垣先生

そうです! ウィンナーとか、エビとか。






ライアン

脂肪とか肉とかを叩いたら「ぷりぷり」って感じがしますよね。あと、あの……うんこ。




一同:うんこ!?



ライアン

うんこするときって「ぷりぷり」って言わないですっけ!?(笑)





大田垣先生

確かに! 言いますね!!(笑)。赤ちゃんの排泄なんかで「ぷりぷり」が使われますね。





アルトゥル

怒りとウインナーとうんちを表すオノマトペが同じなんですか……!? 正気……???





大田垣先生

さて、このあたりからだいぶマニアックになってきます。これはどうでしょう?






アルトゥル

……知らないです……。





リュウ

すたこら……さっさ……?





アルトゥル

怒っているときに使うオノマトペとか……?





リュウ

「さっさと行けよ!」みたいな感じなのかな……。






大田垣先生

これは「急いで逃げること」を表したオノマトペなんです。あまりリアルの場では使われず、創作物の中で使われることが多いですね。





ライアン

へー!





リュウ

日本語って難しい……!






アルトゥル

ゆあーんゆよーんゆやゆよん……?





ライアン

えぇ……?





フランシス

何ひとつわからない……。





大田垣先生

これは詩人、中原中也の「サーカス」という詩の一節に出てくるオノマトペです。実は、サーカスのブランコの音が表現されてるんです。





アルトゥル

あぁ〜! 長いロープのブランコが揺れてる様子ってことですか。





大田垣先生

これが「ぶわーん」とかだと、重たいイメージになってしまいますし、「ぷらーん」だと逆に軽すぎるんです。サーカスのブランコの大きくて柔らかい動きを表現するとなると「y」の音が出てくるってことなんだと思います。人の重みがあるのに動きは柔らかい感じ、これはすごい表現ですよね。





日本は「擬態語」が非常に豊かな言語

ここからはオノマトペについて先生に詳しく教えてもらいます。


※出典:『「あ」は「い」より大きい!? 音象徴で学ぶ音声学入門』(川原繁人、ひつじ書房、2017年)/『オノマトペの謎 ピカチュウからモフモフまで』(窪薗晴夫[編]、岩波科学ライブラリー261、2017年)資料を交えながら先生に解説してもらいました。ここでフランシスくんは寮の晩ご飯の時間が来たため途中退場。


大田垣先生

オノマトペって、ざっくり「擬音語」「擬態語」に分けることができるんです。まず擬音語は、ものが発する音や生き物が発する音のことをいいます。





アルトゥル

英語でも猫の鳴き声を「meow」って表現したりします。それは擬音語なんですね。





リュウ

中国でも「喵」と表現します。音も「ミャオ」と読むので日本に近いですね。





大田垣先生

「擬態語」は、音にはなっていないけど、音のように感じ取って、ものの動きの様子や状態そのものを表現したオノマトペのことをいいます。この擬態語が日本語はすごく豊かなんですね。韓国語も非常に多い。一方、英語、中国語はかなり少ないんです。






ライアン

なるほど。「頭がガンガンする」とかも擬態語なんですね。





大田垣先生

「ぶらぶら歩く」みたいに、歩くっていう動詞にくっついて、動きに意味を付け足す機能があります。一方で、たとえば英語では副詞はあまり使わず、動詞で言ってしまうことが多いんです。





ライアン

あーわかる気がします。





大田垣先生

「日本人は副詞で泣いて、イギリス人は動詞で泣く」と言語学界では言われていまして。日本語はメソメソ、シクシク、ぴえんとか、泣くっていうシンプルな動詞にオノマトペをつけて詳細を表現します。一方、英語は「cry」「sob」「weep」「blubber」など、動詞で言い表すんです。擬態語のオノマトペがあまりない。






ライアン

へえ〜〜! 副詞か動詞かなんて考えたことなかった……! 英語は確かに動詞が多いですね。部活で汗をかいたときは「dripping」とか。「drip」は「水滴が落ちる」っていう意味の動詞なので。





アルトゥル

同じ現象でも、どんな表現方法になるかは言語によって違うんですね。





音の表現の違いはあれど「音の大きさ」のイメージは世界共通




アルトゥル

「もちもち」っていうオノマトペがあるじゃないですか? これって「餅」がもちもちしてるってことが由来なんですか? それとも、もちもちしているから「餅」なんですか?





大田垣先生

どうも、古くから粘り気が強いものを「モチ」(例. 鳥黐《とりもち》、糯米《もちごめ》)と呼んでいて、「餅」は「餅飯《もちいひ》」から来ているらしいのですが、この「モチ」がオノマトペ由来なのかどうかは謎です。





リュウ

なるほど、中国にも日本と同じような「餅」はありますけど、そもそも「もち」とは読まないですしね。





アルトゥル

だったら餅の「もっちり〜」って感じはどこから……!?





大田垣先生

それは音に対する印象ですね。子音って、発音するときに口の中の気圧が上がるタイプ(阻害音)と、上がらないタイプ(共鳴音)があって、マ行の子音は共鳴音で柔らかさを、タ行の子音は阻害音でくっつく感じをイメージさせます。





アルトゥル

そ、そうなんですね……!





大田垣先生

このように、音そのものが特定のイメージを喚起する現象を言語学では「音象徴」といいます。






大田垣先生

たとえば、上のふたつの図形を見て、どっちが「むま(muma)」でどっちが「きび(kibi)」だと思いますか?





アルトゥル

丸い方が「むま」ですよね。





リュウ

私もそうイメージしました。





大田垣先生

そう答える人が圧倒的に多いです。この結果って、全世界でほぼ同じ結果になるんですよ。心理学の分野でも、音と視覚的印象には世界共通した一貫性が見られて、「ブーバ・キキ効果」と呼ばれています。





アルトゥル

へえー!





大田垣先生

p、b、t、d、k、gはすべて「阻害音」ですが、こういう音は尖っていたり、角ばっていたりするイメージがあるんです。





リュウ

なるほど、「カチン」よりも「ガチン」の方が角ばって硬そうな気がします。





「か」は「き」よりも広がっている? 音の持つ大きさや重さの感覚




アルトゥル

「ぴしゃ」と「びしゃ」、「ぺしゃ」と「べしゃ」だと、濁音の方が重たくて、水の量が多いイメージです。





大田垣先生

そうですね。硬いとか柔らかいというイメージの他にも、音にはそれぞれイメージさせる重さや大きさの違いがあるんです。濁音は重いイメージがありますね。また、「あ」と「い」を比較すると「あ」の方が大きいととらえる現象が世界共通であります。「か」と「き」を比べたら、「か」の方が広がりがある気がしませんか?





アルトゥル

確かに、あります!





大田垣先生

あと、細さや太さを表す場合もありますね。手塚治虫が発明したのではないかとよく話題になる「しーん」というオノマトペなんですが。





アルトゥル

英語では「しーん」に該当する言葉がないから、ハリウッドでは沈黙や緊張を表すために、砂漠で葉っぱが転がる描写を加えたって話を聞いたことがあります。「しーん」のシーンを。






大田垣先生

「しーん」のシーン(笑)。他の国はどうでしょう?





リュウ

静寂を表す言葉は、熟語ではありますね。オノマトペとしてはないですね。





ライアン

アメリカのマンガなんかでは、コオロギの鳴き声で表現されます。多分、周りが静かすぎて虫の声が聞こえてくるっていう意味だと思います。





大田垣先生

「しーん」っていうのは多分、「静かに!」というジェスチャーと一緒に出す「しー」からきてると思うんです。「しー」が静かさを意味する訳は、おそらくサ行子音のsの音と母音の「い」の音の組み合わせが、細い空間を空気が通りすぎていくイメージに繋がっているんじゃないかなと。





アルトゥル

なるほど、細いイメージがありますね。





大田垣先生

発音するときの口の中の状態が音のイメージを生み出していて、何かを表現する際に対応したイメージをもった音をあてはめるのが、音象徴の仕組みなんです。たとえば、舌の位置が後ろに来る母音ほど、女性的なイメージに繋がっていたり、甘い食べ物のネーミングに関わる傾向があります。逆に、舌の位置が前に来る母音は男性的だったり、鋭かったり薄かったりする。世界共通な部分があるということです。





オノマトペは円滑なコミュニケーションのためのツールになる

座談会を終え、参加してくれたみなさんに今日の感想を聞いてみました。


途中退場したフランシス君は「日常会話でも知らない言葉がたくさんあるなか、オノマトペの複雑さにはびっくりしました」と言っていました。


アルトゥル

どうして日本はこんなにオノマトペが多いのか不思議でしたが、状態を副詞で表すか、動詞で表すかの違いなんですね……! 勉強になりました!





リュウ

まだまだイントネーションの違いなんかでも日本語の壁にぶつかることがあるんですが、オノマトペって面白いなあと思いました。





大田垣先生

これは僕の先生が言ってたんですけど、オノマトペを使うとより円滑にコミュニケーションできるんです。イメージでコミュニケーションする感じになるので。で、大阪は東京に比べて、オノマトペで話す文化が強いらしいんですよ。大阪って商人の街なので、いろんな人とコミュニケーションするのにオノマトペが便利だったんですね。





ライアン

オノマトペかは微妙ですが、僕は日本滞在が3年目なので、椅子から立ち上がるときはつい「よしっ」って言ってしまいます。





大田垣先生

ああ、「よっこらしょ」「よっこいしょ」みたいなニュアンスですね。海外の方でそれを言っている人を見かけたら、親近感が湧きますね。





アルトゥル

知らないオノマトペがたくさん出てきたので、もっといろんな言葉を調べてみたくなりました! はやく日本にいきたいです〜!





大田垣先生

次に来日されることがあれば、ぜひ近大にも遊びにきてください!



※後日、アルトゥルさんは2年5ヶ月ぶりに日本に来られました。


世界の違いを知るといっそう面白い!? オノマトペの世界


「擬態語」が非常に多く、副詞として用いられることが多い日本語のオノマトペ。同じ現象をどんな表現で表すのか、国ごとの違いを知るだけではなく、普段何気なく使っているオノマトペの不思議さを、さまざまな国の人たちの会話の中から見つけることができました。

雨が降ったとき、風が吹いたとき。お腹が減ったり、怪我をしたとき。ぴったりなオノマトペは何だろうか。細かな違いを分析すればするほど、音が持つ印象を調べれば調べるほど、言葉の面白さにハマっていくかもしれません。


文:平山靖子(おかん)
編集:人間編集部

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