2022.12.21
なぜ日本人はリアクションが薄い?海外の反応と「曖昧さ」のルーツを探る
- Kindai Picks編集部
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喜んでいるときも、怒っているときもあまり感情をおもてに出さないことから、海外の人に比べて「リアクションが薄い」と言われがちな日本人。なぜこのような国民性になってしまったのか、リアクションが薄いことは悪いことなのか、言語学と心理学の観点から調査しました。そして最後にはリアクションの薄いライターが、自らオーバーリアクションの習得に挑みます。
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どうも、生後9ヶ月の娘をあやすのがヘタすぎて、最近は娘が愛想笑いするようになった岡シャニカマです。
赤ちゃんをあやすのが上手な人って、ちょっとしたことで「すごいね〜〜!」とか「美味しいね〜〜!」とか、オーバーリアクションするじゃないですか。あれが苦手なんです。
例えば、妻が作ってくれた料理を美味しく食べていても「美味しくないの?」と聞かれてしまいます。
これでも笑っているつもり
なんだか、リアクションが薄いことで、人生損している気がするんですよね。
それに比べて、海外の人ってリアクションが大きいイメージがありませんか?
例えば海外の人ってスマブラの新キャラ追加が発表されるだけで、自国に万博の誘致決定ぐらいの喜び方するじゃないですか。
あの人たちを見ていると、大きいリアクションをとった方が人生も楽しくなりそうな気がしてきます。
私もあんなリアクションがしてみたい……。
どうすればオーバーリアクションを習得できるのか?
そもそもこれは「国民性」の違いなのか?
まずは、日本人と外国人のリアクションの差について、留学経験のある近大生に聞いてみましょう。
どこでも踊るメキシコ人、ストレートに伝える韓国人、日本人に近いのは中国人?
早速、アメリカに留学していた国際学部 国際学科 グローバル専攻の学生4人にインタビューできました!※国際学部 国際学科 グローバル専攻では、全学生が1年次後期から2年次前期にかけてアメリカに留学します。
(左から)国際学部 国際学科 グローバル専攻2年の森村虹海さん、下浦彩愛さん、中村勇佐さん、野畑あんさん
海外の人ってリアクションが大きいイメージ、ありますか?
そうですね、メキシコ人はめっちゃリアクション大きかったです。
メキシコ人はどんな感じなんですか?
「音楽が鳴っているだけで体が動く」みたいな感じで、家でも外でも音楽が鳴っていたら、全然知らない曲でも踊りますよ。
「全然知らない曲でも」ってところにすごみを感じる……。
私の留学先もメキシコ人の方が多かったんですが、家にミュージシャンを呼んでパーティーしましたよ。しかも夜中の3時まで(笑)
めっちゃ踊るの好きやん……。
私も留学先のカリフォルニアで音楽ライブに行ったんですが「コールアンドレスポンス」がすごかったのを覚えています。
「コールアンドレスポンス」は日本でも盛り上がりません? 「乗ってるかい?」「イエーイ!」みたいな。
ミュージシャンの呼びかけとか関係なく、自発的に観客が盛り上がってる感じなんです。
それはもう「レスポンス」じゃない……。
アメリカ人はどうですか?
学校でちょっとしたゲームをするときの熱量はすごかったですよ。
あと、お店の店員さんもフレンドリーな人が多くて、レジのときに雑談とかよくしてました。初対面でも「そのTシャツいいね!」みたいな。
店員さんと雑談か。日本ではあまりしないですよね。
次は、東アジア専攻の2人にお話を聞いてみましょう。
※東アジア専攻では、入学時から「中国語コース」と「韓国語コース」にわかれ、全学生が1年次後期から2年次前期にかけて、中国・台湾・韓国のいずれかに留学します。
国際学部 国際学科 東アジア専攻2年のM.H.さん(左)、M.Y.さん(右)
留学先でリアクションの差を感じることはありましたか?
留学先は韓国だったんですが、中国人はあまり日本人と変わらなかったです。ただ、韓国人はリアクションが大きかった印象ですね。
中国と韓国でもそんな差があるんですね! ちなみに韓国人のリアクションはどんな感じでしたか?
感情をおもてに出すというか、感情をダイレクトに伝えてくる感じですね。電話口で大げんかしていたり、道端でも口論しているのをよく見かけました。
道端での口論も日本ではあまり見かけない光景ですね……。
外国人留学生から見た「日本人」のリアクションとは?
ここまでは日本人目線での意見を聞いてきましたが、続いては海外から日本に来ている留学生にも話を聞いてみようと思います。中国出身の王 禕凝(オウ イギョウ)さん(左・文芸学部 文化デザイン学科 2年生)と、アメリカ出身のRyan Michael Chong(チャンライアンマイケル)さん(右・薬学部 医療薬学科1年生)。
2人とも日本に来て4年目だそうですね。まずは王さんに聞いてみたいんですが、中国と日本で「リアクション」の差はありますか?
個人的には、あまり差がないと思っています。私自身もリアクションが薄い方ですし、特に初対面だと控えめになる人は多い気がしますね。
なるほど。では、日本に来てあまりギャップを感じることはなかったんですね。
逆に日本人の女性とかって嬉しいときに「えぇ〜!」みたいなリアクションをよくするじゃないですか。中国ではあまりすることがないので、最初はビックリしましたね。
え……!? じゃあ、日本人の方がリアクションしてる説ありますね。
そうかもしれません(笑)
ライアンさんはアメリカとのギャップを感じますか?
日本人って思っていることは言わないのに、思ってないことを言いますよね。すごいと思ってないのに「すご〜い!」とか。
うん……言う。
アメリカ人は思っていることをそのまま言うんですよ。例えば怒るときでも日本人みたいに「表情に出さないように」とかせず、初対面でもガチギレしますよ。
それはかなり日本とギャップがありますね。そういった部分が原因で、何か問題は起きませんでしたか?
日本人の彼女にフラれました。
えぇ!?
例えば物をなくしたときに、日本人だったらなるべく取り乱さないようにするでしょう。でも僕は「ああなくした! どうしよ!」って結構大きくリアクションするんですよ。そういうところが合わなかったみたいで……。
そっか……。「ここで取り乱したらダサいかも」とか、周りの目を気にしちゃうことはないの?
全然ないですね。
え、私はめっちゃ気にします……。
ですよね! なんか感情を表に出してると「こいつ自制できないやつなんだな」とか思われそうで気にしちゃう。
そうそう! めっちゃわかります!
あと日本って、知らない人と全然話さないですよね。
話さないですね。僕はタクシーの運転手さんに話しかけられるのとかめっちゃ苦手です。
なんで話さないんですか? 話してなかったら暇じゃないですか。買い物中にレジで会計しているときも暇でしょ。
ほぉ〜、なるほど。「誰かと話してない時間が暇」っていう感覚はなかったです。たしかに「世の中の人は全員話しかけていい人」だと解釈すれば、話さないことが勿体ない気もしてきますね。
そう、だから日本での生活はちょっとつまんないですよね。
たしかに……。今までつまんない人生を送ってきてしまったのかも。
実際にリアクションしてみよう
実際に2人のリアクションを見てみたいので「とても美味しい飲み物を初めて飲んだとき」のリアルな反応をそれぞれやってみませんか?
なるほど、いいですね!
ではまず私から……。
ゴクゴク……。
あ、ウマ。
え、薄い!
じゃあ私やってみますね。
ゴクゴク……。
…………。
……。
……。
……あ、終わりました?
はい! ここから携帯で友達に「超美味しかったよ」ってメッセージする感じですね。
超美味しかったのに無反応なんですね(笑)。ではライアンさんお願いします!
ゴクゴク……。
Oh man! That's good!
You should try this! Come on!
オー、ノーサンキュー……。
こんな感じですね。めっちゃ美味しいから飲んでみて! って友達にも勧めます。
なるほど、日本人がこの感じで勧められたら「圧がすごいなこの人」ってなりますよ……。
中国人の私だったら勧めることもしないです。
あげることもしないの!?
だって自分のものじゃないですか。
うん、それはごもっとも(笑)
インタビューの結果、日本人と中国人のリアクションはアメリカ人に比べて薄いみたいですね。そしてリアクションが大きい国ではコミュニケーションが活発に生まれて毎日が楽しそうだということもわかってきました。
ただ、これまでの調査はあくまで主観的なものが多かったので、ここからは専門家の方に学問の視点から聞いてみましょう。
リアクションが小さいのは「儒教」の教え? 言語学の先生に聞いてみた
まずは、日本人のリアクションについて「言語学」の観点からお話を聞いてみたいと思います。言語文化の研究をされている、李潤玉先生にうかがいました。
国際学部 国際学科 東アジア専攻 教授
人間が自身の経験・知識をどのように言語表現化しているのかを明らかにする、文化研究に通じる研究をしています。対象言語は主に韓国語、日本語、英語です。
なぜ日本人や中国人はリアクションが小さく、アメリカ人やメキシコ人はリアクションが大きいのでしょうか?
まず文化の観点から見ると、東アジアには儒教の教えが根付いています。
「儒教」は学校で習いました。
※儒教:孔子を始祖とする思考・信仰の体系。紀元前の中国にて興り、2000年以上東アジア各国で強い影響力を持つ。
儒教の教えでは礼に従って行動することが求められるんです。態度は丁寧かつ謙虚にし、言葉は謙遜で誠実にと。その結果、リアクション(反応)するよりは、あいづち(同意)をうつことで、その場を和ませることを好むようになったのかもしれません。
たしかに日本人っぽい感覚ですね。勝手な想像ですが、言われてみれば平安時代の貴族も江戸時代の武士たちも、リアクションは小さいイメージがあります。
あとは日本語の特徴である「受動態」も影響しているかもしれません。
「受動態」って日本語の特徴なんですか?
はい、日本語は他の言語よりも「受動態」が発達しているんです。受動態は「行為主の判断や責任の断定を避け、曖昧化することに使いやすい」という特徴があります。例えば「ポチは母に育てられた」と言うより、「母がポチを育てた」と言った方が「母」の責任をハッキリさせているように感じませんか?
たしかに……!
このような文化圏で暮らしている日本人は、他者のことを慮るのが大人の美徳であると教わって育ったので、リアクションが小さくなったのかもしれません。
なるほど。だからハッキリ言わなくても伝わるテレパシーのようなことが可能なんですかね。「空気を読む」みたいな。
その通りだと思います。
ちなみに先生は日本に来て「リアクションが小さいな」と思ったことありますか?
「教員の質問に学生が答えない」ところですね。当てられたら答えられるのに、自分からは手をあげない。これは日本特有の「出る杭は打たれる」という文化が影響しているのかもしれません。
それはあります。調子に乗ってると思われたくないんですよね……。
無理にオーバーリアクションする必要はない? 心理学の先生に聞いてみた
続いてはリアクションの効果を知るために「心理学」の観点から話を聞いてみましょう。心理学や異文化コミュニケーションの研究をしているアメリカ出身のヴェラスコ・ダニエル先生にうかがいました。
近畿大学 医学部 医学科 特任講師
教育と心理学について研究しています。特に異文化コミュニケーション方法について研究中。
留学生の方から話を聞いて、リアクションは大きい方がいいのかなと思ったのですが、先生はどのようにお考えですか?
これは非常に難しい問題ですね。自分を表現することのメリットは沢山ありますが、文化によって受け取り方が異なるので、何が適切で、何が不適切と見られているかを考えて行動しなければなりません。
たしかにアメリカ流のリアクションをし続けたせいで、日本人の彼女にフラれてしまったという話も聞きました……。
そう、だから一概にどちらがいいという判断はできないんです。
ちなみに先生もリアクションの差で苦労された経験があるのでしょうか?
私もアメリカにいた時は大きなリアクションをとっていましたが、日本ではうるさい性格よりも控えめな性格の方が評価されることに気づき、頑張って適応しました。
それってすぐに適応できるものですか……?
私は文化や心理学を学んでいるので比較的簡単でしたが、自分の行動を制限されることを嫌う外国人にとっては難しいかもしれません。
たしかに先生と話していて「リアクションが大きい」とは感じませんね。
そうでしょう。日本に来て10年経った今では、日本人の友人から、私の方が日本人らしいと言われるくらいです!
すごい……! ただ私はどうしても、リアクションの大きい人生への憧れが捨てきれないんです。何か方法はありませんか?
そうですね……。これは専門家ではなく、個人としてのアドバイスになりますが、信頼できる人たちに囲まれた環境で試してみるのがいいと思いますよ。
家族や仲のいい同僚に向けてリアクションを大きくしてみるということですね。
はい、そして彼らにフィードバックをもらってください。「私の行動はどうだった? 不自然だった? 変だった? 失礼だった?」、 そのコメントをもとに、調整していけばいいでしょう。
なるほど! やってみます!
恥を捨ててオーバーリアクションを取り入れてみた
ヴェラスコ先生のアドバイスに従って、まずは家庭内でのリアクションを強化することにしました。ですが、急にオーバーリアクションをすると夫婦関係に亀裂が走るかもしれません。
そこで「リアクション強化中」のタスキをつけて実施します。
まずは妻の作った夕飯に対するリアクションを強化してみました。
モグモグ
めっちゃ美味いやんこれ! こんな料理を作ってくれる妻をもって、俺は世界一の幸せ者だよ!
……あ、そう。よかった。
この味噌汁も素晴らしい! このスープで溺死できるなら本望や。
はいはい。
どう? 俺のリアクション。
なんか無理してる感すごいけど、いいんちゃう?
妻は留学経験もあって外国人と接する機会も多かったので、許容してくれたのかもしれません。
次は生後9ヶ月の娘にリアクションしてみます。
おいおい待ってくれよ……。嘘だろベイビー……?
つかまり立ちしてやがるぜ! 君はなんてファンタスティックなんだ!
キャキャッ!
いつもより喜んでるやん(笑)
まだ儒教を土台にした日本の文化に染まっていない娘には好評ですね。
あとなぜかリアクションを大きくしようとすると、言葉まで欧米っぽくなりました。
では続いて場所を「職場」に移してみましょう。
私が勤めている「株式会社人間」は企画を作る会社なので、よく企画を持ち寄って発表しあう会議が行われます。ここでリアクションを強化してみましょう。
……という企画です。
ブラボー!!
あ、はい。
こんな発想ができるだなんて、あなたのために「天才」という表現があるんでしょうね。じゃ次、Bさんお願いします。
僕は……という企画を考えてきました。
……はぁッッ!? これじゃとても「企画」とは呼べませんよ。よくこんな企画が出せたものです!
えぇ……。
……という感じで、私のリアクションはどうですか?
なんかリアリティがないというか、ちょっと噓くさかったです。
そうですね、なんか深く考えている感じはなかったです。
なるほど……。たしかにリアクションすることに気をとられて、判断とかがおろそかになっていたかもしれません。
まとめ
純日本人の私が外国のリアクションに憧れて実践してみましたが、正直な感想としては無理がありました。大袈裟に喜んだり怒ったりしてみても、どこか演じているような気になってしまい、結局は「今のリアクションでどう思われただろうか」と気にしてしまう自分が拭えないのです。ちなみに、ヴェラスコ先生からはもう1つアドバイスがありました。
それは「自分自身に忠実であれ」ということ。自分ではない自分になっても苦しいだけ、心地よく過ごすためには「いつも通りの自分」であることが大切なのです。
あ、ウマ。
この記事を書いた人
岡シャニカマ
1995年生まれ、株式会社人間プランナーのいじるプランナー、ない会社の代表。クライアントの商品やサービスをいじるような視点で企画を考え、SNSで広くウケるネタに昇華させることが得意。過去に「クソリプかるた」や「近大マグロマスク」の企画を担当。
編集:人間編集部
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