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2021.05.28

令和の大学生にも刺さる?今こそオススメしたい昭和の名作恋愛マンガたち

Kindai Picks編集部

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『ときめきトゥナイト』の新作が2021年に発表されるなど、時を超えて今なお人気の「昭和の恋愛マンガ」。時代や価値観も違う現代の大学生には刺さるのでしょうか!?実際に読んでもらいました。また、昭和のマンガが令和の時代にも人気なワケを社会学の先生にもうかがいました。

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こんにちは! マンガ大好きライターのヒラヤマです。初夏の陽気の下、ハンモックに揺られて恋愛マンガを読むという最高の1日を過ごしています。

近大アカデミックシアターで一番人気のコーナーは、ズバリ恋愛に関したマンガや書籍が集められた「恋する女の生きる道」!

いつの時代であっても、恋愛は多くの人が気になるコンテンツですよね。2020年度の「恋する女の生きる道」コーナーの貸出ランキングを見ると、いま近大生に人気の恋愛マンガは『君に届け』『椿町ロンリープラネット』『NANA』『七つ屋 志のぶの宝石匣』『ヲタクに恋は難しい』など。




2020年「恋する女の生きる道」コーナー貸出ランキング

第1位君に届け/椎名軽穂
第2位椿町ロンリープラネット/やまもり三香
第3位NANA/矢沢あい
第4位七つ屋 志のぶの宝石匣/二ノ宮知子
第5位ヲタクに恋は難しい/ふじた
第6位きょうは会社休みます。/藤村真理
5時から9時まで/相原実貴
第8位いちご100%/河下水希
第9位アオハライド/咲坂伊緒
セキララにキス/芥文絵

他にも、アカデミックシアターでは『ベルサイユのばら』や『タッチ』など、昭和の名作も数多く取り揃えています。

そして折しも、昭和を代表する恋愛マンガ『ときめきトゥナイト』の続編が5月26日発売の『クッキー』7月号よりスタート。連載開始が1982年なので、なんと39年目の続編!Twitterでも当時少女だった人々が懐かしさと続編の新しさに嬉しくて悶えています。

『ときめきトゥナイト』は、江藤蘭世と真壁俊、蘭世の弟の鈴世と市橋なるみ、そして蘭世と俊の娘・愛良の恋模様が描かれた長編3部作です。
そんな3部作のなかでも特に人気なのが、「蘭世と俊の恋」を描いた第1部。2013年に発売された第1部のスピンオフ作品『ときめトゥナイト 真壁俊の事情』は、宝島社が発表している「このマンガがすごい!」の2014年オンナ編2位にランクインしました。



そして新作『ときめきトゥナイト それから』は、アラフォーとなった江藤……いや、真壁蘭世の物語です。

画像を見比べるとわかると思うんですが、絵柄が全然違う!アラフォーになり、お母さんになり、蘭世がすっかり淑女に……!しかし、性格は相変わらずのおっちょこちょいで、それがまた愛らしい。そして表紙では後ろ姿ですが、真壁くんが紙面内では登場します。歳をとってもしっかりカッコいい真壁くんに、往年のファンも胸キュン間違いなし。

主要キャラみんなを満遍なく登場させつつ、しっかり新章の波乱を予感させる第一話でした。

すごく面白いけど、過去のエピソードが随所に出てきます。隅々まで話を理解しようと思うと、やっぱり第1部から読んだほうがより面白いはず……。そもそも、昭和の恋愛マンガって令和の大学生にも刺さるんでしょうか!?

『ときめきトゥナイト』をはじめ、昭和の名作恋愛マンガをピックアップし、学生たちに実際に読んでもらいました。


昭和の恋愛マンガは令和の大学生に刺さるのか!?


「不良男子がじつは優しい」のギャップは令和女子にも刺さる!

『ときめきトゥナイト』池野恋

全30巻(単行本)
連載期間:1982年~1994年
掲載誌:集英社『りぼん』

人間との恋を禁じられている、吸血鬼と狼女のハーフ江藤蘭世と、人間界のクラスメイト真壁俊の波乱万丈ラブストーリー。
ドジでおっちょこちょいなヒロインと、ボクサー志望のちょっとぶっきらぼうな不良少年という組み合わせが「THE 昭和」なカップリング。

アカデミックシアター所蔵リスト


読んだ人

井指 りか(いさし りか)
経営学部 商学科 3年生
好きなマンガ:『ハチミツとクローバー』『俺物語!!』


学園モノに魔界というファンタジー要素も混ざった作品はすごく新鮮でした!恋愛マンガを読んでいると「現実にこんなことないんだよな……」と思うことが多いですが、『ときめきトゥナイト』は、名前や設定からして本当にありえないものだったので、最初からフィクションとして楽しめました。

印象的だったのは、パッと見たときの文字の多さ。入力された文字だけでなくて手書きの文字もあちこちに散りばめられていて、コマ割りが小さく自由な形になっていているのも独特でした。また、「くわばらくわばら」「現金ねえ」……など、聞き慣れない単語が多く出てきたところに時代を感じました(笑)。

個人的な見解なのですが、恋愛マンガは、男の子の髪が黒色のほう(インクで塗られている)と結ばれて、白色(インクで塗られていない)のほうは報われないというパターンが多いと思っていて、『ときめきトゥナイト』でもそうだったので、「やっぱり!」と思いました。真壁くんみたいな、不良男子がじつは優しい……みたいなギャップにやられる女子は今も多いと思います。普段読むマンガと同じくキュンキュンしました!

真壁くんは令和の大学生にもトキメキを与えるということが判明!昭和のマンガは現代よりもオカルトやSFの要素を詰め込んだ作品が多いのですが、かえってそれがフィクションとして楽しめるというのは発見でした。


「レールのしかれた人生を歩きたくない」というスタンスがもう古い!?

『ホットロード』紡木たく

全4巻(単行本)
連載期間:1986年~1987年
掲載誌:集英社『別冊マーガレット』

家庭環境などの悩みを抱え非行に走る、主人公・宮市和希と、走ることに青春を捧げる暴走族の春山洋志との恋。湘南を舞台に、不器用でまっすぐな若者の恋模様が描かれる。時を経て2014年に初の映画化。

アカデミックシアター所蔵リスト


読んだ人

大成 静香(おおなる しずか)
総合社会学部 社会・マスメディア系専攻 4年生
好きなマンガ:『ブルーピリオド』『凪のお暇』


男勝りなヒロインは個人的にすごく好きなんですが、14歳で暴走族についていくというのは危なすぎると思うし、暴走族の世界や「やんちゃする」という部分には全然憧れを持てませんでした。でも、だからこそ2巻で和希が「暴走族に憧れて好きになったわけじゃない」と抗議するシーンはグッときました。暴走族というテーマこそ昭和らしいけれど、「自分でも止められないくらい夢中になっていることがある」というテーマ性は普遍的だと思います。

他にも昭和的だと思ったのは、「だいきらい」を「どぁいきらい」というふうに、口語をそのまま書くところや、「出会うと罵りあうのが仲の良さの象徴」というような描写。また、話の展開やシーンの運び方が映像的で、理解するのが難しいシーンもありましたが、それによって映画の中にいるような気分になって、没入感にひたることができました。

若者が「レールのしかれた人生を歩きたくない」というスタンスでいる点は少し古く感じました。昔のドラマやマンガは自由さを求める描写が多いけど、今の若者は「レールがしかれてるほうがむしろ楽」という考え方が反映されたコンテンツを好む気がします。

令和のヒット曲「うっせぇわ」でAdoが「ナイフの様な思考回路 持ち合わせる訳もなく」と歌っているのに対して、80年代は「夜の校舎 窓ガラス 壊してまわった」と歌う尾崎豊に、若者が共感して憧れを抱いた時代だったんです。でも、湘南!ヤンキー!暴走族!な内容なのに絵柄はふわっと柔らかで、それがかえって、わずかな青春を不器用に散らそうとするふたりを際立たせています。


不器用なツンデレスポーツマンは、青春時代あるある!?

『ボーイフレンド』惣領冬実

全10巻(単行本)
連載期間:1985年~1988年
掲載誌:小学館『週刊少女コミック』

男性が主人公のバスケマンガで、ヒロインは年上という当時の少女マンガでは珍しい設定。訳ありで転校してきたクールなスポーツマン高刀柾と、心臓が弱く病弱なヒロイン結城可奈子。そして、可奈子の死んだ姉と相思相愛だった体育教師、ライバルのアキラ4人が絡み合うピュアな恋愛物語。

アカデミックシアター所蔵リスト


読んだ人

山下 恵未莉(やました えみり)
建築学部 4年生
好きなマンガ:『恋と嘘』『東京喰種』


「訳あり転校生×病弱な美少女」という設定は王道のパターンで受け入れやすかったです。登場人物それぞれがキャラ立ちしていて魅力的。個人的には、主人公の柾が現代のヒーロー像にはカテゴライズしにくい感じで、印象的でした。

スマホではなく自宅の固定電話で連絡を取るというのが私にとっては不思議な感覚で、可奈子が「すげー」と言ってたしなめられたり、「やばい」などの台詞が出てこないところに昭和を感じました。

相手を思うがゆえに空回ったり衝突したりする不器用さ、思春期らしい危うさが作品を通して描かれていて、読了後は一本の映画を観たような気分になりました。少女マンガというジャンルではありますが、少し大人びた恋愛観も感じさせるので、私たち大学生のような年代が一番楽しめるかもしれません。

好きなのに嫉妬で余計なこと言っちゃうような、素直になれない反抗期的なキャラクターは、青春時代あるある……という感じです。「訳ありツンデレなスポーツマン」というキャラは今でもいるかもしれませんが、訳ありの理由が昭和っぽい!すぐケンカするな!とツッコミを入れつつ、不器用なふたりを見守ってほしいです。


自由に恋愛をしたいという思いはきっと令和の若者にも刺さる!

『はいからさんが通る』大和和紀

全8巻(単行本)
連載期間:1975年~1977年
掲載誌:小学館『週刊少女コミック』

民主主義の活性化や戦争など、激動の大正期を舞台に、じゃじゃ馬娘の紅緒と、麗しい軍人・忍との恋が描かれる。自分の人生を自分で簡単には決められない時代がゆえの困難に立ち向かうところが見所!1978年にテレビアニメ化、1987年には南野陽子さん主演の実写映画も大ヒット。

アカデミックシアター所蔵リスト


読んだ人

山下 恵未莉(やました えみり)
建築学部 4年生
好きなマンガ:『恋と嘘』『東京喰種』


話の展開がドラマチックで、コメディ部分とシリアス部分の差も激しいですが、舞台である大正の時代性が反映されていて面白かったです。主人公の紅緒の天真爛漫さ、少尉への思いの強さが作品全体として話のテンポをつくり出しているように感じました。

紅緒が女性として自立し、幸せを掴んでいくまでの様子は、現代の人にも刺さるものがあるのではないでしょうか。

政府による自由恋愛が禁止された世界を舞台にした『恋と嘘』という作品が好きなのですが、どちらも描かれているのは、恋愛が時代に影響されているという点です。どちらの作品も時代に抗う姿や相手への一途な思いが描かれているのが、共通する魅力だと思いました。

あと、顔の表情が豊かで、最近のマンガに比べて、デフォルメされた表現がたくさん出てくるのが面白かったです。ただ、そんなに背景に花を咲かせなくても……と思いました(笑)。

ロングヘアに袴×ブーツの女学生姿がかわいい紅緒ですが、食い意地はすごいし武闘派だし、でまさに「じゃじゃ馬」。跳ねっ返りの彼女に「自分らしく生きる」ことの大切さを教えてもらえます。こんなに絵柄が愛らしいのに、時代ゆえのどうしようもない苦難が待ち受けているのがツラい……!

そういえば、袴×ブーツのファッションは大学卒業式の定番ですよね。いまではレトロな女学生スタイルは、明治・大正時代では西洋風で新しくおしゃれな格好だったんです。

卒業式になぜ袴?「はいからさん」からギャル系など移り変わる袴スタイルを調査


永遠の名作!フランス革命時期の激動と身分違いの恋

『ベルサイユのばら』池田理代子

全10巻(単行本)
連載期間:1972年~1973年
掲載誌:集英社『週刊マーガレット』

フランス王朝の王女・マリー・アントワネットと、その付き人である男装の麗人オスカル。ふたりの女性のそれぞれの恋模様が描かれる。近世ヨーロッパという、身分の区別がいまよりずっと厳しかった時代の命をかけた恋に多くの人が惹きこまれた。

アカデミックシアター所蔵リスト


読んだ人

大成 静香(おおなる しずか)
総合社会学部 社会・マスメディア系専攻 4年生
好きなマンガ:『ブルーピリオド』『凪のお暇』


じつは、幼い頃に父に勧められて読んだことがあるので、あまり古いイメージがありません。きらびやかで線の細かい作画が特徴的だと感じます。『ベルサイユのばら』は今読んでもストーリーがわかりやすくて読みやすく、時代を感じさせないマンガだと思います。ただ、吹き出しの表現や小さいコマで繰り広げられるギャグなどは、この時代のマンガらしいなとも感じます。びっくりした時に黒目が省かれた描かれ方をするのもこの時代の少女マンガ特有ですよね。

時代を感じさせない要素のひとつとして、女性の描かれ方があると思います。女性の立場が強く、主人公も凛とした性格であることが今の時代にもマッチしているのかも。その反面、周囲がオスカルに「女の子らしさ」を説くシーンなどがあったりするのが、昭和時代にも続く近世当時の価値観を反映させているなと感じました。

身分の違いや性別の差などで苦しむ様々な恋愛模様を見ることができるのがベルサイユのばらの魅力だと思います。

キラキラピカピカの絵柄ですが、じつはすごくシビアで悲しいストーリー。マリー・アントワネットをはじめ実在の人物も多く、世界史を恋愛マンガを通じて学べるので、学校などでオススメされたこともあるかも? 男装の麗人・オスカルにあの時日本中の女の子は恋しました。それくらいカッコいいし、美しい!


片思いの相手はアパートの管理人さん!一つ屋根のしたムズキュン・ラブコメディ

『めぞん一刻』高橋留美子

全15巻(単行本)
連載期間:1980年~1987年
掲載誌:小学館『ビッグコミックスピリッツ』

オンボロアパート「一刻館」に住む浪人生の五代裕作と、アパートの住み込み管理人・音無響子との恋を描いたラブコメディ。若き未亡人響子と、彼女を一途に慕う年下男子の五代くん。笑いあり涙ありの不朽の名作。

アカデミックシアター所蔵リスト


読んだ人

岡 泰聖(おか たいせい)
総合社会学部 社会・マスメディア系専攻 3年生
好きなマンガ:『ONE PIECE』『彼岸島』


「絵が古っ!」って思いましたが、ストーリーは非常にわかりやすかったです。最近のマンガは設定が細かくややこしい作品が多いと思うんですけど、『めぞん一刻』は普遍的な「恋」にまっすぐ焦点が当たっていて、単純明快で骨太なストーリーですね。ゆるい日常、ドタバタ劇、どっちつかずの恋の駆け引きなど、随所にそれぞれのキャラクターの魅力が見えて心暖まる作品でした。恋するっていいなと思いました。

人との距離感が近いところにも時代性を感じました。主人公たちが暮らす一刻館では、住人たちがお互いの部屋を行き来しまくっています。今だったらプライバシーを重視してそんなこと起こらないだろうなと(笑)。違いを感じつつも、ちょっと羨ましいです。現代は人とのやりとりがスマホひとつで全て完結してしまうからこそ、人との関係性にどこか一線を引いているところもあると思うので。

絵柄は確かに古いですが、古さをもってあまりある面白さを生み出せるのは、巨匠・高橋留美子先生のすごいところだと思います。

プライバシーの観念が希薄がゆえの暮らしの楽しさは、確かに昭和的なのかもしれません。コミカルで癖の強い他の住人たちも魅力で、読んでいるうちに自分も一刻館に住みたくなってきます。


「きれいな顔してるだろ……」の名台詞が生まれた恋の三角関係

『タッチ』あだち充

全26巻(単行本)
連載期間:1981年~1986年
掲載誌:小学館『週刊少年サンデー』

「きれいな顔してるだろ……死んでるんだぜ。」というあの名ゼリフを聞いたことがある人も多いはず!野球部の弟・和也、ボクシング部の兄・達也の双子の兄弟と、ヒロイン・南との三角関係を描いた青春の名作。

アカデミックシアター所蔵リスト


読んだ人

清水 大良(しみずたいら)
理工学部 情報学科 3年生
好きなマンガ:『ダイヤのA』『ハイキュー!!』


普段からスポーツマンガをよく読んでいます。『タッチ』は野球マンガに恋愛的な面も掛け合わせているところが、とても新鮮に感じました。南ちゃんはとても面倒見が良く、今の時代であっても異性から好かれるようなタイプであると思います。ただ、思わせぶりな態度を複数人、しかも双子の兄弟相手にしているのは、いくら幼馴染であっても、どうなのかな……というのが正直な感想です(笑)。

風景の濃淡が濃く、頻繁に情景だけが描かれるシーンが多いのが、現在連載されているようなマンガと比べて特徴的に感じました。吹き出しがなく、キャラクターの表情だけが寄りで描かれているシーンなども多く見られ、キャラクターの表情から心情を想像させているような気がします。

ボクシングの試合で負けてしまった達也を南ちゃんが励ましに行ったとき、「こんなときやさしい女の子なら……だまってやさしくキスするんじゃないか……」という達也の台詞が印象に残っています。時代を感じる台詞回しだなと思いました。

あだち充先生のマンガって、本当に喋らないんです。こんなに台詞がなくてもマンガって成り立つんだなという驚きを味わってほしい!そして、南ちゃんの圧倒的なヒロイン感。身体のラインがリアルで「健康的な色っぽさ」というんでしょうか。昭和の男子がみんな恋した南ちゃんに、令和の大学生も恋してほしい!


昭和の恋愛マンガの特徴や魅力は?社会学の先生に聞いてみた




「キュンキュンした!」「ここはちょっとわからなかった!」とさまざまな意見が出てきましたが、舞台化やドラマ化されるなど色褪せない人気がある昭和の恋愛マンガ。どうして今でも多くの人の魅力を引きつけるのでしょうか?マンガの研究をしている社会学者、教職教育部 講師の椎名 健人先生にお話をうかがいました。

椎名 健人(しいな けんと)

近畿大学 教職教育部 講師。
京都大学大学院 教育学研究科 教育科学専攻 修士課程修了。日本近代文学や映画、マンガ、アニメ等を対象として教育社会学の観点から研究をおこなう。



「両思い」はゴールorスタート?恋愛マンガの昭和といまの違い

ヒラヤマ:よろしくお願いします。昭和といまの恋愛マンガはどんな違いがあるのでしょうか?

椎名先生:昭和のなかでも、時代をさかのぼるほど「両想いになることがクライマックス」という作品が多いですね。物語の時代背景ももちろんありますが、70年代の『はいからさんが通る』や『ベルサイユのばら』などは、恋愛が成就した瞬間にクライマックスがくる。言い換えれば、両想いになるまでがものすごく長い。逆に平成以降の恋愛マンガは、交際がはじまったあともストーリーが展開するケースも少なくないですよね。『かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜』のように「物語の初期状態の時点でほぼ両想い」という作品も、近年ではそう珍しくありません。

ヒラヤマ:そういえば確かに……!1975年に連載が始まった『キャンディキャンディ』なんかも、片思いの男の子と結ばれるまでの物語ですよね。

椎名先生:これって、昔は自由恋愛の価値がいまよりずっと高かったからだと思うんです。身分や家柄を重視したり、お見合いで結婚したりと制約がたくさんあった。だからこそマンガでは、惹かれ合う同士がさまざまな障害を越えて結ばれる瞬間が一番盛り上がるんです。昭和後期の80年代くらいからは自由恋愛もより一般的になってきます。『ときめきトゥナイト』や『ホットロード』など、女性が積極的に動いて恋愛をし始め、昭和も末期の80年代後半では、女性が恋愛のイニシアチブを取る作品も多くなってきます。1988年連載開始の『東京ラブストーリー』などはまさにそうですね。


バブル時代の高飛車お嬢様が登場する『白鳥麗子でございます!』(1987年〜 ※写真は『新・白鳥麗子でございます!』)や、全身整形手術で美貌を手に入れた『カンナさん大成功です!』(1997年〜)など、時代と共にヒロインのキャラも変化している?

ヒラヤマ:確かに!『東京ラブストーリー』ではヒロインのリカが主人公に、明るく性行為を誘うシーンが衝撃的でした。ヒロインのキャラも変わってきましたよね。『白鳥麗子でございます!』など、高飛車でイケイケのヒロインも多くなってきますし。

椎名先生:昭和の末期からは、男女の雇用のギャップがある程度埋められてきて、女性も自分で稼いで自分で生活の面倒を見られるようになってきた……という時代背景も影響していると思います。平成になると『きみはペット』など、キャリアウーマンが「癒してくれる男性」の面倒を見たり、年下のかわいい男の子が出てくるマンガも増えました。

ヒラヤマ:『オトメン(乙男)』など、料理やお裁縫が得意な男子が主要キャラに上がってくるとか……。でも『ときめきトゥナイト』の真壁くんみたいな「怖そうだけどじつはやさしい、子猫拾っちゃう系ヤンキーキャラ」はいまでも王道でモテキャラなんですよね〜!『山口くんはワルくない』とか『自転車屋さんの高橋くん』なんかも。

椎名先生:不器用で不愛想な男性のやさしい一面にキュンとするという、「モテる男性像」として普遍的なものはありますよね。


平成は家事が得意な男子が登場する『オトメン(乙男)』(2006年〜)や、女装美男子が登場する『海月姫』(2008年〜)などジェンダーレスなキャラクターが人気に。昭和のジェンダーレス・ラブコメディ『ストップ!! ひばりくん!』(1981年〜)は草分け的存在!?


黒電話からテレホンカード、そしてスマートフォンで恋心を伝える時代へ

ヒラヤマ:『ときめきトゥナイト』の続編もそうですが、『ホットロード』は2014年に映画化、『南くんの恋人』なんて過去4回もテレビドラマ化されています。昭和のマンガが時を経ても人気なのってどうしてなんでしょう?

椎名先生:当時のマンガで育った世代が大人になって制作側にまわるようになったとか、収益が期待できる昭和生まれ世代にターゲットを絞っているとか、考えられる要因は数多くあり、どれか一つということはないでしょう。ただ、作中の表現に注目するのであれば、いまでもリメイクや新作が出てくる作品には「その時代を象徴するモノ」が意外にもあまり出てきません。そのことが、現代の観客を相手にする際、むしろプラスに働いているんです。

ヒラヤマ:あ〜、なるほど。電話や手紙、テレビなど、現代も使われているツールしか登場しないなら、世代が違う人にもわかりますもんね。

椎名先生:「その時代を象徴するモノ」って、時代が変わると理解してもらうのに説明が必要になったり、世代が違う人に理解されにくくなったりということがあると思うんです。だから、たとえばYouTubeやInstagram、Twitterなどが出てくるマンガは数十年後の若者にとって読みづらい作品になってしまう可能性があるってことです。

ヒラヤマ:たしかに、昔のコミュニケーションツールだったポケベルだって、それ自体を知らない人は何なのかわからないですもんね。1976年に連載開始した『ガラスの仮面』は、黒電話の時代からテレホンカードの時代を経て、42巻で突如携帯電話が登場したことでファンも混乱していましたが……。

椎名先生:今回リストアップされた作品は、電話すら疎遠な時代の作品も多いですよね。時代を象徴するモノがないぶん、純粋な「恋の切なさ」や「恋のドキドキ」を今どきの人でも自分自身の体験談に当てはめて共感できるということがあるかもしれません。時代を経て映像化やリメイクされるのも、同じような理由ではないかなと思います。

ヒラヤマ:なるほど!リメイクする際も時代に応じたアレンジがしやすいというのもあるかもしれませんね〜。あと、「昔のドラマやマンガは自由さを求める描写が多いけど、今の若者は『レールがしかれてるほうがむしろ楽』という考え方が反映されたコンテンツを好む気がします」という意見がありました。

椎名先生:とても興味深いですね。知り合いの高校の先生も「今の学生は従順になった」と仰ることがあります。この2、30年で若者を取り巻く社会の状況が大きく変わったことが背景としてはありますね。

ヒラヤマ:具体的にはどういうことですか?


平成を代表するピュアな恋愛マンガ『君に届け』(2006年〜)。

椎名先生:日本経済が好調だった1980年代くらいまでは、いい大学を出ていい会社に就職すれば一生が保証されるという感覚が、少なくともいまよりはずっと強固でした。終身雇用制度に守られたサラリーマン……という人生モデルが大きな力を持っていたからこそ、若者たちもそのような「しかれたレールを走る人生」に対して思う存分に反発・反抗することができたんです。

ヒラヤマ:なるほど……。日本という国が経済的に衰退しつつある現在、若者たちにはそもそも「反抗」の対象となり得る強固な人生のモデルがありませんもんね。

椎名先生:正社員としての就職や結婚、子育て、マイホーム購入、定年までひとつの会社でサラリーマン……かつては不自由かつ凡庸な生き方と蔑まれることもあった「しかれたレールを走る人生」は、現代を生きる若者たちの多くにとって、今や望んでも手の届かない贅沢品です。あくまでひとつの仮説ではありますが、上記のような事柄が、もしかしたらコンテンツの流行りにも表れているのかもしれません。


絵柄やストーリーの違いはマンガ文化そのものが成熟した証拠




ヒラヤマ:また、読んでもらった学生のなかには、絵柄やコマ割りの違いや、ショックを受けた時に白目になるなど「昭和らしい」古典表現について指摘する人もいました。たしかに、ああいう表現って最近のマンガではあまりみないなあと思っていて……。

椎名先生:そうですね。その種の「古典表現」はしばしば一昔前のマンガに特有なものと思われがちですが、じつは外国映画など映像作品から着想を得てつくられているものも少なくありません。たとえば「地味で目立たない女の子が、眼鏡を外すと美人」のパターンなどは、1976年公開の映画『ロッキー』の頃にはすでに確立されていたように思います。『はいからさんが通る』の後半で、戦争と記憶喪失が恋の障害になる展開などは、1970年公開、ヴィットリオ・デ・シーカ監督の名作『ひまわり』を連想させます。

ヒラヤマ:なるほど、マンガより先に産業として確立していた映画の影響は大きそうですね。

椎名先生:昭和の時代は、いまほどマンガが「芸術」や「文化」のひとつとして価値を認められてはいなかった。低俗なものとして蔑まれた時代もありました。しかしそのような社会的ポジションにあったことは、ある意味でマンガを自由にしたとも考えられます。日本におけるマンガの作り手たちは、映画をはじめとする映像作品や文学からさまざま表現を貪欲なまでに吸収し、自らの作品ひいてはマンガ表現そのものが成長するための養分にしてきました。

ヒラヤマ:いわれてみれば、昭和のマンガは無声映画っぽいかもしれません。より多くの人に読んでもらうためには、誰が見ても「怒っている」とか「ケンカしている」とわかる共通の表現が必要だったってことですね。


古今東西の古典・名著、神話から経典、日記から民話まであらゆるものがコミカライズされてきた。

椎名先生:時代を追うごとにマンガは日本が世界に誇る文化として認知され、掲載媒体も増え、デジタル機器の普及などで表現の幅も増えてきました。現代は少年マンガや少女マンガにおいてもいわゆる古典表現の枠に収まらない洗練された表現を多く目にするようになりました。マンガ文化が成熟している証拠だと思いますね。

ヒラヤマ:なるほど……!これだけ絵柄もストーリーも多様なのは、マンガ自体が世の中に認められているからなんですね。

椎名先生:とはいえ、エンタメの多様化や出版の不況などもあって紙媒体のマンガ雑誌や単行本の売り上げ自体はピーク時だった90年代中頃より約半分に減少しているんです。そのかわり、電子書籍の売上がどんどん上がっていて、2020年はコロナ禍の巣ごもり需要もあり、過去最大の市場規模になりました。電子化の流れがよい方向に進んで、面白いマンガがきちんと後世に残る環境が整備されれば嬉しいですね……。


昭和も令和も、恋するドキドキは一緒

「昭和」ひとつとっても、自由に将来すら選べなかった世情から、自分で相手を選んで強気な恋をしていく世情まで描かれていて、「昭和の恋愛」はバリエーションに富んでいます。
当時の時代背景や社会の情勢のなかで、人々がどんなふうに出会って恋をしていたのかが絵と文章でわかるマンガはある意味タイムマシンに近いのかもしれません。

世界観や時代背景が違えど、恋が甘くて切なくてドキドキするものだというのは昭和も令和も一緒。絵柄のレトロさに敬遠せず、手に取ってみてくださいね。人生のバイブルになるような名作と出会えるかもしれませんよ!!


文:平山靖子
編集:人間編集部

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