2023.09.15
24時間営業の無人古着店に突撃!無人で儲かる仕組みって?万引き対策は?経営者に聞いてみた
- Kindai Picks編集部
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ここ最近、近大通りで目立つようになった24時間営業の無人古着店。利用したことはなくても、気になっている学生も多いかもしれません。そこで、無人古着店というビジネスは気になりつつも、ファッションには関心が低い学生が調査を敢行。経営者はどんな人? なぜ近大通りに店を? 商品の盗難対策は? 実際に店舗を利用し、経営者と近畿大学経営学部の先生に話を聞いてきました。
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こんにちは、総合社会学部3年の古波津 優育です。突然ですが、ここのところ近大通りに24時間営業の無人古着店が目立つようになったと思いませんか? 通学中に目がいくので、僕も気になっていました。
とはいえ、着るものは安ければなんでもいいという考えで、2日に1回は高校時代の体操服を着て登校するほどおしゃれに関心がない僕には、古着店は縁遠い空間です。そこに出入りするおしゃれな客や店主も敬遠していたというのが正直なところ。
では、何が気になるかというとビジネスとしての側面。冷凍食品の自動販売機を始め、コロナ禍を経て多くの無人ビジネスが生まれましたが、店舗を構える以上は防犯面などの課題も出てくるはずです。そもそも24時間営業で利益は出るのか、どうして無人で古着を販売するようになったのか、なぜ近大通りを選んだのか――そして何より、経営者の人物像も知りたいところです。
いろんな疑問はあるものの、利用してみないことには始まらない! ということで、まずは無人古着店の実態を把握すべく店を訪ねてみることにしました。
ファッション音痴が24時間の無人古着店を訪問! 注目のビフォーアフターは?
というわけで、やってきたのは近鉄長瀬駅から徒歩約3分、近畿大学西門から徒歩約10分のロケーションにある「古着無人販売 長瀬店」。間口が広く取られており、店の外からでも豊富なラインナップが一目で分かります。
店内に入ってみると、トップス、ボトムス、シューズにバッグなど、古着がぎっしり!
ネクタイや帽子のような小物類も充実しています。
こちらはTシャツが色別に陳列された一画。ここから毎日違う色の服を揃えれば、1週間で七色コーデをコンプリートできますね。
無人だけに気になるのは購入方法ですが、店内には分かりやすい説明があるのでご安心を。
まずは好みの服を選んで、
この日、同行してくれた友人とトップスをセレクト。
ハンガーの色で示された金額をお会計ボックスに入れ……。
あとは持ち帰るだけ! とても簡単です。もちろん試着室も完備されているので、サイズ感や色合わせの確認も可能です。
ちなみに料金表はこんな感じ。
ハンガーの色によって値段が分かるようになっています。上限は4000円で、パンツやスカート、シューズやバッグに至っては1000円均一! 学生にはうれしい価格設定ですよね。
普段はこんな格好で大学に通う僕も……。
高校時代の青ジャージにTシャツという、いつも通りのコーディネート。
柄物のシャツ(2000円)に短パン(1000円)で涼しげな印象に。
ご覧の通り、たった3000円でキラキラの古着大学生になれました! こんなに気軽に立ち寄れるおしゃれスポットが近大通りにあったとは……。衝撃を受けたと同時に、今後も使ってみたい気持ちになりました(「時間がなくて、高校時代の体操服で大学の近くまで来ちゃった!」なんて日も安心ですね)。
普段なら選ばないようなシャツを着ると、思わずテンションも上がります!
そんなわけで、以前よりファッションを身近に感じさせてくれた無人古着店。利用者視点からその利便性を体感したところで、経営者の方に疑問をぶつけてみることにしました。
万引き犯を捕まえたことも? 無人古着店の店主を直撃した
今回、お話をうかがったのは、近大通りの店の他に大阪市住吉区で2店舗の無人古着店を営む柏木 辰則さん。日々、各店舗を巡回しては商品の入れ替えや管理を行っているそうで、多忙な合間を縫ってインタビューに応じてくれました。実店舗とネットを使い分けてビジネスを営む店主の柏木 辰則さん。
古波津:今日はよろしくお願いします! 僕もお店で買い物したのですが、思っていたよりずっと手軽に古着を楽しめました。以前はファッションに疎くて入りにくかったのですが、すっかり印象が変わりました。
柏木:あれ、入りにくかったんですね(笑)。無人なら入りやすいかなと思っていました。一般的な古着屋さんって店員さんがめちゃくちゃおしゃれで、入った以上は何か買わないと出られないみたいに感じる人もいるじゃないですか。無人販売だとその窮屈さがないのではと思っていたんですけど。
古波津:僕みたいなファッション音痴にとっては、周りに近大生がいる状況でおしゃれな空間に入ることに若干抵抗があります。でも、確かに有人か無人かで比べれば、無人の方が圧倒的に入りやすかったです。
柏木:それはよかったです。
古波津:ところで、去年あたりから近大通りで無人古着店を見かけるようになった気がするんですが、ここもそうですか?
柏木:そうですね。うちも去年の7月に始めました。
古波津:古着の販売を始めたきっかけはなんですか?
柏木:もともとトラックドライバーをしていて、その副業として引っ越し業者などから買い取った服や家具をネットで販売していました。10年近く続けるうちに、そっちの仕事の方が忙しくなってトラックドライバーは辞めたんです。
古波津:もとはネットからだったんですね。
柏木:いまもネット販売は継続しているんですけど、まとめて仕入れる都合でどうしても大量の在庫を抱えることになる。その対策としての無人古着店なんです。倉庫の家賃だけでも結構な額になるし、買い手のつかない商品を処分するのも気がかりだったので。廃棄はこれまでの半分くらいになりましたね。
古波津:倉庫代わりになるうえに廃棄が減らせるなんて、まさに一石二鳥ですね。実際のところ利益も大きいのでしょうか?
柏木:無人販売でそこまで稼ぐつもりもありませんが、ネット販売との兼業で普通の生活は送れています。無人販売は家賃と光熱費くらいしかコストがかからないので、比較的気軽に始められる合理的なビジネスだと思います。
古波津:店舗の内装はどうしたんですか?
柏木:自分でDIYしました。恥ずかしいのであまり見ないでください(笑)
古波津:分かりました(笑)。それはそうと、ネットと店舗ではどのように住み分けをしているのでしょうか?
柏木:店舗で扱うのは4000円までで、5000円以上のものはネット販売です。ネットだと商品登録の手間もかかるので。
古波津:確かに利益率の低い商品を一つひとつ登録するのはたいへんですね。
柏木:そうなんです。あとは単純な話、高額品を無人販売すると防犯上のリスクが高いのも理由です。
古波津:商品のラインナップ自体もセキュリティになっていると! やはり無人販売だと防犯対策は最重要課題ですよね。
柏木:3店舗とも防犯カメラは毎日チェックしていて、お会計ボックスのお金は1日2回くらいの頻度で回収します。それでも以前、この周辺に連続窃盗犯が出たときは被害に遭ってしまって。自分で万引き常習犯を捕まえて、 警察に届け出たこともありましたね。
古波津:ひえ〜、結構体張るんですね。ちなみに防犯カメラを確認すると客層も見えてくるのでは?
柏木:はい。ここはやっぱり学生さんらしき若者が多いですが、授業のある日中だと年配の方も来られます。反対に夜はほとんど学生さんかなという印象ですね。住吉区の店は年齢層が高いので、品揃えもそれに合わせています。男女比はどこも半々くらいかな。
古波津:今なら例えばどんなアイテムが人気なんですか?
柏木:オーバーサイズの着こなしが流行している影響か、レディースよりメンズの方が売れますね。 男性はレディースを着ないけど、女性はメンズも着る。
古波津:なるほど。ではなぜ、近大の周りに店を出そうと思ったのでしょうか? やはり学生が狙いですか?
柏木:正直、場所のこだわりはなくて(笑)。ただ、人通りの多さと物件の間口の広さは譲れない条件でした。商品を見てもらえないことには商売にならないので。間口の広さという意味では、商品のジャンルにもかたよりが出ないようにしていますね。
古波津:より幅広い層に訴えかけることを考えると、規模の大きい大学の近くだと有利なんですね。ただ単純な疑問なんですが、合計3店舗にネット販売もあるとなると毎日忙しくないですか?
柏木:そうですね。防犯も兼ねて1日2回は各店舗を巡回します。日中と夕方が中心ですが、時間をずらすこともありますね。24時間の無人営業なので、問い合わせ対応で午前3時に店舗に行くこともあります。
古波津:めちゃくちゃハードですね……。
柏木:そこはもともとドライバーをやっていたので慣れています(笑)。むしろ毎日をどう組み立てるかは自由なので性に合っているとは思いますね。空いた時間はネット販売の商品登録や発送に充てています。
古波津:これが天職ということか……! ところで、店舗巡回時には商品の入荷もしますよね。どれくらいのサイクルで商品は入れ替わるんですか?
柏木:各店舗とも2日に1回は新商品を補充します。1回につき50〜100着くらいかな。長く売れ残っている商品は見れば分かるので、そういう商品を中心に入れ替えますね。
古波津:無人とはいえ想像以上に手間をかけているんですね。それだけに接客をする機会がないのは物足りないのでは?
柏木:確かに、商品の説明ができたらという気持ちはあります。限られた期間しか製造されていなくて希少価値が高いとか、他とは微妙につくりが違うとかね。古着って知れば知るほどおもしろくて、仕事にしてからハマりました。
古波津:古着好きで販売を始めたとばかり思っていたので意外です! ちなみに本日の服装は何かこだわりが?
柏木:いや、まったくです(笑)。このズボンは古着じゃなくて、量販店で買ったし。
古波津:めちゃくちゃ普通なんですね(笑)
お会計ボックスの近くにノートが置かれている。
柏木:とはいえ、お客さんに古着の魅力を語れないぶん、実は店舗にこんなノートを置いていて。これを通してお客さんとコミュニケーションができるのが楽しみの一つです。
古波津:結構びっしり書かれていますね。
柏木:品揃えなどについてお客さんの要望なんかも書いてあって、可能な限り応えるようにしています。店舗運営の指針になるので、めちゃくちゃ重視しています。
古波津:最後に聞きたいのですが、今後の運営方針をどのように考えていますか?
柏木:大手の参入が懸念材料かな。大手の在庫10点と僕らの在庫10点では、そこにかかる税金の比率が全然違うので。ただ、僕のライフスタイルと合った働き方なので、今後も続けていきたいと思います。
古波津:仕事のリアルな内情や無人店舗ならではの工夫がよく分かりました。今日はありがとうございました!
無人古着店というビジネスとその可能性を経営の専門家に聞いてみた
商売のきっかけから体を張った防犯対策まで、柏木さんの話からは無人古着店の実態がよく分かりました。では、経営の専門家の目にはどのように映るのでしょうか? 経営学部 商学科でマーケティングを研究する滝本 優枝先生に話を聞きました。
近畿大学 経営学部 商学科 准教授。流通システムやブランドマネジメントを専門に、ヒット商品やブランドといったモノやコトが、どのようなメカニズムで消費されるかを研究。着物生地としては使えなくなったシルクの生成り生地を用いたアイケア商品「シル近ピロー」の開発など、産学連携にも取り組む。
古波津:先日、初めて近大通りの無人古着店を利用してきました。ファッションに疎く、取材前は入店を躊躇していたのですが、実際はすごく使い勝手がよくて値段も手頃で。先生はどのような印象をお持ちですか?
滝本:周囲の学生は比較的利用している印象です。ゼミの4年生に聞くと4、5人は行っていて、4人に1人程度が利用した割合です。
古波津:個人的には周りの目が気になって利用をためらう人が多い気がしていたのですが、予想以上に利用しているんですね! となると、近大通りは無人古着店というビジネスと親和性が高いのでしょうか?
滝本:やはり近大通りを含めた学生街は出店するにはいい場所ですね。大学生はファッションに関心を抱く年代でもあるし、人通りも多い。ただ私の周囲に限っていえば、リピーターは少ない印象です。
古波津:どんな理由が考えられますか?
滝本:物量に勝るアパレル大手であれば、頻繁な商品の入れ替えで変化を演出できるし、そのことが誘客のきっかけになって、ひいては流行をつくり出せます。一方、個人経営の古着店は商品を大きく入れ替えることが困難なので、その点で遅れを取ることになりますよね。
古波津:お店としてもできるだけ商品を回転させているとのことでしたが、店頭に動きがあるかが重要なんですね。一方で店主さんは大手の参入を恐れてもいました。個人経営者の側が対抗する手立てはあるのでしょうか?
滝本:一般論ですが、無人古着店の経営者がネットワークをつくって、相互に商品を交換するような仕組みができれば、突破口が開けるかもしれません。商品の回転を早めて、常に目新しいものや掘り出し物が見つかるワクワク感を演出すると、おのずと注目も集まると思います。
古波津:なるほど! より長く続くビジネスにするには、それなりの工夫が必要なんですね。
滝本:無人古着店に限らず、人からお金をもらう以上は知恵を使わないと。例えばアメリカのある企業は、ネットで選んだ洋服を店舗に出向いて試着してもらい、商品は後日発送するスタイルで成功した企業があります。店舗はあくまで試着するための場所という位置づけで、商品の選択や購入はネット上で行うという。
古波津:どのようなメリットがあるのでしょうか?
滝本:店舗には最低限の商品しか置かないから在庫に悩まされることもないし、接客も最小限の人員で対応できるので人件費も圧縮できますよね。要は無人と有人のちょうどいい頃合いなんです。これはあくまで一つの例に過ぎないけど、他とは違うユニークなストーリーや戦略でビジネスシステムを構築することがマーケティングであり、経営者が目指すところですね。
古波津:何に力点を置いて商売するのか、きちんと考えるのが重要なんですね。分かりやすい具体例も含め、よく理解できました。ありがとうございました!
古着やファッションへの門戸を開いてくれる店のこれからに期待!
近大通りの無人古着店を見て、誰がどのような思いで経営しているのか知りたいと思って始めた今回の取材。経営者、専門家それぞれへのインタビューを通して、無人ゆえの強みと課題が見えてきました。個人経営で流行の移り変わりに対応するのは容易ではありませんが、価格とシステムの両面で古着への門戸を開くスタイルは大きな強み。僕のようにファッションに対する関心が薄い人でも、気軽に立ち寄れるのは本当にありがたいと思います。
改めて振り返ってみると、初めて訪ねた無人古着店で黒地に黄色いバックプリントの入ったTシャツを見つけたとき、ちょっといいなと思ったと同時に古着の印象がよくなりました。店主の柏木さんの話には、個人ビジネスっておもしろいなと思わされました。経営学部の滝本先生の話からは、これからの無人古着店が取りうる方策と可能性が見えてきました。
今後、無人古着店がどのような動きを見せるかは一人ひとりの店主の経営方針次第ですが、誰もが気軽に訪れることができる店として浸透してほしいというのが個人的な思い。近大通りにもさらに無人古着店が増え、友人との帰り道に「ちょっと寄ってこか」とコンビニ感覚で立ち寄れる日常を心待ちにしています。
この記事を書いた人
古波津 優育(こはつ・ゆうすけ)
近畿大学 総合社会学部 総合社会学科 社会・マスメディア系専攻3年生。奈良県出身。自ら服を選んで買うことに抵抗があり、大学生になった現在も高校時代の体操服(青ジャージ)で通学。メディアへの関心から始めた取材を、鮮烈な古着デビューの機会にしようと目論んでいる。
編集:人間編集部
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