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2021.08.20

何が真実で何が嘘?ワクチン陰謀論の正体とデマを拡散する人の心理を情報倫理の専門家が解説

Kindai Picks編集部

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情報論理
インターネット
フェイクニュース

新型コロナウイルスのワクチン接種が世界各地で進む一方、ワクチン​に関するデマも横行しています。デマに騙されやすいのは、SNSやYouTubeなどを見ている若者だと言われていますが、実際のところどうなんでしょうか? そして、そういった誤情報が、著名人や学者、医師免許を持っている人から発信されるケースも。デマに騙されないためにはどうすれば良いの? デマにハマってしまう心理とは? そもそもデマは本当にデマなの? 情報倫理の専門家にお話を伺いました。

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こんにちは。総合社会学部 社会・マスメディア専攻4年生の大成静香です!

突然ですが、みなさんはデマやフェイクニュースを信じてしまったことはありませんか?



例えば、2016年の熊本地震の時に「動物園からライオンが脱走した」というデマが拡散され、話題になりました。このデマは、後日神奈川県に住む20歳の会社員男性がイタズラで行ったことが発覚し、偽計業務妨害の疑いで逮捕されています。

また、お笑いタレントのスマイリーキクチさんが、1988~1989年に起きた「女子高生コンクリート詰め殺人事件に関与していた」という匿名掲示板の書き込みによって、長い間誹謗中傷被害を受け続けていたのをご存知でしょうか? 2008~2009年に中傷の書き込みを行った人物を1200~1300人以上特定し、犯行回数や投稿内容が確実に刑法違反にあると判断された19人が検挙されました。



このように、イタズラでデマを流したり、他人の名誉を傷つける中傷行為で犯人が逮捕されるケースもありますが、SNSや匿名掲示板に書かれた「うわさ」や「憶測」、はたまた「ジョーク」を、本気で信じて拡散してしまう人もいます。

特に災害時は、不安や正義感から真意のわからない情報を条件反射的に拡散してしまうことも多いようです。コロナ禍で、今もコロナウイルスやワクチンに関する不確かな情報が多く流布されています。



最近では「ワクチンを接種すると不妊や流産、自閉症になる」という誤情報が多く拡散され、衆議院議員の河野太郎大臣が公式サイトにデマを否定する声明を出すほどの事態に。

河野大臣も「中には医師免許を持っているにもかかわらず、デマを流す人もいます」と書いている通り、なんと、学者や医師免許を持っている人がデマを流していることもあるようです。

他にも、「新型コロナウイルスは、マイコプラズマ菌にエボラとエイズを合わせて作られた人工のウイルスだ」「5Gの電波でウイルスが拡散されている」「ワクチンを接種したら磁石が体にくっつくようになる」「人の遺伝子構造を変える」「マイクロチップが埋め込まれて国に管理されるようになる」などなど、まるでSF映画のような突飛な陰謀論も一部で囁かれています。
※これらは全て、根拠のないデマだと判明しています。



私も、Twitterに流れてくる情報を鵜呑みにして、後々誤情報だと知った経験が多々あります。気付いていないだけで、まだ間違いを真実だと信じ込んでしまっている情報もあるかもしれません。デマに騙されないためにはどうしたら良いんだろう? そもそも、どうしてデマを流す人がいるんだろう? 疑問に思った私は、デマについてもう少し深く調べてみることにしました。


そもそもデマって? フェイクやミスリードとの違いは?




そもそも、「デマ」とは一体なんなのでしょうか? 語源を調べてみると、「デマ」はドイツ語の「デマゴギー(Demagogie)」の略で、「政治的な目的で相手を誹謗し、相手に不利な世論を作り出すように流す虚偽の情報。また、社会情勢が不安な時などに発生して、人心を惑わすような憶測や事実誤認による情報」(出典:『日本国語大辞典(日国)』)という意味なんだそうです。

また、デマの意味合いでよく使われる「フェイク(Fake)」は「虚偽」という意味を持ちます。メディア上で拡散され、現実世界に負の影響をもたらす真意のわからないニュース全般のことを「フェイクニュース」という言葉で一括りにすることが多いようです。

正確事実の誤りはなく、重要な要素が欠けていない。
ほぼ正確一部は不正確だが、主要な部分・根幹に誤りはない。
ミスリード一見事実と異なることは言っていないが、釣り見出しや重要な事実の欠落などにより、誤解の余地が大きい。
不正確正確な部分と不正確な部分が混じっていて、全体として正確性が欠如している。
根拠不明誤りと証明できないが、証拠・根拠がないか非常に乏しい。
誤り全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがある。
虚偽全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがあり、事実でないと知りながら伝えた疑いが濃厚である。
判定留保真偽を証明することが困難。誤りの可能性が強くはないが、否定もできない。
検証対象外意見や主観的な認識・評価に関することであり、真偽を証明・解明できる事柄ではない。
FIJのレーティング基準(2019年4月2日制定)

2017年に発足された、日本におけるファクトチェック(真偽検証)を推進・普及するためのプラットフォーム団体「ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)」のファクトチェック・ガイドラインでは、「虚偽」か「真実」かだけではなく、読み手が間違って受け取りやすい「ミスリード」、事実かもしれないけど根拠が不十分な「根拠不明」など、誤情報が細かく分類されています。たしかに、ネット上にはわざとミスリードを狙っていると思われるタイトルの記事もあって、本当に厄介ですよね……。

そして、SNS利用者はどのような基準で拡散する情報を選んでいるのでしょうか?

情報拡散の基準


出典:総務省「社会課題解決のための新たなICTサービス・技術への人々の意識に関する調査研究」(平成27年)

総務省が公開している2015年に行われたアンケートによると「内容に共感したかどうか」が46.2%、「内容が面白いかどうか」が40.4%に対して、「内容の信憑性が高いかどうか」は23.5%にとどまります。

情報拡散の基準(年代別)


総務省「社会課題解決のための新たなICTサービス・技術への人々の意識に関する調査研究」(平成27年)を加工して作成

情報拡散の基準を年代別に見てみます。「内容に共感したかどうか」を基準とする人の割合は全ての年代に共通して高いです。しかし、「内容が面白いかどうか」を基準とする人の割合は年代が下がるほど高くなり、反対に「情報の信憑性が高いかどうか」を基準とする人の割合は年代が上がるほど高くなる傾向があるようです。


誰がなんのためにデマを流してるの? 先生に聞いてみた!




どのようにしてデマは生まれ、広がるのか? デマに騙されないようにするためにはどうすれば良いのか? 情報倫理を研究している経営学部の鞆大輔教授にお話を伺いました。

鞆大輔(とも だいすけ)

経営学部経営学科教授

専攻は、情報倫理、アプリケーション構築。ネットでの炎上問題や不正アクセス、個人情報漏洩などの情報倫理問題を利用者視点から研究している。


大成:鞆先生、本日はよろしくお願いします。早速ですが、どうして人はデマを信じてしまうのでしょうか?

鞆先生:現代社会の根本的な問題として、SNSやブログなどで、個人が自由に気軽に情報発信できるため、誰かの思い込みや誤解がそのまま公開されている場合があります。そして、ネットで情報を探す側も、新聞やニュースと違って「見たいものだけを選んで見る」という特徴があります。例えば、ワクチンに対して不信感を持っている人は「ワクチン+危険」など、良くない部分を探すようなワードで検索します。仮説を立てて、自分がほしいと思う「証拠」を集めてしまうんです。また、ブラウザが検索履歴やクリック履歴を分析し学習することで、そのユーザーが好む情報が優先され、他の情報から乖離した状態に陥ってしまっているんです。それを「フィルターバブル」といいます。



大成:検索機能が便利になったことで、自分にとって余計な情報が入ってこないかわりに、本来いろんな意見や情報があるはずなのに、見えてないということですよね。

鞆先生:そうです。更に、SNSは自分と趣味や意見の合う人をフォローしますよね。フォローしなくても、自分が「いいね」を押した投稿と似たような情報が表示されるような仕組みになっています。そうすると、自分と同じ意見ばかり繰り返し見る「反響室」のような状態になり、「やっぱり自分は正しいんだ」と特定の信念が増幅されていく「エコーチェンバー現象」という現象が起こります。見たいものだけを見てしまうと視野が狭まってしまうため、価値観が凝り固まってしまうんですね。

関連記事:フェミニストの主張を「不快」に感じるのはなぜ?SNSの論争からフェミニズムと男女差別の本質を探る

大成:情報が正しいかどうか見極めるにはどうしたら良いでしょう?

鞆先生:やはり生のソースに触れることが大事ですね。デマに騙されないためには、なるべく加工されていない、事実だけが述べられたソースを知ることが大事です。例えば研究結果や事件の事実だけが載っているサイトなどは、書き手の主観が入っていないから信用できます。でも、一般の人がソースを探したりファクトチェックをするのはかなり労力がいりますから、そこが情報リテラシーの難しさでもありますね。また、憧れている、信頼している著名人などの意見に影響されてしまうこともあると思います。



大成:なるほど。コロナワクチンのデマの発祥元は12人のインフルエンサーだったというニュースも見ました。そのような人々は、一体なんの目的があってデマを広めているのでしょうか?

※アメリカの民間団体「デジタルヘイト対抗センター(CCDH)」の調査レポート「The Disinformation Dozen」によると、ネットに蔓延る新型コロナウイルスワクチンのデマ情報の65%が12人のインフルエンサーによって生み出され、拡散されていたことが判明した。

鞆先生:デマや陰謀論を発信している人は二極化していて、「本当に信じている人」と「デマを利用しようと企む人達」のどちらかだと思っています。後者は、ソーシャルメディアを介して庶民の不安を煽り、その不安に付け込んでセミナー代や書籍代、その人が推奨する商品の売買でお金を儲けようとしているんです。また、迷惑系YouTuberなどと同じで、あえて逆説を出したり、センセーショナルなニュースで視聴者数を集め「広告収入を得る」という目的もあるかもしれません。先ほどのお話にあった、CCDHが調査した12人のインフルエンサーは合計40億円もの利益を得ていたと予測されています。

大成:なるほど。本人が信じていなくても、お金儲けのためにデマを流す人がいるんですね。私は陰謀論にハマったことはないですが、今のメディアや政治家の発言を100%信じられないという気持ちはわかります。「テレビでは話せない真実」みたいな謳い文句を見ると、正直興味を引かれてしまいます。



鞆先生:よく「メディアは報道しない」「メディアが情報操作をしている」というような言葉を聞きますが、じゃあ、実際メディアに色を着けているのは誰だろうっていう問題はあるんですよ。

大成:スポンサーとか、上層部の人みたいなイメージですかね……。

鞆先生:もちろん、スポンサーに都合の悪いことは流せないですよね。でも、例えば一つの番組を作るとして、カメラマンやアナウンサー、映像編集などいろんな役割の人がいますが、一人一人は自分の仕事をこなすのに精一杯で情報操作をする余裕はないと思います。では上層部が情報に色を着けているのかと言えば、そうでもないのではないでしょうか。世の中にはものすごい量のニュースがありますから、いちいち上層部が確認してこういう風に編集しなさいと命じる時間はないと思います。ではメディアとは誰を指すのか。「メディアは悪」という言葉には具体的なターゲットがない。実は情報に色を見出しているのは受け手のほうなのではないかという見方もできます。

大成:そういえば、犯罪者などに対して「外国籍なのではないか?」と過度に疑う声もあがりますよね。悪いことをする人は別の国の人……というような偏見を持っている人も一定数いる気がします。また、テレビに出ているタレントが外国籍だということで「日本を貶める闇の支配者と繋がっている」「テレビで洗脳しようとしている」など、陰謀論とつなげる人もよく見かけます。最近では、元東大特任准教授がTwitterに「伊藤詩織さんの名前が偽名」と投稿し、裁判沙汰になったニュースもありました。



鞆先生:かつての戦争の責任問題や、尖閣諸島や竹島、北方領土などの領土問題で対立構造にある国や、自分が信じたい物事と対立構造にある物事に対して、色を見出してしまうということはある気がします。1923年に起きた関東大地震では、震災後の混乱の中で「朝鮮人が暴動を画策している」「井戸に毒薬を投下した」などのデマが広まり、それを信じた市民による自警団によって、朝鮮人や朝鮮人と間違われた人々が殺害されるという大事件が起きました。

大成:デマから偏見や差別が広がったり、偏見や差別によるデマもあるってことですよね……。めちゃくちゃ怖いですね。でも、こういうと不謹慎かもしれませんが、陰謀論ってなんとなくロマンがあるというか、SFっぽさがあって惹かれるところもあるのかもって思います。実際にあったら面白いなというか、「本当にあった」というニュースが流れたら飛びついてしまいそうな気はします。

鞆先生:中には「陰謀論だと思われていたことが事実だった」というケースもありますから、「あのニュースが本当だったのだから、このニュースも本当だろう」というように考えが強化されてしまったりもするでしょうね。例えば昔「日本の通信が外国に傍受されている」という情報が流れて、陰謀論だと思われていたのですが、実は本当に米軍基地に「エシュロン」という通信傍受システムがあった……なんてこともありました。北朝鮮による日本人拉致問題も最初は荒唐無稽な陰謀論だと言われていましたし。



大成:それを聞くと、今は立証されていないけど、事実かもしれない陰謀論もあるかもしれないってことですよね。

鞆先生:でも、これができるならこれもできるに違いない、という感じで物事を判断してしまうとやっぱり見方が偏ってしまうと思いますね。中途半端に知識があって、正義感が突っ走ってしまいがちな人は騙されやすい人に分類されると考えています。

大成:たしかに、知識があるからこそ情報を曲解してしまうこともありそう。デマに騙されないために普段から気をつけておきたいことってありますか?

鞆先生:目にした情報が正しいか、立ち止まって考えて、自分で考えを深める「クリティカルシンキング」の考え方が重要だと思います。ロジカルに考える上で、前提を疑ったり、自分が無意識にとっている行動や考え方を客観的かつ分析的に意識化する方法です。僕のゼミでもこの考えは重要視していて、情報の根拠となるものを考える力を鍛えています。責任感のある活動を行っていると、気軽に発言できないのでこの考え方が大事になっていきます。また、間違っても良いので「失敗したら学ぶ」という姿勢が大事ですね。




日常的にクリティカルシンキングを!

大成:最後に、最近では「家族が陰謀論にハマってしまった」というような人も増えているようなのですが……もし身近な人が陰謀論に傾倒してしまったら、どう対応したら良いのでしょうか?

鞆先生:温かく見守るしかないですね……。そもそもの物の見方を変えないといけないので、外からどんなに真実を突きつけて説得してもなかなか変わらないと思います。デマを流すインフルエンサーはどこか魅力があり説得力がある人が多く、陰謀論に騙される人は「周りがみんな騙されていて、自分たちだけが真実を知っている」と思い込んでしまう。そして、信じ切って周りに誤情報を広めることで取り返しがつかなくなります。より、自分が信じたい情報を信じるための情報を集め、意固地になってしまうんです。だから、一度陰謀論にハマってしまうとなかなか抜け出せないんですよ。

大成:真面目で正義感が強く、傷つきやすい人ほど抜け出せないのかもしれないですね。

鞆先生:デマも含め、インターネット上に大量の情報がウイルスのように氾濫し、現実社会に影響を及ぼすインフォデミックが起きています。デマや陰謀論に騙されないためには、それこそワクチンを打つのと同じで、日常的にクリティカルシンキングをしてデマに対する耐性をつけておくことが大事だと思います。

大成:ありがとうございました。



世の中には真偽のわからないニュースが数多く出回っています。中にはインパクトが大きく、信じてしまいそうになるニュースもたくさんあります。それらに踊らされないためにも、一度立ち止まって根拠を考える「クリティカルシンキング」を行う力を鍛えることが、デマに騙されないための第一歩になるかもしれませんね。

コロナ禍の自粛生活が続いて「全て嘘だったらいいのに」と思うこともありますが、これからの時代を生き抜くために、私も心の耐性をつけたいと思います。

近畿大学オープンキャンパス2021特別企画として、鞆大輔教授が監修した「情報倫理」をテーマにしたLINEで遊べる謎解きゲームを実施します!

近大謎解きキャンパス「嘘だらけのパラダイム都市伝説 〜行けたら行くわの謎〜」(第二部)
期間:8月21日(土)10:00 〜 9月26日(日)23:59
※期間中ならいつでもプレイ可能です
近大謎解きキャンパス「嘘だらけのパラダイム都市伝説 〜行けたら行くわの謎〜」



この記事を書いた人



大成 静香(おおなる しずか)

総合社会学部 社会・マスメディア系専攻 4年生
部活ではクラシックギターを練習しています。謎解きやゲームをすることが趣味です。


企画・編集:人間編集部

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