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2020.10.06

知っておきたいアフターピル(緊急避妊薬)の基礎知識。副作用や低用量ピルとの違いは?

Kindai Picks編集部

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医療
アフターピル
低用量ピル
緊急避妊薬

性交後72時間以内の服用により、約85%の確率で妊娠を防ぐとされるアフターピル(緊急避妊薬)。ネットを中心に話題になったこともあり、副作用は重いのか、低用量ピルとどう違うのかなど気になっている方もおられるのではないでしょうか。そこで今回は、近畿大学東洋医学研究所所長で女性ヘルスケアや婦人科のホルモンが専門の武田卓先生に、アフターピルや低用量ピルを取り巻く現状、海外との違い、知っておきたい知識について詳しくお聞きしました。

武田 卓(たけだ たかし)

医師/博士(医学)/近畿大学東洋医学研究所所長/同女性医学部門教授/東北大学医学部産婦人科客員教授

1987年大阪大学医学部卒業、1995年大阪大学大学院博士課程修了。日本産科婦人科学会専門医・指導医、日本内分泌学会内分泌代謝科専門医・指導医、日本女性医学会女性ヘルスケア専門医・指導医、日本女性心身医学会認定医、日本婦人科腫瘍学会専門医、日本がん治療認定医機構暫定教育医・癌治療認定医、日本東洋医学会漢方専門医・指導医、日本産婦人科学会代議員、日本内分泌学会評議員、日本思春期学会理事、日本女性心身症学会理事、日本抗加齢医学会評議員。

近畿大学東洋医学研究所
近畿大学病院




アフターピルに副作用はある? オンラインでの処方は可能?




――本記事の取材にあたり、150名(女性72名、男性78名)の近大生にアンケートを実施したところ、女性では11.1%、男性では15.4%がアフターピルの存在を知らないという結果になりました。最近話題になったことで知る人が増えたとも考えられますが、アフターピルはそもそもどのような薬なのでしょうか?

アフターピル(緊急避妊薬)は緊急避妊法のひとつで、望まない妊娠を防ぐため、性交後に用いる薬剤のことをいいます。あくまでも、より確実なほかの避妊法を実施できなかったり、うまくいかなかったりした際に緊急避難的に使用するものであることをよく理解してください。日本では、2011年に「ノルレボ錠」というアフターピルが承認され、使えるようになっています。

ノルレボは経口薬で、性交後 72 時間以内になるべく速やかに1錠(1.5㎎)を服用します。WHOより緊急避妊薬として必須医薬品の指定も受けている、国際的にも標準的な方法です。また、ノルレボのジェネリック医薬品もあり、日本では未承認ですが海外には「エラ」などのアフターピルもあります。

――ノルレボはどのようにして妊娠のリスクを下げるのですか?

すべてが明らかになっているわけではありませんが、主に排卵を抑制したり遅らせたりすると考えられています。ノルレボの服用により、排卵の引き金となる黄体形成ホルモンの大量な分泌が抑えられ、結果として排卵が抑制されるのです。

――ノルレボに副作用はありますか?

嘔吐はほとんどみられませんが、3.6%に悪心(吐き気や胸のむかつき)があるほか、不正性器出血頭痛などの症状も報告※1されています。

ノルレボが承認される前は、「ヤッペ(Yuzpe)法」という緊急避妊法が一般的に用いられていました。ヤッペ法は、中用量ピルを性交後72時間以内に2錠服用し、12時間後にさらに2錠服用する方法です。ノルレボより価格は安いのですが、悪心が50.1%嘔吐が14.8%にみられたという報告※1があり、妊娠阻止率もノルレボより低いとされています※2

ヤッペ法とノルレボの妊娠阻止率※2


※1 日本産科婦人科学会「緊急避妊法の適正使用に関する指針(平成 28 年度改訂版)」を参照
※2 Task Force on Postovulatory Methods of Fertility Regulation. Randomised controlled trial of levonorgestrel versus the Yuzpe regimen of combined oral contraceptives for emergency contraception. Lancet 1998 ; 352 : 428-433を参照


――アフターピルは産婦人科だけで処方されているのでしょうか?

海外では薬局で取り扱いのある国もありますが、日本では基本的に産婦人科・婦人科での診察を経て処方されます。ただ、そのすべてで緊急避妊に対応しているわけではありません。掲載希望があったものに限られますが、厚生労働省のサイトでは「緊急避妊に係る取組について」というページで、緊急避妊に関わる対面診療が可能な医療機関を公開しています。

――緊急時に使用する薬なのに、入手しにくいという指摘も耳にします。

そうですね。緊急性がありますので、休日や夜間にも入手できる場所があるといいですよね。ただ、重篤な肝障害を持つ方など服用を避けるべきケースもありますし、心疾患や腎疾患をお持ちの方は症状が悪化する可能性があるため、慎重な処方が求められます。もし薬局での取り扱いが可能となっても、棚から取ってすぐ買い物カゴに入れるスタイルではなく、薬剤師を介しての購入になるのではないでしょうか。

夜遅くまで開いているドラッグストアでも、薬剤師がいる時間は限られているでしょうし、そもそもアフターピルは日常的に使用するものではありません。許可がおりても、実際に取り扱っているところがないという事態も起こり得るため、そのあたりの環境を整える必要もあると思います。

――オンライン診療での処方も可能なのでしょうか?



基本的に対面診療としながらも、厚生労働省の指針では以下の条件※3にあてはまる場合に、初診からオンラインでの診療による処方が認められています。

・地理的要因がある場合
・女性の健康に関する相談窓口等に所属する又はこうした相談窓口等と連携している医師が女性の心理的な状態にかんがみて対面診療が困難であると判断した場合
※3 厚生労働省「オンライン診療の適切な実施に関する指針 平成30年3月(令和元年7月一部改訂)」より引用

ただし、研修を受けた薬剤師による調剤や、薬剤師の面前での内服などが記載されており、慎重な姿勢がうかがえます。オンラインだから手軽に入手できるとはまだいえませんね。なお、現在(2020年9月8日)は、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、薬局に処方箋を直接FAXすることや、状況によって処方箋を受け取った薬局が患者さんにアフターピルを郵送することなどの条件緩和が時限的・特例的に認められています。


低用量ピルは女性主体の避妊法。生活の質を上げる手段となることも


――先ほどご紹介した近大生のアンケートでは、低用量ピルの存在を知らないという回答が女性では16.7%、男性では41.0%という結果になりました。

低用量ピルを知っていますか?

低用量ピルを知っていますか?。男性、はい59.0%、いいえ41.0%。女性、はい83.3%、16.7%。

アフターピルは緊急時に用いるものなので使用する機会は限られますが、日本では低用量ピルの普及も進んでいませんね。国連が公開している報告※4からも、諸外国と比べた日本の服用率の低さがよくわかります。

避妊を目的とする低用量ピルの服用率※4

※4 United Nations, World Contraceptive Use 2018.をもとに武田卓先生が作成したグラフを参照

そもそも、避妊やピルの服用に限らず、日本では性に関する話題自体タブー視されているように思います。

――確かにそうですね……。近大生のアンケートでは、アフターピルや低用量ピルに対するイメージとして、次のような意見があがりました。

アフターピル


男性アイコン

あくまでも最終手段、あまり使うべきではない。副作用もある。(20歳・男性)




女性アイコン

万が一のためのもの。(19歳・女性)




女性アイコン

日本だと簡単に手に入りづらいイメージ。女性と男性のどちらにとっても大事なものであるはずなのに、値段が高いと思う。(20歳・女性)




女性アイコン

使用時の体調が絶望的になるイメージ。けれど、その存在やアフターピルを使うこと自体どういうことなのかは明確に理解しておくべき。(20歳・女性)




男性アイコン

ホルモンバランスが変わりそうだし、多用はどうなのかと思う。(21歳・男性)




低容量ピル


女性アイコン

妊娠を女性側からも防げる、大切な選択肢だと思う。(19歳・女性)




男性アイコン

避妊、生理痛を緩和するもの?(21歳・男性)




女性アイコン

男女ともに正しい知識を持っている人が少ない。服用していることを言いづらい世の中でもある。(20歳・女性)




女性アイコン

同性でも悪いイメージを持たれたりすることが多い。もっと効果や必要性について知ってもらえたら。(20歳・女性)




女性アイコン

低容量ピルのおかげでQOL(生活の質)が上がった。異性からどう思われているか不安。使う目的をきちんと理解してほしい。(20歳・女性)



――このほか、ピル全体のイメージとして「怖い」「身体に悪そう」といった声もあがっています。

アフターピルにしても低用量ピルにしても、よくわからないから「怖い」というイメージを持ってしまうのかもしれませんね。アンケートにも低用量ピルの効果や必要性を知ってほしいという意見がありましたが、その通りだと思います。

日本ではコンドームによる男性主体の避妊が主流ですが、低用量ピルは女性の意思だけで使用できる避妊法のひとつです。そして、避妊だけではなく、PMS(月経前症候群)やPMDD(月経前不快気分障害)の症状を改善するほか、月経困難症などの症状の発症率を低下させる作用も持っています。一方で、服用初期の副作用などのデメリットもあります。

低用量ピルのメリットとデメリット

メリットデメリット
●女性の意思だけで使用できる
●正しく使用すればコンドームより避妊効果が高い
●子宮体がん、卵巣がんのリスクが下がる
●PMS、PMDDが改善される
●月経困難症、月経不順、不正出血、過多月経(出血量が異常に多い状態)、子宮内膜症、良性乳房疾患、良性卵巣腫瘍、大腸がん、尋常性ざ瘡(ニキビ)、関節リウマチなどの発症率が低下する など
●服用初期に副作用が出ることがある(不正性器出血、吐き気、乳房痛など)
●血栓症のリスクが上がる
●長期使用で子宮頸がんのリスクが上がる可能性がある(関連性は明らかでないとの報告もあり)
●休薬期間を除き、毎日同じ時間に飲む必要がある
●費用がかかる など

また、35歳以上で1日15本以上タバコを吸う方など、低用量ピルの使用を避けるべきケースや、慎重な処方が必要な方もいらっしゃいます。

――低用量ピルとコンドームでは避妊効果はどれくらい違うのでしょうか?

避妊効果はパール指数(PI)といって、その避妊法を100人の女性が1年間用いた場合に避妊に失敗する人数で表します。理想的な使い方をした場合、コンドームのPIは2で、低用量ピルのPIは0.3との報告※5があります。どちらの方法も正しく使用しなければ、当然ながら効果は大きく下がります。

主な避妊法のPI※5

一般的な使用(%)理想的な使用(%)
コンドーム182
低用量ピル90.3
銅付加IUD(子宮内避妊器具)0.80.6
IUS(黄体ホルモン付加IUD)0.20.2
周期法(オギノ式)240.4~5
女性不妊手術0.50.5
男性不妊手術0.150.1
※5 Trussell j. Contraception. 201 1 ; 83 : 397-404を参照

そして、コンドームにも避妊以外の大事な目的があります。それは、性感染症の予防です。コンビニやスーパーでも入手できるので意外に思われるかもしれませんが、コンドームは医療機器に分類されているんですよ。


「自分の身体のことを自分で決める」権利がある


――海外では薬を用いた中絶が行われている国もあると聞きます。

そうですね。日本では、薬剤による人工妊娠中絶は行われていません。中絶の数自体は1955年をピークに減少していますし、人口あたりの割合も欧米よりむしろ低くなっています。アフターピルが入手しやすいからといって、中絶する割合が必ず低くなるわけでもなさそうです。入手できても、間違った使い方によって十分な効果を得られなかった可能性が考えられます。

そして、中絶を経験した日本の女性の35.6%が、繰り返し中絶を行っているという報告※6もあります。望まない妊娠を繰り返さないためにも、正しい方法で避妊を行う必要があるでしょう。

※6 北村邦夫. 産と婦. 2012 ; 79 : 1347-54.

――入手できる環境だけでなく、正しい知識を持つことが大切なのですね。

ええ、そうです。海外では中絶薬を使える地域がある一方、アメリカなどでは中絶そのものが禁止されている地域もあります。日本では中絶薬は使えませんが、中絶という選択肢があります。

性と生殖に関する健康と権利を表す「リプロダクティブヘルス/ライツ」という概念をご存じでしょうか? リプロダクティブヘルスとは、性や妊娠・出産に関わるすべてにおいて身体的・社会的・精神的に良好な状態にあることを指しています。そして、リプロダクティブライツとはそれを享受できる権利のことで、子どもを産むか産まないか、いつ産むか、何人産むかなど、自分の身体のことを自分で自由に決められる権利を含みます。

――避妊や中絶もきちんと認められた権利、ということでしょうか。

そうです。女性主体の避妊法もあること、それぞれにメリットとデメリットがあることなど、正しい知識をもとに理解が深まるといいですね。


産婦人科や婦人科を、もっと身近な存在に


――低用量ピルも入手しにくいとの指摘もありますが、そもそも産婦人科に行く機会が少ないようにも思います。

それも日本ならではの傾向ですね。産科のイメージが強く、妊娠・出産ではじめて通院するようになる方も少なくないでしょう。

PMSに関する記事(「生理周期が安定しているほうがなりやすい? 専門医に聞くPMSの原因と改善方法」)でもお話ししましたが、中学校3年生くらいからPMSやPMDDの症状が出はじめたという方も実は多いんです。けれど、特に中高生の場合は周囲の目が気になるなどの不安もあって、なかなか受診に至らないケースもあると思います。



――女性の心身はホルモンに左右されやすいですし、妊娠・出産だけでなく、PMSや更年期障害など、産婦人科・婦人科のサポートが必要になる機会も多いですよね。

そうですね。低用量ピルにしてもアフターピルにしても、周りに相談しにくい雰囲気があるかもしれません。けれど、とても大切なことですので、タブー視されることなく前向きな議論が行われることが望まれますし、ピルや避妊のことについて気軽に相談できる産婦人科医が身近にいると安心ですよね。日本のように、患者さんが希望すれば簡単かつ自由に医療機関を受診できる国は珍しいのも事実です。

――確かに、相談できる場所があると安心ですね。

今回はわかりやすく「低用量ピル」という言葉でお話ししていますが、正確には、避妊を目的とする低用量ピルは「OC」、月経困難症などの治療に用いられ、保険適用になる低用量ピルは「LEP」と呼ばれ、区別されています。

また、低用量ピルには黄体ホルモンと卵胞ホルモンが含まれていますが、黄体ホルモンだけが入っている「ミニピル」も海外ではよく使われています。卵胞ホルモンによる血栓症などの副作用がなく、35歳以上の方にも用いやすいため、最初は低用量ピルを使って、ある程度の年齢からミニピルに切り替えるという方も海外にはおられます。

――ミニピルははじめて聞きました。まだまだ知らないことがありそうです。

日本では、ミニピルを取り扱っている病院はまだ限られていると思います。

妊娠・出産時に限らず、正しい知識を得るためにも、女性特有の不調を改善するためにも、検診などを通して病気を早期に発見するためにも、産婦人科や婦人科が皆さんにとってもっと身近な存在になるといいですね。


(おわり)


取材・文:藤田 幸恵
企画・編集:人間編集部

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