2019.07.05
三役経験無しの優勝は58年ぶりの快挙!近大卒の大相撲力士・朝乃山が語る、学生時代と今
- Kindai Picks編集部
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5月に行われた大相撲夏場所で、初優勝を果たした朝乃山関。近畿大学相撲部から高砂部屋に入門してわずか1年で関取になり、新入幕から11場所目で優勝という快挙は、あの元横綱・貴乃花や曙にも並ぶスピードでした。つい4年前まで近大生だった関取ですが、今やこれからの相撲界を背負って立つ存在。はたして朝乃山関はどんな大学生活を過ごしていたのでしょうか。
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1994年生まれ、富山県出身。呉羽中学校、富山商業高校、近畿大学と相撲部に所属。近畿大学時代には、全日本相撲選手権で大会ベスト4の他、個人タイトルを7つ獲得して卒業後に高砂部屋に入門。2016年の3月場所で大相撲デビュー。2017年に幕内昇進していきなり2桁勝利。2019年5月場所で初優勝を果たし、来日していたトランプ大統領から特注の米国大統領杯を受け取ったことも話題に。
187センチ、177キロ。「富山の人間山脈」が優勝を飾るまで
優勝祝いの品として近畿大学から、30キロの近大マグロを贈呈。「刺身や、焼き物にして食べます」と、朝乃山関。
――2019年5月場所の優勝、おめでとうございます!
ありがとうございます。優勝は素直にとても嬉しい結果でしたけど、でも、もう終わったことなので、忘れて次へと向かっていきたいですね。
――5月場所の星取りは12勝3敗でした。
今年3月の大阪場所は7勝してから5連敗したんです(結果は7勝8敗)。生ものを食べて体調を崩したこともあって。親方にも叱られましたし、後援会のパーティでもすごく叱られました。それで自分は弱いんだからもっともっと稽古しようと思って、4月の春巡業の期間や、5月の番付発表から初日までに自分から積極的に出稽古に行って、強い関取の胸を借りました。その成果はあったと思います。場所中の生ものもやめました。
――体調管理は大切ですね。
はい、もう学習しました。まわりの関取衆を見てると、糖尿や痛風にかかる人が多くて、そこも気をつけたいと思ってます。野菜をしっかりとって、糖分やジュースとかも控えめにしています。あとは、世間的に平幕だから優勝できた、もっと上位の番付だったら優勝できない可能性があるといわれているので、稽古を精進して、上位の関取とあたっても負けない体をつくっていきたいです。
――187センチ、177キロ。「富山の人間山脈」と呼ばれる体格はひとつの武器ですね。
そうですね。頭のいい人だったら戦略的に相撲をとるんだと思いますけど、僕はそんなに頭がいいほうじゃないので(笑)。だから、考えている暇があるなら、体を活かした前に出る相撲で、思い切り体をぶつけていくだけです。
――千秋楽は、トランプ大統領の来場も話題となりました。
トランプ大統領は「でかいな!」って印象でした。SPにやられるんじゃないかと思って、目も合わせられなかったです(笑)。関取たちの威圧感はすごいですが、トランプ大統領も安倍総理も、とにかくオーラがすごいですね。
稽古に並ぶほど、大変だったちゃんこ番
――今は、角界で活躍される朝乃山関ですが、どんな学生時代を過ごされたんですか?
相撲漬けの毎日ですね。1、2年生の頃は練習と授業、そしてちゃんこ番……すべてをきっちりこなすことが大変で。ハードな日々なので、お腹はペコペコになるんです。当時の相撲部は、学食を使えるのが3年生以上という暗黙のルールがあって。行ってもいいけど、先輩に見つかったらもうヤバい、アウトです(笑)。だから休み時間に、コンビニへ行って、おにぎりやカップラーメンを買っていました。
――ちなみに、一日の流れはどういった感じでしたか?
朝は8時からストレッチや四股踏み、ぶつかり稽古や筋トレなどをして、10時で朝練が終了。ちゃんこ番になったら、朝は四股だけ踏んで先に寮に戻ります。稽古が終わると3、4年生が風呂に入るので、その間にちゃんこ番に電話して、「もう稽古終わったから寮に戻るよ」って。ちゃんこ番は、連絡を受け次第、急いで準備するんですが、そこで野菜を入れ忘れたりしたら先輩に怒られるんです。授業が終わった後の夜稽古しながら寝てしまっている同級生もいました。
――ちゃんこ番大変そうです。近大の相撲部では、どんなちゃんこが出ていたんですか?
近大相撲部のちゃんこは、水炊き、醤油、塩、水炊き、すき焼き、塩……みたいなローテーションでレパートリーが少なくて、美味しいんですが食べ飽きちゃうんですよね。それに食材なんかも、高級なものは使えないので、内容が変わらないといいますか。高砂部屋のちゃんこは、食材もイイものを使っているし、塩、醤油、豚味噌、イカ味噌、肉団子とか、10種類くらいあるんです。イカ味噌ちゃんこはマヨネーズかけたらうまいっすよ。
寮の部屋では同級生や後輩とウイイレも
優勝パレードには、7000人の朝乃山関ファンが駆けつけた。
――近大相撲部といえば、伊東勝人監督が名将として知られています。監督の指導で印象的だったことはありますか?
僕は高校1年のときから、近大や近高(近畿大学附属高校)との合宿に参加して、伊東監督を見ていたので、この人の指導を受けたらもっと強くなれると思って、近大相撲部に入りました。実際に監督の指導を受けてみると、とても細かなところまでアドバイスいただくんですよ。今思えば、そのアドバイスを聞いてきてよかったなと思っています。今でも、本当に感謝しています。
――学生時代の経験が今も活きているんですね。当時、嬉しかった思い出はなにかありますか。
やっぱり3年生になったときですね。1、2年生はふたり部屋だけど、3年生になると個室をもらって、テレビも見られるし、部屋にソファも置けるし、なんでもやり放題というか自由な時間が増えるんです。途中で部を辞めちゃう人も稀にいるけど、僕らは同級生9人みんなで一致団結して、ひとりも逃げずに3年生になれたんで、それも嬉しかったですね。
――空き時間は、たとえばどんな遊びを?
同級生にもゲーム好きがいたので、寮に戻って飯食ったあとは、ウイニングイレブンを5試合やったりとか。バルセロナ、レアル、パリ・サンジェルマン、マンU、マンチェスター・シティ……と、海外の強豪チームを使っていましたね。
――今もゲームをやる時間はありますか。
最近はあまりやってないですね。自分の部屋にプレステ4があるんですけど、今はDVDを見るだけの機械になってます。見る映画はアクション映画限定で、恋愛映画とかは無理。時間の無駄です(笑)。
――あらら、恋愛関係はあんまりですか。
人によっては彼女がいることで強くなるタイプもいるでしょうけど、僕はたぶん弱くなるタイプ。そういう自覚があるんです。
――学生時代の女性にまつわるエピソード、話せることがあればぜひ。
ないっすよ(笑)。
――即答でしたね。
相撲部は髪型が角刈り。学内にいるときは大学の制服を着ていて、このガタイなので……。女の子たちは、怖がっていたんじゃないですかね。なにより、相撲で精一杯だったので、恋愛とかを意識したことすらなかったです。
プロへの挑戦は一生に一度。覚悟があれば挑戦してほしい
5月場所優勝凱旋パレードでは、近大西門前で相撲部の後輩が朝乃山関を出迎えた。
――近大相撲部時代の同級生から、朝乃山関と同時に2人(玉木関、北勝陽関)が入門しています。
土俵の上ではライバル、土俵からおりたら今も仲間だと思っています。今は番付的に僕が上で、ふたりは幕下なので、ちょっと気を遣う部分もあるし向こうもこっちが関取だからって気を遣ってしまう。だから、ふたりにも早く関取になってほしいですね。といっても、勝負の世界なので、そんなに甘くはないですけど。
――特に、玉木関は同じ高砂部屋。同世代のライバルとして意識はされていますか?
近大相撲部時代は、彼がキャプテン、僕が副キャプテンでやってきた仲間ですから意識をしないことはないです。今は、僕のほうが番付が上ですが、いつか番付を逆転されるかもしれない。僕は負けないように精進するのみですね。
――富山商業高校から近畿大学へという、朝乃山関と同じ道をたどって今、相撲部でがんばっている後輩もいるそうですね。
はい、3人います。彼らを無理にプロに誘おうとは思いませんけど、覚悟があるのならぜひ挑戦してほしいです。プロは一生に一度しか挑戦できないことですから。
――朝乃山関がプロ入りを決意したときはどんな思いでしたか。
僕はとにかくビッグになりたかったんです(笑)。地元、富山出身の関取がいなかったですし、全国で有名になってやろうという気持ちがありました。
――学生相撲と大相撲の違い、たとえばどんなところでしょう。
学生相撲の大会は一日で行われるので、もし負けたとしても次は切り替えようってこともできるけど、プロは負けたらその日はもう終わり。一日一番を死ぬ気でやっていかなければいけない。とにかく、常に先のことは考えすぎないようにして、一日一番、目の前の相手に集中するだけということは、自分に言い聞かせています。
色紙に認めたのは目標である「三役昇進」。7月場所では前頭筆頭となり、三役まであともう一歩!
――朝乃山関が十両昇進を決めた翌日に癌で亡くなられた富山商業の浦山英樹先生、最後に残された言葉は「がんばったら横綱になれるから」だったと聞きました。そして、浦山先生も近大のご出身でした。
近大の相撲部に入って伊東監督の指導を受けたときに、浦山先生も伊東監督を見習ってやってたんだなと思うところがありました。恩師との約束を果たすことができたら一番いいですけど、まずは余計なことは考えずに自分の相撲をとって、一つずつ勝っていけば、結果は後からついてくるものだと考えています。
――来場所のご活躍も楽しみにしています!今日はありがとうございました。
(終わり)
取材・文:竹内厚
写真:山元裕人
企画・編集:人間編集部
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