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2019.07.04

2万8千年前のマンモスの細胞核が動いた! 世界に衝撃をもたらした近大の「マンモス復活プロジェクト」遺伝子研究の最前線に迫る

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Kindai Picks編集部

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研究
生物理工学部
遺伝子工学
マンモス
マンモス復活プロジェクト

2万8千年前のマンモスが現代に復活!? 2019年3月11日、近畿大学生物理工学部を中心とする研究グループが発表した論文に、世界中が驚きました。シベリアの永久凍土に眠っていたマンモスの子どもの化石から採取した肉の細胞核をマウスの卵子に移植したところ、生命活動の兆候が見られたというのです。ちょうどこの6月7日から11月4日まで、東京・お台場の日本科学未来館で企画展「マンモス展」も開催。世の中の注目がマンモスに集まる中、研究の最前線について伺いました。



加藤 博己(かとう ひろみ)
近畿大学 先端技術総合研究所 生物工学技術研究センター 教授
学位:博士(農学)/専門:生殖生理学、古生物学

宮本 裕史(みやもと ひろし)
近畿大学 生物理工学部 遺伝子工学科 生物理学研究科 教授
学位:博士(理学)/専門:分子生物学、進化生物学

山縣 一夫(やまがた かずお)
近畿大学 生物理工学部 遺伝子工学科 准教授
学位:博士(農学)/専門:生殖生物学、発生工学

永井 宏平(ながい こうへい)
近畿大学 生物理工学部 遺伝子工学科 准教授
学位:博士(農学)/専門:臨床プロテオミクス、農学プロテオミクス

安齋 政幸(あんざい まさゆき)
近畿大学 先端技術総合研究所 生物工学技術研究センター 准教授
学位:博士(工学)/専門:実験動物学、発生工学

三谷 匡(みたに たすく)
近畿大学 生物理工学部 遺伝子工学科 教授
学位:農学博士/専門:生殖生物学、発生工学


凍土から発掘されたマンモスの「ピンク色の筋肉」


ーー2万8千年前のマンモスの細胞が、生命活動の兆候を示したという今回の研究成果。聞いたときにビックリしましたが、世界中に大きなインパクトを与えたのではないでしょうか。

加藤:はい、科学論文が世界に与えたインパクトがわかる「オルトメトリクス(altmetrics)」のデータを見ると、世界中の大手メディアで取り上げられたほか、アメリカ、ヨーロッパ、南米、アジアなどの各国で、TwitterやFacebookなどのソーシャルメディアでも多くの人が話題にしてくれたことがわかりました。

※オルトメトリクス(altmetrics):学術論文の影響度を示す指標。学術雑誌への引用回数などに加え、メディアやネットのソーシャルメディアで言及された数なども評価の対象としている

▼参考:Altmetric.com
Signs of biological activities of 28,000-year-old mammoth nuclei in mouse oocytes visualized by live-cell imaging


今回の論文の筆頭著者の一人である加藤教授。マンモスYuka発見の最初の報を受け、シベリアに飛んだ。

三谷:それだけ世界中でマンモスや絶滅した動物への関心が高い、ということだと思います。マンモスの骨などからDNAやタンパク質の情報を取り出す研究はずっと行われてきましたが、我々は、2万8千年もの間シベリアの永久凍土に埋まっていたマンモスYukaの組織が、まだ「生命」としての機能を残していることを目に見えるかたちで示しました。そこに本研究の意味とインパクトがあったと思います。


マンモス復活プロジェクトに初期の頃から関わり、プロジェクトを通して活動を支えてきた三谷教授。

ーーいったいどういうきっかけでこの研究がスタートしたのか、どんなプロセスで研究が進んでいったのか、順を追って教えていただけますでしょうか?

加藤:始まりは、2010年の8月にシベリアの永久凍土でYukaと名付けられたマンモスのメスの子どもが発見されたことでした。ロシアの研究者から「かなり状態が良いサンプルが見つかった。体の各部の計測をするから来ないか」という連絡を受け、私がシベリアのヤクーツクに飛んだのが2012年2月です。それまで発掘されたマンモスの化石にも、肉が残っているものはあったのですが、どれも真っ黒になって脱水してカチカチに固まっていました。ところがYukaは、鼻も耳もはっきり形がわかり、口の裏側の上顎骨を外してみると、ピンク色のきれいな肉の塊が数センチの大きさで残っていたんです。


凍土から発掘された当時のYuka。手前側が臀部。発見地の地名「ユカギル」にちなんで名付けられた。


Yukaの頭部。鼻も耳もはっきり形がわかり、毛も残っている。

ーーマンモスの肉といえば、子どもの頃のアニメ番組で、原始人が美味しそうに食べていたイメージが強く残っています。

加藤:シベリアでは永久凍土から地表に現れたマンモスの肉を犬や狼が食べていた、という話を聞くことがありましたが、「確かにYukaの肉は美味しそうだし、喜んで食べるかもしれないな」と感じました。それで肢の筋肉組織をドリルで採取し、40本ほどサンプルチューブに入れて、凍った状態で日本に持ち帰りました。帰国してから国立環境研究所の先生とともに放射性炭素年代測定をしたところ、約2万8千年前に生きていた個体であることもはっきりわかりました。

※放射性炭素年代測定:化石などに含まれる天然の放射性同位体元素である炭素14が、時間の経過にともない一定の割合で別の物質に変化していく性質を利用し、調査対象の物ができた年代を測定する技術。


ドリルを用いて採取されたYukaの足の筋肉。ピンク色をしている。


DNAを解析、869種類ものタンパク質を確定


宮本:私はその組織片を加藤先生から譲り受け、残っていたDNAのゲノム情報を解析しました。近畿大学が保有するスーパーコンピュータを駆使して、すでにわかっているマンモスのゲノム情報と、現代のアフリカゾウのゲノム情報とを照らし合わせることで、今回手に入れたサンプルがはっきりマンモスのものであると確定しました。


YukaのDNA解析を行った生物理工学部のスーパーコンピュータ。パソコン約1万台の処理能力があり、ゲノム情報など大容量のデータ解析に役立っています。

永井:DNA解析が終わった後で、「タンパク質の解析」を担当したのが私です。一般的に、タンパク質解析はDNA解析よりも難しいと言われています。DNAは増幅することができるので、わずかでも残っていればサンプルを増やせるのですが、タンパク質は増幅できないので「今残っているもの」を解析するしかないからです。哺乳動物を形作るタンパク質には何万という種類がありますが、マンモスのタンパク質の先行研究では、最高で126種類しか見つかっていませんでした。それも骨や皮膚のタンパク質のような安定したタンパク質のみです。骨のような安定した構造とは違い、筋肉の細胞のタンパク質は死んだ瞬間からブチブチと切れていってしまうので、後に残りにくいんですね。ところが今回、Yukaの筋肉組織と骨髄の細胞を調べたところ、869種類ものタンパク質を発見することができたんです。


Yukaの化石から、それまでの研究の最高記録を遥かに上回る869種類ものタンパク質を確定することに成功した永井准教授。

ーーそれはすごい! どんなタンパク質があったのでしょうか。

永井:例えば、「ヒストン」や「ラミン」というタンパク質が見つかりました。ヒストンは「細胞核」の中で遺伝情報を伝えるDNAと共に染色体を構成する材料で、ラミンは核膜の材料です。つまり、こうしたタンパク質が見つかることで、Yukaの組織のなかに、遺伝情報が詰まっている細胞核が残っている可能性が高いことがわかりました。

※細胞核:細胞の中の構造で、生物の「設計図」である遺伝情報を担うDNAをその中に保持する。細胞分裂の際には、まず細胞核が二つに分裂して、続いて細胞質が分裂する。




マンモスの細胞核が示した「生命の兆候」


安齋:永井先生の研究を受けて、「じゃあ実際に、細胞核を取り出してみよう」という話になり、それを担当することになったのが私でした。細胞核というのは4〜7μmほどの大きさです。取り出すにはいくつかの方法があるのですが、今回のサンプルは状態が良いとはいえ、それでも腐敗していて、筋肉組織も極度に脱水されてボロボロでした。そこで状態が似ているコンビニのビーフジャーキーや、ペットショップで売っている犬用のジャーキーを実験のサンプルにして、実際にそれらから細胞核が取り出せるか試してみました。また、動物園から亡くなったゾウの個体の組織をいただき、その細胞核を回収する訓練も行いました。細胞核や核膜の構造を壊してはいけないので、手を替え品を替え、色々な方法を試しました。そうやって最終的に、43個の細胞核をYukaの組織から回収することに成功したんです。

※1μm(マイクロメートル)は100万分の1メートル。髪の毛の太さが約50〜100μm。


Yukaの組織から細胞核を取り出すことに成功した安齋准教授。マンモスの筋肉組織は極度に脱水しており、細胞核の回収は困難を極めた。

山縣:研究プロセスの最後を担当したのが私です。私は「ライブセルイメージング」という技術の開発を行ってきました。「生きた状態」(ライブ)の細胞(セル)の内部でどのような活動が行われているかを、様々な技術を駆使して実際に「目」で見ること(イメージング)で解明を目指す実験手法です。今回の実験では最新の「共焦点レーザー顕微鏡」を用いて、43個のマンモスの細胞核をマウスの卵子に注入し、どのような変化が起こるかを観察しました。

※共焦点レーザー顕微鏡:光源に波長が短く直進性に優れたレーザー光を用い、検出した光をコンピュータで画像処理することによって三次元画像を構築できる顕微鏡。従来の光学顕微鏡に比べ環境光の影響が少なく、焦点面の光だけで像を作れるため、細胞等の微細構造の観察に適している。


ライブイメージング技術により、マウスの卵子の中でマンモスの細胞核が「生きていた」ことを確認した山縣准教授。

ーー共焦点レーザー顕微鏡は、従来の顕微鏡とどのように違うのでしょうか。

山縣:光学顕微鏡は細胞の外観は捉えられても、細胞の立体的な三次元構造はボケてしまってほとんど見えません。それに対して共焦点レーザー顕微鏡は病院の検査で使われるMRIやCTのように、生きたままの細胞核を任意のところで「輪切り」にして、その断面を観察することができるんです。実験では、マウスの未受精卵に、マンモスの細胞核とともに標識となる蛍光マーカーを入れて、数時間培養してからの変化を見ました。

【動画:マンモスの動く細胞核】



生物理工学部が保有する共焦点レーザー顕微鏡。「非常に高額なシステムです」と山縣准教授。


いずれは恐竜も復活できる?


ーーその結果が……今回世界中にインパクトを与えた「マンモスの細胞核が分裂する直前の状態になった」ということですね。

山縣:はい、その言い方で間違っていません。科学的に厳密にいえば、43個の細胞核のうち5つが、細胞核が二つに分裂する直前の「紡錘体」という形になり、そのうちの1つが「分裂期染色体」を形成することが確認できた、というのが正しい説明です。


ーーそれはつまり、この先も研究を続けていけば、細胞が次々に分裂していく可能性があるということでしょうか? 空想ですが、やがてクローン技術を使ってマンモスの子どもを復活させるなんて可能性もありますか?

山縣:それは今のままの手法では、難しいだろうとはっきり言えます。

ーーいったいなぜでしょうか?

山縣:生物学で「チェックポイント」と呼ばれますが、細胞自体が持つ修復機能でも間に合わないほどDNAに損傷があると、細胞はある時点で分裂を自動的に止めるんですね。今回の実験では、細胞分裂の直前の状態まで持っていくことができましたが、それ以上には進まなかった。それは2万8千年という時の経過で、マンモスのDNAの断片化がかなり進行しており、DNA修復能力の高いマウスの卵子でも十分に修復できなかったからではないか、と推測されます。

ーーそうですか……残念です。マンモスの次には、映画『ジュラシック・パーク』のように、恐竜を現代に蘇らせるなんてこともできるのでは、などと想像が広がっていました。

加藤:それはよく言われるのですけれど、無理なんです。あの映画は、「琥珀の中に閉じ込められた蚊が吸った恐竜の血液からDNAを取り出す」というシナリオでしたが、そもそも琥珀は酸性度が高い物質なので、DNAはすぐ壊れちゃうんですね。それにDNAが物質として残る期間は最長でも10万年と言われており、6550万年前に絶滅した恐竜のDNAが発見された例は一つもないんです。


生物理工学部が保有するマンモスの歯の化石。沢山の溝があり、ずっしりと重い。

ーーそうなんですね……。


生命学は「生命をつくって調べる」時代に


加藤:でもだからといって、永遠に不可能というわけではありません。数年前にアメリカのモンタナ州で発掘されたティラノサウルスの化石を脱灰処理したら、毛細血管ではないかと考えられる網目状の組織が出てきて、その中からタンパク質が見つかったんです。タンパク質はDNAより保存期間が長く、DNAの塩基配列情報をもとにして合成されるので、逆にタンパク質の構造からDNAの塩基配列を求めることもできるんですね。

ーーおお、それはすごい!

加藤:今回我々が用いたのは「体細胞核移植」という実験方法でしたが、いま生物学で急速に発展している「合成生物学」という手法を用いれば、いずれはマンモスや恐竜の全ゲノムを合成できる可能性もあるのではないかと考えています。合成生物学ではいま、ウイルスやバクテリアのような非常に小さな生命体のDNAを人為的につくる研究が進んでいます。何年かかるかは不明ですが、AIのさらなる発展によって、生命体の情報を解析する技術が進んでいけば、太古の化石の情報と、「恐竜の子孫」と言われる鳥のDNA情報とを組み合わせたりすることで、恐竜の個体を再生できる可能性はゼロではありません。

※合成生物学:DNAやタンパク質など生命を構成する物質をデザインし、生命体を「つくって調べる」ことを目標とする新たな生物学の手法。


研究を地球環境の未来につなげる


宮本:いま世界では「地球温暖化」が問題になっていますが、地球の歴史を数万年から数10万年のタイムスケールで考えると、今後、寒冷化する可能性もあります。今の我々の文明は1万年ぐらい前に始まった「暖かい時代」に花開いており、それ以前の寒冷期にはマンモスのような大型哺乳類がたくさんいました。どうしても恐竜に注目が集まりますけれど、地球にはマンモス以外にも、サーベルタイガーとか、数メートルもある大型のナマケモノや、巨大な有袋類の仲間がかつては栄えていて、なぜか滅んでしまったんです。最近の日本でもニホンオオカミや、ニホンカワウソなどが絶滅してしまいました。現在は、生物の絶滅のスピードがさらに加速しています。哺乳類だけではなく、様々なグループの生物種で、名前もつけられることなく人知れずいなくなってしまう生物もいます。こうした現状に何かできることはないか、それに対する人類がとりうる一つの答えとして、今回の研究を考えています。それはささやかなことかもしれませんが、人類の他者―他の生物―に対する貢献であり、マンモスという動物の生と死を深く理解するということにとどまらない意味があると思うのです。マンモスのような大型哺乳類の生態が解明されることは、これからの気候変動が地球の生命にどういう影響を与えるかの予測にも役立つはずであり、いま地球に生きる生物たちを守ること、そこにこの研究はつながっていると思います。そして、何よりも生物が多様であることは、この世界を豊かにします。シベリアの大地をマンモスが闊歩する姿を想像するだけで、楽しいですよね。


「このマンモス復活プロジェクトを通じて、地球環境とそこに生きる多様な生命のすばらしさに思いを馳せてほしい」と語る宮本教授。

三谷:ちょうど、東京のお台場にある日本科学未来館で「マンモス展」が今年6月から11月まで開催されています。私たちも全面的に協力していますが、そこを訪れた人に、我々の研究の先にある地球的な問題について考えてもらうような企画展示となっています。マンモスや古代の生き物に関心がある人に、ぜひ足を運んでもらって、地球の生命に思いを馳せてほしいと願っています。



企画展「マンモス展」-その『生命』は蘇るのか-

期間:2019年6月7日(金)~11月4日(月/休)
場所:日本科学未来館(東京/お台場)
時間:10:00~17:00(入場は閉館の30分前まで)
休館日:火曜日(ただし、7/23、7/30、8/6、8/13、8/20、8/27、10/22は開館)
お問い合わせ:03-5777-8600(ハローダイヤル)


▼公式ホームページ
日本科学未来館 企画展「マンモス展」


(終わり)


取材・文:大越裕(チーム・パスカル)
写真:黒川直樹
企画・編集:人間編集部


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