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2023.10.30

4ヶ月で関西弁が函館弁に……!?方言はどのくらいで習得できる?言語学の専門家に聞いた【それってなんなん?相談所】

Kindai Picks編集部

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オリジナル記事
総合社会学部
近大相談所
松田紀子

夏休みに帰省したお兄ちゃんが、関西弁から函館弁に……! 「よその地方のことばはどのくらいの期間で習得できるんですか?」「英語も同じように習得できますか?」という小学5年生の疑問に、言語学の先生が回答します。

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こんにちは、ライターのオカジマアヤノです。
今日は、小学5年生のしゅいさんと近畿大学に来ています。



みなさんはわからないことや不思議に感じたことがあったとき、どうしていますか?
ネットで調べたり、本を読んだり、誰かに聞いたり……。
それでも難しくてモヤモヤが残ることや、新たな疑問が浮かぶこともありますよね。

そんなとき、味方になってくれるのが「近大それってなんなん?相談所」です!
15の学部と49の学科からなる近畿大学には、その道のプロフェッショナルがたくさん在籍しています。彼らが相談者の疑問に本気で向き合い、正しく答えてくれる相談所なのです。

しゅいさんは、「近大それってなんなん?相談所」が質問を募集していることを知り、お母さんの力を借りて疑問を投稿してくれました。




よその地方のことば、方言か! どうして気になったんですか?






僕のお兄ちゃんは函館の中学校に進学しました。夏休みに大阪へ帰ってくると、話し方が変になっていたんです。






えっ! 4月に入学して夏休みってことは4ヶ月くらいしか経ってないよね。めっちゃ早いね。





新幹線で函館駅に向かうしゅいさん



変なイントネーションになってました。もう関西弁を忘れちゃったみたい。






お兄さんは一人暮らししてるの?






寮で暮らしてる。周りのお友達も関東とかから来てるみたい。






そうなんだ。今日はことばの研究をしている先生に話を聞きに行くけど、ほかに聞きたいことはある?






どうやったら英語を話せるようになれるかとか。






英語もある意味、よその地方のことばだもんね。私も気になる!






2人で話しているうちに、総合社会学部に到着しました!

実は私オカジマ、近大総合社会学部の卒業生。4年間通った校舎に来て、しゅいさんと一緒に学生に戻った気分です。

今回、しゅいさんの疑問に解答してくれるのは、応用言語学が専門の松田紀子先生です。

松田 紀子(まつだ のりこ)先生

総合社会学部 教養・基礎教育部門 博士(言語コミュニケーション文化)
専門:応用言語学・外国語教育・第二言語習得論・心理言語学

日本人英語学習者を対象に、英語音声がどのような心的処理を経て学習されるか、第二言語の音声処理メカニズム解明の観点から研究しています。
教員情報詳細




そもそも方言って? 言語とはなにが違う?



はじめての研究室。先生が優しく出迎えてくれました。



よろしくお願いします!






よろしくお願いします!






よく来てくださいました。こちらこそ、よろしくお願いします!





分厚い英語の書籍に興味津々な2人。



しゅいさん、さっそく先生に質問をお願いします。






よその地方のことばって、どのくらいで習得できるんですか?






なかなか難しい質問! どうして疑問に思ったんですか?






函館の中学校に進学したお兄ちゃんが、夏休みに帰ってくると函館弁になっていたからです。






それは興味深いですね。まず、方言がどうやって生まれたのかを説明しますね。一説では、大昔に今の日本語の原型となることばが関西で生まれたとされています。それが少しずつ人から人へと広がって、ある地域で定着したものが方言と言われています。






私は宮城県出身なんですが、おばあちゃんがズーズー弁を話してました。






ズーズー弁?






東北の方言でね、「し」と「す」、「ち」と「つ」などの区別がない話し方を指します。例えば「チーズ」が「ツーヅ」と聞こえたり。それである虫のことを「アケズ」と呼んでいたんです。なんのことだと思いますか?






うーん、わかりません。






トンボのことだったんです。






トンボがどうしてアケズなの?






昔の日本では、トンボのことを「秋津(アキヅ)」と呼んでいたんです。






そうなんだ!






その後、「トンボ」という新しい呼び方が関西から日本中に伝わりました。しかし、東北や南九州までは届かなかったようです。関西から見たら端っこのほうにあるから、トンボに置き換えられなかったんですね。






関西からの距離が関係しているんですね。






それでね。方言というのはその地域の人々の間で発達というか、変化していってるんです。ことばって生きているので、今もずっと変化し続けています。例えば、お友達同士だけで伝わることばってありますか?






しゅいさんの学校のクラスだけで通じることばとか。






うーん……。






じゃあ、みなさんはこのゲームのこと、なんて言いますか?








指スマ!






いっせーのーせ!






いっせーのーで!






指スマって言うんですね!?






でも掛け声は「いっせーのーせ」って言います。






私の生まれ育った地域はコテコテの大阪弁を使うからか「いっせーのーで」ですね(笑)






この小さなコミュニティの中でも、ことばに違いがあることがわかりますね。






じゃあ、方言と言語の違いはなんですか?






いい質問ですね。実は、方言と言語って、はっきりと分ける基準がないと言われています。実は大事なのが「意識」。「私はこの人たちと同じことばを話している」という意識があれば、それは方言だと考えられています。






えっ、どういうことですか?








う〜ん、例えば東北弁と博多弁の人が話していたら、「それぞれに同じ日本語を話している意識」があるから方言ってことですか?






そうです! ノルウェー語とスウェーデン語は、お互い意思疎通ができるぐらい似ているんです。でも、彼らはまったく別の言語を話していると認識しています。だから方言ではなく、言語なのです。






たしかに、お兄ちゃんの話し方が変わって違和感はあるけど、日本語で話してるってことは変わってない。






ちなみに、私たちが話している関西弁は、日本語の中で最後まで生き残る方言だと言われています。






そうなんですか!?






話す人口が約2,000万人と、方言の中で最も多いんですよ。






そこまで多いと思わなかった。






でも、石垣島などで話される八重山方言や、与那国島で話される与那国方言は消えそうな方言だと言われています。これらの方言を話せるのは、ご年配の方ばかりになってきているのだそうです。マスメディアやインターネットが広まり、若い人は共通語(標準語)に触れることが多くなり、方言を話さなくなってきているようです。






地方から上京すると、方言を封印する人も多いですよね。「田舎者だと思われたくない」という考えから。






方言は決して恥ずかしいものではなく、自分が生まれ育った地域のルーツであり、個性でもあります。誰しも時と場合によって使い分けることはあるはずですが、隠す必要はないと思います。






お兄ちゃん、移り住んだ場所の函館弁を大事にするのもいいけど、関西弁も忘れないでほしいな。






同じ関西弁でも地域によって厳密には異なりますし、自分の地域のことばを大切に守っていきたいですね。





方言の習得には個人差がある



質問をタブレットに書いてきてくれました。カッコいい。



本題の、方言をどのくらいで習得できるかについてもお答えしましょう。お兄さんは何歳で函館に行きましたか?






13歳です。






一般的に、15歳くらいまでに自然な言語の習得は終了すると言われています。だから、自然と函館弁が身についたんじゃないかな。






私も5歳の頃、親の転勤で福岡に引っ越したんですが、1週間ぐらいで博多弁を話していたみたいです。






子どものほうが身につきやすいというのはありますね。ちなみにお兄さんはどんな性格ですか?






優しい。友達と遊ぶのが好きみたい。






そういう性格も影響しているかもしれません。お喋りが好きだったり、グループでの行動が多かったりすると、自然と輪に溶け込もうとしますから。






お兄さんと同じかはわかりませんが、私は早くグループに馴染みたくて博多弁を喋っていました。






方言の習得については年齢や性格、環境などの個人差があるので、期間が明確化されているわけではありません。ただはじめに述べたように、自然な習得を15歳くらいまでとする線引きはあるということですね。






しゅいさんは函館に行ったことはありますか?






あります。地元のおじさんと一緒に魚釣りをしたけど、なんて喋ってるか全然わからなかった。





左から3人目がしゅいさん。おじさんにアドバイスをしてもらっているところ。



お兄さんの方言はそこまで強くない?






イントネーションが関西弁とは違うだけ。お兄ちゃんの学校には関東から来た子たちもいるから、いろんな方言が混ざってるのかも。






ことばがブレンドされてるんですね。





日本にいながら英語は話せるようになる?






しゅいさん、今日は方言以外にも聞きたいことがあったんだよね。






日本にいながら英語は話せるようになりますか?






なれますよ! しゅいさんはどうして英語を話せるようになりたいのかな。






外国の人と話してみたいから。






素晴らしいですね。好きなスポーツはありますか?






水泳が好きです。






水泳はどんなふうに練習をしていますか? 得意な泳ぎ方はなんでしょう。






何回も何回も泳ぎこみます。得意なのはバタフライ。






バタフライはどうやって泳いでいますか?






えっと……。伝えるのが難しい。








今はもう無意識にやってるはず。繰り返し練習していることは、深く考えなくても体が覚えています。






手はこんなふうに動かさなきゃとか、息継ぎしなきゃとか、考えなくて済むぐらい反復学習を重ねているということですね。






わかりやすく水泳に例えましたが、言語も同じなんです。無意識に英語が出てくる、いわゆる「自動化」という状態に持っていきたい。それにはどのくらいの時間が必要だと思いますか?






うーん、6年ぐらい……?






6年後だったら16歳。しゅいさんは高校生になってるね。






なにをめざすかにもよりますが、仕事で使えるレベルになるには、大体2,000時間が必要と言われています。








2,000時間……! しゅいさんの今の授業時間は?






45分です。






2,000時間は120,000分だから、それを45分で割ると、大体2,666回!





あまりの回数の多さに、しゅいさんもこの表情。



ある研究者が計算した方法では、そのくらいの時間になっています。では高校までの英語の授業時間はどのくらいでしょうか?






1,000時間とか?






正解は、646時間。実はほとんどの人が足りていないんです。








思ってたよりだいぶ少ない。






学習時間が足りない。じゃあ、どうしたらいいと思いますか?






学校以外で英語を使う時間を増やす。






そうなんです! 実は英語に触れる時間を増やせば増やすほど、英語を好きになると言われています。好きになると触れる時間が増えて、さらに好きになるので好循環となります。ちなみに一つひとつのことばでもそうで、接触回数が多いことばほど、好意度が高いことが研究でわかっています。あと、接触回数が多い言葉は記憶に残りますよね。例えば「Thank you」という表現は何度も登場するから、ついつい使っちゃいませんか?






なるほど〜。「Hello」とか「You are welcome」もめっちゃ使っちゃうのは、教科書に何回も出てきたからですね。






今、英語は楽しいですか?






あんまり……。数学のほうが楽しい。






英語は勉強って感じが強い? 数学とか水泳は遊び、趣味って感じがするかな?






うん。数学だったらスラスラ解ける。






解き方のパターンをいくつも把握してるんでしょうね。英語にも語順のパターンがあるので、それが身につくともっと楽しくなるはずです。もう一つ大事なのが記憶力ですね。






英単語を覚えて語順のパターンが理解できれば、あとは話すだけですもんね。今は難しくても実際に英語で話が通じると、楽しいに違いない!






日本語と英語ほど、語順や発音の仕方などが異なる言語はなかなかありません。だから難しくて当たり前なんです。例えば、日本語と韓国語だったら、語順がほとんど同じで似た発音の単語も多く、お互いに習得しやすいと言われています。








英語って、すごく難しいことを勉強してるんだ。






しゅいさんは、今日こうして相談所に足を運んでくれました。疑問に感じたことを解決したいという好奇心と行動力があります。そのことに自信を持って、英語学習にも活かしてもらえると嬉しいです。





英語の書籍が並ぶ本棚をバックに記念撮影。松田先生、ありがとうございました!


まとめ




しゅいさん、長い時間お疲れ様でした! どうだった?






難しかったけど、お兄ちゃんの方言の謎が解けました。




先生に話を聞き終わった後、すぐに水泳の練習へ向かったしゅいさん。
勉強にスポーツに探究心溢れる彼だからこそ、今回の疑問が生まれたのかなと感じました。

取材後の夏休みに、お兄ちゃんが帰省したものの、取材のことはまだ内緒にしているというしゅいさん。いつか、感想を聞かせてくださいね。

私自身、もっといろんな方言や言語を話す人たちとコミュニケーションを取りたいと、意欲的な気持ちになりました!

この記事を読んでくださったみなさん。

日々の中で疑問に感じることがあれば「近大それってなんなん?相談所」にお尋ねください。

あらゆる分野の専門家の先生たちと一緒に、疑問を解決しましょう!

この記事を書いた人



オカジマアヤノ

1999年、東大阪生まれ。近畿大学卒。人間編集部で執筆や編集を経験し、現在フリーで活動中。女性アイドルとフライドポテトが生きがい。いつかフィンランドに住みたい。
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写真:大越はじめ
編集:人間編集部


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「外来種って悪者なの?」「お餅ってどうして伸びるの?」そんな「?」を大募集。素朴な疑問も、思わず頭をひねってしまう難題も、近大の先生や学生が一緒になって考えます。「子どもの自由研究に役立てたい」「あの研究室に潜入したい!」「◯◯について、専門家の意見を聞きたい」などなど、スタイルは不問。まずは一度、私たちに託してみてください。その道を究めたプロが、真剣かつ丁寧にお答えします。

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