2023.02.22
笑福亭笑瓶さんが死去。急性大動脈解離とは?心臓血管外科医がわかりやすく解説
- Kindai Picks編集部
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笑福亭笑瓶(しょうふくてい・しょうへい)さんが令和5年(2023年)2月22日、急性大動脈解離のため死去されました。
急性大動脈解離とはどんな病気なのか?近畿大学医学部医学科で心臓血管外科を専門とする坂口元一主任教授に聞きました。
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坂口 元一 (サカグチ ゲンイチ)
近畿大学医学部 医学科 主任教授 /医学博士
専門:心臓血管外科
心臓手術、大動脈手術、低侵襲心臓大動脈手術
近畿大学病院
近大みらい きんだいびと 心臓血管外科坂口元一主任教授
――笑瓶さんは、平成25年(2015年12月)に千葉県内のゴルフ場で胸に痛みを訴え、ドクターヘリで輸送され入院。当時、病名を急性大動脈解離と明かされていました。急性大動脈解離とはどのような病気ですか?
坂口:大動脈解離とは、「大動脈壁の壁が中膜で裂け、動脈走行に沿ってある程度の長さで大動脈の内腔が二腔になった状態」です。心臓から全身に血液を送る太い血管(大動脈)は、内膜・中膜・外膜の3層で構成されています。この「大動脈の一部の壁が、全周性または局所性に拡大・突出した状態」が、大動脈瘤です。急性大動脈解離は突然死などの原因となることが多く(図1)、正確な発生頻度は不明ですが、地域調査の報告などから年間で、10万人あたり約3人が発症すると言われています。
――急性大動脈解離の症状について教えてください。
坂口:急性大動脈解離の症状は、大動脈が裂ける際に生じる、突然の急激な胸背部痛です。その他にも脳の血流が阻害されて失神や脳梗塞を発症したり、心臓の血管(冠動脈)の血流が阻害されて心筋梗塞を発症することもあります。また大動脈弁逆流による心不全症状や腹部臓器や下肢の虚血を認めることもあります(図1)。確定診断はCT検査で行うことが一般的です。
――発症した場合、一般的にどのような治療が行われるのでしょうか?
坂口:急性大動脈解離の治療は、裂けている部分によってその治療方針が異なります(図2)。上行大動脈に解離が及ぶStanford A型は、発症直後から生命への危険が極めて高く、緊急手術を行います。
一方、下行大動脈に解離があるStanford B型は、急性A型大動脈解離より自然予後が良いため、基本的には安静と血圧を下げる内科治療が第1選択とされます。
しかし、腹部や下肢への血管が閉塞され臓器に血液が流れない状況や大動脈の破裂のリスクが高い状況では、緊急の外科治療が必要となります。
図2 急性大動脈解離の解離部位による分類(Stanford <スタンフォード>分類とDeBakey <ドベーキ>分類)
――笑瓶さんは急性大動脈解離を発症してから数年が経過していましたが、治療は長期にわたることが多いのでしょうか?
坂口:長期の経過観察が必要です。経過中に再度解離を発症したり、解離した大動脈が拡大することがあるので、退院後も通院治療で血圧のコントロールを厳重に行い、CT検査を年に一度程度実施するなどの経過観察が必要です。
――生死に関わらない場合、後遺症はあるのでしょうか?
坂口:急性期を合併症なく経過した場合は、日常生活は問題なく過ごせますが、再度解離を発症したり大動脈が拡大して破裂するリスクは残ります。
――急性大動脈解離で死に至ることは多いのでしょうか?
坂口:A型とB型により致死率が異なります。基本的に、A型は放置すると48時間以内に約半数が死亡すると報告されています。B型の場合は厳重な降圧療法が選択されます。
――基礎疾患の有無や、生活環境は影響があるのでしょうか?
坂口:動脈硬化や高血圧がリスクとなります。また遺伝的な素因(マルファン症候群など)がリスクとなります。
――初期症状や、受診の目安があれば教えてください。
坂口:ありません。大動脈解離が起きた後は数秒で解離が進行します。普段経験したことのない胸背部痛があれば至急受診することをお勧めします。車の運転中に突然死された場合、病理解剖で急性大動脈解離と診断されることも少なくありません。
――一度急性大動脈解離を発症した方が、再発することはよくあるのでしょうか?
坂口:急性大動脈解離の治療後にも残存している解離から再解離を起こしたり、残存している解離血管が拡大して破裂するリスクがあります。
――急性大動脈解離のなりやすさに男女差はありますか?
坂口:男性の方がリスクが高いといわれています。
――急性大動脈解離にならないために、日常生活の中で気をつけるべき点を教えてください。
坂口:高血圧の処方治療を受けられている方は注意が必要です。また動脈硬化や心筋梗塞なども予兆の一つになります。
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