2023.08.31
ブラザー・コーンさんが公表した男性の乳がんとは? 発症率や治療法、検査方法を専門医が解説
- Kindai Picks編集部
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歌手のブラザー・コーンさんが令和5年(2023年)8月29日、ステージⅡの乳がんであることを公表しました。男性の乳がんについて、近畿大学医学部医学科の位藤俊一先生に聞きました。
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位藤 俊一(イトウ トシカズ)
近畿大学医学部 医学科(外科学教室)特任准教授
専門:乳腺内分泌外科部門(乳がん、甲状腺がん、副甲状腺疾患の外科治療など)
乳がんに対する非切除治療であるラジオ波焼灼療法の臨床試験を日本で初めて開始。ラジオ波焼灼療法の治療効果や安全性を全国10施設で確認した結果は国際的に評価されている。乳房非腫瘤性病変超音波診断ガイドラインを委員長として作成。乳房病変に対する造影超音波診断基準委員長として乳がんの早期診断を推進している。乳房病変に対する針生検等の診断手技に関して痛くない安全確実な検査の啓発、指導を全国で行っている。
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――Q、男性でも乳がんを発症するのですか?男性の乳がんの発症率はどのくらいでしょうか?
位藤:男性の乳がんは女性の乳がん100人に対して1人程度の割合で発症し、診断時の年齢は60~70歳と女性に比べ高齢です。約2割に乳がんの家族歴が存在し、遺伝子のうちBRCA2の病的バリアント(※)が4~16%にみられます。
男性の乳がんは、頻度は低いですが非常に珍しいということはなく、近畿大学病院でも年に数件程度、手術を行っています。
男性は女性に比べて乳腺が少ないですが、乳頭の下に少し存在するため、乳頭下のしこりが気になって来院されるケースが多いです。
(※)BRCA2遺伝子の病的バリアント:遺伝性乳癌卵巣癌の原因遺伝子。この遺伝子に生まれつきの病的な変化(バリアント)を持っていること
――Q、男性の乳がんの原因は?遺伝的要因は関与するのか?
位藤:男性乳がんの発症リスクを上昇させる因子としては、乳がん等の家族歴があること、クラインフェルター症候群や他の遺伝要因があることが知られています。約2割に乳がんの家族歴が存在し、遺伝子のうちBRCA2の病的バリアントが4~16%にみられます。
女性の乳がん発症の原因は女性ホルモンが関わっていると考えられていますが、男性の乳がんの原因は明確には解明されていません。乳がんと同じ遺伝子としては、卵管がん、卵巣がん、膵臓がん、前立腺がん、悪性黒色腫などがあります。血縁者に乳がんと同様の遺伝子のがんの罹患歴がある場合は、遺伝性を検討する必要があります。
――Q、男性の乳がんの症状は何か?女性との症状の違いや、異常を感じるポイントは?
位藤:女性はしこりがない場合もありますが、男性は乳頭の下のしこりができ、異常を訴えることが多いです。また、がんが進行していると、わきの部分のしこり(リンパ節転移)がある場合もあります。痛み等の症状があまりないため、そのまま様子をみて受診が遅れることもあります。
――Q、男性の乳がんの診断方法は?何科を受診すればいいのか?どのような検査が行われるのか?
位藤:診断方法は女性とほぼ同様です。超音波検査やマンモグラフィを受けたのちに、必要な場合には他の画像診断や針生検などの検査を行います。
男性も女性と同様に、乳腺内分泌外科や乳腺科を受診することになります。
――Q、ブラザー・コーンさんはステージⅡと公表しましたが、今後どのような治療をすることになりますか?
位藤:治療方法も男性と女性で基本的には同じです。ステージⅠ、Ⅱは早期発見の部類に入り、ステージⅡであれば、リンパ転移の有無や乳がんの性質(サブタイプといいます)にもよりますが、基本的に手術や術後(場合により術前)治療等を行って根治ができる状況にあると考えられます。
ホルモン治療に関しては、乳がんの原因であるエストロゲンを抑制する効果がホルモン剤により女性と少しだけ異なるため使用するお薬が異なることがあります。なお、抗がん剤や分子標的療法は女性乳がんに準じて行うことが一般的です。
ステージⅠなら5年生存率が98%、ステージⅡでも95%、Ⅲでは60%、Ⅳは30%と言われており、これに関しても男女差は特にありません。
――Q、男性自身が乳がんを予防するためにできることは?定期的なセルフチェックの方法は?予防のためのライフスタイルの改善点は?
位藤:女性は運動によってがんの発生や進行を遅らせるというデータが存在しますが、男性にはデータがありません。
単に自己触診を啓発することにとどまらず,乳房の異常所見(しこり、乳頭分泌等)に関する知識や異常を感じた際に適切な診断施設を受診することが大切です。
また、BRCA遺伝子の病的バリアントを有する男性では、35歳からの乳房の自己触診と医療機関で1年に1回の視触診を受けることを推奨している海外のガイドラインもあります。まだ決定されていることではありませんが、女性化乳房症がある場合には50歳から1年ごとにマンモグラフィの実施が検討されています。さらに男性乳がんの家族歴がある場合には、男性乳がんが発症した家族の診断時年齢より10歳若い年齢から1年ごとのマンモグラフィを実施することも検討されています。
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