2022.04.27
近大オリンピアン対談!日本水泳界のホープ・谷川亜華葉に送るOG・寺川綾からの助言とは
- Kindai Picks編集部
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昨年行われた東京オリンピックの日本代表として400m個人メドレーに出場し、今年近畿大学に入学した谷川亜華葉(あげは)さん。そして近畿大学OGで、ロンドンオリンピックで100m背泳ぎ、4×100mメドレーの2種目で銅メダルを獲得した寺川綾さん。近大ゆかりのオリンピアン二人による特別対談を敢行! オリンピックのこと、6月から開催される世界選手権のこと、学生生活のことなど、思う存分お話していただきました。
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谷川 亜華葉(たにがわ あげは)
2003年大阪生まれ。4歳から水泳人生をスタート。2019年、2021年の高校総体では200m、400m個人メドレーで2冠を達成。昨年行われた東京オリンピックには400m個人メドレーに日本代表として出場。今年3月の国際大会日本代表選手選考会では同種目にて高校新記録を叩き出して優勝し、6月からブダペストで行われる世界選手権の代表に内定した。2022年に近畿大学 経営学部に入学。
寺川 綾(てらかわ あや)
1984年大阪生まれ。2007年、近畿大学 法学部を卒業。3歳より水泳を始め、アテネ、ロンドンとオリンピックに2大会出場。ロンドンオリンピックでは、100m背泳ぎと、4×100mメドレーの2種目で銅メダルを獲得。50m、100m背泳ぎの女子日本記録保持者。選手引退後は、ミズノ株式会社に所属しながらテレビ朝日系「報道ステーション」にてスポーツキャスターを務めるなど、多方面で活躍中。
「すごい子が出てきたな!」って思った
ーーお二人は面識はありましたか?
寺川 綾(以下、寺川):もちろんですよ! 亜華葉ちゃんの活躍にはいつも注目していますし、スポーツキャスターという仕事柄、選考会でレース後にインタビューをしたこともあります。でも、試合の場以外でこうやってお話するのは初めてですよね?
谷川 亜華葉(以下、谷川):そうですね! 私も、お話できるのを楽しみにしていました。今日はよろしくお願いします。
ーーお二人はお互いについてどんな印象を持っていますか?
谷川:寺川さんは、本当に速くて。あとは、とってもキレイな人だなって……!
寺川:ありがとう(笑)。私は、オリンピックのときの「すごい子が出てきたな!」っていう印象が強かったかな。実力が急に伸びた選手って、ある程度のところで成長が止まってしまう人も多いんですけど、この間の代表選考会でも成長の跡が見えて、すごく地力があるんだなとも感じています。あとは、亜華葉ちゃんの泳ぎは本当に粘り強い。
谷川:小さいころはレース後半で伸び悩んだり、タッチの差で負けたりすることが多くて。数えきれないほど悔しい思いをしてきたんです。でも中学生のとき「最終的に、どっちが”負けへん”って強く思っているかで、勝敗が決まるから」ってコーチに言われて。それから、レースの後半は全員がキツくて当たり前だから、技術や体力より絶対に誰にも負けないっていう精神面を大切にして、自分を奮い立たせながら泳いでいます。
寺川:レースを見ていても最後まであきらめない闘志が伝わってきますもん。でも、プールの外だとギラギラした印象がない。そのギャップにやられちゃってます。
谷川:やっぱり、肩幅などはガッチリしているけど、水泳選手にしては身長が小さめなので、画面越しに見てくださっている方に会うと、「普通の女の子だね」ってよく言われます。
ーー水泳は身長が有利に働くスポーツなのでしょうか?
寺川:うーん、どうなんでしょう。私は174cmなんですけど、個人的にはストロークの幅やタッチの部分で身長が大きい方が有利だと思っています。でも、選手のなかでも小柄な亜華葉ちゃんの活躍を見ていたら、関係ないのかもと感じてしまう。そのくらいすごい選手だなって。
谷川:いいなあ。私はいま161cmくらいなんですけど、水泳選手だったお母さんは170cmもあって。年下の兄弟たちも最近はすごい身長が伸びてきて、家族で私だけ身長が伸び悩んでいるんです。私も身長は大きいに越したことないと思っているので、毎日「身長が伸びますように!」ってお祈りしてから寝ていて(笑)
寺川:かわいいエピソードだ……! でも、大学時代に身長が伸びる選手もいるからあきらめずにお祈りしてください!
一瞬一瞬を大切にして、人間的に成長する学生生活を過ごしたい
ーー寺川さんは近大でどのような学生生活を過ごしましたか?
寺川:本当に水泳中心の生活でしたね。ただ、大学に入って水泳以外の仲間と出会ったり、いまも連絡を取り合う友達ができました。近大は大学の規模が大きいから、いろいろな人や機会と出会える刺激的な環境だと思います。だから、亜華葉ちゃんにも水泳以外の部分で、人間としての幅をどんどん広げていってほしい。
ーー谷川さんはキャンパスライフで楽しみにしていることはありますか?
谷川:水泳は変わらずがんばるだけです! そもそも近大への進学を決めたのは、水泳部の雰囲気が明るくて、お世話になってる先輩もいたから。環境が大きく変わらないし、心配も少ないので自然と勉強にも力が入る気がしています。
寺川:勉強は好きですか?
谷川:どちらかというと、キライです……。でも、勉強はちゃんとやっていきたい! どうしても試合や練習で、学校に来る回数は少なくなるかもしれないんですけど、単位は絶対落としたくないって思ってます。負けず嫌いなので!
寺川:エラい! 水泳と学業を両立するってとても難しいと思うし、実際私もできていたかというと微妙なところです。だけど、大学生活っていましか経験できないことだから、忙しくても楽しみながら日々を大切に過ごしてほしいな。
ーー寺川さんから、谷川さんに学業の面でアドバイスがあれば伝えてください。
寺川:まずは、とにかく友達を作ること。私もそうだったけど、どうしても出席できない授業もあるんです。そんなときは友達にノートをコピーさせてもらったり、テスト前に出題されそうなところを聞いたりしてました。正直、申し訳ないところはあるんだけど、水泳部以外でも人間関係を広げた方がいい! ちなみに、気が早いようだけど、友達はできましたか?
谷川:ちょうど昨日、入学式のリハーサルがあったんですけど、そのときにすごく仲良くなった子がいます! 昔は人見知りだったんですけどね。
入学式の新入生宣誓に臨む谷川さん。近大では競技と学業を両立させ、成長したいと抱負を語った。
寺川:そんなふうには見えないくらいお話しやすいし、友達作りの面で亜華葉ちゃんは心配なさそうですね。入学式の宣誓も大勢の前だったのに、すごいしっかりしてましたし。
谷川:ありがとうございます。最近は普通にお話できるようになってきました。やっぱり、大きい大会に出ることも多いから、あまり物怖じしなくなったのかも。
毎試合がトライ&エラー、勝っておごらず更なる高みへ
“勝たなおもろない!!”が近畿大学の水上競技部のモットー。
ーー先ほど、レースの後半は気持ちで勝負すると教えていただきましたが、それ以外で意識していることはありますか?
谷川:レースプランを組み立てることが結構重要だと思っていて。例えば、私はクロール、平泳ぎ、背泳ぎ、バタフライの4泳法のなかでは平泳ぎが苦手です。平泳ぎを鍛えて全体のタイムを縮めるのか、それとも得意な泳ぎを重視するのか、その日の調子や試合によってレースプランを考えています。
ーーレースごとに作戦を立てているんですね。谷川さんはメドレー、寺川さんは背泳ぎですが、種目によってトレーニング方法も変わってきますよね。
寺川:そうですね。もちろん、種目が違えばトレーニング方法も変わってきます。それ以外に距離や所属チームによっても、練習に対する考え方が全然変わってくるんです。でも、亜華葉ちゃんはメドレーだからバランス良く鍛えなきゃいけないし、相当たいへんなことをしているなあと。
谷川:どうしたら効率的にタイムを縮めて楽に泳げるのか、日々の練習はもちろんなんですけど、試合ごとに試行錯誤しながら課題を一つずつ削って、レベルアップしていきたいです。
寺川:3月にあった代表選考会の感触はどうでしたか?
谷川:コーチが「いまの亜華葉なら、最初からペースを上げても後半まで絶対泳ぎ切れるよ」って毎日言ってくれていて。私自身もその確信があったので、最初から攻めて泳ぎました。後半まで体力が持つようにペースを考えることもできたんですけど、挑戦的に泳いで、次につながるレースができたかなって思います。
寺川:高校記録を塗り替えて優勝しましたし、グングン自信をつけている最中ですよね。次の世界選手権の活躍もとても楽しみです!
勝って当たり前の重圧。トップスイマーのメンタルコントロール
ーー日本代表として東京オリンピック出場が決まったとき、プレッシャーはありましたか?
谷川:日本代表に選ばれたときは自分の水泳人生で初めてプレッシャーを感じました。
もともと負けず嫌いでプライドが高いっていうのもあるんですけど、「代表選手なんだから絶対に試合で負けてはいけない」っていう考えから抜け出すことができなくて。しっかり練習で仕上げているのに、レースになると怖くなってしまって身体が思うように動かない。もう水泳のことを考えるだけで勝手に涙が出てました。
寺川:確かに、すごく辛そうでしたね。
谷川:オリンピックという憧れの舞台だったのに、力を発揮できず予選落ちして、とても悔しい思いをしました。すごく落ち込んでいるその間にも自分より若手の選手たちがどんどん実力を伸ばしていて、私は何をしているんだろうって。去年は半年以上ずっと悩んでいて、もう水泳をやめてしまおうかって本気で思っていました。
ーーたいへんな苦難でしたね。そのときは、どうやって乗り越えたんですか?
谷川:自分が水泳をやっている未来が本当に見えない状態で、きっとお母さんも私が水泳をやめると思っていたはずです。でも、東京オリンピックで金メダルを獲得した大橋悠依選手や清水咲子選手も親身になって何回も相談に乗ってくれて。少しずつ練習を再開し始めたとき、チームの後輩が「誰にも負けたくない!」って気持ちが伝わるくらい追い込んで練習していて、私も負けられないって思えました。
ーー周りの人たちに支えられたんですね。
谷川:自分が4歳から大好きな水泳を続けてこられたのは、お母さんや周りのサポートのおかげだっていうことに改めて気づかされました。その人たちに恩返しをするには、やっぱり水泳しかないと思って。絶対にもっと強くなってやると決意して、立ち直ることができました。
ーー恩返しのためにプレッシャーをはねのける、すごく素敵な話ですね。
谷川:プレッシャーに打ち勝ったときは、自分自身のプライドをうまく消化できていたと思います。でも、もしまた追い込まれてしまったときの乗り越え方や対処法があるなら、寺川さんにアドバイスをもらいたいです。
寺川:日本代表に選ばれるとどうしても結果を求められたり、試合に勝って当たり前のように思われたりしますから。周りからのプレッシャーがものすごくて、苦しくなっちゃう。水泳って、技術と同じくらいメンタルが影響してくるスポーツなんですよね。私も昔、同じ状態になったことがあったけど、 亜華葉ちゃんはまだ若いのにプレッシャーを乗り越えてメンタルも成熟しているから、私から言えることは特にないかもしれない。そのままの亜華葉ちゃんを貫いたらいいと思うな。
ーー日本代表に選ばれたときのプレッシャーは、当事者じゃないと想像もつかないですもんね。寺川さんはどのように重圧を乗り越えたんでしょうか。
寺川:「プレッシャーは自分が追い求めているものよりも、更に高いレベルを周りから求められたときに感じる」と、コーチが教えてくれたんです。自分が何も言わずとも「金メダルは〜」「世界ランクは〜」と、周りがどんどん私の「目標」を決めていくんですよ。だったらと、周りとは関係なしに「金メダルを目指している」と、自ら明言したんです。そうしたら気持ちがすごく楽になって、周囲の声は何も気にならなくなって。
谷川:高いレベルの目標を作って、そこに向かって突き進むのみってことですね。
寺川:そう、周りの声よりも自分がどうしたいか。しっかりと芯を持つことが大切じゃないかな。そこから日頃の取り組みを見つめ直すと、自分のやるべきことが見えてくると思います。
谷川:寺川さんの話を聞いて、答え合わせじゃないですけど、次のオリンピックを見据えてやっていることや目標の持ち方は間違っていないなって思えました!
寺川:私がそれに気づいたのは社会人になってからだったから、すでに気づけていることが本当にすごい! これから何があっても大丈夫そうですね。亜華葉ちゃんの年齢でオリンピックを経験できたのは絶対に財産になりますから。この調子で実力をつけていって、日本の水泳界を引っ張っていってほしいです。
もう一度、オリンピックの舞台を目指して
ーー6月にブダペストで行われる世界選手権大会に出場されますが、意気込みをお願いします。
谷川:東京オリンピックでは、大会の空気感を楽しむことができなかったのをすごく後悔していて。しっかりと楽しみながら泳いで、まずは決勝に残る。世界で戦っていくための階段を一つずつ上がって、パリオリンピックに向けて仕上げていきたいです!
ーーがんばってください! 最後に寺川さん、今日の対談の感想をお願いします。
寺川:亜華葉ちゃんがしてきたことは私も通った道なんですけど、同じころの私よりも考え方が早熟で、経験も豊富です。なので、今後の活躍がすごく楽しみです。あとは、水泳は当然大事だけど、オンとオフを上手に切り替えて、勉強や交友関係なども充実させてほしい。いましか体験できない大学生活も楽しんでがんばってください!
谷川:ありがとうございます! 大先輩からのアドバイスを胸に、水泳で結果を出すことはもちろん、近大でしか経験できないような充実した大学生活を送ります!
取材・文:関戸ナオヒロ
写真:納谷ロマン
編集・構成:人間編集部
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