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2019.01.25

「結果で恩返ししたい」近大職員に内定し、東京パラに向け躍進する一ノ瀬メイが見据える未来

Kindai Picks編集部

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一ノ瀬メイ

2018年アジアパラ競技大会では8つのメダルを獲得し、2020年東京パラリンピックに向けて競技に取り組む競泳選手・一ノ瀬メイさん。4月から近畿大学課外活動振興・強化職員としての内定も決まり、より競技に専念できる環境に。未来を見据え、強くまっすぐな瞳には今、何が映っているのでしょうか。

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一ノ瀬 メイ
近畿大学経営学部4年/パラ競泳選手
1997年京都府生まれ。1歳半から水泳を始め、2010年に当時史上最年少でアジアパラ競技大会に出場、50メートル自由形(S9)で銀メダルを獲得。2016年、リオパラリンピック200メートル個人メドレー(SM9)など8種目に出場。2018年に開催されたアジアパラ競技大会では出場した全8種目でメダルを獲得。2020年東京パラリンピックに向けて躍動を続けている。


人それぞれ、ベストな泳ぎ方が違う。それがパラ水泳の難しさと面白さ




――昨年のアジアパラ競技大会では、出場した全種目でメダル獲得という好成績でしたね。

ありがとうございます。今回は気持ちに変化がありましたね。私、実はこれまであまり競争心がなかったんですよ。中学2年生で日本新記録を出した時から、国内に追いかける存在がいなかったので……。試合で誰かに勝ちたいとか、負けたくないっていう気持ちよりも、タイムを出す作業として試合に臨んでいて。

――周りの選手は闘争心むき出しですよね?

そうなんです。「みんな各々頑張ってるな」と思ってました(笑)。監督に「俺は現役の時、全員倒すつもりでスタート台に立ってたぞ」って言われても「私にはそんなん1ミリもないな」と。優しすぎ、柔らかすぎとよく言われてて……。日本ではそれで良かったけど、国際大会に出場して海外の選手と戦った時、気持ち負けしてしまうんですよね。それがリオパラリンピックでした。



――日本では負け知らずのトップ選手として君臨されていても、やはりパラリンピックの舞台はまったく別物なんですね。気持ちを引きずったりはしませんでしたが?

むしろ、闘争心を持てるようになったと思います。パラリンピックって、順位が良ければメダルをもらえるところであって、たとえ日本新記録を出したとしても、メダルがなければ意味がない。結果が全ての場所なんです。日本に帰ってきて振り返ってみたら、勝ちへのこだわりが足りなかったと痛感したし「水泳って勝負なんや」と意識が変わりました。だからアジアパラの時は「世界ランク1位の選手にどこまでついていけるか」とか「この選手は後半が強いから、自分も前半は抑えて後半勝負しよう」とか、自然に考えましたね。今までは取材で「レース展開はどうされますか?」と聞かれても「レース展開……?」って感じやったのに(笑)


アジアパラ競技大会で獲得した8つのメダル。「今まで獲ったメダルは全部、実家で母が手作りしたポールにずらっと並んでます」

――結果的に自己新記録、日本新記録更新などタイムにもつながったわけですね。試合中はどんなことを考えているんですか。

その時々で違いますけど、一番良い状態なのは、集中力が極限まで高まってパフォーマンスできる時。いわゆる「ゾーン」という状態ですね。私も人生でまだ2回しか経験してなくて、最初がさっきもお話したアジアパラ競技大会で日本新記録を出した時、二度目がリオの派遣選手選考会です。あの時は泳ぐ前からうきうきして、良いタイムを出せる気しかしなくて。レース中は無心で終わってから我に返るみたいな感じでした。ゾーンに入った時のことは、プールサイドから俯瞰した映像で見えるんですよ。

――アスリートの境地って感じがしますね。

毎回は無理でも、どの試合も近い状態へ持っていきたい。その日までに良い練習ができていれば落ち着いて、自信を持って試合に臨むことができます。だから毎日、試合の日の自分にプレゼントを贈るみたいな気持ちで過ごしてるんです。



――東京パラリンピックに向けて、今取り組んでいる課題はありますか。

毎日泳ぎこんで、根本的な土台の技術を固める作業をしてる感じです。自分にとって一番良い泳ぎ方を見つけて、それで練習を積み重ねていけたら、と。パラリンピックは、障がいの種類や程度、運動機能などによって同じ競技内でもクラスが変わるんです。とはいえ、同じクラスであっても体の個性もさまざまなので、持って行くべき重心だったり、ベストな泳ぎも人それぞれで。常識を当てはめてもうまくいかない場合もあったりするし。

――セオリーがちょっと違うんですね。

健常の選手はお手本にする人がたくさんいるし、コーチも自身の経験を踏まえてアドバイスできます。でも、片腕の選手ばかり見てきたという人はあまりいない。コーチが言ってくれていることをうまく取り入れられない時もあって、それは自分がまだ未熟だからなのか、私には合ってないのか「どっちなんやろ」って悩むことが日常茶飯事なんです。選手とコーチが二人三脚でベストを模索していくというのは独特なのかなと思います。それが難しくて、面白いところなんですけど。


水泳以外は眼中に入れたくない




――日本を代表する競泳選手としての毎日と、大学生活との両立は大変だと思いますが、日々どんな生活をされているのか教えてください。

練習のある日はこんな感じですね。


一番ハードな日のタイムスケジュール

水泳部の寮に入っているので朝から晩まで、練習もご飯もチームメイトと一緒って感じ。「そもそも、パラって何?」ってところから知ってもらって、支え合ってきた仲間なんですけど、同期は9月に引退しちゃったので今めっちゃ寂しいです。

――休みの日はどんな風に過ごしていますか?

土曜の朝練が終わったら日曜いっぱいまで休みなので、休日は京都の実家に帰ることが多いです。近所に有名な温泉があって、そこに必ず行ってます。熱めのお風呂と水風呂で交代浴をすると疲労が取れるんです。私は水泳第一なので、体のメンテナンスとか月曜からの練習のことがいつも頭にあってあんまり出かけたりしないですね。友達とご飯に行ったり映画に行ったり、のんびり遊ぶこともたまにはありますけどね。


――SNSの投稿もよくされていますよね。

はい。インスタは気軽に撮ったやつを載せやすいんで、プライベートな投稿が多いんですよね。試合結果とか、拡散されたい情報はTwitterに投稿してます。仲の良い友だちが「遠征先での様子を知りたい」って言ってくれたことがきっかけで始めたんですよ。


――最近、ハマってるものとかはありますか?

私、水泳以外ハマりたくないんですよ。今でも覚えてるんですけど、小学生の時『花より男子』のドラマが流行って。友達の家でたまたま観たら小栗旬さんがめっちゃかっこよくて「あ、ハマりそう!」と思って、観るのやめたんです(笑)

――ストイックですね! 子どものころから「水泳に集中しなさい」と言われてきたとか?

全然。「辞めたくなったら好きにしい」って言われてました(笑)。私の母は何でも興味を持つ方なので、それを見てると「自分って好奇心がないな」って思うし、まわりにも言われます。でも昔からペースを乱されるのが怖いし嫌いなんですよ。


悔しさもプレッシャーもかき分けて泳ぎ、成長していく




――メディアへの露出も多いと思いますが、アスリートとして、大学生としての自分とギャップを感じることはありませんか。

前はテレビに出たり雑誌に載ったりっていう大きい出来事があると、ふわふわして元の生活に戻るまでに時間がかかりました。あと、イベントとかでいろんな方に激励していただくんですけど「自分の実力より周りの期待が上回ってるな」と感じることが多かったです。イメージの方が何歩も先を行ってしまってるから「追いつかないと」って焦って、プレッシャーに押しつぶされそうな時もありました。最近は慣れてきたのもあって、地に足をつけられるようになってきましたけど。やることは変わらないんですよね。毎日、淡々と練習するだけ。


――みんなが期待して応援してくれるけど、本人には時に重荷にもなりますよね。

そうですね。アジアパラの前も、取材で「目標は全種目メダルです」って言ってたんですけど、いつの間にか「金なるか」って話になっていたり(笑)。大会後は「金を目指しつつ、遠く及ばなかった」って書かれましたし、言いたいことが伝わらなくて歯がゆい時もあります。でも、取り上げてくれる方がいるから競技者でいられる部分もあるから、難しいですね。

――以前、障害者の理解についての発言も話題になってましたね。

害をひらがなにして『障がい者』と表記しても何も変わらない、って言ったやつですね。私からすると、障害者は「社会から障害を与えられている人」なので、自分自身を『障害』だとは思わない。別に「ひらがなにするのが悪い!」って言うつもりはないんですけど、大事なのはそこじゃない。「変えるべきはそこじゃないやろ」って思うんです。

――最近は一ノ瀬さんの知名度も上がりましたが、障害やパラ競技の理解も進んできたと感じますか?

パラの知名度はまだまだだなと思います。ついこの間発表されてびっくりしたんですけど、東京パラリンピックの観戦チケット、めっちゃ安いんです! 一番安い競技は900円とかで「プロの競技がランチみたいな値段で観れるん?」って思って。

――確かに、オリンピック競技には10万円以上のチケットもあると思うと安すぎるように思えますね。

これがパラの現実なんですよね。若い人にも広く観戦してほしいという理由は理解できるんですけど、そこまでハードルを下げないと観る人がいないんだなって。今は悔しいけど、いつか会場に入りきらないぐらい観客を集めたいです。リオに出るまでは「自分が有名になってパラの知名度を上げる」という気持ちが強くて「取材してもらうためにも強くならないと」と思ってました。でも最近ちょっと変化してきてて、興味を持って競技を観てくれた人に「すごい」って思ってもらって、ファンになってほしいなと思ってます。


将来はパラリンピック連盟にも携わりたいと話す。「パラ競技をたくさんの人に知ってもらえるよう広報していきたい」

――東京パラリンピックでは、たくさんの観客に一ノ瀬さんの試合を観てほしいですね。

そうですね。これから練習を積み重ねるのはもちろんですけど、水泳を通して人間性も磨いていきたいです。監督にも「人間的成長なくして、競技上の成長はない」と言われていて。周囲にサポートしてもらえる人間になることができたら、周りの人たちがきっと、私が結果を出せるよう導いてくれる。だから今後も、泳ぐことで人間としても成長していきたいです。

――最後に、一ノ瀬さんは現在4年生。もうすぐ卒業となるわけですが、進路はどうされる予定でしょうか?

実は、近畿大学の職員になることが決まっていて。4年間パラリンピアンになるまで育てて貰えた近畿大学を来年からも背負って競技ができることが今から楽しみです。

競技に専念できる環境をいただけることに感謝し、競技結果で恩返しするだけでなく、近畿大学の教育理念の中にもある「人に愛される人、信頼される人、尊敬される人」として、誰もが応援したくなるような選手になれるよう、精進していきます。

――これからも活躍を楽しみにしてます!ありがとうございました。


取材・文:山森 佳奈子
写真:増田 好郎
編集:人間編集部

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