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雑学・コラム

2019.10.23

皮ごと食べて大丈夫?むかない安藤が野菜や果物の「毒性」を栄養学の先生に聞いてみた

Kindai Picks編集部

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農学部
食品栄養学科
農薬
むかない安藤
オリジナル記事

果物や野菜などの皮を、むかずにそのまま食べる男「むかない安藤」。2012年からむかない活動を開始し、むかずに食べた食べ物は約300種類に及びます。でも、そもそも皮はなぜ必要なの?果物や野菜の皮を、そのまま食べても害はないの?農薬などの影響は?食べ物の皮に関するあらゆる疑問を、栄養学のエキスパート、農学部 食品栄養学科の米谷先生にたずねてみました!

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こんにちは、むかずに食べるむかない安藤です。

普段はデイリーポータルZというサイトを中心に、ものをむかずに食べる活動をしています。は? ちょっとなにいってんの?という人のためにいくつか動画を置いておきますね。






より一層わからなくなった感じもしますが、ようするに普通ならむいて食べるものをむかずに食べたらどうなのか、という新しい体験を追求しているわけです。そういう人生もあるのです。

このむかない安藤の活動の中で、いつも気になっていたことがありました。皮をむかずに食べるのは実は体に悪いのではないか、と。

むかない安藤

そこで今回、ガチの大学の先生にお話を聞きにきました。

普通に考えたら大学の先生に聞くまでもなく「やめとけ」で終わる話なんだと思うんですが、そこをあえてこの対談を実現させてくれた Kindai Picks には、感謝と同時に余計なことを……という気持ちでいっぱいです。叱られたらどうするんだよ。

むかない安藤

今回、お話を聞くのは近畿大学農学部食品栄養学科学科長を務められている米谷先生。肩書が長くてちゃんとしてる上に初対面である。

米谷先生とむかない安藤

米谷 俊(こめたに たかし)
農学部 食品栄養学科 教授/食品栄養学科長
学位:農学博士/専門:食品機能学、栄養学、生化学


先生、今日はよろしくお願いします。私はむかない安藤という名前で、果物とか野菜なんかの皮をむかずに食べる活動を8年くらい続けているんですが、ご存知でしたでしょうか。

すみません、ちょっと知らなかったです。



ですよね、知らなくて正解だと思います。ではまず名刺代わりにむかない安藤の動画をいくつか見てください。


笑い合う米谷先生とむかない安藤


え! シジミなんかもむかないんですか?



そうですね、面倒くさいので。



今日は僕が言うことが、あなたの活動の趣旨に合っていなかったら申し訳ないんですが、もし安藤さんが何でも言えるような親しい関係の人だったら「あほやなぁ」と言うでしょうね。

ごもっともだと思います。



逆に安藤さんに聞きたいですが、今までむかずに食べた中で美味しかったものってありましたか?


覚えている範囲ではひとつもなかったですね。



そうですよね、そうだろうと思いますよ。



撮影が終わると比較のためにむいて食べてみるんですが、だいたいはむいた方が美味しいです。むかないと渋かったり苦かったり硬かったりしますね。


われわれが食べているものは本来食べ物ではない?


米谷先生とむかない安藤
今日はある意味当たり前のことを聞きに来ました。

まず大前提としてですね、われわれ人間が食べ物だと思っているものって、あれ実は食べ物ではないんですよ。


え!ではなにを食べているんですか、われわれは。



植物にしろ動物にしろ、本来はみんな生き物であって、食べ物というのは食べる側が勝手に決めたことなんです。本当の意味での食べ物って「お乳」くらいじゃないですかね。あれは子どもに与えるためのものだからもともと食べ物で間違いないですが、それ以外は植物や動物の体を食べさせてもらっているだけなんです。

米谷先生
「本来は植物や動物の体を食べさせてもらってるんです」

なるほど、確かにバナナもりんごも、人に喜ばれるために実をつけているわけではないですもんね。


そうです。だからバナナも皮ごと食べて美味しかったらみんな食べられてしまうんですよ、大切な体が。


僕みたいな人に食べられないように、皮は不味くできている、と。



べつに安藤さんだけを防ごうとしているわけではないですけどね。あとは日光(紫外線)から実を守る役割なんかもありますよね。果物には骨がないので皮が硬くないと実を保てませんし。

皮にもちゃんと役割があったんですね。



一方で植物は動物に食べてもらって種を運んでもらわないと広がらないでしょう。だから熟すと甘くなって皮も柔らかくなります。つまり食べられたら困る時期には不味い、逆に食べてほしい時期にはちゃんと美味しくなるわけです。

驚くむかない安藤
今すごい深いこと聞いたぞ。

僕が300種類くらい食べてきた不味い皮は、あれはつまり食べられるのを拒んでいたわけですね。なんだか悪いことしたな。


ただね、食品の機能性とかを研究している人に言わせると、皮に含まれる苦みとか渋みにも、人間にとっていい成分が含まれていることがあるっていうんですね。

そういう話が聞きたかったんです。



たとえば柿なんかは種が成熟するまでは鳥に食べられたくないですから、その時期には渋みがあるんです。タンニンっていうんですが、これが人間にとっては血糖値を下げたり血圧を下げたりする。あと最近わかってきたことでいうと、アルコールの吸収を抑えたりする効果があるんじゃないかともいわれています。

米谷先生
米谷先生は今、柿の研究をされているそうです。

柿ダノミ
近畿大学と住江織物(株)が共同で開発した柿のポリフェノールが入ったサプリ。あらかじめ飲んでおくと悪酔いしにくくなるそうです。

むかずに食べることで副次的に健康になることもある、と。



あるかもしれませんね。ただ、それは本来植物が自分たちの体を守るための目的で作っている物質が、たまたま人間の体にも効果があるかもというだけであって、人間のために作ってるものではないんですけどね。

むかずに食べている人へのご褒美ではないんですね。



わたしら(食べられる側)はあんたら(人間)のために生きてるんとちゃうよ、ということです。


むかない安藤
食べられる側から考えたことありませんでした。

毒はやめとけ!でも、農薬については信じるしかない


皮が美味しくない理由についてはわかりました。それでもむかずに食べようとする場合、これだけはやめておけ、みたいなものってありますか。

まあ明らかな毒があるやつはやめた方がいいですよね。たとえばジャガイモの芽とか生のワラビとかは毒があります。芋類は芽に限らず生で食べると消化できないですしね。あとはキノコなんかも毎年何人か食中毒になっていますから気をつけた方がいい。

※ジャガイモ:ジャガイモの芽や目の根元、皮(特に光が当たって緑色になった部分)には、天然毒素であるソラニンやチャコニンが含まれているため、食べる際は除去が必要
※ワラビ:生のワラビには「プタキロシド」とよばれる発ガン性物質が含まれているが、炭酸水素ナトリウム(重曹)を加えた熱湯によって、除去が可能

皮をむかないことによる害よりも、そもそも生で食べるなということですかね。


こういうことを注意しだすとつまらなくなってしまうんですが、一応調べて注意した方が長生きできるでしょうね。


じゃがいも、やってますね。

山菜のアクもやばそうです。

えのきもやってました(すみません)。

農薬はどうでしょう。むかずに食べると農薬をダイレクトに摂取してしまうんじゃないかといつもひやひやしていました。


農薬はね、それはもう信じるしかないと思いますよ。



というと?



結局口に入れるもの全部を検査することなんてできないじゃないですか。だから出荷されてきたものは適切な検査を通過したものだと信じるしかないんです。実際に日本では、農薬の検査ってかなり真面目にやられているはずなんですよね。ちゃんと検査していないと消費者になにか言われた時に言い訳できないですから。品質保償は極めて重要です。

でもそれは皮をむいた場合ですよね。



検査自体は皮のままやりますから、そこはたぶん大丈夫だろうと僕は思っています。


米谷先生とむかない安藤
安心しました!

そもそも農薬ってすべてが体に悪いんですか?



これもね、なかなかはっきりとは言い切れないんですけど、少なくとも最近の農薬は医薬品よりも安全だっていう人もいますね。


え! 人の薬よりも農薬の方が安全なんですか?



一概には言えないんですけどね、つまり医薬品っていうのは人間の体の中で働くように作られているんです。対して農薬は人とは全く違う生き物、たとえば虫とか雑草とかの代謝系を標的に作るわけです。なので人にとってはあまり効かない、害がない、ということですね。

それは最近の農薬がすごいという話ですか?



それはありますね。昔の人は畑仕事で農薬撒いた次の日はめっちゃしんどかった、なんて言いますからね。何十年も前は確かに農薬は人の体に良くなかったんでしょう。でも今は研究が進んで、虫にだけ効くものとか雑草にだけ効くもの、人間に害のないものなんかが開発されているんです。

輸入されてきたものはどうですか?



これはまた難しい問題ですね。国によって検査体制や基準が違ったりしますから。でも日本に輸入されてくる時点で、ある程度の検査はクリアしているわけで、それを疑っていたらきりがないと思いますよ。私は前は食品会社にいたんですが、工場で使う材料はすべて残留農薬の検査してましたからね。そうしないと作る側も売る側も不安なんです。消費者の信頼が大事ですから。

米谷先生とむかない安藤
米谷先生は本当に話がわかりやすい。こういう先生に習いたかったです。

農薬ではないんですが、最近リンゴの表面のべとべとは人工的なワックスではない、っていう話を聞きました。それは本当なんですか?


あれは「ろう物質」といって天然のワックスみたいなものですね。むかずに食べても大丈夫ですよ。


※リンゴのろう物質:リンゴは成熟するにつれ、リノール酸やオレイン酸などの脂肪酸が増える。これが皮に含まれるろう物質を溶かし、表皮に現れてくるため、表面がべたつく

今までのお話を総合すると、結局皮はむかなくていいんじゃないかなと思ってしまうんですが。


まあ好きでやってるんならいいんじゃないですか。あとはもう好みの問題ですからね。僕はむきますけどね。


先生はどうしてむくんですか。



むいた方が美味しいからです。食品の機能は大きく分けて3つあるんです。栄養、美味しさ、そして体調調節。その中で僕は特に果物に関しては美味しさを重視したいのでむきますね。でもさっき言ったみたいに、もしかしたら栄養とか体調調節についてはむかない方がいいことがあるかもしれない。どこに重きを置くかは人それぞれですから。


近大マンゴーとお米はむいたほうがいいのか


近大広報:近畿大学では学生たちが実習の一環でいろいろな農作物を作っているので、その中から今回は近大マンゴー「愛紅(あいこう)」とお米をお持ちしました。安藤さんならこれもむかずにいけますか。

せっかく学生さんが作ったんだからむきましょうよ。



近大広報:いいんですかそれで。

米谷先生とむかない安藤
いつの間にか目の前に米が出てきていました。

そういえばかつて稲穂をむかずに食べていました。

わかりました、プライドにかけてむかずにいきましょう。先生もどうですか、一緒に。


いいですよ。お米なんかは玄米の方がビタミンが豊富だったりしますからね。


でも先生これ、精米どころかもみ殻すら外していないですよ。


むいていない米
米というか稲ですね。

米谷先生とむかない安藤
「ボリッ」むかない米谷が生まれた瞬間である。

お米のでんぷんは水を入れて炊くことで消化吸収しやすくなるんですけどね。でもこのまま食べてみても、わりといけなくはないですね。僕なんかはこれでもいいです。

先生、むかない米谷としてやっていけますね。



そこは安藤さんに任せます。でも玄米もシリアルなんかに入ってるのと似てますから。ちょっと糠くさいけど、こういうものだと思えばいけなくもないですね。

玄米
玄米。

玄米を食べるむかない安藤
こんな風に玄米を食べている人はあまり見たことがない。

稲穂から比べると玄米なんて普通すぎて歯ごたえがないくらいですね。


普通に美味しいですね。



近大広報:念のため精米した白米を炊いたものも用意していますので、どちらが美味しいか食べ比べてみてください。

炊いた白米
どう見ても美味しそうですが。

白米を食べるむかない安藤
いただきます!

美味いです。



だんぜんこっちの方がいいですね。



近大広報:近大マンゴーはどうでしょうか?

1個1万円のマンゴー
千疋屋総本店などで1個1万円以上で売られているという近大マンゴー。見るからに美味しそう(むけば)。

マンゴーはウルシ科の果物ですからね。これはさすがにむかないとやばいんではないでしょうか。


※マンゴー:ウルシ科マンゴー属の果実であるマンゴーには、うるしアレルギーの原因となる「ウルシオール」に似た成分が含まれているため、アレルギー反応が起こる場合がある

まあ、過去にはすでにやっているんですけどね。

せっかくだからむかずにいきましょうか。



え?



興味はありますよね、むかないとどういう味がするのかって。



渋いですよ、みるからに。



むいていないマンゴーを食べる米谷先生とむかない安藤
むかずにいきました。

なるほど。



美味しいけど、やっぱり皮の渋みというか苦みがほのかに残りますね。



米谷先生とむかない安藤
これはむきたい……

うん。中身の美味しさにごまかされてる気がするけど、やっぱりむきたいですね。


そもそもマンゴーなんかの皮は毒なんじゃないんですか。



ウルシ科の植物は人によってアレルギーが起こる可能性があります。パイナップルとかキウイなんかも、皮の近くにタンパク質分解酵素がありますね。あれは自分がやられたときにやり返すための武器として備えているんじゃないかなと思うんです。一度やられたら二度と食べられないように、嫌な味をつけておくんですね。

やはり嫌な味がするということは食べるなという信号、ということですね。


果物からの「食べられたくない!」という意思表明なのかもしれないですね。



美味しい、とはどういうことか


マンゴーを食べるむかない安藤
だってむくとこんなに美味しいんだから。

ところで「美味しい」ってどういうことだと思います?たとえば高甘味度の甘味料(エネルギーが0の物)と砂糖とで、同じ味と甘さの飲み物を作ったとしますよね。これをネズミに飲ますと、ちゃんと砂糖の方を選ぶんです。なんでだと思いますか?同じ甘さで同じ味なのにですよ。

今までの流れだと、本能的に体に良い方をかぎ分けるんでしょうか。



まあそんな感じですね。考えられる理由としては、砂糖の方がエネルギーになるからです。つまり生きるために選んでいるんですね。油が美味しいのもそういうことです。カロリーが高い方が生きるために有利である、だから美味しい。

逆に言うと不味いということは生きるために不利ということですか。



全体的に見るとそういうことが多いですね。自身にとってプラスになるものを体が自然と選んで求めているわけです。


体すげえ。



自然は本当にすごいんです。



体に良いものは美味しい、っていう学びはむかずに食べる私の活動にとって大きな転換点のような気がします。むかない安藤は生きるのに損をしているのではないかと。

むかない安藤
これからのことを考え直す必要がありますね。

でもまあ長いスパンで考えると、種として生き残るためにみんなと違ったものも食べるのはいいことですよ。そこに多様性が生まれますからね。人間は農業を始めて定住することができるようになりましたが、それと引き換えに狩猟時代に比べて食べるもののバリエーションは減ってしまったとも思うんです。

米谷先生
だからあなたはそのままでいいと思いますよ(面白いし)。

むかない安藤は種として多様性を秘めている、だから生き残るかもしれない、と。


あともしかしたらフードロスの問題解決のカギにもなり得るかもしれないですね。だってむかずにぜんぶ食べるとゴミがでないですから。今まで当たり前に捨てていた部分が実は美味しいとか、体にいいとかになれば、それはいいことだと思いますね。

ちょっとだけ自信が湧いてきました。



よかったです。でも火は使った方がいい気がしますよ。たとえばほうれん草なんかはシュウ酸っていう成分が含まれていて本来渋いんです。でも湯通しするとシュウ酸は減るんですね。結果、人間にも食べやすくなる。

確かに火を通せばだいたいの問題は解決するような気がします。

肝に銘じます。今まで勢いだけで生きてきたんですが、先生に相談して本当によかったです。大人になるとこうやって学ぶ機会が減ってしまいますが、知りたいことについて詳しい人に聞くのって本当に面白いですよね。また大学で学び直したくなりました。僕の活動もこのまま続けていいんだと自信を持てましたし。先生、今日は本当にありがとうございました。

あ、自信もっちゃいましたか(まあいいや)。これからもぜひむかずに頑張ってください。


米谷先生、ありがとうございました!




(終わり)


この記事を書いた人



むかない安藤

愛知県出身。おもしろ情報サイト「デイリーポータルZ」の動画コーナー「プープーテレビ」にて2012年ごろからものをむかずに食べる活動を続ける安藤昌教のソロユニット。これまでにむかずに食べた食材は300種類以上。野菜と果物はほぼ制覇している。好きなお土産はういろう。


企画・編集:人間編集部

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