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雑学・コラム

2019.07.12

100年後には1粒1万円!? 未来の子孫のため「令和元年の梅干し」を作りに和歌山へ行ってきた

Kindai Picks編集部

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日本伝統の保存食「梅干し」。塩分濃度が高くて酸っぱーい昔ながらの梅干しは、何十年も……何百年も保存ができて、しかも高額で取引されているということをご存知でしょうか!? しかも新しい元号「令和」は、万葉集の梅にちなんだ章から名付けられたとあって、2019年につくる梅干しはなんだか縁起が良い予感!

和歌山県・有田郡湯浅町にある近畿大学附属農場で、梅の高級品種「南高梅」を採取して、100年後に価値が出そうな「令和元年の梅干し」を仕込みました。梅干し好きな人も苦手な人も、未来の資産として、梅干しを作ってみたくなるかも!?

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時は令和元年!世の中が新元号となって2ヶ月が過ぎました。



『Kindai Picks』読者のみなさん、はじめまして。東京でライターをしている亀沢郁奈と申します。いきなり梅を両手に持った登場ですみません。

私はいま、和歌山県にある近畿大学の湯浅農場で梅を収穫しているところです。

どうして梅を収穫しているかって??
それには重要な理由がありまして……。

昭和後半に生まれ、平成を生きた私がその次の元号を迎えるころには、仕事で成功をおさめ、家のひとつも所有できているはず……と、なんとなく思っていました。

しかし実際に令和を生きている現在の私は、相変わらずのその日ぐらし。

果たして自分はまだ見ぬ子や孫に財産を残してやれるんだろうか……と考えを巡らせていたとき、こんなことを知りました。

古い梅干しが高値で取引されていることを!



ちなみに『こちら葛飾区亀有公園前派出所』(こち亀)の81巻に収録されている「両津家130年の味!?の巻」では、ご先祖様がつけた文久2年(1862)の梅干しが1粒1万円とプレミアがついていました。

いいよなァ……先祖がたまたま梅干しを食べずに保存していてくれて。おかげで売れば大金になるなんてさァ……って、待て待てぇ!

それ私にもできるヤツ〜〜〜〜!!!
私も100年先まで残る梅干しを作って、まだ見ぬ子孫に財産を残してあげたい〜〜!!



そもそも長期保存された梅干しの味って?


「梅干しを作って子孫に残そう!」そう思いついたものの、果たしてそう簡単にいくのでしょうか?

なにかすごく特殊な技術や条件が必要なの?そもそも長期保存された梅干しとは一体どんな味なんだろう?

純粋に食べてみたーい!!

と、インターネットで検索したところ目についたのは、和歌山県はみなべ町に本社をかまえる「井上梅干食品株式会社」さんが販売する27年前の梅干し。銀座に店舗があるというので、どんなものなのか試食しに行きました。


年月を経て、梅干しには大きな塩の結晶が!

見せていただいた27年モノの梅干しには、長い年月をかけて結晶化した直径5ミリほどもある岩塩がゴロン!とくっついています。梅自体は若干乾燥し黒ずんでいるものの、見た目はどこからどう見ても梅干しです。

なんとお値段800gで13,370円!!!


左が27年前の梅干し、右が3年前の梅干し。色が全然違う!

店内で試食させてもらいました。


ショッパい!けど……

めちゃくちゃおいしい!

27年モノの梅干しは、塩分濃度は20%前後とのこと。そもそも昔はこれくらいの塩辛さが普通で、畑仕事などでよく汗をかいた庶民の塩分補給手段だったよう。店で人気だという塩分8%の梅干しも試食させてもらいましたが、逆に「甘すぎる」と感じました。


梅干しは古くから縁起物


どうして「27年前」の梅干しなのだろう。お店の方彼の口から重要なキーワードが。

「『壬申(みずのえさる)』の梅干しがハイパー縁起物なんです」。

そもそも古くから申(さる)年は「天変地異が起こりやすい」年であったそう。深刻な雨不足による干ばつが起きて申年の梅は貴重品だった。そしてその梅干しが飢餓や疫病の薬の役割も果たしたことから、申年の梅は『縁起が良い』とされるようになっていったそう。

さらに『壬(みずのえ)』も縁起が良い。その2つが合わさった『壬申の年』の梅干しは、現代も超縁起モノとして有り難がられています。27年前の平成4年こそがその壬申の年だったため、いつもより多めに梅干しを仕込んだというワケ。

なんですかその面白い話は。それはもう壬申に作るっきゃないではないか。次の壬申の年はいつですか、再来年ですか?

えっ2052年!?


『令和元年』に見えたかすかな希望


33年後ではさすがに企画倒れ……と、意気消沈する私。しかし井上さんは「今年の梅もとっても縁起がいいんですよ」と微笑み。新元号「令和」の由来が『万葉集』に起因していることはよくニュースで見ましたよね。

その「令和」という言葉が登場するのが、万葉集の数ある章のうち「うめのはな」という章なんですって。

というわけで「梅にちなんだ新元号元年の梅干し」。こ、これは……壬申に匹敵する絶好の梅干し作りタイミングな気がしてきた!

再びやる気がわいてきたぞ〜。こうなったら行くしかない。梅王国・和歌山へ!


近畿大学の農場で令和元年の梅を収穫しよう!



と、いうわけで冒頭の写真なのです。

日本有数の梅の産地である和歌山県。温暖な気候のおかげで、古くから梅の栽培がさかんです。

近畿大学では、有田郡湯浅町にある附属農場で梅を栽培しています。


研究所としても有名なこの農場では毎年、近畿大学農学部の3年生が実習を行うそう

6月初旬「学生さんたちの梅の収穫をお手伝い」という名目で、湯浅農場にやってきました。お手伝いに乗じて、収穫した梅を分けてもらう予定。


さらに、あわよくば先生方に梅干し作りのコツをうかがおうという魂胆なのです……。張り切って収穫しよう!

梅を収穫しながら、農場で講師をつとめる先生にお話をうかがいました。



伊藤仁久(いとう きみひさ)
近畿大学附属農場 湯浅農場講師、博士(薬学)(近畿大学)、薬剤師
昭和57年(1982年)東大阪生まれ、奈良県出身。近畿大学大学院薬学研究科 博士後期課程修了、近畿大学薬学部の博士研究員やアメリカ留学を経て、2013年より近畿大学附属農場へ赴任。未利用農産資源、いわゆる廃棄される農産植物資源に着目し、柑橘をはじめマンゴーなどの熱帯果樹の生産に付加価値を与える機能性を見出す研究に従事。


学生や先生たちが、一つひとつ丁寧に手で収穫していきます。

ここではどんな梅が栽培されているんですか?



県内でも最高級品とされる「南高梅」です。大粒なのに種が小さく、果肉が柔らかいという特徴があります。大粒で質の良い梅を作るために栽培には人の手が必要不可欠なんです。

大変なんですね……!今日収穫する梅は、持って帰れるんですか?



いえ、今日収穫した梅は梅酒などの加工品に使われます。梅干しに使うのは完熟の梅。それも、熟して勝手に木から落ちた実だけが梅干し用になるんです。皮が柔らかく、いい梅干しができるので。


人の手で大切に育てられた梅……それだけでも大変な価値!

梅って果物として食べられないんですか?



青梅には『アミグダリン』という成分が含まれていてたくさん食べると体に毒なんです。時間をおくと無害になるんですが。


じゃあ、梅酒や梅干しは梅を安全に食べるための知恵でもあるんですね。



そうですね。ちなみに梅干しの長期保存が可能なのは『クエン酸』と『塩分』のおかげ。食欲増進や疲労回復、これからの時期は汗をかくのでミネラル補給にもなります。


爽やかでいい香り!生では食べられないのが嘘みたい!


先生に聞いたベストな梅干しの作り方は……じつは「適当」!?




この日どうしてもおさえておきたかったポイントは大きく2つ。

・100年保存するために、塩分濃度は何%が最適なのか
・どういう状態で保存するのが最適なのか


塩分濃度は結局何%で漬けるのがいいんでしょう?



20%くらいがいいんじゃないですか?15%くらいでもいいのかもしれないけど。昔からだいたい20%くらいのもんですよね、だいたい15〜20%の塩分濃度を守って作れば腐敗するようなことはほぼありませんから。……。

どういう状態で保存するのが最適なんですか?



100年以上残っているものも、木の蓋が乗っていた程度なので、別に密封じゃなくてもいいと思いますよ。。昔から直射日光が当たらない冷暗所に置かれていたものですので、そこに気をつければいいんじゃないでしょうか?



あれ……意外と適当……??

でも、今考えてみれば梅干しって「化学」という概念が成り立つもっと古い時代からあった食べ物。最低限のポイントさえ守って入れば、なんとかなるものなのかもしれないな〜。

「100年残せる梅干しづくりのポイント」をまとめると……

・塩分濃度は15〜25%くらいを目安に
・保存は直射日光を避け、密閉はそこまで神経質にならなくてOK。
・最後、天日干しをして水分をしっかり抜く(腐るのは水分のせい)


ちなみに毎年梅を漬けている我が祖父に言わせれば「そんなもん常識」だそう。私はいささかキッチリとした作り方を意識しすぎていたのかもしれない……!


室町時代の梅干し!?超ヴィンテージな梅干しも味見した


せっかく和歌山に来たので、めちゃくちゃ古い梅干しの持ち主にもお話をうかがいました。


株式会社東農園の会長・東善彦さん。

なんと、100年前の梅干しを所有していて、今回特別に見せてくれるのだそう!

やった〜〜〜!!!

1834年創業だという東農園は、地元でも指折りの企業。応接室にはたくさんの自社商品が並んでいました。



ひゃ、100年前の梅干しじゃん!!
めちゃくちゃ無造作に置かれてるーーーー!!!


しかも100年前どころか、一番古いものは1534年前のもの。

室町時代!!!

ということは……485年モノ!!?

干してあるとはいえ、もとは果実。そんなに長く原型をとどめておけるものでしょうか??おそるおそる蓋を開けてみると……



んっ……石?????

黒ずんだ表面に白く塩がこびりつき、言われなければ梅干しと分かりにくい。しかし朽ちることなく、ちゃんと腐らずに存在していることが判明!


ちなみに香りはえもいわれぬ香り!

古い梅干しは嗅ぎ慣れた梅干しの香りではありませんでした。黒砂糖のような、コーヒーのようなほのかな甘い香ばしさ。でも決して嫌な匂いではありません。


「まあ、薬みたいなもんです」と古い梅干しを指して東会長。

特別に、戦後間もないころの梅干しの塩を舐めさせてもらいました。


水分が抜け、塩が大量に出てきている!

「薬みたいなもの」とは言い得て妙、本当に健康食品とか、漢方薬のような味わいです。梅と塩が混ざり合って「梅でも塩でもない何か」に変化していました。「梅干しとしておいしいか」と問われたら返答に困るけれど、味わい深い。

1000年あるいは2000年後、梅と塩は完全に融合して天然の梅塩になるのでしょうか??あるいは今まだ地球上に存在しない別の何かへと変化していくのでしょうか?

遠い未来、環境の変化とかで未知の病気が流行して、この「薬のような梅干し」が救世主になる可能性が……あるのでは……!?

だったらなおのこと、梅干しを仕込むしかない!!待ってて未来の子孫たち〜!


塩漬け→放置→天日干しで完成!令和元年の「ありがたい梅干し」




いよいよ梅干しづくり!近畿大学附属農場から届いたのは2kgの完熟梅。
遠くからでも香るあま〜〜〜い香り。

20%の塩分で漬けるため、2kgの梅に対して400gの塩を用意します。


南高梅の完熟梅はびっくりするほど皮が柔らかいので、取扱注意!

梅は皮を破かないよう水で洗い、腐敗しないよう水分を念入りに拭き取ります。ヘタがあるものは楊枝などで取り除いて……細かい作業が好きな人は楽しい工程です。

あとは梅と塩を絡めるだけ!


ネットで調べたら、塩を絡める際に、水分が残りやすいヘタの部分に塩を押し込んでおくといらしいので実行。

2kgなど少量の梅干しを作るときに、漬け樽や漬物石を買うのもな……。。それにちゃんと梅酢があがるか、いちいち蓋を開けて確認するのも面倒だし……。と思っていたら、知人から「チャックつきのフリーザーバックで作れるよ〜」と教わりました。

フリーザーバックで梅干しができるなんて、めちゃくちゃ便利!


フリーザーバックに梅と塩を入れ、全体に塩が回るように振りながら絡め、空気を抜くように袋の口を閉じたら完成とのこと!

1〜3日で、塩分によって梅の実から水分がたっぷり出てきました。これが「梅酢」。梅酢が出てきたら、梅が常に梅酢に浸かるようフリーザーバックの空気を抜いて、梅と同じくらいの重さの重石を置いておくんですって。。

重石はペットボトルでもタウンページでもなんでもOKでした。平べったくできるので、重石が置きやすいのもフリーザーバックのメリットですね。その状態で台所の棚に放置しておきました。。

ひと月程度漬け込んでおき、梅雨が明けてよく晴れた日が3日ほど続くときに、梅のみをザルなどに出して天日干しを最後に行います。これが梅干しの保存性を上げるんですって。まんべんなく水分が抜けるよう、ときたま梅を裏返すのがポイント。

天日干しは3日連続でなくても、トータルで3日程度干せたらそれで大丈夫だとか。


仕事の合間にちょこちょこ面倒をみながら作りあげた梅干しは、生き物みたいに愛着が……!!

できあがった梅干しは、完全に見た目重視で買ってきた壺に梅酢ごと収めました。日数はかかるけどほとんど放っておくだけなので、梅干しづくりって意外と簡単じゃないですか!

未来の子孫に残すために、自分は食べ過ぎないようにしなきゃ……。


終わりに〜まだ見ぬ子孫へ〜



梅干し壺は新聞で包んで頑丈に梱包。タイムカプセルならぬタイム梅干し壺

未来の子孫に対して自分は何を伝えたいんだろう?そう考えてみたときに、まず思ったのは「100年後の世界はどんな感じ?私も見たかった!うらやましいよ!」ということ。その次には「私ってどんなご先祖だった?歴史に名を残した?あなたは私を誇りに思ってる?」

う〜ん、自分のことばっかりですね……!

もちろん「元気ですか?あなたのことを思っていますよ」という内容も手紙に記しましたが、いかんせんまだ影も形もない子孫のこと。ひとまずはこんなもんかしら?

でもあくまでも、今回のこれは「私が作った最初の梅干し」。今回の取材で知った壬申の年や、おそらくもう一度は体験できるであろう新年号。それからこの先おとずれる我が家の記念年にも、私は梅干しを作り続けようと決めたのです。たとえば子供が生まれた年とか!?(予定はないけど)

そのときに私はきっとまた違う想いで、未来の子孫へ手紙を書くでしょう。


便箋5枚も書いてしまった子孫への手紙。家系図も入れたいので今度帰省したら祖父母にきいてみよう

戦争と発展の昭和、激動の平成……令和は一体どんな時代になるのでしょうか。一筋縄ではいかない気がするなあ。ヒシヒシと。

厳しい時代を過ごしているかもしれない子孫に、少しでも何かを残してやれたら嬉しい。経済的な力になれたら最高だけど、「想いを残す」ということだってできるはず。私は少なくとも今回、「おいしい梅干しを食べさせてやれる」ことだけは確定できた気がする。

「子孫に残せる財産が何もない!」と嘆くそこのアナタ。これから築き上げればいいんです!大丈夫、きっとできます!でも……オマケに梅干しも作っておけばバッチリなんじゃあないでしょうか!


(終わり)


ライタープロフィール
亀沢郁奈(かめざわ いくな)
鳥取県出身。東京都在住。旅と大相撲とロックが好きです。1年の半分は家にいません。最近のブームは中国です。
twitter:@ikunofuji



※この記事は、2月7日に渋谷・LOFT9Shibuyaで行われた次世代ライター企画プレゼンイベント「ENTER」で獲得した企画です。

写真:古賀亮平
企画・編集:人間編集部

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