2019.03.29
【クレイジージャーニー出演】植物探検家・長谷圭祐を魅了する「ジメジメ系植物」の世界
- Kindai Picks編集部
11469 View
先日、自生地でジメジメ系の植物をハントする活動が『クレイジージャーニー』に取り上げられ、話題となった近大OBの長谷圭祐さん。植物とは全く無縁の経営学部・商学科を卒業した彼が、いかにして熱帯雨林のキーパーソンになったのか。幼少期から現在に至るまでの話を伺いました。
この記事をシェア
突然ですが、みなさん。植物はお好きですか?
個体によって変わる独特なフォルムと、葉の形状、美しい花に力強い幹……。植物って魅力をあげればキリがないほど、神秘的な存在なんですよ。
いわゆるバラやクレマチスなどの園芸植物も素敵ですが、国内の山林や海外の自生地からやってきた珍しい植物たちって本当にカッコイイんですよね。
これは我が家の「ユーフォルビア・ネリーフォリア」。名前もかっこいいし、トゲトゲで、ウネウネで、モリモリで渋くないですか?
とはいえ、珍しい植物や新種の植物といっても、一目でわかる派手なものばかりではないんです。
例えば……
コチラの植物。一見道端で見かけそうなビジュアルですが……インドネシアの熱帯雨林で見つけられた新種の植物なんです。冒頭で紹介した植物と比べると、パッと見の華やかさにかける植物かもしれません。そんな日陰の植物たちが、マニアの間で注目を集め始めているのです。
でも「一見派手さに欠ける植物って興味が湧きづらい!」と、お思いの方も多いはず。
そこで、今回は……!
近畿大学在学中である20歳の頃に単身で熱帯雨林に飛び込み、当時は幻と言われていた植物などを発見。それを機に、植物探検家として活躍。更には『クレイジージャーニー 』にも出演し、熱帯雨林の林床に生育するジメジメ系植物の第一人者として話題となった、長谷圭祐さんに話を伺いました。
長谷 圭祐(はせ けいすけ)
1991年大阪府枚方市生まれの植物探検家。2015年近畿大学経営学部商学科卒。幼少期から生き物を愛し、20歳で単身インドネシアに渡航。日本にしばらく流通していなかったサトイモ科植物を採集し、植物探検家としてのキャリアをスタート。植物マニアが集う直売イベント「BORDER BREAK」の主催、『BRUTUS』『趣味の園芸』など雑誌への寄稿、MBSの『クレイジージャーニー』に出演……と、活動は多岐にわたる。
熱帯雨林に自生する、地味な植物「ジメジメ系」とは……?
まず、長谷さんが扱う「ジメジメ系」について教えてもらってもいいですか?
「ジメジメ系」というのは、僕らが扱う植物のふわっとした総称で。詳しく説明すると、熱帯雨林の川沿いや林床に自生する植物のことです。一般的な言葉ではないんですけどね。
具体的にはどういう植物なんでしょうか?
うーん、一般的には地味な植物ですかね……。僕が追いかけ続けている※ホマロメナもジメジメ系の仲間です。
※熱帯原産のサトイモ科の植物
長谷さんが1年前に見つけたホマロメナの新種。自生地はインドネシア。
確かに、地味……。
あまり、一般の人には馴染みがないジャンルなんですよね。熱帯雨林の植物って。だから、「ジメジメ系」くらいの表現がちょうどいいんです。
そもそも、植物探検家っていう仕事がどういう仕事なのか、イメージがつかない方も多いと思うんです。
僕らの仕事は、海外の自生地に行って、珍しい植物や新種の植物を見つけて持ち帰る。その植物(親株)から子株を分けたり、実生(草木が種から芽を出して生長すること)させたりして、研究をお手伝いしたり、販売することで生計を立てていて。
ズバリ、儲かる仕事なんでしょうか?
極端に儲かる仕事というわけではないですね。普通に暮らしていけるレベルくらいですかね……。
ジメジメ系植物の生育環境はさまざまだが、長谷さんが扱うジャンルは水槽で育てる品種がほとんど。
でも、好きなことをして普通に暮らせるっていうのは夢がありますね。ちなみに、長谷さんのような活動をしていらっしゃる方はどのくらいいるんでしょうか?
具体的な数字はわからないのですが、かなり少ないと思います。
確かに、小学校の卒業文集の将来の夢を書くところでも見たことないし、普通に生きていて出会わないわけだ。
まぁ、普通に生活していて出会う職業ではないですよね。ただ、本当に奥が深いし楽しい仕事なんです。
生き物に魅了されたどり着いた「植物探検家」という名の秘境
そもそも、植物に興味を持ったキッカケはなんだったんですか?
僕、地元が枚方なんですけど、近所に小さい里山があって。そこでいろんな種類のカブトムシやクワガタが獲れたんですよ。で、生き物っておもしろいなぁ〜となっていって。
昆虫好きな一面も持つ長谷さん。気に入った昆虫の標本を見つけたら購入するそう。
普通の流れだと、幼少期の昆虫ブームって一過性。大人になるにつれて、しだいに昆虫離れしていきますよね。
それが、むしろ飛躍した。生育環境にも興味が湧いて、「クヌギの盆栽と一緒にクワガタを育ててみたい」とか、植物と一緒に育てられたらいいなって。そこから派生して、熱帯魚と水草の組み合わせにのめり込むようになって。
なるほど。周りの友人は、サッカーや野球に精を出しているときに、水草と魚に夢中だった、と。
いちおう僕も、人並みにスポーツもやってはいたんです。でもやっぱり、自然と生き物が好きだった。だから、どちらも両立するというカタチで。
で、近畿大学経営学部・商学科への進学を選ぶ。
そうなんです。高校を卒業する頃には、植物探検家になることも決めていたし、農学部や造園を学ぶことも考えたんですよ。でも、採集・生育・販売をやるには商いを学ぶべきだなぁ、と。それに、もし夢が潰えたとしても代わりが利くかもって。
高校生とは思えない計画性。実際入学して、どうでしたか?
薬草研究会っていう、すごく地味なクラブに入って。毎日のように薬草を勉強する日々が待っていました。採集した薬草は、干して、炒って、お茶にする。それをしかも無料で配るという……。
ぜんぜん、商業的じゃない。
そうなんですよ。別に商業的にやりたかったわけではないし、すごく、楽しかったんですが、そのサークルは2年になる前のタイミングで辞めて。
ようやく、商学の勉強に本腰を入れたわけですね。
いや、2年になった7月に、インドネシアのスラウェシ島に3週間行くことにしたんです。
インドネシア……スラウェシ島……。
水槽で生育する植物は、毎日こまめにチェック。些細な変化も見逃さない。
当時、お世話になっていた人と「とあるホマロメナが日本に全然流通していない」という話をしていて、どうせ海外に行くなら目的があったほうがいいし「見つけてきます」と、啖呵を切ったんです。
なるほど。現地に行くということは、当時から同定力というか、目がある※ということですよね。
※目がある:植物や生物の世界において、品種の同定や発見する力有する人物を指す言葉。
ホマロメナだけでなく、ジメジメ系植物には図鑑がなくて、そういう括りでの専門家もいないんです。だから、知識は全て独学なんですよね。ただ、独学ゆえに体に染み付いたといいますか。
いきなりの海外、しかも見知らぬ土地。ビビったりしなかったんですか?
英語も全くしゃべれないし、現地の知識も皆無だったので、正直怖かったです。でも、何も見つけないままでは帰れないって思って、3週間死に物狂いで熱帯雨林を駆け回って、目的のホマロメナを見つけることができたんです。
おお。
水槽には、長谷さんが発見した新種のホマロメナが所狭しと。
その旅では他にも前々から見たかった植物や、幻と言われていた植物なんかもいろいろと見ることが出来て、これならまだまだ新しいものを発見する余地もあるんじゃないかと。
なんだか、ロマンがありますね。今、聞いている僕ですら、ワクワクしてます。
その衝撃が大きすぎて、やりたいこともいろいろと出来たので、帰国後に1年間休学をすることにしました。
やると決めたら即行動。行動力が夢への道しるべに
結局商業の勉強をしていないし、極端すぎる。でも、そんな体験をしたら仕方ないか……。
知り合いの熱帯魚屋の空いた倉庫を借りて、植物の販売を始めました。近大的に言うならば、実学ですよね。
商売と学業の両立をされた、と。
でも、1年経って、「せっかく入学したのに、休んでばかりはいられない」と思い、復学して卒業しました。しばらくは商売も両立していたので大変でしたが、ためになりそうな授業は積極的に履修したり、結構充実していたように思います。
なるほど。
大学時代から活動をしていた甲斐もあって、現地に仲間ができたり、植物業界にもたくさん知り合いが増えて、卒業する頃には植物探検家として十分な土壌ができあがっていました。
学生時代から動いた人にしか手にし得ない強みですね。
ちなみに、植物の即売イベント「BORDER BREAK!!(ボーダーブレイク)」も大学在学中に始めたイベントです。
長谷さんが主催するボーダーブレイクには、多様なジャンルの植物が。
植物玄人たちが行列を作るイベントを、大学生が始めたと思うと末恐ろしい。
あのイベントは、別の人が別の形で、もっと小規模にやっていたんですけど、その人が東京に移住しちゃって。「長谷、俺の代わりになんかしてや」と、なったのが始まりで。
ボーダーブレイクはそんな珍しい植物を求めて、長蛇の列ができるほどの一大イベント。
長谷さんがボーダーブレイクを始めた頃って、いわゆる植物系のイベントは「食虫植物」とか「多肉植物」みたいなテーマで区切られていたイメージがあって。それを崩して、ジャンル別の人が集まる感じが新鮮でした。
まさに、それが目的でした。縛りに囚われず、いいものを自由に販売する会にしたかったんですよね。
地味だけど、かっこいい。唯一無二のホマロメナを求めて
「あ、ちょっと待ってもらっていいですか?」と、植物の世話に奔走。
現在の目標はあるんですか?
スマトラ島でホマロメナの新種をもう少し探して、全体像を把握したいです。もう、7〜8年間追い続けていますが。
片思い的な言い方……。
ペルー・コロンビア・マレーシア・サモア……。他にもいろんな国に行ったんですけど、一番テンションが上がる場所がインドネシアのスマトラ島で、ホマロメナの原産地なんです。
『クレイジージャーニー』の密着も、新種のホマロメナの採集が題材でしたよね。
そうなんですが、道中で見つけた、ドリナリア※とか、葉にトゲのあるナス科の植物とか、ヤマノイモ科のトゲトゲしいやつがフューチャーされてしまって。
※ドリナリア:ウラボシ科のシダ植物。土に自生する植物ではなく、生木や朽木に着生して育つ。葉の形状が2種あることが特徴。
長谷さんが訪れる土地には、ホマロメナだけでなく派手な品種が多く自生している。写真の植物は生木に着生するビカクシダ。
確かに、一見するとそっちの方がインパクトが強いですもんね。
で、番組内で見つけたホマロメナは、特に地味なビジュアルの新種だったという……。
……。
僕は、めちゃくちゃテンションが上がりましたけどね。
目的を達成したわけですもんね。ただ、他の植物と比べると派手さに欠けるのホマロメナ。なんというか……一見地味な植物に長谷さんが、ここまで魅了される理由っていったい……。
サトイモ科の一つのグループが、一つの島内であれほど変化に富むケースって他にほとんどないんです。
……というと?
同じグループにも関わらず、一山超えただけで葉の形状が変わってくるんです。
ほぼ環境が変わらないのに、そんなことってあるんですか?
他の植物でも、もちろん環境で変わってくることはあります。でも、ホマロメナほどダイナミックにトランスフォームする植物は見たことがない。しかも、そのどれもがカッコいい。
なんというか、社会学的。
もともとホマロメナのこのグループはほとんど閉鎖花※なので、花らしい花をつけない種類ではあるんですけど、日本に持ってくると全くと言っていいほど受粉しないし、種が出来なくって。そんな疑問を解決するために、自生地で見つけた花を開くと中からハエの蛹や幼虫が出てきた。
※閉鎖花:花冠の一部もしくは全体が開かず、自家受粉してしまう花のこと。
つまり、ハエと共生する空間として花が機能しているということでしょうか……?
そうなんです。ジメジメ系の植物には、アリと共生する植物なんかもあって。「なるほど、こいつもか」と、なったわけです。
ワクワクせざるを得ない展開。
そう、ワクワクするんですよ。だからずっと追いかけ続けても飽きない存在で。
水槽には、ホマロメナがズラリ。派手さはないけれど、そのどれもが新種。
めちゃくちゃ腑に落ちました。
ちなみに、発見した新種はどのくらいあるんですか?
ホマロメナだけでも、20〜30種くらいはあると思います。他も合わせると100種は超えると思います。
ちょっと待って。多すぎる。キャリア7年で100種って、年間約15種くらい新種を見つけているってことじゃないですか。
1LDKのマンションが植物の生育スペース兼住居。長谷さんの生活スペースより、植物の生育スペースの方が広い。
新種の発見が全てではありませんし、僕の場合はあくまでフィールドワーカーなので、学術的に論文が発表されて新種と認められた種となると数が限られてきますけどね。
認定されるには、どうすればいいんでしょうか?
生き物の新種を見つけて、それを世間に公表する場合って、記載論文を書く必要があるんです。さらに、タイプ標本を作ったり、学術誌で発表しなければいけない。
想像するだけで、めちゃくちゃ大変なのがわかります。
かなり手間が掛かる作業ですし、僕がしたいコトではないのでやっていなくて。本当に希少だと思ったり、現地の研究者に頼まれていたりする場合はサンプルを渡して、論文を書いてもらうこともありますけどね。
でも「星を見つけたら、名前をつけられる」みたいな話があるじゃないですか。僕が新種を発見したら論文を書いて、ロマンって名前つけちゃうと思う。
それは、業界のタブーなんですよ。やったらダサいって言われますよ。植物の発見者と論文の著者が別の場合はあるんですが、自分で記載する場合には自分の名前はつけちゃダメなんです。避けるべき暗黙の了解といいますか。
……なるほど。もし、何かの間違いで新種を発見したとしてもやめておきます。そもそも、他国の熱帯雨林で採集した外来種を日本に持ち込むことって可能なんでしょうか?
昔はかなりルールが曖昧だったのと、僕の場合は規模が小さいので、両国の空港の検疫で見せるだけですんなり輸入できたんです。でも今はだいぶルールが厳しくて。
たしかに、新種を簡単に持ち込めてしまったら、生態系がおかしくなりそう。
今は、どういった植物をどれだけ持ち帰るかを事前に申請をして、それに準じたモノと量だけ持ち帰れるという感じですね。
ちなみに、新種の場合の価格設定の基準は?
うーん……。「この植物にいくら出したいか」という顧客目線で価格設定をしていて。
わかりやすい。
そう言って、新種の鉢を見せてくれる長谷さん。
これは、かなりお気に入りのトッテアの新種なんですが、販売するのであれば、だいたい1万円くらいの値段かなと思っています。
新種なのに、買える値段……!
そうなんですよ。せっかく採集して、販売するわけですから。自分と同じ目線を持ったお客さんに届けたい。
プレ値がついて、結局お金持ちしか手に入れられないんじゃ金持ちの道楽になってしまいますもんね……。
新しいものを見つけた瞬間の感動はひとしおなんです。でも、それと同じくらい育てることの楽しさやジメジメ系の魅力をシェアできることの方が大切なんです。
いい人すぎる……。長谷さん、今日はありがとうございました!
やりぬけば実る。だからこそ、強力な推進力と愛する力を大切に
取材の最中、植物を手に取る姿は穏やかで、世話をする顔は常に真剣でした。大学に進学したのなら、勉強は大事なのかもしれない。周りの人と一緒に就職活動をすることが当たり前なのかもしれない。でも、なにより大事なコトは、好きなものを愛し、その想いを他者に伝えて継続することなんだと思います。
どんな夢であれ、きっと叶う。そう信じながら、退路を断って突き進んでみると、長谷さんのような素晴らしい人生が待っているかもしれませんよ。
(おわり)
取材・文:ロマン
写真:岡本佳樹
企画・編集:人間編集部
この記事をシェア