2019.03.29
NEM JAPAN 古賀大喜と『エンゲート』城戸幸一郎がブロックチェーン×スポーツを語る! 『ブロックチェーン101』レポート
- Kindai Picks編集部
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近畿大学にて一般社団法人NEM JAPAN主催の『第2回 ブロックチェーン101』が開催されました。前回に続き、同財団のカントリーリーダー・古賀大喜氏が登壇。ゲストにはエンゲート株式会社の代表取締役・城戸幸一郎氏を招き、スポーツチームや選手にギフティング(=投げ銭)を届けるサービスについて講演していただきました。トークセッションには近畿大学体育会水上競技部監督の山本貴司氏も加わり、ブロックチェーン技術を活用したスポーツ振興について語りました。
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一般社団法人NEM JAPAN Country Leader
1976年生まれ、福岡県出身。オーストラリア Swinburne University of Technology卒業。2003〜2016 adidas Japan 開発本部で働きながら、当時まだ認知度が低かったフットサルの普及活動を黎明期から行う。2016年に起業、2017年よりNEMブロックチェーン技術推進のためのMeetupなどを全国各地で開催し、2018年11月28日に一般社団法人NEM JAPANを設立。
エンゲート株式会社代表取締役。九州大学卒業。ソフトバンクで人事を担当後、楽天にて17年間勤務。全国の地方支社や海外事業の統括、フード&ドリンク事業部の執行役員を務める。テクノロジーの力で中央集権を「disrupt」するブロックチェーンの世界感に惹かれ起業。
近畿大学体育会水上競技部監督。3歳から『イトマンスイミングスクール』で水泳を始める。近畿大学附属高校から近畿大学へ進学。アトランタオリンピック、シドニーオリンピック、アテネオリンピックの3大会に連続出場。アテネでは200mバタフライ銀メダルと400mメドレーリレー銅メダルを獲得。
講演①「仮想通貨とは? ブロックチェーンとは?」
第一部は一般社団法人NEM JAPAN代表理事の古賀大喜氏による講演。今回初めて訪れた参加者に向けて、通貨の歴史から始まり「ブロックチェーンとは?」「NEMとは?」を解説しました。
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講演②「ブロックチェーン技術でスポーツ選手とファンの絆を作る」
城戸:今日は『エンゲート』という「ブロックチェーン×スポーツ」のサービスについて説明させていただこうと思います。私たちのサービスは、スポーツ選手の“良いプレイ”に対してファンの方が寄付をするというもの。今までは基本、拍手や歓声しかなかったと思うんですが、チームや選手に対してデジタル上で寄付、ギフティング(=投げ銭)をすることができるんです。これによってファンとチーム・選手が身近な存在になれるコミュニティを実現したいと考えています。
なぜこのサービスを始めようと思ったかというと、私の高校時代の親友がヨット競技で北京オリンピックに出場しまして。ヨットってめちゃくちゃお金がかかるスポーツなんですが、彼が7000万円集めなければいけないということで地元企業を駆けずり回ったり、僕たちもTシャツを買ったりして、何とか調達しまして。海外遠征に行けるようになり、オリンピック出場も果たしたんです。その時「彼は何とかなったけど、自分の夢を諦めているスポーツ選手がたくさんいる」と確信しました。プロアマ問わずスポーツをする方に少しでもお金が入ってきたら、スポーツに集中できる環境が整い、選手としてのキャリアを拓いていきやすいのではないかと思います。
『エンゲート』は初期費用や固定費が一切なく、TwitterやFacebookでページを作るように、気軽な感覚で始められるのが特長です。まずは銀行振込やクレジットカードでNEMを使った『エンゲートポイント』を買っていただく。それを使って「ナイスプレーに100円!」とか「歴史的勝利に1万円!」という感覚でギフティングします。なぜNEMのブロックチェーンを採用したかというと、簡単で手数料も安いから。『エンゲートポイント』を買ってギフティング、というところまでアプリケーションサーバ内で処理しまして、それをブロックチェーンに刻んでいるという形でサービスが設計されています。
Jリーグではすでに『名古屋グランパス』『湘南ベルマーレ』や日本女子サッカーリーグの『INAC神戸レオネッサ』と契約し、バスケは『横浜ビー・コルセアーズ』など数チーム、プロ野球も2チームがほぼ決まっています。プロだけでなく、大学チームなどのアマチュアチームにもどんどん活用していただきたい。これから近畿大学さんとも提携できたらと思っています。YouTubeと連携して動画配信などもできるようになっているので、たとえば大学チームの試合などを配信することで、東京にいるOBの方がギフティングしてくれたりだとか、ご家族やOBOGから支援の輪を広げていただければと思います。
『エンゲート』ではファンからのギフティングだけでなく、チーム側から『リワード(=報酬)』を発生させることもできます。たとえば先日『名古屋グランパス』さんは、試合の前日までに一番ギフティングしたトップ5の方に、試合前の選手との交流をリワードとして準備されました。『横浜ビー・コルセアーズ』さんが考えた面白いリワードが、「100万円ギフティングしてくれたらオープン戦の1日監督ができます」というもの。こういう風に、ファンの方は新しい楽しみ方、チームは新しい収益を得られる。今まで個人のファンは絶対にできなかったスポーツのマネジメント領域を『エンゲート』がマネタイズしていけるのではないかと。普通のファンには刺さらないけど、本当にコアな一部のファンには刺さる。1日でポンと10万円ギフティングされる方もいるような感じです。
『エンゲート』の一連のサービスで、プロ以前から自分の個人応援団ができて、現役中も、引退後も応援してもらえる。そんなコミュニティを実現することで、ひとりでも多くの人が「スポーツ選手になりたい」と思える世の中にしていきたいと考えています。
トークセッション「スポーツ選手が抱えるお金、ファン、引退についての課題」
最後に近畿大学体育会水上競技部監督の山本貴司氏も加わり、3名でトークセッションを行いました。
アスリートとお金
古賀:今日は実際にブロックチェーンを活用して起業されている城戸さん、アスリートを経験された山本さんのお話を聞ける非常に貴重な機会だと思います。まずは「アスリートとお金」というテーマから始めましょう。山本さん、お願いいたします。
山本:そうですね、僕が一緒にアテネオリンピックに出ていた北島康介選手くらいになれば変わってきますが、水泳で「年俸なんぼ」っていう選手は少ないですね。世界で3番までに入るとプロ宣言できるので、スポンサー契約で稼ぐ人もちらほら出てくるという印象です。プロになると、遠征や合宿の費用は全部個人で負担しないといけないんですよ。トレーナーとか連れて行きたいスタッフの費用も全部自分持ちですから。僕なんかはアマチュアなので、国のお金で行かせてもらっていたんですが、そういった意味ではプロになるメリットがそんなにない。スポーツを極めていこうとすると、お金はかかりますよね。
古賀:ご自分でスポンサーを探したりなど、お金に関する苦労はされましたか?
山本:親が一生懸命サポートしてくれたのと、JOCのプログラムで海外研鑽(けんさん)活動などのお金がついたりもしました。僕は対象に引っかかる選手だったのでまだ良かったですが、周りはそうじゃない選手がほとんどですから大変です。
古賀:それで思い出したんですが、僕は前職で「adidas Japan(アディダスジャパン)」にいて。ある日、確かボブスレーの選手だったと思うんですが、着るウェアがないということでメーカーに片っ端から電話をかけていて、うちの会社にもかかってきまして。開発サンプルなら送ることができたので、ボブスレーの選手がなぜかうちのサッカー仕様のダウンコートを着る、なんてこともありました。
城戸:私も仕事柄、いろんなスポーツ選手と話す機会が多いんですが、同じことをおっしゃる方が多いですね。才能にあふれた一部の人は、JOCの強化選手になるとか、親が大金持ちだったら支援してもらうことができますが、恵まれない環境にいる人は夢を諦めてしまったり……。
古賀:選手のことを知るには基本、会場に行くしかないんですよね。この敷居がすごく高くて。チームを応援したくてもチケットを買うとか、グッズを買うくらいしか方法がない。『エンゲート』を使って、観に行けない時にも選手の活躍を見て、投げ銭ができたら素晴らしいなと思いますね。
城戸:このサービスを思いついたきっかけが実はもうひとつあって。羽生結弦選手が優勝したりすると、ファンの方が『くまのプーさん』を投げるじゃないですか。見たことあります? あれって多分、羽生選手はめちゃくちゃ困ってると思うんですよ。プーさんだらけになって……(笑)。児童養護施設などに寄付されているらしく、良い話ではあるんですが、プーさんを拾う人も雇わなきゃいけないですしね。デジタル上のギフティングであればかさばらないし、拾う必要もないし、ということで「これいけるんじゃないか?」と思いまして。
山本:ギフティングをどう使うかは、受け取った本人が決めたらいいですしね。
アスリートとファンコミュニティ
古賀:続いては「アスリートとファンコミュニティ」というテーマです。
山本:僕が現役の時、ファンの方との繋がりって、少なかったですね。こんな僕にもコアなファンがいて(笑)、北海道でトンカツ屋さんをやっているおばちゃんがいらっしゃったんですよ。合宿で北海道に行くと合宿所にトンカツを差し入れてくれる。日本選手権へ行くと東京まで応援に来てくれる。子どもが生まれた時は、おばちゃんが編んでくれたアンパンマンの人形を観客席からするするーっとひもで下ろしてくれて(笑)
山本:対して僕は、気持ちに応えられるよう記録を目指して泳ぐとか、レース後のインタビューで感謝の気持ちをコメントする程度。本当、ファンの方との繋がりってこれくらいが限界なんですよ。でも今日のお話を聞いて、ファンともっと繋がることができれば「応援されてるな」という感覚が強くなるし「もっと良いパフォーマンスを見せたいな」という気持ちにもなりますよね。僕は今指導する立場ですけど「ひとりでも多くファンをつけなあかんぞ」と選手に言っています。今日のお話なら、そういう環境を作っていけるんじゃないかなと。あと、僕は引退して10年経つんですけど、大概の人は選手のことを忘れていくわけです。でも引退後も絆を築いていけるなら、一選手の価値を現役当時と変わらないまま維持できたり、さらに高めることもできるのかもしれない。
城戸:ファンコミュニティって本当に重要で、日本は育成を重視しますけど、アメリカとかヨーロッパの概念だと、エンターテイメントの一部としてのスポーツなんで。どんな商売もお客さまがいて成り立つように、スポーツも感謝の気持ち、ファンを大事にする気持ちを若いうちから身につけると、選手として大成しやすくなると思います。『エンゲート』でどれだけファンを沸かせることができるか、というのもチームが選手を評価する時の項目に入れられたらと思うんです。「あまり上手くなくてもファンが沸く」っていう選手もいるんじゃないかな。またサッカーの話になりますけど昔、ゴン中山っていう選手がいて、上手いんですけど、めちゃくちゃ上手くはないと思うんですよ。
山本:でもファンは「この人、泥臭くてすごい好きや」ってなるんですね。
城戸:そうです、そうです。「それ絶対入るやろ」っていうシュートを外したりするんですけど、でも「ゴン中山だから」って応援しちゃうんですよね。技術だけじゃなくて、ファンを沸かせることができる選手。エンターテイメントの一部としてのスポーツという概念でいくと『エンゲート』で選手の新しい評価軸も作っていけるのではないかと考えたりしてますね。
引退後のキャリアについて
古賀:では、次のテーマに移りたいと思います。アスリートにとって悩みの種だと思いますが「引退後のキャリアについて」。
山本:僕は30歳まで現役だったんですよね。社会人として生きていく自信がまったくなくて、現役中も引退後が不安で仕方なかった。大学時代の同期は社会に出ていろんなことを学んで、たまに集まると成長した姿を見せてくるわけです。水泳しかやってなかった当時の彼らとは違うから、水泳のことしか知らない僕は焦るわけですよ。周りも、引退して社会人になるっていう時に苦戦している選手が本当に多いなと感じますね。そもそもスポーツだけしてたから勉強してない、就活してない。「引退してから就活を始めよう」と出遅れてしまったり、将来何になりたいかもはっきりしていなかったり。内定をもらった会社に何となく就職してすぐ辞めてしまう人もいてるし……。僕はカナダでトレーニングしていた時「ひょっとしたら指導者になるかもしれない」と思って「その勉強も同時にやっといたらええやん」と思ったんですね。カナダでやっていたことが今生かされているので、現役を続けながら次の自分を想像するっていうのが大事やなと感じますね。
城戸:スポーツ選手のセカンドキャリアってかなり重要な問題ですよね。『エンゲート』として「そこを何とかできる」という完璧な答えが出ているわけではないんですけど……少なくとも、ファンの方との絆を作っておくことによって引退後に何か始めた時、少しでも応援してもらえるとか、そのへんから始めていきたいなとは思っています。
古賀:ありがとうございました。それでは最後に、質疑応答に移りたいと思います。ご質問のある方は挙手をお願いします。
(挙手)
参加者1:『エンゲート』と契約できるスポーツチームの規模感を教えてください。僕は障害者スポーツをしている知り合いが多いんですが、彼らも金銭面で困っていると聞き、『エンゲート』を生かせたらいいなと思いまして。
城戸:ありがとうございます。ちょうど近日『日本パラリンピック委員会』と打ち合わせがあって。今後、障害者スポーツをされている方々にもぜひ使っていただきたいと思っています。
(挙手)
参加者2:『エンゲート』とスポーツ中継の放映権を持つ企業との、利害関係などを教えてください。
城戸:グッドクエスチョンですね、ありがとうございます。今のところ我々は放映権にはまったく関わっていなくて。今はJリーグやプロ野球の試合中、ファンがライブストリーミングすることは制限しています。たとえば試合の放映権をどこにも買われていないアマチュアチームの試合をファンがライブストリーミング、というのは可能なのですが……。あとは、あるケーブルテレビ局と組むことが決まっているので、試合を観ながらのギフティングをまずは実験してみようと考えています。
(挙手)
参加者3:たとえばギャンブルをする時など、追跡可能な通貨を使いたくないというシチュエーションもあるのではないでしょうか。僕は公務員なのですが、公金をNEMにするということができれば行政の透明化を図ることができるかと思いますが、いかがでしょうか。
古賀:ありがとうございます。行政のお話が出ましたので、たとえば税金のお話をしますと、現金だとレジで預かったお金を帳簿につけないなどの方法で脱税できるんですが、もしすべてが可視化されたら「脱税」という概念がなくなったり、お金の動きの透明化や効率化が進んだりすると思います。また、ブロックチェーンの特徴として「パブリックチェーン」と「プライベートチェーン」がありまして、一般の人たちにも公開されているものから、企業など一部に限られた形で公開されているものまであります。
藤田 綾子:エンゲート株式会社の藤田と申します。今のご質問に対して技術的な補足をさせていただくと、NEMのブロックチェーン上で「どのアカウントがどこに送金したのか」は追跡可能です。しかしそれは個人情報とは紐づいていないので、プライバシーは保護されます。NEMのトークンが動いた履歴は透明性をもって公開されていますが、持ち主と個人情報との紐づけは『エンゲート』のようなアプリケーション側にあるんです。履歴は見えても、持ち主の個人情報まで見えているわけではないということですね。
(挙手)
参加者4:技術やサービスを一般化させるために、取り組んでいることがあれば教えてください。
古賀:それが僕らのこれからの課題です。一般の方々にとってわかりやすいことがすごく大事で、たとえばブロックチェーンという切り口では理解に時間がかかってしまうところがありますが『エンゲート』さんなど、ブロックチェーン技術が使われているサービスが普及して、NEM自体の認知度が上がっていくことで「NEMという通貨も使ってみたい」という人が増えるチャンスがあるかなと感じています。
城戸:立ち上げて2か月弱のサービスなので、認知度はまだまだです。でも広告はあまり考えていなくて、たとえばチームのTwitterで告知していただくとか、ファンの方と一緒にサービスを作っていくことができればと思っています。スポーツチームのお役に立つことが何より一番効果があると思うので、どちらかというとチームのマーケティングを一緒にやっていくということを考えたりしています。
古賀:本日はありがとうございました。
(終わり)
文:山森佳奈子
編集:人間編集部
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