2018.11.29
「材料力学の最先端」からラジコンレースのトップを目指す、学生RCカードライバー
- Kindai Picks編集部
5378 View
日本各地のレースで活躍し、いまや「関西NO.1」という呼び声もあるラジコン(RC)カードライバー、坂東賢さん。ラジコン界は年齢・職業・性別不問、腕利きドライバーがしのぎを削る勝負の世界。車体や部品も日進月歩で新しくなり、転戦には資金も必要です。現役学生の坂東さんが日本トップレベルで走り続けられる、そのワケは? 和歌山のTMサーキットでお話を伺いました。
この記事をシェア
近畿大学生物理工学部 人間工学科3年生
1998年大阪生まれ。2016年に近畿大学生物理工学部人間工学科(現・人間環境デザイン工学科)に入学。全日本選手権の参戦レースは「1/10電動ツーリング・カー」。
ラジコンカーレースの全日本選手権は、海外ツアーで年間1000万円以上を稼ぐプロドライバーや、転戦資金も豊富な海外メーカーや外国人プロも参戦する世界。そんなRCカー界で、コースの分析、パーツやボディの加工、マシンセッティングなど、ラジコンにまつわるすべてをひとりで行い、学生でありながら日本トップを狙う坂東さん。さっそくお話を伺いましょう!
ベテランドライバーも認める坂東さんの才能
―― いきなりですが、坂東さん。なぜ普通の人より速いんですか?
なんででしょうね。ただラジコンが好きで、続けてきただけなんですけど……。そういえば、サーキットのオーナー※から「坂東くんはレース中、操縦台からコースと車を見下ろす視点と、運転席で車を操作する感覚を同時に使ってるよね」って言われたことがあります。
※サーキットのオーナー:冨田 和成(とみた かずしげ)氏。坂東さんが主戦場とするTMサーキット(和歌山県紀の川市)のオーナーで、日本トップレベルのラジコンドライバー。車体・パーツの開発にも携わる。
―― ラジコンに乗っている感覚もあるんですか?
ラジコンに乗っている位置から路面や他の車、レースの状況が見える感じです。子供のころ、車のオモチャで遊んでいるとき、運転なんてしたことないのに、運転席からの景色が見えて……(笑)
路面の光は水溜りではなく、コースの状態を良くするめに散布される「砂糖水」に含まれる「糖」のテカり。
―― ラジコンを始めたのはいつですか?
小学5年生のお正月です! 父親に入門モデルのラジコンセットを買ってもらいました。
―― 入門モデルって、いくらくらいするんですか?
車体とプロポ(ラジコンを動かすコントローラー)のセットで1万5千円くらいだったと思います。このときのラジコンは公園で遊び倒して、一年も経たないうちに壊したんですが、父が「直せるぞ」と、大阪の『チャンプ※』っていうショップに連れて行ってくれて。
※チャンプ:大阪と神奈川に店舗を有する、大型ラジコン専門店。RCカー本体やパーツ販売の他に、店舗でラジコンレースなども行われていて、連日ラジコンファンが多数集う。
―― お店に行くと、いろいろ欲しくなりそうですね。
そうなんです! パーツやグッズ、車体にしても数え切れないくらいあって……目移りしました。 あと、3階のコース場に行ったら、 たまたま同じ年の子供が2人いて、友達になったんです。コースに行けば彼らに会えるし、大人と混じって走るのも楽しかったしで、チャンプ漬け、ラジコン漬けになりました(笑)
「Aメイン」はドライバーの名誉
―― 坂東さんはプロドライバーではないんですか?
お金を稼いでいるわけではないので、プロではないですね。ただ、車体はヨコモ、その他のメカやセッティングパーツも企業から提供を受けています。
―― いつからそういった提供を受けるようになったんですか?
中学2年です。中2のとき、初めて全日本選手権に参加したんです。クラスは3つあるうち、スピード領域に制限のある「オープンクラス」だったんですが、7位に入賞できて。レースを見てくれたヨコモの方に声をかけてもらい、車体を提供していただくようになりました。それからは、製品を提供してくださるメーカーさんが、少しずつ増えています。
ものによっては0.1mm刻みでセッティングされるパーツ。組み合わせと調整の具合は無限にある。ただ、坂東さんによると、すべては「硬くするか、柔らくするか」が基準だという。
―― いま坂東さんが参加しているのは一番上のクラスですよね。
そうですね。中学3年のときに6位と結果が出たことで、全日本選手権を主催するJMRCA(Japan Model Radiocontrol Car Association)※に認められ、翌年、高校生になってからは「スーパーエキスパートクラス」で走れるようになりました。
※JMRCA:日本における、RCカー統括協会の通称。JMRCA主催の全日本選手権に出場するには、まず地区予選に出場し通過枠に入る成績を残す必要がある。その後、全日本選手権で上位入賞すると、翌年の大会では予選を免除されるシード選手として大会に出場できる。
―― 全日本のレースはどのような形式で行われるのでしょう。
予選と決勝に分かれていて、予選はタイムアタックですね。時間は5分間。ほかの車と一緒にコースを20周くらい走るんですが、ベストタイムを競うので、基本的には自分との勝負です。決勝も予選と同じ5分間のレースですが、こちらはシンプルに、先頭でゴールした人が勝ちです。
―― 決勝に進めるのは何人ですか?
10人です! 決勝レースは「Aメイン」って呼ばれるのですが、ここに入るとドライバーとして一目置かれます。
―― Aメインはドライバーの名誉なんですね。坂東さんの他にも、トップレベルの学生ドライバーが?
ほとんどいません。特に、ぼくが走る「スーパーエキスパートクラス」は、企業のワークスチームに所属していたり、海外ツアーを転戦してるプロだったり、海外メーカーのドライバーも参戦します。なのでAメインに入るのは大変で、今年は残念ながら11位でした。
▼坂東さんが走った2018年の全日本選手権大会
ラジコン生活にうってつけの生物理工学部
レース時は、一日に5~6回も交換されるタイヤ。走行前には必ず油を浸み込ませるそう。
―― 競争相手はプロや開発者……学生は不利じゃないですか?
いえ! 近畿大学でぼくが在籍している学部は、ラジコンのレベルアップにも役立つんです!
――それはどうして?
進学する大学を選ぶとき、ラジコンに関連する勉強ができそうだったので、工学系を学べる生物理工学部人間工学科(現人間環境デザイン工学科)を選んだのですが、今年から受けている材料力学・複合材料専門の野田淳二先生の講義が、すごくためになっていて。
―― どんな内容ですか?
先生は繊維系のコンポジット材料※を研究されていて、この素材はいずれラジコンのボディやパーツに使われるかもしれないので、お話に夢中になります。カーボン※などラジコンボディやパーツに使用されている素材についても、最先端の研究成果を教えて下さるので、それらを車体に応用できれば、もっと速くなれると思います! 野田先生はすごい方で、ラジコンの内部をパッと見ただけで、車体やパーツ、セッティングの改良点に気づいてしまうんです。
※コンポジット材料:複数の素材を使用して作られる強度の高い材料。複合材料ともいう。
※カーボン:炭素繊維。原料(アクリル繊維や石油、石炭、コールタールなどの副生成物)を高温で炭化することで生成される。ラジコンでは車体などに使用される。
―― 野田先生には、ラジコンマシンの開発に携わったご経験が?
経験はなくても、わかるそうです。「このパーツには無駄な穴が多い。埋めれば耐性が上がる」など、開発者でも気づけないような弱点を見抜き、アドバイスを下さいます。卒論も、先生のおかげで「カーボン」というテーマが見えてきました。大学の勉強がラジコンと直接つながって、毎日がすごく充実してます。
―― 近大に入学して、本当によかったですね。
はい! あと、ラジコン競技は荷物が多いのですが、和歌山キャンパスは車通学が認められているので、すごく助かっています! TMサーキットもキャンパスから近いんですよ。
ラジコンは「答えがない」から楽しい
理想的な走行ライン「レコードライン」をいかに読むかが、勝負の分かれ目。レコードラインはレース中に刻々と変化し、ドライバーによって見立てが異なるという。
―― ラジコンを始めたい人に、おすすめの入り口はありますか?
まずは、近場のサーキットを見学するのはどうでしょう? 僕のように入門マシンを買うのも手ですけど、とにかくコースに出てほしいです! コースで走らせるのは爽快だし、友達も出来て楽しいですよ。オーナーやドライバーは、みんなラジコン大好きなので、そのコースで走るマシンやセッティングを、めちゃくちゃ詳しく教えてくれるはず(笑)
あと、地元のラジコンショップでアドバイスをうけるのもオススメですね。車にもオンロード用やオフロード用があったり、4輪駆動・前輪駆動・後輪駆動でドライビングの感触が違ったり、船や飛行機のラジコンもあります! ショップに行けば「これ好き!」っていう1台が、きっと見つかりますよ。
―― 坂東さんにとってのラジコンの魅力、教えてください。
ラジコンって答えがなくって、そこが面白いんですよね。セッティングやドライビングだけじゃなく、マシンやパーツだってまだまだ改良できますし、レース当日の気候や路面の状態、他のドライバーの調子など、無数の要素を自分なりに分析して……イメージ通りの走りができたときは最高に爽快です!
―― 卒業後は、どのような方面に?
昨年まではラジコン業界への就職だけを考えていたんですが、実車の開発やエンジニアリングもいいな……と関心が広がったので、車メーカーを含めて就職活動する予定です。野田先生に出会えたことで、素材を追求する面白さにも目覚めたので、大学院への進学も考えています。どういう道に進んでもラジコンを続けて、いずれはラジコンの本場、ヨーロッパのレースを走りたいです!
取材・文 ・写真:黒川 直樹
編集:人間編集部
この記事をシェア