2016.11.07
簡単にポキッとならないために。今からできる「骨粗鬆症」の予防法。
- Kindai Picks編集部
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転んだだけで骨折?寝たきりの原因にも!?…その原因となるのが「骨粗鬆症」です。50歳以上の女性の3人に1人が発症しているとも言われているこの病気の予防法について、近畿大学医学部の伊木雅之先生にお話を聞いてきました。
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【PROFILE】
伊木雅之(いきまさゆき)
近畿大学医学部長/医学博士
1980年奈良県立医科大学卒業、1984年奈良県立医科大学大学院修了。その後、大阪医科大学衛生学公衆衛生学教室助手、福井医科大学環境保健学助手・講師、フィンランド国立労働衛生研究所客員研究員などを経て、1997年に近畿大学へ。專門は、疫学と予防医学。
骨粗鬆症は、特別な人だけがなる病気ではない。
――骨粗鬆症はどのような病気なのでしょうか?
骨粗鬆症は、その名の通り、骨が粗く鬆(す)が入ったような状態になってしまうことを言います。鬆(す)は、小さな穴や空洞を表す言葉ですね。簡単に言うと、骨がスカスカでもろくなってしまう病気です。
――原因は?
加齢が重要です。私たちの体を支えている骨は、年齢と共に弱くなります。骨粗鬆症は高齢者によく見られる病気で、決して特別な人だけがなるものではありません。
ただし、男女別で言うと、圧倒的に女性の方が発症率が高いです。それは女性ホルモンが関係しているから。骨は古くなって劣化した部分が、いつも新しく生まれ変わっています。しかし女性の場合、閉経後に骨の吸収(骨が薄くなること)を抑制している女性ホルモンが急速に減少し、その結果、骨粗鬆症になりやすくなるのです。
骨折で寝たきりになってしまうことも。
――自覚症状はありますか?
骨粗鬆症は、自覚症状がないまま進行することがほとんどです。高齢者が転倒して骨折し、病院に行った時に初めて骨粗鬆症であることを知らされる、というのもよくあることです。
そして、この骨折こそが、骨粗鬆症最大の問題なのです。特に高齢者は、大腿骨(だいたいこつ)、つまり足の付根付近の骨が折れてしまうことが多いのですが、片方の足を骨折すると、もう片方の足を骨折する可能性は5倍も高くなると言われています。一度骨折するだけでも10%の人が半年以内に亡くなり、生き延びてもQOL(生活の質)は大きく下がり、かなりの人が寝たきりになります。二度も骨折すると、その可能性は非常に高くなります。
骨粗鬆症は、それ自体が命をおびやかす病気ではありませんが、骨折することで、死につながることもあり、また、介護なしでは生活できない状態になってしまうことが多いのです。
――予防法はありますか?
まずは骨折を防ぐために、自分がどれくらい骨折するリスクを持っているのかを知りましょう。具体的には、骨密度検査を受けていただきたいと思います。「50歳以上で過去に一度でも骨折したことのある方」、もしくは「70歳以上でそれまでに一度も骨密度を測ったことのない方」、中でも「やせ形の方」は、ぜひ検査を受けてください。もちろん、それ以外の方も、一度検査を受けておくのがお勧めです。
自分が骨折するリスクを簡単に計算することもできます。FRAXという骨折リスク評価ツールで、世界保健機関(WHO)の研究班が開発したものです。ホームページで公開されており、誰でも無料で使えます。日本語版もありますので、一度必要事項を入力して骨折リスクを計算してみてください。そして、もし、主要骨粗鬆症性骨折リスクが10%以上あったら、骨密度測定を受けることを強くお勧めします。
骨粗鬆症そのものの予防には、普段の食事と適度な運動が大事です。食事に関しては、特に骨の主成分であるカルシウムを多く含む牛乳や乳製品をしっかり摂る。動物性タンパク質や、カルシウムの吸収を促進する働きを持つビタミンDも意識して摂取してください。そして運動。年齢を重ねていくと、骨量も筋力も減りますので、適度な運動によって、その減り方を少しでも遅らせることが大切です。
――骨密度検査は、どこで受けられますか?
市町村が実施している骨粗鬆症検診で受けられますし、街中のクリニックでも受けられるところも多いと思います。診療科としては決まっている訳ではなく、その先生の専門性によって整形外科、内科、婦人科等となります。ただし、検診やクリニックでは腕やかかとの骨密度を測定する場合が多いのですが、一度は折れると重大な障害となる大腿骨近位部や腰椎の骨密度を測って起きたいものです。こちらは機械が大がかりとなりますので、病院にしかありません。特に50歳以上で骨折した経験があり、やせ形の方は骨粗鬆症の危険が大きいので、受診して戴きたいと思います。
――骨粗鬆症になった場合、どのような治療をしていくのでしょうか?
骨粗鬆症の治療の基本は生活習慣の改善と薬の服用です。骨によい生活習慣とは、標準体重を維持すること、牛乳などからカルシウムを十分に摂ること、魚からビタミンDをしっかり摂ること、適度に日に当たること、早歩きなど骨に荷重がかかる運動を習慣的にすることなどです。薬は内服薬が中心ですが、注射薬もあります。現在では1週間に1度飲む薬が主流ですが、1月に一回や6カ月に1回でいい注射薬もあります。ご自身の生活スタイルやお好みで、様々な選択肢がありますので、主治医とよくご相談ください。また、これらのお薬の効果は高いので、軽症の内なら、骨密度が正常化する場合も多くなっています。不幸にして骨折してしまった場合には手術が必要になることもあります。
――男性でも「こういう人は特に気をつけた方がいいですよ」というのはありますか?
男性は女性に比べると骨粗鬆症になりにくいのは事実です。でも、70歳代になると、骨密度の低下は起こってきますので、65歳以上の方は一度は骨密度測定をしておきたいものです。また、女性と同様、50歳以降で骨折をしたことがあり、やせ形の方はぜひ骨密度測定をお受けください。
自覚症状がほとんどない病気だからこそ、検査を受ける。老化という防げない原因があるからこそ、少しでも発症率を下げるために普段の生活を意識する。今からできることを始め、骨粗鬆症の予防に努めましょう。
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