2017.07.21
妊婦が蚊に刺されるリスク。ジカウイルスは赤ちゃんにも悪影響?
- Kindai Picks編集部
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今年も夏がやってきた。夏といえば熱中症や日焼けの対策も大事だが、実はもう一つ気をつけなければならないことがある。それが「蚊」だ。特に妊婦が気をつけなければならない「赤ちゃんへの悪影響」とは?
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●監修者プロフィール
角田郁生(ツノダイクオ)
近畿大学 医学部 微生物学教室 教授
1990年、医師免許取得。米国ユタ大学で14年間、神経免疫学・神経ウイルス学を研究。その後、研究室を米国ルイジアナ州立大学微生物学・免疫学講座に移転。2016年、近畿大学微生物学教室の主任教授に就任。専門は神経ウイルス学、神経免疫学、自己免疫病、多発性硬化症、ウイルス性心筋炎。
●蚊に刺されることで発病する疾患がある
みなさんご存知の通り、蚊に刺されるとなんとも言えないかゆみに悩まされる。それにあの独特の「ブーン」という音も…。しかし、蚊が私たちの生活に及ぼす悪影響はそれだけではない。
実は、蚊はウイルスを感染させる媒体にもなっているのだ。特に気をつけなければならいのがジカウイルス感染症(ジカ熱)。2015年以降、中南米を中心に広まっており、今後は日本にもジカウイルスが持ち込まれる可能性はある。
ジカウイルスに感染すると、どうなってしまうのだろうか。妊婦の場合、赤ちゃんが小頭症になるリスクが高まる。小頭症とは、頭部が極端に小さい状態で生まれたり、生まれた後に頭の成長が止まったりする病気だ。そして脳性麻痺や学習障害、難聴、視覚障害などを引き起こすことに。
また、感染した本人がギラン・バレー症候群になることも。ギラン・バレー症候群は、手足が痺れ、やがて前身の筋力が低下してしまう病気。こちらは妊婦に限らず、誰もが関係する神経疾患だ。
●近大が、ジカウイルス感染合併症について新たな仮説を提唱
これらの病気が引き起こされるメカニズム関して、角田郁生教授(近畿大学医学部)はこう語る。
「私たちの身体がウイルスに感染すると、通常は免疫系が抗体を作り出し、これがウイルスに結合して”中和”します。そのおかげでウイルスは排除されるわけです。しかしジカウイルスと同じ『フラビウイルス科』のデングウイルス感染の場合、抗体がウイルスに結合しても中和されない場合もあることがわかっています。これが小頭症やギラン・バレー症候群に関係していると私たちは考えています。」
そして今年の5月、角田教授の研究グループは、ジカウイルス感染が「小頭症」や「ギラン・バレー症候群」を引き起こすメカニズムについて新たな仮説を提唱した。ポイントは以下の3点だ。
ウイルスと結合しても中和できなった抗体は、
1、胎盤から胎児へとウイルスを輸送する。(赤ちゃんの小頭症を引き起こす可能性)
2、ウイルスが末梢神経末端から神経細胞内へと侵入する手助けをする。(ギラン・バレー症候群を引き起こす可能性)
3、ウイルスではなく神経細胞を攻撃する。(ギラン・バレー症候群を引き起こす可能性)
●気になる症状がある時は、必ず受診を
ここで、小頭症やギラン・バレー症候群といった合併症ではなく、ジカウイルス感染症そのものについても確認しておこう。
残念ながらジカウイルスの有効な治療法は確立していないが、そもそも感染しても8割の人は症状が出ない。そして残りの2割の人も、症状が出るのは感染してから2日〜12日経過してからである。
ジカウイルス感染症の症状
・発熱
・発疹
・結膜炎
・筋肉の痛み
・関節の痛み
・だるさ
・頭痛
など
ただし、いずれも軽度なため気づきにくい。
一方で、症状が軽く治療法がないからといって、放置しておいても大丈夫というわけではない。診断と適切な体調管理のためにも、必ず医療機関を受診しなければならない。特に大きな問題が起きなければ、通常は2日〜7日で回復する。
(海外渡航先で感染した疑いがある場合、現地の医療機関を受診するのはもちろん、空港や港の検疫所でも相談することが推奨される)
●とにかく蚊に刺されないように
ジカウイルスの感染ルートは、ほとんどが「蚊」だ。つまり、ジカウイルス感染症、およびその合併症を防ぐためには、とにかく蚊に刺されないようにしなくてはならない。(一部、性行為による感染事例も報告されている)
蚊は色の濃いものを好むため、できるだけ白色や薄い色の衣服を身につけるようにする。特に蚊が多い場所に行く際は、長袖・長ズボンを着用し、サンダルではなく靴を履くようにしよう。もちろん虫除けスプレーも有効だ。妊婦の場合、そもそも蚊が発生しやすい場所に行くことを避けるのが好ましい。
また、家の近くでは蚊が発生する場所を減らすことも大切である。蚊は小さい水たまりに卵を産むため、以下のようなものが家の周辺にないかチェックしよう。
蚊が発生しやすい場所
・空き缶、ペットボトル
・バケツや箱状のおもちゃ
・植木鉢の受け皿
・タイヤ
・詰まっている溝
・その他、水たまりができてしまう場所や物
最初に述べた通り、蚊に刺されてジカウイルスに感染すると、妊婦の場合は赤ちゃんが小頭症になってしまう可能性が高まる。そしてすべての人がギラン・バレー症候群になるリスクがある。「たかが蚊」と思わずに、しっかりと対策をしたい。
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